INDEX OF MYSTERIES

謎の索引

ミステリ小説の「ジャンル」「起こる事件」「提示される謎」を所蔵する書庫。 真相の頁には封がしてある——開くも開かぬもあなた次第。

770 VOLUMES COLLECTED

1841米国オーギュスト・デュパン

モルグ街の殺人

The Murders in the Rue Morgue

エドガー・アラン・ポー

本格密室世界初の推理小説パリ

◆ 事件

パリのモルグ街の四階の一室で母娘が惨殺される。娘は煙突に逆さに押し込まれ、母は中庭で喉を切られていた。部屋は内側から施錠され、駆けつけた住人たちは犯人らしき者の奇妙な「声」を聞いていた。素人探偵デュパンが新聞記事と現場観察から推理を始める。

◆ 謎

完全に施錠された部屋から犯人はどう逃げたのかというハウダニット。目撃者の誰もが「外国語のようだが何語か分からない」と証言する謎の声の正体、人間離れした怪力と残虐さ、金品がほぼ手つかずという動機の不可解さが絡み合う。

1887英国シャーロック・ホームズ

緋色の研究

A Study in Scarlet

アーサー・コナン・ドイル

本格ホームズ初登場ダイイングメッセージ復讐譚

◆ 事件

ロンドンの空き家で、外傷のない男の死体が発見される。壁には血文字で「RACHE」と記され、現場には女物の結婚指輪が残されていた。やがて被害者の秘書も殺される。下宿を共にしたばかりの軍医ワトスンが、自称「諮問探偵」ホームズの捜査に同行する。

◆ 謎

毒殺らしいのに争った形跡も物盗りの動機も見えないフーダニット。血文字「RACHE」は何を意味するのか、指輪が指し示す人物は誰か、二つの殺人をつなぐ糸は何か。物語の根が過去のアメリカ西部にあることが示され、因縁の正体が問われる。

1902英国シャーロック・ホームズ

バスカヴィル家の犬

The Hound of the Baskervilles

アーサー・コナン・ドイル

本格サスペンス伝説荒野ゴシック

◆ 事件

ダートムアの旧家バスカヴィル家の当主チャールズ卿が、魔犬の伝説が残る荒野で変死する。死因は心臓発作だが、傍らには巨大な犬の足跡があった。カナダから来た相続人ヘンリー卿の身を案じた医師の依頼で、ホームズとワトスンが調査に乗り出す。

◆ 謎

当主の死は伝説の魔犬の祟りか、人為的な殺人か。ロンドンでの謎の警告と尾行、荒野をうろつく脱獄囚、夜ごと響く咆哮、目撃される燃えるような巨犬。超自然と現実が交錯する中、誰が何の目的でヘンリー卿を狙うのかが問われる。

1907フランスジョゼフ・ルールタビーユ

黄色い部屋の秘密

Le Mystère de la chambre jaune

ガストン・ルルー

本格密室推理合戦新聞記者探偵

◆ 事件

科学者スタンガルソン教授の城館で、令嬢マチルドが「黄色い部屋」で何者かに襲われ重傷を負う。部屋は内側から施錠され、窓には鉄格子。悲鳴と銃声を聞いて人々が扉を破ったとき、犯人の姿はどこにもなかった。18歳の新聞記者ルールタビーユが事件に挑む。

◆ 謎

出入り不可能な完全密室からの犯人消失というハウダニット。さらに捜査中、廊下の両端から挟み撃ちにされた犯人が皆の目前で消える「不可解な廊下」の怪まで起きる。名刑事ラルサンと少年記者の推理合戦も大きな読みどころとなる。

1909フランスアルセーヌ・ルパン

奇岩城

L'Aiguille creuse

モーリス・ルブラン

冒険・スパイ本格暗号宝探し少年探偵

◆ 事件

伯爵家の城館に深夜、怪人が侵入して秘書が殺され、美術品が消える。令嬢レイモンドが撃って負傷させたはずの犯人の死体は見つからない。高校生探偵イジドール・ボートルレが捜査に加わり、背後にアルセーヌ・ルパンと、古文書の暗号「エギーユ・クルーズ」の存在を見出す。

◆ 謎

暗号文書が指し示す「中空の針」とは何か、フランス王家が代々受け継いだという秘密とは何か。神出鬼没のルパンの本拠地と正体はどこにあるのか。少年探偵とルパン、さらに英国の名探偵までが加わる三つ巴の宝探しと頭脳戦が展開する。

1911英国ブラウン神父

ブラウン神父の童心

The Innocence of Father Brown

G・K・チェスタトン

本格短編集逆説不可能犯罪

◆ 事件

小柄で風采の上がらないカトリック神父ブラウンが探偵役を務める連作短編集。怪盗フランボウとの対決を描く「青い十字架」をはじめ、消えた小男、足跡なき訪問者、衆人環視下の殺人など、逆説に満ちた12の奇妙な事件が収められている。

◆ 謎

各編とも「ありえない状況」の謎が核となる。誰も建物に出入りしていないのに人が殺される、英雄とされた将軍の戦死に隠された不自然さ、衆目の中で誰にも見られず行われた犯行。人間心理の盲点を突く不可能犯罪が次々と提示される。

1913英国フィリップ・トレント

トレント最後の事件

Trent's Last Case

E・C・ベントリー

本格名探偵の敗北恋愛アンチ・ミステリの先駆

◆ 事件

米国の大富豪マンダースンが、英国の自邸の庭で射殺体となって発見される。画家で素人探偵のトレントが新聞社の依頼で現地に赴き、関係者の証言と物証から鮮やかな推理を組み立てていく。だが彼は捜査の過程で、被害者の若く美しい未亡人に心を奪われる。

◆ 謎

誰が、なぜ富豪を撃ったのかというフーダニット。被害者の服装や入れ歯などの細かな不審点、秘書たちの夜の行動、冷え切った夫婦関係。手掛かりを精緻に積み上げたトレントは一つの解答に到達するが、その推理が正しいのかどうかが最後まで問われる。

1920英国

The Cask

F・W・クロフツ

本格警察小説アリバイ英仏捜査足の探偵

◆ 事件

ロンドンの埠頭で、パリから届いた樽が荷降ろし中に破損し、中から金貨と女性の絞殺死体が現れる。樽は手違いを装って何度も行方をくらまし、英仏両国の警察が追跡する。バーンリー警部らが樽の移動経路と関係者の足取りを地道に洗っていく。

◆ 謎

死体は誰で、なぜ樽詰めにされてドーバー海峡を越えたのか。浮上した容疑者には一見崩しようのないアリバイがある。樽の発送記録、列車と船の時刻表、筆跡や注文書を突き合わせ、偽装の綻びを探す捜査過程そのものが謎解きの主軸となる。

1922英国

赤毛のレドメイン家

The Red Redmaynes

イーデン・フィルポッツ

本格サスペンス悪女変装乱歩激賞

◆ 事件

新婚の元軍人ペンディーンが殺害されたらしく、現場付近では妻ジェニーの叔父にあたる赤毛のロバート・レドメインが目撃される。だが死体は見つからず、ロバート自身も失踪。やがてレドメイン家の兄弟が次々と命を落とし、ロンドン警視庁の俊英ブレンドンが捜査にあたる。

◆ 謎

死体なき殺人と、各地に出没しては消える赤毛の男の怪。なぜレドメイン家の人間ばかりが狙われるのか。若き名刑事の捜査は美しい未亡人ジェニーへの恋情もあって迷走し、後半は老探偵ピーター・ガンズが登場して捜査の盲点を一つずつ問い直す。

1923日本

二銭銅貨

江戸川乱歩

本格大正短編書生デビュー作

◆ 事件

電気工場の給料日を狙い、紳士泥棒が五万円を強奪する事件が起こる。犯人は逮捕されたが金の在処だけは白状しない。下宿暮らしの貧乏書生の「私」と松村は、煙草屋の釣銭に混じっていた一枚の二銭銅貨に奇妙な細工を見つける。

◆ 謎

二つに開いた銅貨の中には「南無阿弥陀仏」を繰り返しただけの紙片が隠されていた。これは消えた五万円の隠し場所を示す暗号なのか。なぜ念仏の羅列だけで意味が成り立つのか。貧乏書生二人による解読の知恵比べが始まる。

1925日本明智小五郎

D坂の殺人事件

江戸川乱歩

本格大正短編明智小五郎初登場

◆ 事件

東京・D坂の古本屋で、店番をしていたはずの店の細君が絞殺死体となって発見される。向かいの喫茶店から店先をぼんやり眺めていた「私」と、偶然そこに居合わせた遊民・明智小五郎は、第一発見者として事件に深く関わることになる。

◆ 謎

現場の路地には常に人目があったのに、誰も犯人の出入りを見ていない。目撃者の学生二人は、障子の隙間に見えた男の着物の色を、一方は黒、一方は白と正反対に証言する。矛盾だらけの状況の中、疑いは明智自身にも向けられる。

1925日本明智小五郎

心理試験

江戸川乱歩

倒叙本格大正短編完全犯罪

◆ 事件

秀才の苦学生・蕗屋清一郎は、同級生の斎藤が下宿する家の老婆が大金を貯め込んでいると知り、周到きわまる計画のもと老婆を殺害して金を奪う。嫌疑は条件の揃った斎藤の側に向かい、蕗屋の完全犯罪は成し遂げられたかに見えた。

◆ 謎

物証はなく、決め手は笠森判事の行う心理試験のみ。連想単語への反応時間で嘘を暴くこの試験を、犯行の記憶を抱えた蕗屋は無事に切り抜けられるのか。読者は犯人の側から、捜査の網がじわじわと締まる様子を見守ることになる。

1926英国エルキュール・ポアロ

アクロイド殺し

The Murder of Roger Ackroyd

アガサ・クリスティ

本格手記フェアプレイ論争

◆ 事件

静かな村キングズ・アボットで、資産家ロジャー・アクロイドが書斎で刺殺される。前夜には彼が再婚を考えていた未亡人が自殺しており、彼女は何者かに脅迫されていたという。村に隠棲していたポアロが、村医者シェパードを助手役として捜査を始める。

◆ 謎

屋敷の関係者の誰にも動機と機会の疑いがあるフーダニット。失踪した養子、書斎から聞こえた話し声、動かされた椅子、奇妙な電話。未亡人を追い詰めた脅迫者の正体と殺人がどうつながるのかも焦点となり、ポアロの「灰色の脳細胞」が試される。

1928米国ファイロ・ヴァンス

グリーン家殺人事件

The Greene Murder Case

S・S・ヴァン・ダイン

本格館もの一族連続殺人雪の足跡

◆ 事件

ニューヨークの旧家グリーン家の陰鬱な屋敷で、深夜に長女が射殺され、三女も重傷を負う。物盗りの仕業と思われたが、その後も一族が一人また一人と銃や毒に倒れていく。地方検事の友人で美学者の探偵ファイロ・ヴァンスが捜査に加わる。

◆ 謎

雪に残された足跡の謎、屋敷から消えた拳銃、内部の人間にしかなしえない犯行状況。遺言で同居を強いられ憎み合う一族の誰が連続殺人者なのか。被害者が増えるほど容疑者が減っていく恐怖の中、ヴァンスは屋敷の図書室の蔵書に着目する。

1928日本

陰獣

江戸川乱歩

本格サスペンス探偵作家脅迫状昭和初期

◆ 事件

探偵作家の「私」は、美貌の人妻・静子から相談を受ける。昔捨てた男が猟奇的な覆面作家・大江春泥となり、執拗な脅迫状で彼女の身辺を脅かしているという。やがて脅迫の予告どおり、夫の小山田六郎が川で変死体となって見つかる。

◆ 謎

春泥は雑誌社にすら正体を明かさぬ覆面作家で、どこにも姿を現さない。脅迫状は春泥の小説と同じ手口を予告し、屋根裏には覗き見の痕跡まで残されていた。実在の気配がありながら捉えられない春泥とは何者で、夫を殺したのは誰か。

1929米国ファイロ・ヴァンス

僧正殺人事件

The Bishop Murder Case

S・S・ヴァン・ダイン

本格童謡殺人マザー・グースチェス

◆ 事件

ニューヨークで、ロビンという名の青年が弓矢で射殺される。「誰がコック・ロビンを殺したの」の童謡そのままの状況に加え、「ビショップ(僧正)」と署名した犯行声明が新聞社に届く。以後もマザー・グースの歌詞をなぞる殺人が続き、ヴァンスが捜査に乗り出す。

◆ 謎

なぜ犯人はわざわざ童謡に見立てて殺すのか、「僧正」という署名は何を意味するのか。数学者や物理学者、チェスの名手が集う知的なサークルの中に潜む犯人の正体と、狂気じみた見立ての裏にある合理的な目的が最大の謎となる。

1929英国ロジャー・シェリンガム

毒入りチョコレート事件

The Poisoned Chocolates Case

アントニイ・バークリー

本格ユーモア多重解決犯罪研究会毒殺

◆ 事件

ユーステス卿のクラブに試供品と称するチョコレートが届く。卿はそれを知人ベンディックスに譲り、毒入りのチョコを食べた彼の妻が死亡する。警察の捜査が行き詰まる中、シェリンガム率いる「犯罪研究会」の会員6人が、一人ずつ自分の推理を披露することになる。

◆ 謎

毒チョコの真の標的は誰で、送り主は誰なのか。同じ手掛かりの組から6人がそれぞれ異なる犯人・動機・手口を導き出し、どの推理ももっともらしく聞こえる。「唯一の真相」に到達する論理など存在するのかという、推理という行為そのものを巡る謎。

1930米国サム・スペード

マルタの鷹

The Maltese Falcon

ダシール・ハメット

ハードボイルド私立探偵ファム・ファタールサンフランシスコ

◆ 事件

サンフランシスコの私立探偵サム・スペードのもとに、美女が尾行調査を依頼に訪れる。その夜、調査に出た相棒アーチャーが射殺され、続いて尾行対象の男も殺される。警察に疑われたスペードは、中世由来とされる黄金の鷹像を巡る争奪戦に巻き込まれていく。

◆ 謎

相棒を撃ったのは誰か、依頼人の語る身の上話のどこまでが嘘なのか。鷹像を追う怪紳士や殺し屋たちの思惑が交錯する中、スペードは欺こうとする者たちと虚々実々の駆け引きを続ける。犯人探しと同時に、探偵自身の倫理が試されていく。

1931英国

殺意

Malice Aforethought

フランシス・アイルズ

倒叙サスペンス毒殺犯罪心理皮肉な結末

◆ 事件

田舎町の開業医ビクリーは、横暴な妻に頭の上がらない結婚生活に鬱屈を抱えている。若い女性に恋した彼は、ついに妻の殺害を決意する。冒頭の一文から殺意が読者に明かされ、医学知識を使った周到な計画と実行、その後の波紋が犯人自身の視点で描かれる。

◆ 謎

犯人も手口も最初から示される倒叙形式のため、焦点は「彼は罪を逃れられるのか」というサスペンスに置かれる。自己欺瞞に満ちた小心な俗物の心理が増長し、やがて崩れていく過程と、捜査の手がどこから忍び寄るのかが緊張を生む。

1932米国ドルリー・レーン

Yの悲劇

The Tragedy of Y

エラリー・クイーン

本格一族バーナビー・ロス名義館もの

◆ 事件

ニューヨークの富豪ハッター家で、当主ヨークの失踪と自殺に続き、盲目で耳も不自由な長女ルイザの毒殺未遂、さらに夫人エミリーの撲殺事件が起きる。一族は変人揃いで互いに憎み合っている。元シェイクスピア俳優の名探偵ドルリー・レーンが警察に協力する。

◆ 謎

毒入りの卵酒、撲殺の凶器に使われた古びたマンドリンの不可解さ、唯一の「目撃者」が目も耳も不自由な女性であることなど、手掛かりはことごとく奇妙なものばかり。なぜ犯人は凶器に軽くて殺傷力の乏しいマンドリンを選んだのかが真相への鍵となる。

1932米国エラリー・クイーン

ギリシア棺の謎

The Greek Coffin Mystery

エラリー・クイーン

本格国名シリーズ読者への挑戦名画

◆ 事件

盲目の老美術商ハルキスが心臓発作で死去する。だが葬儀の直後、保管されていたはずの遺言状が屋敷から忽然と消える。捜索の末に棺を掘り起こすと、中からは埋葬されたはずのない男の絞殺死体がもう一体現れた。若き日のエラリー・クイーンが捜査に参加する。

◆ 謎

消えた遺言状はどこへ行ったのか、棺に入れられていた男は誰にいつ殺されたのか。背後には盗まれた名画を巡る闇取引の影もちらつく。エラリーは茶器の状態などから鮮やかな推理を披露するが、それを嘲笑うかのように新たな証拠が現れて推理は覆される。

1934英国エルキュール・ポアロ

オリエント急行の殺人

Murder on the Orient Express

アガサ・クリスティ

本格鉄道クローズドサークル

◆ 事件

真冬の欧州を走る豪華寝台列車オリエント急行が、雪だまりに突っ込み立ち往生する。その夜、乗客の米国人富豪ラチェットが客室で十数カ所も刺されて殺された。扉は内側から施錠され、雪の上に逃げた足跡はない。乗り合わせたポアロが乗客全員の聴取を始める。

◆ 謎

犯人は車内にいるはずなのに、乗客たちの証言は微妙に食い違い、容疑はどの一人にも収束しない。深さの不揃いな傷、多すぎる手掛かり、そして被害者の隠された過去。米国を震撼させた幼女誘拐事件との関わりが浮かぶ中、ポアロは二つの解答を用意する。

1934英国ピーター・ウィムジイ卿

ナイン・テイラーズ

The Nine Tailors

ドロシー・L・セイヤーズ

本格教会沼沢地宝石盗難

◆ 事件

大晦日、車の故障で沼沢地の村に足止めされた貴族探偵ピーター・ウィムジイ卿は、教会の転鐘(複数の鐘を数学的な順列で鳴らし続ける英国の伝統)に飛び入り参加する。数カ月後、村の墓地から手と顔を損なわれた身元不明の死体が見つかり、卿が呼び戻される。

◆ 謎

死体は誰で、なぜ手が潰され顔が損なわれていたのか。そして検死をしても死因がまったく特定できないという不可解さが最大の謎となる。鐘楼に隠された暗号文、二十年前のエメラルド盗難事件、行方の知れない共犯者たちの因縁が絡み合っていく。

1934日本法水麟太郎

黒死館殺人事件

小栗虫太郎

本格奇書洋館衒学

◆ 事件

神奈川の異様な洋館・黒死館に住む降矢木家で、当主算哲の死後、館に育てられた弦楽四重奏団の一人ダンネベルグ夫人が、死体が光を放つという怪異な毒殺死を遂げる。以後も館の住人たちが次々と不可解な死を重ねていく。

◆ 謎

死体はなぜ光ったのか、犯行はいかにして為されたのか。中世さながらの館には占星術や降霊術の影が満ち、死んだはずの算哲の遺志が事件を操っているかにさえ見える。法水麟太郎は厖大な神秘学の知識を武器に犯人へ迫っていく。

1935日本

ドグラ・マグラ

夢野久作

本格サスペンス奇書精神病院アンチミステリ

◆ 事件

九州帝大の精神病科の一室で、記憶を失った青年が目覚める。隣室からは兄を呼ぶ少女の声が響く。彼は、許嫁と母を手にかけたとされる青年・呉一郎なのか。若林教授と、死んだはずの正木博士の遺した論文が、彼を奇怪な事件の渦中へ引き込む。

◆ 謎

自分が誰かを思い出せば全てが解決すると告げられるが、記憶はよみがえらない。一月前に自殺したはずの正木博士が遺した「ドグラ・マグラ」なる書物や脳髄論、千年前の絵巻が事件とどう繋がるのか。語り手の現実そのものが揺らいでいく。

1935米国ギデオン・フェル博士

三つの棺

The Three Coffins

ジョン・ディクスン・カー

本格密室密室講義不可能犯罪

◆ 事件

雪の夜のロンドン。「棺から抜け出す男」の脅し文句を受けていたグリモー教授のもとに謎の訪問者が現れ、書斎で二人きりになった直後に銃声が響く。扉を破ると教授は撃たれて瀕死、訪問者は監視された密室から消えていた。同夜、近くの路上でも奇術師が至近距離から撃たれるが、雪上に犯人の足跡はなかった。

◆ 謎

監視下の密室からの人間消失と、無人の雪道での射殺という二重の不可能犯罪。二人を撃った犯人はどこへ消えたのか。フェル博士が作中で開陳する「密室講義」は、密室トリックを体系的に分類した批評としてジャンル史に残る。

1936英国エルキュール・ポアロ

ABC殺人事件

The A.B.C. Murders

アガサ・クリスティ

本格連続殺人予告状ミッシングリンク

◆ 事件

ポアロのもとに「ABC」と署名した犯行予告状が届き、アンドーヴァーでアッシャー夫人が殺される。以後、ベクスヒルのバーナード、チャーストンのクラーク卿と、地名と被害者の頭文字をアルファベット順になぞる殺人が続き、各現場には鉄道案内『ABC』が残される。

◆ 謎

被害者同士に接点のない無差別連続殺人に見え、動機の線から犯人を絞り込めない。狂気の愉快犯か、それとも何かを隠すための演出か。挟み込まれる「ある男」の視点の章が不穏さを増す中、ポアロは犯人が手紙を自分に送った理由を考え続ける。

1939英国

そして誰もいなくなった

And Then There Were None

アガサ・クリスティ

本格サスペンスクローズドサークル孤島童謡殺人

◆ 事件

デヴォン沖の孤島の邸宅に、互いに面識のない男女10人がさまざまな口実で招かれる。晩餐の席、全員の過去の「罪」を告発する謎の声が響き、以後、童謡「十人の小さな兵隊」の歌詞をなぞるように一人また一人と死んでいく。島には10人のほか誰もおらず、脱出手段もない。

◆ 謎

正体不明の招待主U・N・オーエンとは何者か。外部に犯人がいない以上、殺人者は生き残った者の中にいるはずだが、疑心暗鬼の果てに最後の一人まで死に、島には文字どおり誰もいなくなる。全員が死んだのに犯人が存在するという究極の不可能状況が突きつけられる。

1939米国フィリップ・マーロウ

大いなる眠り

The Big Sleep

レイモンド・チャンドラー

ハードボイルド私立探偵ロサンゼルス富豪一家

◆ 事件

ロサンゼルスの私立探偵フィリップ・マーロウは、死期の近い老富豪スターンウッド将軍から、奔放な次女カーメンに絡む恐喝の処理を依頼される。調査を始めると恐喝者が殺され、事件は賭博場、いかがわしい書店、そして失踪した長女の夫リーガンの行方へと広がっていく。

◆ 謎

連鎖する殺人と恐喝の背後で糸を引くのは誰か。そして関係者の誰もが口を濁す「リーガンはどこへ消えたのか」という問い。依頼の範囲を越えて踏み込むマーロウの前に、富豪一家の退廃と都市の腐敗が幾重にも姿を現す。

1942米国

幻の女

Phantom Lady

ウィリアム・アイリッシュ

サスペンスタイムリミット冤罪都会の夜

◆ 事件

妻と諍いした男ヘンダースンは、バーで出会った奇妙な帽子の見知らぬ女と芝居見物の一夜を過ごす。帰宅すると妻は絞殺されており、彼は逮捕される。唯一のアリバイ証人であるその女を、バーテンも運転手も劇場の楽士も「見ていない」と証言し、彼に死刑判決が下る。

◆ 謎

確かに存在したはずの女が、なぜ全員の記憶から消えているのか。処刑日までの残り時間が章題でカウントダウンされる中、親友ロンバードと彼を慕う女性キャロルが女の行方を追う。だが手掛かりに近づいた証人たちが、なぜか次々と死んでいく。

1942米国

皇帝のかぎ煙草入れ

The Emperor's Snuff-Box

ジョン・ディクスン・カー

本格サスペンス目撃証言冤罪クリスティ絶賛

◆ 事件

フランスの保養地。離婚歴のある美女イヴは、婚約者の父である老収集家モーリス卿が書斎で撲殺された夜、その部屋の様子を自室の窓越しに見ていた。だが同じ時刻、彼女の寝室には忍び込んできた前夫がいた。事情を話せば醜聞、黙れば容疑者。イヴは殺人の嫌疑に絡め取られていく。

◆ 謎

現場で砕かれていたナポレオンゆかりの嗅ぎ煙草入れは何を意味するのか。イヴの無実を証明できる唯一の人物が、なぜか彼女を追い詰める証言をするのはなぜか。心理学者キンロス博士が、関係者全員の「見たつもり」の証言に潜む盲点を突いていく。

1946日本金田一耕助

本陣殺人事件

横溝正史

本格旧家婚礼金田一耕助初登場

◆ 事件

岡山の旧家・一柳家で、当主賢蔵の婚礼の夜、離れから凄まじい琴の音と悲鳴が響く。駆けつけた人々が見たのは日本刀で斬殺された新郎新婦の姿だった。離れを囲む雪には足跡ひとつなく、凶器の日本刀は屋外の雪に突き立っていた。

◆ 謎

出入りの痕跡が全くない雪の離れの中で、誰がどうやって二人を斬り、凶器だけを外へ運び出したのか。事件の前から村をうろついていた三本指の男は何者なのか。琴の音は何を意味するのか。若き金田一耕助が雪の密室に挑む。

1947日本金田一耕助

獄門島

横溝正史

本格孤島戦後見立て俳句

◆ 事件

復員船で戦友・鬼頭千万太を看取った金田一耕助は、「おれが帰らんと、三人の妹たちが殺される」という遺言を受けて瀬戸内の獄門島へ渡る。やがて言葉どおり、島の網元・鬼頭家の三人の美しい妹たちが次々と殺されていく。

◆ 謎

梅の古木に逆さに吊るされた娘、釣鐘の下に横たわる死体。三つの殺人はいずれも芭蕉らの俳句になぞらえた異様な見立てだった。なぜこれほど手間のかかる見立てが必要だったのか。閉ざされた島で殺人を重ねているのは誰なのか。

1947日本巨勢博士

不連続殺人事件

坂口安吾

本格戦後犯人当て山荘

◆ 事件

終戦直後の夏、詩人・歌川一馬の招きで、作家、画家、女優ら個性の強い男女が山奥の歌川家の大邸宅に集まる。乱倫と愛憎の渦巻く滞在のさなか、客と家人が毒殺や絞殺で次々と命を落とし、犠牲者はついに八人に及ぶ。

◆ 謎

被害者たちの間に一貫した利害は見えず、殺人を動機の線で結ぶことができない。連続殺人に見えて筋の通らない「不連続」な殺人の列は何を隠しているのか。雑誌連載時に犯人当て懸賞が付された本作で、巨勢博士の言う「心理の足跡」とは何か。

1948日本神津恭介

刺青殺人事件

高木彬光

本格戦後刺青浴室

◆ 事件

戦後の東京。復員した松下研三は、背中一面に大蛇の刺青を持つ妖艶な女・野村絹枝と深い仲になる。だが彼女の家を訪ねた夜、内側から施錠された浴室で切断された首と手足を発見する。刺青の彫られた胴体だけが消え失せていた。

◆ 謎

完全に閉ざされた浴室から、なぜ胴体だけが持ち去られたのか。彫物師の父が三きょうだいに分けて彫った大蛇丸・自来也・綱手、三すくみの刺青にまつわる呪いとは何か。続発する殺人を前に、天才・神津恭介が密室の意味そのものを問い直す。

1949日本金田一耕助

八つ墓村

横溝正史

本格サスペンス旧家山村祟り鍾乳洞

◆ 事件

戦国の昔、八人の落武者が惨殺された因縁を持つ山村・八つ墓村。神戸で育った青年・寺田辰弥は、亡き母の生家である旧家・田治見家に迎え入れられるが、彼の到着を境に、村では毒殺をはじめとする連続殺人が始まる。

◆ 謎

かつて三十二人殺しの惨劇が起きたこの村で、なぜ今また人死にが続くのか。被害者たちに共通の利害は見えず、村人は落武者の祟りと辰弥の血筋を恐れる。村の地下に広がる鍾乳洞には何が隠されているのか。辰弥自身にも嫌疑が迫る。

1950日本金田一耕助

犬神家の一族

横溝正史

本格旧家遺産相続見立て復員

◆ 事件

信州の財閥・犬神家で、当主佐兵衛の死後、遺産相続の条件を定めた異様な遺言状が公開される。相続の鍵を握る美少女・珠世と、戦地から復員したゴムマスクの男・佐清をめぐり、一族の男たちが次々と惨殺されていく。

◆ 謎

生首が菊人形に据えられ、湖面からは両脚だけが突き出す。死体はことごとく家宝「斧・琴・菊」になぞらえられていた。この見立ては何を意味するのか。顔を焼かれ正体を確かめようのない覆面の佐清は、本当に佐清本人なのか。

1951英国アラン・グラント警部

時の娘

The Daughter of Time

ジョセフィン・テイ

歴史・時代本格安楽椅子探偵史実検証リチャード三世

◆ 事件

骨折で入院中のロンドン警視庁のグラント警部は、退屈しのぎに見せられた一枚の肖像画に引き込まれる。それは「甥殺し」の悪王として知られるリチャード三世のものだった。人相読みを得意とする警部には、その顔がどうしても極悪人のものに見えない。

◆ 謎

リチャード三世は本当に、ロンドン塔に幽閉された幼い王子二人を殺したのか。警部は若い研究者カラダインと組み、病床から史料だけを頼りに四百年以上前の「事件」を再捜査する。誰もが信じる通説は、同時代の証拠にどこまで支えられているのか。

1953米国

死の接吻

A Kiss Before Dying

アイラ・レヴィン

サスペンス倒叙野心三部構成玉の輿

◆ 事件

銅鉱財閥キングシップ家の三姉妹をめぐる物語。野心的な大学生の青年は、交際相手である末娘ドロシーの妊娠を知り、玉の輿の計画が崩れることに焦りを募らせる。やがてドロシーは市庁舎の屋上から転落死し、遺書めいた手紙から自殺として処理される。

◆ 謎

死の直前、妹は身重だった。自殺と信じられない次女エレンは、妹が通った大学の町へ向かい、当時周囲にいた男たちを一人ずつ洗い直す。妹が隠していた恋人は誰なのか。素人探偵の調査は核心に近づくほど危うさを増し、姉自身にも危険が迫っていく。

1953米国フィリップ・マーロウ

長いお別れ

The Long Goodbye

レイモンド・チャンドラー

ハードボイルド私立探偵友情ロサンゼルス

◆ 事件

私立探偵マーロウは礼儀正しい酔いどれ紳士テリー・レノックスと友情を結ぶ。ある朝テリーが「妻を殺したかもしれない」と頼ってきたため、彼をメキシコへ逃がす。直後に富豪の娘である妻シルヴィアの撲殺死と、テリー自身の客死が報じられる。

◆ 謎

友が残した自白めいた遺書と異国での死は本物なのか。マーロウは警察と裏社会の双方から手を引けと圧力を受けながらも納得できない。やがて舞い込んだ人気作家ロジャー・ウェイドをめぐる依頼が、終わったはずのレノックス事件と絡み合っていく。

1955米国トム・リプリー

太陽がいっぱい

The Talented Mr. Ripley

パトリシア・ハイスミス

サスペンス倒叙犯罪者視点成りすましイタリア

◆ 事件

貧しい青年トム・リプリーは、富豪の依頼でイタリアに渡り、遊び暮らす息子ディッキーを連れ戻す役目を引き受ける。だが豪奢な生活と魅力的なディッキー本人に魅了され、執着を深めていく。やがて南欧の海上で、取り返しのつかない事件が起きる。

◆ 謎

物語は犯罪者の側から語られ、読者は彼の偽装工作を追体験する。イタリア各地を移動しながら積み重ねられる嘘は、いつ破綻するのか。警察の捜査と疑念を抱く知人たちが迫る中、彼は身分証と筆跡と話術をどう操り、追及をかわし続けるのか。

1956日本鬼貫警部

黒いトランク

鮎川哲也

本格警察小説鉄道時刻表戦後

◆ 事件

昭和24年暮れ、東京・汐留駅に届いた黒いトランクから男の腐乱死体が見つかる。九州から発送人として記録されていた近松千鶴夫も瀬戸内の海で死体となって発見され、警察は近松が殺人の末に自殺したものとして事件を処理しようとする。

◆ 謎

近松の妻から夫の無実を訴えられた鬼貫警部が洗い直すと、新たに浮かんだ容疑者には時刻表の裏付けも完璧な鉄壁のアリバイがあった。死体入りのトランクは、いつ、どこで、誰の手で発送されたのか。トランクの旅路そのものが謎と化す。

1957日本仁木兄妹

猫は知っていた

仁木悦子

本格病院兄妹探偵江戸川乱歩賞

◆ 事件

植物学専攻の兄・雄太郎と音大生の妹・悦子の仁木兄妹は、東京の箱崎医院の離れに下宿することになる。だが間もなく入院患者の平坂が病院から忽然と姿を消し、それを皮切りに、医院に関わる人々が次々と不審な死を遂げていく。

◆ 謎

平坂は生きているのか死んでいるのか。失踪後も彼の声を聞いたという証言があり、生死すら確定できない。事件のたびに現場の近くに現れる飼い猫は何を見たのか。明るい素人探偵の兄妹が、医院の人間関係に潜む秘密を掘り起こしていく。

1958日本神津恭介

成吉思汗の秘密

高木彬光

本格歴史・時代歴史推理義経伝説安楽椅子探偵

◆ 事件

交通事故で入院した名探偵・神津恭介は、退屈しのぎに歴史上の謎へ挑むことを思い立つ。題材は「源義経は衣川で死なず、大陸に渡って成吉思汗になった」という伝説の真偽。友人の松下研三らが運び込む資料を頼りに、病床の推理が始まる。

◆ 謎

義経の最期の記録には不審な点が多く、一方の成吉思汗は台頭以前の出自の記録が奇妙に乏しい。二人の年齢や事績の符合は単なる偶然なのか。八百年前の歴史の空白を、現代の探偵が文献だけでどこまで論証できるのかが試される。

1958日本

点と線

松本清張

社会派警察小説汚職鉄道心中偽装

◆ 事件

九州・香椎海岸で、汚職事件の渦中にある省庁の課長補佐・佐山と、赤坂の料亭女中お時が青酸死体で見つかる。状況は情死そのものだったが、地元の老刑事・鳥飼と警視庁の三原は、二人の関係と死の状況にわずかな違和感を抱く。

◆ 謎

二人が東京駅で寝台特急あさかぜに乗り込む姿を目撃されたのは偶然なのか。13番ホームから15番ホームを見通せる時間は一日にわずか4分しかない。そして最有力の容疑者には、犯行時に北海道にいたという完璧なアリバイがあった。

1958スイス

約束

Das Versprechen

フリードリヒ・デュレンマット

警察小説サスペンス執念アンチミステリ少女殺害事件

◆ 事件

スイスの州警察の敏腕警部マテーイは、森で少女が惨殺された事件の現場で、被害者の母に「必ず犯人を見つける」と魂の救いにかけて誓う。疑われた行商人は自白の末に独房で自殺し、捜査は終結するが、マテーイだけは真犯人が別にいると確信する。

◆ 謎

少女が生前に描いた「ハリネズミの巨人」の絵は何を意味するのか。よく似た未解決の少女殺しが過去にも点在すると気づいたマテーイは、職を捨て、犯人の通り道とにらんだガソリンスタンドに居を構え、おとりを使った罠を張る。彼の推理は正しいのか。

1959日本

ゼロの焦点

松本清張

社会派サスペンス戦後北陸失踪占領期

◆ 事件

見合い結婚からわずか一週間、夫の鵜原憲一は前任地の金沢へ引継ぎに発ったまま消息を絶つ。新妻の禎子が夫の足跡を辿って北陸へ向かうと、夫の兄や関係者が相次いで変死し、夫の知られざる過去が少しずつ浮かび上がってくる。

◆ 謎

憲一はなぜ失踪したのか。彼には金沢に別の生活の影があり、立派な経歴の裏には空白の時期がある。夫を捜す動きに関わった人間から順に死んでいくのはなぜなのか。冬の能登の断崖を背景に、戦後という時代の傷が事件の底に横たわる。

1961日本

砂の器

松本清張

社会派警察小説方言ハンセン病宿命

◆ 事件

東京・蒲田の操車場で、顔を潰された初老の男の撲殺死体が発見される。被害者は誰からも慕われた元巡査・三木謙一と判明するが、彼を恨む者はどこにも見当たらない。手掛かりは、被害者が口にしていた「カメダ」という言葉だけだった。

◆ 謎

東北訛りの「カメダ」を頼りに捜査は秋田へ飛ぶが空振りに終わる。やがて、東北弁とそっくりなズーズー弁が出雲の亀嵩にもあると判明する。善意の人だった三木はなぜ殺されねばならなかったのか。今西刑事の執念の捜査が全国に及ぶ。

1963英国

寒い国から帰ってきたスパイ

The Spy Who Came in from the Cold

ジョン・ル・カレ

冒険・スパイサスペンス冷戦ベルリン二重スパイ

◆ 事件

東ベルリンで配下の工作員網を壊滅させられた英国情報部のリーマスは、失意のまま帰国する。だが上層部は彼に最後の任務を与える。零落した退職者を装って敵側に亡命情報を売り込み、東独防諜機関の実力者ムントを失脚させる偽装工作だった。

◆ 謎

尋問が進むにつれ、リーマスは自分が運ぶ「証言」が本当は誰を撃つための弾なのか分からなくなっていく。ムントを追い詰めようとする若き審問官フィードラー、計画に入り込んだ恋人リズの存在。この作戦の真の標的は誰で、誰が捨て駒なのか。

1963日本

飢餓海峡

水上勉

社会派サスペンス戦後津軽海峡貧困

◆ 事件

昭和22年、台風の夜に青函連絡船が転覆し、同じ夜、北海道では質屋一家殺害放火事件が起こる。引き揚げられた遭難死体の中に、乗客名簿にない男が二人混じっていた。十年後、京都で一人の娼婦が殺され、二つの時代が結び付いていく。

◆ 謎

名簿にない二人の溺死体は何者で、嵐の海峡を渡ったもう一人の大男はどこへ消えたのか。十年後に殺された女・杉戸八重は、なぜ大金をくれた恩人の面影を探し続けていたのか。函館の老刑事・弓坂の執念が、海峡を挟んだ謎を繋いでいく。

1964米国リュウ・アーチャー

さむけ

The Chill

ロス・マクドナルド

ハードボイルド私立探偵家族の闇過去の事件

◆ 事件

私立探偵アーチャーは、結婚直後に失踪した花嫁ドリーの捜索を新郎から依頼される。彼女は大学に戻っていたが、身近な女性カウンセラーが射殺され、ドリーは錯乱して「自分のせいだ」と口走る。背後には十年前、彼女の母が射殺された事件の影があった。

◆ 謎

ドリーの母コンスタンス殺しでは父親が服役したが、あの判決は正しかったのか。新たな殺人と十年前の事件、さらに二十年以上前に他州で起きた変死までが奇妙に響き合う。世代をまたいで繰り返される死の連鎖の中心には、いったい誰がいるのか。

1964日本

虚無への供物

中井英夫

本格奇書アンチミステリ推理合戦

◆ 事件

洞爺丸事故で両親を失った氷沼家の兄弟をめぐり、昭和29年末、紅司が内側から施錠された浴室で変死する。友人の亜利夫やシャンソン歌手の久生ら素人探偵たちが集まって華麗な推理合戦を繰り広げるうち、氷沼家の死は連鎖していく。

◆ 謎

浴室の密室はいかにして作られたのか。薔薇の呪い、五色不動、氷沼家に伝わる不吉な符合の数々は事件とどう関わるのか。名探偵を気取る者たちの推理は紡がれるそばから裏切られ、その間にも現実の死だけが静かに積み重なっていく。

1968スウェーデンマルティン・ベック

笑う警官

Den skrattande polisen

マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー

警察小説社会派北欧大量殺人地道な捜査

◆ 事件

雨のストックホルムで、深夜の二階建てバスが車内ごと自動小銃で掃射され、乗客乗員八人が射殺される。犠牲者の中には、マルティン・ベック麾下の若手刑事ステンストルムが含まれていた。前例のない無差別大量殺人として、大規模な捜査が始まる。

◆ 謎

非番だった刑事は、なぜ深夜のそのバスに乗っていたのか。彼が上司にも告げずに追っていたものは何だったのか。無差別に見える銃撃に、特定の標的は隠れていたのか。捜査陣は乗客一人ひとりの人生を洗い、やがて十六年前の未解決事件に行き当たる。

1971英国

ジャッカルの日

The Day of the Jackal

フレデリック・フォーサイス

冒険・スパイサスペンス暗殺者ドキュメンタリータッチフランス

◆ 事件

1963年、ド・ゴール大統領の暗殺に失敗し続ける秘密軍事組織OASは、組織外の人間に最後の望みを賭ける。雇われたのは経歴も本名も一切不明の英国人暗殺者、暗号名「ジャッカル」。彼は特注の狙撃銃と複数の偽造旅券を用意し、単独で計画を進める。

◆ 謎

暗殺計画の存在だけを察知した仏当局は、名前も顔も分からない男をどうやって探し出すのか。地道な捜査の天才ルベル警視と、決して尻尾をつかませない暗殺者。読者は決行日へ向かう双方の手順を交互に見守る。史実ではド・ゴールは死なないと知っていてなお、結末は読めない。

1974英国ジョージ・スマイリー

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ

Tinker Tailor Soldier Spy

ジョン・ル・カレ

冒険・スパイもぐら探し冷戦組織の内幕

◆ 事件

チェコでの極秘作戦が失敗し、英国情報部員ジム・プリドーが銃撃され拘束された。失脚し引退していたスマイリーのもとに、ある証言が届く。情報部「サーカス」の最上層部に、ソ連の大物カーラが送り込んだ二重スパイ「もぐら」が長年潜んでいるというのだ。

◆ 謎

容疑者は組織の頂点に立つ数人に絞られ、童謡にちなんで「ティンカー」「テイラー」「ソルジャー」と符牒で呼ばれる。幹部の誰が裏切り者なのか。スマイリーは公式記録の外側から過去の作戦の不審点を一つずつ掘り起こし、静かに罠を組み立てていく。

1976日本

人間の証明

森村誠一

社会派警察小説戦後占領期母子

◆ 事件

東京のホテルの最上階で、ジョニー・ヘイワードという黒人青年が刺殺体で発見される。彼はわざわざニューヨークから来日した直後だった。遺されたのは古びた西條八十の詩集と、死の間際に呟いた「ストウハ」という不可解な言葉だけだった。

◆ 謎

貧しい青年は、なぜ大金をはたいてまで日本へ来たのか。「ストウハ」とは何を意味するのか。詩集に残る「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね」という一節と、群馬の山中の霧積温泉が、棟居刑事を遠い戦後の記憶へと導いていく。

1977日本

乱れからくり

泡坂妻夫

本格からくり玩具迷路遺産

◆ 事件

玩具会社の部長・馬割朋浩が、降ってきた隕石の直撃で急死する。葬儀の直後には幼い息子が誤って睡眠薬を飲んで死亡し、以後も馬割家の人々が、庭の迷路や人形に絡んで次々と命を落としていく。調査員の宇内舞子と助手の勝敏夫が事件を追う。

◆ 謎

隕石の直撃死という天文学的な偶然から始まり、死はあたかも仕掛け仕事のように正確に連鎖していく。江戸のからくり師の血を引く馬割家、屋敷に眠るという家伝の財宝、奇怪な「ねじ屋敷」の迷路。偶然と作為の境目がどこにも見えない。

1978日本三毛猫ホームズ

三毛猫ホームズの推理

赤川次郎

ユーモア本格女子大刑事

◆ 事件

女子大生の連続殺人と学内の不穏な噂に揺れる羽衣女子大学に、血を見ると卒倒する刑事・片山義太郎が捜査に入る。事件関係者の飼い猫だった三毛猫「ホームズ」を引き取った片山の周囲で、密室殺人を含む事件がなおも続発していく。

◆ 謎

工事中のキャンパスに建つプレハブ小屋で、完全な密室状態の殺人が起こる。犯人はどうやって出入りしたのか。名門女子大の裏に巣食う秘密とは何か。言葉を持たない三毛猫ホームズだけが、核心を見抜いたかのような行動を繰り返す。

1980日本

戻り川心中

連城三紀彦

本格大正歌人心中短編

◆ 事件

大正末年、歌壇の寵児・苑田岳葉は、恋人との無理心中に失敗して二人とも生き残り、翌年には別の女との心中で相手だけを死なせる。生き残った岳葉は事件を題材にした連作の歌を詠み上げ、絶唱と讃えられた直後に自ら命を絶った。

◆ 謎

なぜ岳葉の心中は二度も「失敗」し、二度目は女だけが死んだのか。心中の場所がいずれも戻り川という同じ川辺だったのは偶然なのか。後年、岳葉の生涯を調べる語り手の前で、歌と事件の関係が少しずつ不穏な姿を現していく。

1980イタリア

薔薇の名前

Il nome della rosa

ウンベルト・エーコ

歴史・時代本格修道院迷宮図書館中世

◆ 事件

1327年、北イタリアの山上の修道院で写本彩飾師の変死体が見つかる。教義論争の調停に訪れた英国人修道士ウィリアムは、院長の依頼で調査を始めるが、滞在中にも修道士の死が相次ぐ。死の連なりは黙示録の七つのラッパの記述をなぞるかに見えた。

◆ 謎

鍵を握るのは、限られた者しか立ち入れない迷宮構造の文書館と、死んだ者たちが相次いで追い求めていた一冊の書物。死の連鎖は本当に黙示録の見立て通りに進んでいるのか、そこに人の意志はあるのか。ウィリアムは記号と痕跡から推理を重ねていく。

1981日本御手洗潔シリーズ

占星術殺人事件

島田荘司

本格未解決事件猟奇安楽椅子探偵

◆ 事件

昭和11年、画家・梅沢平吉が密室のアトリエで撲殺される。遺された手記には、占星術に基づき六人の処女の肉体から完全な女体「アゾート」を作る計画が記されていた。直後、梅沢家の娘たち六人が殺害され、遺体は体の一部を切除された状態で各地に埋められる。

◆ 謎

手記どおりの猟奇殺人を実行できた者は誰か。計画を書いた平吉本人は事件前に死んでおり犯行は不可能。六つの遺体からそれぞれ異なる部位だけが持ち去られた理由も、アゾートの行方も不明のまま、事件は四十数年も未解決だった。この難問に占星術師・御手洗潔が挑む。

1982日本

Wの悲劇

夏樹静子

本格サスペンス一族別荘遺産相続クイーンへのオマージュ

◆ 事件

正月の山中湖畔の別荘に和辻家の一族が集う夜、当主で製薬会社会長の与兵衛が刺殺される。「私がおじい様を殺してしまった」と告白する孫娘・摩子を守るため、一族は事件を外部の物盗りの犯行に見せかける偽装工作を始める。

◆ 謎

身内をかばうための偽装はいつ破綻するのか、息詰まる一夜が続く。だがやがて、摩子の刺した傷と与兵衛の死の状況との間に食い違いが見え始める。閉ざされた別荘の人間関係の中で、誰が何のために事件を導いたのかが反転していく。

1982日本御手洗潔シリーズ

斜め屋敷の犯罪

島田荘司

本格クローズドサークル

◆ 事件

北海道・宗谷岬の突端に、奇妙に傾いて建つ西洋館「流氷館」。実業家・浜本幸三郎が客を招いたクリスマスの夜、施錠された部屋で使用人が刺殺される。さらに警察が駆けつけ館を見張るさなか、第二の殺人までもが密室状況で起きてしまう。

◆ 謎

完全な密室で人が刺し殺され、凶器の出入りも人の出入りも説明がつかない。警察の監視下でなぜ犯行が可能だったのか。そもそもこの館はなぜ、住みにくいほど傾けて建てられたのか。不可能犯罪と奇怪な建築の意味が解けぬまま、御手洗潔が呼び寄せられる。

1987日本館シリーズ

十角館の殺人

綾辻行人

新本格本格孤島クローズドサークル大学生

◆ 事件

大学ミステリ研究会の七人が、半年前に建築家・中村青司が焼死した孤島・角島へ合宿に訪れる。十角形の奇妙な館で過ごすうち、メンバーが一人また一人と殺されていく。同じ頃本土では、元会員の江南のもとに「死んだはずの千織を殺したのはお前たちだ」という手紙が届く。

◆ 謎

船の来ない孤島で、犯人は七人の中にいるとしか考えられない。島で進行する連続殺人と、本土で江南たちが追う半年前の焼死事件はどう繋がるのか。死んだはずの中村青司が生きていて復讐しているのではないかという疑念が、二つの視点の間で膨らんでいく。

1987米国

推定無罪

Presumed Innocent

スコット・トゥロー

法廷サスペンス検事不倫一人称の語り

◆ 事件

首席検事補ラスティ・サビッチは、撲殺された同僚の女性検事カロリンの事件捜査を任される。だが彼女と不倫関係にあった過去が発覚し、現場の物証がことごとく彼を指したことで、捜査を率いていたラスティ自身が殺人罪で起訴される側に転落する。

◆ 謎

グラスに残った指紋、体液の鑑定結果、そして消えた物証。検察側の証拠はなぜすべてラスティを指すのか。彼は本当に無実なのか、一人称で語る本人の言葉すら読者は信じ切れない。名弁護士スターンの法廷戦術と検察内部の政治劇の果てに、評決とその先の真相が待つ。

1988米国ハンニバル・レクター

羊たちの沈黙

The Silence of the Lambs

トマス・ハリス

サスペンス警察小説サイコスリラーFBIプロファイリング

◆ 事件

若い女性ばかりを狙い、皮を剥いで殺す連続殺人犯「バッファロー・ビル」が野放しになっていた。FBI実習生クラリス・スターリングは、収監中の元精神科医にして食人殺人者ハンニバル・レクター博士から、犯人像の手掛かりを引き出す任務を与えられる。

◆ 謎

レクターは謎かけめいた断片しか与えず、見返りにクラリス自身の過去の傷を語ることを要求する。やがて上院議員の娘が誘拐され、生存の猶予は数日。犯人はなぜ被害者の皮を剥ぐのか、なぜ被害者の体格は揃っているのか。檻越しの知恵比べが加速する。

1992日本

火車

宮部みゆき

社会派失踪多重債務戸籍

◆ 事件

休職中の刑事・本間俊介は、親戚の青年から失踪した婚約者・関根彰子を捜してほしいと頼まれる。彼女はクレジットカードの申し込みを機に自己破産歴が発覚した直後、勤め先も部屋も捨て、痕跡を消すように姿を消していた。

◆ 謎

調べるほどに「彰子」の経歴は空洞で、写真の女は本人と別人らしいと判明する。婚約者だった女は一体誰なのか。本物の彰子はどこへ消えたのか。カード破産と多重債務が人を呑み込む社会を背景に、名前のない女の足取りを追う捜索行が続く。

1992日本

殺戮にいたる病

我孫子武丸

倒叙サスペンス連続殺人東京家族

◆ 事件

東京で若い女性を狙った猟奇的な連続殺人が続発する。物語は三つの視点で進む。永遠の愛を求めて殺人を重ねる蒲生稔、家族の中に犯人がいるのではと怯える主婦・雅子、妻を亡くし独自に犯人を追う元警察官・樋口。冒頭には犯人逮捕の場面が置かれている。

◆ 謎

犯人の名は最初から「蒲生稔」と明かされており、誰がやったかは謎ではないように見える。焦点は、雅子の抱く疑念は正しいのか、樋口の追跡はいつ犯人に届くのか、そして冒頭に置かれた逮捕の場面が何を意味するのか。三つの視点が交わる瞬間に何が起きるかである。

1993日本

慟哭

貫井徳郎

警察小説サスペンス誘拐新興宗教二つの物語

◆ 事件

都内で幼女ばかりを狙った連続誘拐事件が発生し、捜査一課長・佐伯は世間とマスコミの重圧の中で捜査を指揮する。その一方で、家族を失い新興宗教へとのめり込んでいく一人の男の荒んだ日々が、捜査の物語と交互に描かれていく。

◆ 謎

容疑者が浮かばぬまま誘拐は続き、エリート課長の私生活にも軋みが広がる。もう一方の物語で宗教に救いを求める男は何者で、いつ捜査の物語と交わるのか。二つの物語の接点が見えないことそのものが、読み進めるほどに不気味な謎として迫り上がってくる。

1994日本百鬼夜行シリーズ

姑獲鳥の夏

京極夏彦

新本格特殊設定妖怪昭和憑物落とし

◆ 事件

昭和27年の東京。雑司ヶ谷の産科医院・久遠寺家を巡り、奇怪な噂が流れる。娘婿の藤野牧朗は密室の書斎から忽然と姿を消し、残された妻の梗子は二十箇月もの間、身籠ったままだという。文士・関口は、古書肆にして拝み屋の京極堂にこの怪異を持ち込む。

◆ 謎

人間は密室から煙のように消えられるのか。人は二十箇月も妊娠し続けられるのか。医院に纏わる嬰児失踪の噂も絡み、怪異としか思えない状況に合理的な説明がつくのかが問われる。「この世には不思議なことなど何もない」と言い切る京極堂が憑物落としに臨む。

1995日本百鬼夜行シリーズ

魍魎の匣

京極夏彦

新本格サスペンス妖怪昭和研究所新興宗教

◆ 事件

昭和27年。美少女・柚木加菜子が駅のホームから転落して瀕死の重傷を負い、湖畔に建つ要塞のような箱型の研究施設に収容される。ところが厳重な警備下から加菜子は消失する。折しも世間では、少女の手足を箱に収めて遺棄するバラバラ殺人が続発していた。

◆ 謎

監視された施設から動けないはずの重体の少女がどうやって消えたのか。箱詰めバラバラ殺人の犯人は誰で、なぜ遺体を箱に収めるのか。箱を祀る奇妙な宗教、箱型の研究所と、いくつもの「匣」を巡る事件は一つに繋がるのかが、関口・木場・京極堂らの前に立ちはだかる。

1996米国ジャック・マカヴォイ

ザ・ポエット

The Poet

マイクル・コナリー

サスペンス警察小説新聞記者連続殺人ポーの詩

◆ 事件

新聞記者ジャックの双子の兄である殺人課刑事が、車中で拳銃自殺を遂げた。遺書はエドガー・アラン・ポーの詩の一節だった。納得できないジャックが調べると、全米各地で同じようにポーを引用した遺書を残して「自殺」した刑事が複数いることが判明する。

◆ 謎

刑事ばかりを狙い、自殺に偽装して殺している者がいるのか。死んだ刑事たちはいずれも生前、凄惨な未解決事件を追い詰められずにいた。スクープと引き換えにFBI捜査班への同行を許されたジャックは、児童を狙う犯罪者の影と偽装自殺の連鎖をつなぐ糸を追う。

1996日本S&Mシリーズ

すべてがFになる

森博嗣

新本格本格孤島研究所理系コンピュータ

◆ 事件

孤島の研究所で、14年間外界との接触を絶ち研究室に籠もり続ける天才工学者・真賀田四季。訪問した犀川助教授と西之園萌絵の眼前で、密室であるはずの彼女の部屋から、両手足を切断されウェディングドレスを着せられた死体が運び出されてくる。直後、所長も殺害される。

◆ 謎

完全に監視・制御された部屋に誰も出入りできないのに、なぜ殺人が起きたのか。死体は本当に四季なのか、四肢はなぜ切断されたのか。システムに残された「すべてがFになる」というメッセージは何を意味するのか。コンピュータに支配された密室の論理が問われる。

1996日本加賀恭一郎シリーズ

悪意

東野圭吾

本格警察小説作家手記動機

◆ 事件

人気作家・日高邦彦が、カナダ移住を目前に控えた夜、自宅で殺害される。第一発見者は妻と、幼馴染の児童文学作家・野々口修。捜査に当たった刑事・加賀恭一郎は早い段階で容疑者を特定し、その人物も犯行をあっさりと認める。

◆ 謎

犯人は判明し自供もしているのに、肝心の動機だけがどうしても語られない。やがてゴーストライター疑惑や過去の因縁が浮かび上がるが、加賀はどこかに違和感を覚える。手記と証言で構成された物語のどこまでが真実なのか、「なぜ殺したか」だけが謎として残る。

1997日本

OUT

桐野夏生

社会派サスペンス主婦深夜労働犯罪

◆ 事件

東京郊外の弁当工場で深夜パートとして働く主婦・弥生が、博打と暴力に溺れる夫を衝動的に絞殺してしまう。同僚の雅子に助けを求めると、雅子はヨシエや邦子も巻き込み、風呂場で死体を解体して都内各所に遺棄するという常軌を逸した後始末を引き受ける。

◆ 謎

倒叙形式で犯行も経緯も読者には見えている。焦点は、ごく普通の主婦たちによる死体処理がどこから綻ぶのか、そして被害者と揉めていたクラブ経営者・佐竹に容疑が向かう誤認の行方である。彼女たちは日常に戻れるのか、それとも別の地獄が口を開けるのか。

1997米国リンカーン・ライム

ボーン・コレクター

The Bone Collector

ジェフリー・ディーヴァー

サスペンス警察小説科学捜査安楽椅子探偵タイムリミット

◆ 事件

ニューヨークでタクシーに乗った男女が消え、生き埋めなど猟奇的な手口の死体が次々に見つかる。犯人は現場に微細な遺留品をわざと残し、次の犯行を予告していた。警察は四肢麻痺で寝たきりの元鑑識の天才ライムを捜査に引き戻し、巡査サックスを彼の手足とする。

◆ 謎

砂粒や紙片といった微細証拠は、次の被害者が監禁された場所をどう指し示すのか。犯人はなぜ古いニューヨークを再現するような犯行を重ね、わざわざ手掛かりを残して鑑識の天才に解読合戦を挑むのか。被害者の命を賭けたタイムリミットつきの競争が続く。

1999日本

ハサミ男

殊能将之

新本格サスペンス連続殺人模倣犯一人称

◆ 事件

美少女の喉にハサミを突き立てる連続殺人犯「ハサミ男」が世間を震撼させている。当のハサミ男は三人目の標的に定めた女子高生・樽宮由紀子を観察していたが、ある夜、自分の手口とそっくりの方法で殺された彼女の死体を発見してしまう。

◆ 謎

ハサミ男の手口を細部まで完全に模倣できた何者かは誰なのか。殺人者自身が探偵となり、警察の捜査と並行して「自分の偽者」を追うという倒錯した構図で物語が進む。報道と捜査が作り上げる犯人像と、語り手の内面のずれも不穏な謎として横たわる。

1999日本

白夜行

東野圭吾

社会派サスペンス大阪年代記男女

◆ 事件

1973年、大阪の廃ビルで質屋の店主が殺害される。容疑者は何人も浮かぶが決め手を欠き、事件は迷宮入りする。以後19年にわたり、被害者の息子・桐原亮司と、容疑者とされた女の娘・西本雪穂、二人の周囲では不可解な事件や不幸が起き続ける。

◆ 謎

雪穂が階段を上るように人生の成功を重ねる一方、その近くでは必ず誰かが破滅していく。これは偶然なのか。物語は亮司と雪穂が言葉を交わす場面を一度も描かず、二人の関係そのものが読者に委ねられた最大の謎となる。そして最初の質屋殺しの真相も宙に浮いたままである。

2001米国

ミスティック・リバー

Mystic River

デニス・ルヘイン

警察小説社会派ボストン幼馴染悲劇

◆ 事件

ボストンの下町で育った幼馴染の三人。少年時代、デイブだけが何者かに連れ去られ、心に深い傷を負った。二十五年後、ジミーの十九歳の娘ケイティが公園で惨殺される。刑事になったショーンが捜査を担い、デイブは事件の夜、血まみれで帰宅していた。

◆ 謎

ケイティは死の前夜、誰と会い、何を計画していたのか。デイブが妻にすら語れない「あの夜のこと」とは何なのか。娘を失った父ジミーは、警察より先に犯人へたどり着こうと裏社会の人脈を動かす。公式の捜査と私刑の追跡、二つの線が刻々と交錯していく。

2001日本〈古典部〉シリーズ

氷菓

米澤穂信

日常の謎青春学園部活文集

◆ 事件

省エネ主義の高校生・折木奉太郎は、姉の命令で廃部寸前の古典部に入部し、好奇心の塊のような少女・千反田えるらと出会う。文集「氷菓」の由来を調べるうち、33年前、千反田の伯父・関谷純が在学中に学校を去ることになった出来事に行き当たる。

◆ 謎

関谷純はなぜ高校を去らねばならなかったのか。彼が関わった33年前の文化祭で何があったのか。そして文集がなぜ「氷菓」という奇妙な名を持ち、伯父がその意味を幼い千反田に語ったとき彼女が泣いたのはなぜか。殺人なき過去の謎が連鎖して提示される。

2001日本

模倣犯

宮部みゆき

社会派サスペンス劇場型犯罪メディア多視点

◆ 事件

公園のゴミ箱から女性の右腕が発見され、連続女性誘拐殺人が明るみに出る。犯人はテレビ局や遺族に電話をかけて挑発し、社会全体を巻き込む劇場型犯罪へと事件を演出していく。被害者の祖父・有馬義男ら、加害者側も含む多数の視点で事件の全貌が描かれる。

◆ 謎

犯人グループの正体と役割分担はどうなっているのか。やがて二人の男が事故死し、遺品から犯行の証拠が見つかって事件は解決したかに見える。しかし、それで本当に終わりなのか。「真犯人は別にいる」と示唆する声の主と、その意図が後半の焦点となる。

2002日本

半落ち

横山秀夫

警察小説社会派自首介護多視点

◆ 事件

現職の警部・梶聡一郎が「アルツハイマー病の妻に頼まれ、手にかけた」と妻殺しを自首する。犯行は全面的に認めるのに、殺害から自首までの「空白の二日間」の行動だけを頑なに語らない。事件は警察・検察・裁判官・新聞記者・弁護士・刑務官の六つの視点で描かれていく。

◆ 謎

梶は空白の二日間、どこで何をしていたのか。なぜその間に死を選ばず、生きて自首してきたのか。組織は保身のために何を隠そうとするのか。完全に「落ちた」ようでいて核心だけを黙秘する「半落ち」の男の心が、関わる者すべてにとっての謎となる。

2003日本

アヒルと鴨のコインロッカー

伊坂幸太郎

青春サスペンス仙台留学生二つの時間軸

◆ 事件

大学進学で仙台に越してきた椎名は、隣人の河崎という男から「一緒に本屋を襲って広辞苑を一冊だけ盗まないか」という奇妙な誘いを受ける。現在の椎名の物語と並行して、二年前のペット連続殺害事件を巡る琴美やブータン人留学生ドルジの物語が交互に語られる。

◆ 謎

なぜ広辞苑一冊のために書店強盗までするのか。現在の河崎の言動には不可解な点が多く、二年前の物語に登場する人々と現在の人物関係がどうしても噛み合わない。二つの時間軸の間に横たわるずれと違和感の正体が、物語全体の謎として積み上がっていく。

2003日本

重力ピエロ

伊坂幸太郎

青春サスペンス仙台兄弟家族

◆ 事件

仙台で連続放火が発生し、現場の近くには決まって謎めいたグラフィティアートが残されていた。遺伝子関連の会社に勤める兄・泉水と、落書き消しの仕事をする弟・春の兄弟は、落書きと放火の法則性に気づき調べ始める。一家には、母が通り魔に乱暴された過去があった。

◆ 謎

グラフィティと放火現場の位置にはどんな法則が隠れているのか。なぜ犯人はわざわざ絵を残すのか。調査が進むにつれ、二十数年前に母を襲った男の存在と、春の出生を巡る家族の秘密が事件に影を落とし、家族の物語と謎解きが分かちがたく並走していく。

2003日本

葉桜の季節に君を想うということ

歌野晶午

本格サスペンス私立探偵風悪徳商法恋愛

◆ 事件

「何でもやってやろう屋」を自称する成瀬将虎は、駅のホームで自殺を図ろうとした女性・麻宮さくらを助け、恋に落ちる。一方、知人の頼みで、高齢者を狙う悪徳商法会社「蓬莱倶楽部」の調査を引き受け、元探偵の経験を活かして単身潜入していく。

◆ 謎

蓬莱倶楽部を巡っては不審死の疑惑もあり、調査は危険を帯びていく。さくらが何かを隠している気配も濃くなる。ハードボイルド風の探偵活劇として進む物語のどこに仕掛けが潜んでいるのか、読者は気づかぬまま誘導されていき、最後に視界そのものが反転する。

2004日本

イニシエーション・ラブ

乾くるみ

青春サスペンス80年代恋愛二部構成

◆ 事件

1980年代の静岡と東京を舞台に、合コンで出会った「たっくん」とマユの恋愛が、カセットテープになぞらえたA面・B面の二部構成で描かれる。A面は甘い恋の始まりを、B面は彼の東京転勤による遠距離恋愛のすれ違いと心変わりを追っていく。

◆ 謎

事件らしい事件は起きず、一見ただの恋愛小説である。しかし「最後から二行目で全てが覆る、必ず二度読みたくなる」と予告される仕掛けがどこに潜んでいるのかが、読者への挑戦となる。A面とB面の間に横たわる微妙な違和感の正体は何か。

2005スウェーデンミレニアム

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女

Män som hatar kvinnor

スティーグ・ラーソン

サスペンス社会派北欧ハッカー一族の闇

◆ 事件

名誉毀損裁判に敗れた雑誌記者ミカエルは、老実業家ヘンリックから奇妙な依頼を受ける。三十六年前、一族が集う孤島で、十六歳の姪ハリエットが橋の事故で封鎖された島から忽然と消えたのだ。遺体のないまま、老人のもとには今も毎年、彼女が贈っていたのと同じ押し花が届き続けている。

◆ 謎

出入りがすべて把握できる封鎖された島から、少女はどうやって消えたのか。彼女が手帳に残した数字と名前の羅列は何を意味するのか。天才ハッカーのリスベットと組んだ調査は、ヴァンゲル一族の暗部と、数十年にわたり点在する女性たちの変死事件へつながっていく。

2005日本ガリレオシリーズ

容疑者Xの献身

東野圭吾

本格サスペンス天才対決純愛下町

◆ 事件

弁当屋で働く花岡靖子は、押しかけてきた元夫・富樫を娘とともに殺してしまう。隣室に住む高校教師で天才数学者の石神は、母娘を守るため死体の始末と偽装工作を申し出る。数日後、河川敷で男の死体が発見され、捜査の手は靖子に伸びる。

◆ 謎

警察がいくら調べても、母娘のアリバイは不自然なほど揺らがない。数学者・石神がどんな工作を施したのかが最大の謎であり、旧友の物理学者・湯川学だけがその異様な完璧さに気づく。読者には犯行が見えているのに、トリックだけが見えないという構図で進む。

2008日本

告白

湊かなえ

イヤミスサスペンス学校復讐独白形式

◆ 事件

中学校の終業式の日、担任教師の森口悠子は教壇から静かに語り始める。「私の娘・愛美はプールで事故死したのではなく、このクラスの生徒二人に殺されました」。彼女はそのまま学校を去り、以後、級友・犯人の少年・その家族らの独白によって事件の後日が描かれていく。

◆ 謎

少年法に守られて罪に問われない二人に対し、森口はどんな制裁を仕掛けたのか。冒頭の告白はどこまで真実なのか。生徒A・Bそれぞれの動機や家庭の事情は語り手が替わるたびに様相を変え、復讐の連鎖がどこへ行き着くのかが最後まで読めない構成になっている。

2009日本

Another

綾辻行人

特殊設定サスペンス学園ホラー

◆ 事件

1998年、夜見山北中学三年三組に転校してきた榊原恒一は、クラス全体を覆う異様な緊張と、皆から存在しないものとして扱われる少女・見崎鳴に気づく。やがて生徒やその家族が、凄惨な事故や病で次々と命を落とし始める。

◆ 謎

三年三組では26年前から、「ある年にはクラスに死者が一人紛れ込み、気づかれないまま関係者が次々死ぬ」という現象が続いているという。今年の「もう一人」は誰なのか。なぜ鳴はクラスから無視されるのか。死の連鎖を止める方法はあるのかが問われる。

2011フランスカミーユ・ヴェルーヴェン

その女アレックス

Alex

ピエール・ルメートル

警察小説イヤミス監禁復讐パリ

◆ 事件

パリの路上で若い女アレックスが何者かに拉致され、廃倉庫で檻に入れられ吊るされる。目撃証言だけを頼りに、身元不明の被害者を小柄な警部カミーユの班が追う。だが捜査が進むほど、誘拐犯の目的も、彼女がいったい何者なのかも分からなくなっていく。

◆ 謎

誘拐犯はなぜ身代金も要求せず、彼女を衰弱するに任せるのか。そもそもアレックスとは何者で、なぜ誰も彼女を捜さないのか。檻の中の彼女は生き延びられるのか。身元の手掛かりすらない誘拐事件を、カミーユ班は僅かな物証と証言から組み立て直していく。

2011日本虚構推理シリーズ

虚構推理

城平京

特殊設定本格怪異ネット都市伝説

◆ 事件

深夜の街に、鉄骨を振り回すアイドルの亡霊「鋼人七瀬」が出没し、警官の殉職者まで出る事態となる。幼い頃に怪異たちの「知恵の神」となった少女・岩永琴子は、特異な体質を持つ青年・桜川九郎とともに、この危険な怪異を消し去るための戦いに乗り出す。

◆ 謎

鋼人七瀬は本物の幽霊なのか。元になったアイドル・七瀬かりんの死は本当にただの事故だったのか。なぜこの怪異だけが実体を持って人を傷つけられるのか。まとめサイトに集まる無数の噂と目撃談が、怪異の出現とどう関係しているのかが謎の中心となる。

2012日本

64(ロクヨン)

横山秀夫

警察小説社会派誘拐時効広報

◆ 事件

わずか七日間で終わった昭和64年に起きた少女誘拐殺人「ロクヨン」は、未解決のまま時効が迫っていた。D県警の広報官・三上は、記者クラブとの対立や警察庁長官の視察対応に忙殺されるさなか、ロクヨンの手口をなぞったかのような新たな誘拐事件の発生に直面する。

◆ 謎

14年前の捜査はなぜ失敗したのか。刑事部が隠し続ける「幸田メモ」には何が書かれているのか。警務と刑事の組織暗闘の陰で、新たな誘拐はなぜ手口から経路まで当時と酷似しているのか。広報官という中間管理職の視点から、警察組織と事件の真相が同時に暴かれていく。

2012米国

ゴーン・ガール

Gone Girl

ギリアン・フリン

サスペンスイヤミス夫婦メディア信頼できない語り手

◆ 事件

結婚五周年の記念日に、ニックの妻エイミーが自宅から失踪する。荒らされたリビング、不自然な血痕の拭き跡、膨らんだ借金と生命保険。メディアは「完璧な妻」を失った夫に疑いの目を向け始め、ニックが重ねてきた嘘や不貞が次々と暴かれていく。

◆ 謎

物語はニックが語る現在と、エイミーが残した日記とが交互に進むが、夫婦それぞれの言い分は少しずつ食い違っていく。エイミーはどこへ消えたのか。ニックは本当に妻を殺したのか。完璧に見えた結婚生活の内側で、実際には何が起きていたのか。

2012日本

ソロモンの偽証

宮部みゆき

社会派青春学校裁判中学生

◆ 事件

クリスマスの朝、雪の積もった中学校の校庭で男子生徒・柏木卓也の転落死体が発見される。警察は自殺と判断するが、「彼は殺された。犯人は同級生の大出俊次たちだ」と名指しする匿名の告発状が出回り、学校とマスコミ、家庭を巻き込んだ大騒動に発展する。

◆ 謎

柏木の死は自殺なのか他殺なのか。告発状を書いたのは誰で、その内容は真実なのか。大人たちの調査と隠蔽が迷走する中、藤野涼子ら生徒たちは自分たちの手で真相を突き止めるべく、弁護側と検察側に分かれた「学校内裁判」を開くことを決意する。

2015日本

リバース

湊かなえ

イヤミスサスペンス大学時代友情コーヒー

◆ 事件

平凡な会社員・深瀬和久の恋人のもとに、「深瀬和久は人殺しだ」と書かれた告発文が届く。深瀬は大学時代、ゼミ仲間との雪山旅行の夜に親友・広沢由樹を車の事故で死なせてしまった過去を抱えていた。彼は当時の仲間を訪ね、告発者と事故の真相を探り始める。

◆ 謎

広沢の死は本当にただの事故だったのか。当時の仲間たちにも同様の告発が届き、それぞれが事故の夜について隠していた秘密が少しずつ剥がれていく。誰が何のために十年越しに過去を暴こうとするのか。そして深瀬自身は本当に「人殺し」ではないのかが問われる。

2016英国スーザン・ライランド

カササギ殺人事件

Magpie Murders

アンソニー・ホロヴィッツ

本格作中作出版業界古典オマージュ

◆ 事件

編集者スーザンは、看板作家アラン・コンウェイの新作原稿「カササギ殺人事件」を読み始める。1950年代の英国の村を舞台にした名探偵ピュント物の本格ミステリだ。だが原稿は解決篇の直前で途切れており、時を同じくして作者コンウェイの転落死が報じられる。

◆ 謎

失われた最終章はどこにあるのか。屋敷の塔から落ちたコンウェイの死は、遺書らしき手紙が残る通りの自殺なのか。作中作の村の連続殺人と、現実の作家の死という二重の謎を前に、スーザンは原稿に隠された仕掛けと作家の周囲の人間関係を探り始める。

2017日本

かがみの孤城

辻村深月

特殊設定青春不登校ファンタジー中学生

◆ 事件

学校に居場所を失い部屋に籠もる中学生・こころの前で、ある日突然、部屋の鏡が光り出す。鏡の向こうの城に集められたのは、似た境遇の中学生七人。オオカミの面をつけた少女から「願いを叶える鍵を城の中から探せ」と告げられ、期限付きの奇妙な共同生活が始まる。

◆ 謎

なぜこの七人が選ばれたのか。全員が同じ雪科第五中学の生徒だと分かったのに、現実世界で会う約束をしても決して会えないのはなぜか。城の規則に隠された意味、オオカミさまの正体、そして鍵の在処。優しい日々の裏で、いくつもの謎が静かに絡み合っていく。

2017日本剣崎比留子シリーズ

屍人荘の殺人

今村昌弘

新本格特殊設定クローズドサークル合宿ペンション

◆ 事件

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と明智恭介は、探偵少女・剣崎比留子とともに映画研究部の夏合宿に参加する。初日の夜、近くの野外フェス会場から異変が押し寄せ、一行はペンション紫湛荘に立てこもることを余儀なくされる。そしてその夜から、館内で殺人が始まる。

◆ 謎

外には出られず、内には犯人がいる。前代未聞の理由で成立したクローズドサークルの中で、なぜ犯人はこの極限状況下にあえて殺人を犯すのか。被害者の選ばれ方には意味があるのか。異常な状況そのものを利用したとしか思えない手口の解明が焦点となる。

2018日本

無実の君が裁かれる理由

友井羊

青春社会派冤罪連作短編

◆ 事件

大学生の牟田幸司は、ある日突然、見知らぬ男女から「友人にストーカー行為をするな」と糾弾される。まったく身に覚えのないまま事態は悪化し、牟田はバイト先の先輩で冤罪を研究する遠藤紗雪とともに、自らにかけられた疑いを晴らすため動き出す。

◆ 謎

なぜ無実の牟田がストーカー犯に仕立てられたのか。壊していないドローンを「自分が壊した」と自白する友人、過労の裁判官が漏らす「冤罪」という寝言、八年前の殺人事件。人の記憶や目撃証言はなぜこれほど容易に歪み、冤罪を生んでしまうのか。

2019日本

119

長岡弘樹

サスペンス日常の謎短編集消防士

◆ 事件

和佐見消防署を舞台に、消防士たちの十年に及ぶ歳月を描く全九話の連作集。増水した川に飛び込もうとした女性を救う救急係の今垣、無敗を誇る新米コンビ、休暇中に火事を発見する女性レスキュー隊員、殉職した息子のお別れ会に臨む副所長らが登場する。

◆ 謎

命を救われ、新たな幸せをつかんだはずの女性は、なぜ再び自殺を試みるのか。川べりで石を拾う彼女の行動には何の意味があるのか。各話に仕込まれた日常の違和感や人物の不可解な振る舞いが、火災や救急の現場を背景にした謎として提示される。

2019日本

BUG 広域警察極秘捜査班

福田和代

警察小説サスペンスサイバー犯罪近未来ハッカー

◆ 事件

16歳の天才ハッカー水城陸は、多数の犠牲者を出した航空機墜落事故の犯人として死刑判決を受ける。だがその高すぎる能力ゆえに、命と引き換えに名前と経歴を変えられ、広域警察の極秘捜査班に組み込まれる。近未来を舞台にしたサスペンス長編。

◆ 謎

監視任務の対象となった老数学者は、陸自身の事件と関わりがあるらしい。墜落事故の真相とは何だったのか、誰が16歳の少年を犯人に仕立てたのか。身の潔白を証明しようとする陸の前に、それを許さない権力の壁が立ちはだかっていく。

2019日本

Iの悲劇

米澤穂信

日常の謎社会派連作限界集落市役所

◆ 事件

無人になった山あいの集落・蓑石を再生するため、南はかま市は移住促進プロジェクト「甦り課」を立ち上げる。万願寺ら職員のもとへ移住者が次々やってくるが、水道トラブルや火事、住民同士の不和など不可解な出来事が相次ぎ、人々は一人また一人と集落を去っていく。

◆ 謎

善意で始まったはずの集落再生は、なぜことごとく躓くのか。各章で起こる小さな事件には合理的な説明がつくのか、それとも誰かの意図が潜むのか。苦情処理に奔走する万願寺の違和感が積み重なり、終章ですべての断片がひとつに繋がる。

2019日本城塚翡翠シリーズ

medium 霊媒探偵城塚翡翠

相沢沙呼

新本格特殊設定霊媒連続殺人探偵コンビ

◆ 事件

推理作家・香月史郎は、死者の言葉を視るという霊媒の少女・城塚翡翠と出会う。霊視は常に真実を言い当てるが、法廷では何の証拠にもならない。二人は組んで、霊視の「答え」から逆算して証明を組み立てる方法で殺人事件を解決していく。やがて街には連続殺人鬼の影が迫る。

◆ 謎

霊視で犯人は分かるのに証拠がない、という逆転構造の推理が各事件で展開される。翡翠の能力は本物なのか、彼女を狙う連続殺人鬼の正体は誰なのか。そして最終章、それまで積み上げられてきた物語の前提そのものが、一気に裏返る瞬間が訪れる。

2019日本

W県警の悲劇

葉真中顕

警察小説社会派連作短編集女性警察官

◆ 事件

旧態依然とした男社会のW県警を舞台に、女性警察官たちが直面する事件と組織の闇を描く連作短編集。第一話では「警察官の鑑」と呼ばれた元警察官が山中で不審死を遂げ、監察官の松永菜穂子が処理に当たる。各話で女性たちの苦闘が交錯する。

◆ 謎

鑑とされた男の死は事故か自殺か、それとも殺人か。娘である女性警察官の態度にも不可解な点が漂う。各話とも一見単純な事件の裏に組織の論理と性差別の構造が絡み、最終話では県警初の女性警視となった菜穂子自身に関わる謎が提示される。

2019日本

いけない

道尾秀介

本格サスペンス実験的写真連作

◆ 事件

蝦蟇倉市とその周辺で起こる事件を描く連作。交通事故と自殺の名所「弓投げの崖」での死、殺人現場を目撃してしまった少年、変死した宗教団体の主宰者——各章で事件が起こり、章の末尾には必ず一枚の写真が置かれている。

◆ 謎

各章の物語は一見決着したように見えるが、章末の写真を見た瞬間、読者が信じていた構図が覆る。誰が死に、誰が嘘をつき、何が見落とされていたのか。文章では語られない真相を読者自身が写真から発見する、体験型の仕掛けが施されている。

2019日本

おまえの罪を自白しろ

真保裕一

サスペンス社会派誘拐政治映画化

◆ 事件

衆議院議員・宇田清治郎の三歳の孫娘が誘拐される。犯人の要求は身代金ではなく「明日の午後五時までに記者会見を開き、政治家として犯してきたすべての罪を自白しろ」という前代未聞のもの。政界に激震が走る中、宇田家の家族たちの戦いが始まる。

◆ 謎

犯人はなぜ金ではなく「罪の自白」を求めるのか。清治郎のどの罪を知る人物なのか。総理絡みの利益誘導疑惑や親子二代の政治家一族の内情が絡み、この誘拐で最も利益を得るのは誰かという観点から、犯人像と真の狙いが二転三転していく。

2019日本

お孵り

滝川さり

特殊設定サスペンスホラーミステリ横溝正史ミステリ&ホラー大賞読者賞因習村

◆ 事件

婚約者・乙瑠の故郷である九州山中の村を結婚の挨拶に訪れた橘佑二は、夜の森で行われる異様な儀式を目撃する。村には生まれ変わりの伝承があり、人々は「タイサイサマ」と呼ばれる神を崇めていた。やがて乙瑠の出産を機に、佑二は再び村を訪れる。

◆ 謎

生まれた我が子は「神の器」として村に囚われてしまう。タイサイサマとは何なのか、生まれ変わりの伝承の正体とは何か。村人たちが頑なに隠す過去の凄惨な事件と儀式の意味を解き明かし、佑二は家族を無事に取り戻すことができるのか。

2019日本

ガーディアン

薬丸岳

社会派サスペンス学校自警団

◆ 事件

中学教師の秋葉が赴任した学校は、荒れた地域にありながら不思議なほど問題が少なかった。その裏では、匿名の生徒たちによる自警団「ガーディアン」が、問題行動を起こす生徒に「制裁」を加えて校内の治安を維持していた。相次ぐ長期欠席に秋葉は不審を抱く。

◆ 謎

ガーディアンの正体は誰なのか。制裁はどこまでエスカレートしているのか。生徒の身を案じる秋葉に対し、激務に疲弊した同僚たちはなぜ事なかれ主義を貫くのか。学校が抱える秘密に近づくほど、秋葉自身と生徒たちにも危険が迫っていく。

2019日本

カインは言わなかった

芦沢央

サスペンスバレエ群像劇

◆ 事件

カリスマ芸術監督「世界のホンダ」率いるダンスカンパニーの新作公演「カイン」の初日直前、主役に抜擢されたダンサー・藤谷誠が突然姿を消す。画家である弟の豪、代役に選ばれたルームメイトの和馬ら、関係者の視点が交錯しながら初日が迫っていく。

◆ 謎

誠はなぜ大役を目前に消えたのか。失踪は自らの意思か、それとも事件なのか。各章の語り手が抱える秘密が少しずつ明かされるにつれ、誰が被害者で誰が加害者なのかという構図そのものが揺らぎ、旧約聖書のカインとアベルを思わせる題名の意味が問われる。

2019日本

カエルの小指

道尾秀介

サスペンスユーモアコンゲーム『カラスの親指』続編

◆ 事件

詐欺師から足を洗い、実演販売士として働く武沢竹夫の前に、謎めいた中学生・キョウが現れる。詐欺被害で家族を壊されたというキョウのため、武沢はかつての仲間まひろ、やひろ、貫太郎らと再集結し、超人気テレビ番組を巻き込んだ大仕掛けのペテンを計画する。

◆ 謎

キョウの母を破滅させた詐欺師に、武沢たちはどう一泡吹かせるのか。素人の中学生を抱えたチームの大仕掛けは成功するのか。そもそもキョウは何者で、生まれたときから「存在しない」という父親の正体は誰なのか。仕掛けの裏に潜むもう一つの企みが読みどころとなる。

2019日本火村英生シリーズ(国名シリーズ)

カナダ金貨の謎

有栖川有栖

本格倒叙短編集

◆ 事件

国名シリーズ第十弾の短編集。表題作では民家で男性の絞殺体が発見され、被害者が肌身離さず身につけていたメイプルリーフ金貨のネックレスだけが持ち去られていた。臨床犯罪学者・火村英生と推理作家アリスのコンビが捜査に加わり、犯人と対峙する。

◆ 謎

表題作は国名シリーズ初の倒叙形式で、犯人の側の視点が最初から描かれる。焦点は、火村がどんな手掛かりからどう犯行を見抜くか。犯人はなぜ危険を冒してまで金貨を持ち去る必要があったのか、その必然性が論理の鍵となる。ほか「船長が死んだ夜」など全五編。

2019日本社労士のヒナコ

きみの正義は 社労士のヒナコ

水生大海

日常の謎社会派短編集お仕事ミステリ労働問題

◆ 事件

社労士二年目の朝倉雛子のもとに労働現場のトラブルが次々と持ち込まれる。無期雇用転換を前に従業員を辞めさせたい経営者、年齢を偽って働いていた未成年従業員の就業中のケガ、残業代を申請しないチェーン書店の店長など難件ばかりだ。

◆ 謎

雇い止め、労災隠し、不払い残業、セクハラ相談にバイトテロ。それぞれの職場で当事者たちは何を隠しているのか、そして誰の「正義」が正しいのか。労働法規の知識を武器に、雛子は問題の裏にある本当の事情を探っていく。

2019日本警視庁いきもの係

クジャクを愛した容疑者

大倉崇裕

警察小説ユーモア短編集動物ミステリ

◆ 事件

学同院大学で殺人事件が発生し、構内でクジャクを飼う愛好会の風変わりな大学生が容疑者となる。容疑者の無実を信じる警視庁総務部総務課動植物管理係、通称「いきもの係」の窓際警部補・須藤と動物オタクの巡査・薄圭子が動き出す。中編三本を収録。

◆ 謎

容疑者は本当にクジャクを愛しただけの無害な学生なのか。動物たちの生態や飼い主との関係に残された手がかりから、薄圭子の膨大な動物知識が事件の見え方を一変させていく。ピラニア、ハリネズミと、各編で異なる生き物が謎の鍵を握る。

2019日本

クジラアタマの王様

伊坂幸太郎

特殊設定サスペンスコミックパートパンデミック

◆ 事件

製菓会社の広報部員・岸は、商品への異物混入騒動の対応に追われるうち、都議会議員・池野内、人気ダンスグループの小沢ヒジリと知り合う。接点のないはずの3人だが、互いに不思議な既視感を覚え、奇妙な縁で結ばれていく。

◆ 謎

3人を結びつけているものの正体は何か。そして本文の合間に挟み込まれる、台詞が一切ない謎のコミックパートは何を描いているのか。異物混入騒動、新型インフルエンザの流行と、現実の危機が次々と3人に襲いかかる。

2019日本

サンズイ

笹本稜平

警察小説サスペンス汚職冤罪

◆ 事件

警視庁捜査二課の刑事・園崎省吾は、大物政治家のあっせん収賄、警察の符丁で言う「サンズイ」を追っていた。政治家秘書・大久保からの情報提供の約束をすっぽかされたまさにその時刻、園崎の妻と息子が何者かに轢き逃げされ、園崎自身に容疑の目が向く。

◆ 謎

轢き逃げは収賄捜査への報復なのか。大久保はどこまで関与しているのか。なぜ被害者であるはずの園崎が重要参考人として呼び出されるのか。警察内部にも敵がいると悟った園崎は、組織に頼れないまま家族を襲った陰謀の全体像を暴かねばならない。

2019日本

シーソーモンスター

伊坂幸太郎

サスペンス冒険・スパイユーモア螺旋プロジェクト中編集嫁姑

◆ 事件

バブルに沸く昭和後期。製薬会社勤務の北山は、顔を合わせれば衝突する妻・宮子と母・セツの熾烈な嫁姑問題に挟まれて悩んでいた。折しも北山は担当先の病院で行われている不正に気づいてしまい、身辺に不穏な影が忍び寄る。

◆ 謎

嫁と姑はなぜここまで激しく反目するのか。二人の対立の裏に隠されたものとは。そして病院の不正を知った北山に迫る危機の行方は。近未来を舞台にした対の中編「スピンモンスター」とともに、対立の螺旋を描き出す。

2019日本

ジャンヌ Jeanne, the Bystander

河合莞爾

特殊設定サスペンス社会派AIロボット近未来

◆ 事件

二〇六〇年代の日本。「ロボットは人間に危害を加えてはならない」という原則の下で作られた家事用ヒト型ロボット・ジャンヌが、主人を殺害し浴室でその死体を洗っているところを刑事・相崎按人に発見される。護送中、ジャンヌは謎の武装集団に襲撃される。

◆ 謎

人を殺せないはずのジャンヌは、なぜ原則を破って主人を殺したのか。製造元への護送を狙う武装集団の目的は何か。襲撃者を殺害してまで相崎を守るジャンヌの行動原理はどこにあるのか。ロボットの「心」と善悪の判断を巡る謎が物語を貫く。

2019日本

スイート・マイホーム

神津凛子

サスペンスイヤミスホラー映画化デビュー作

◆ 事件

長野でスポーツインストラクターとして働く賢二は、妻と幼い娘のため、冬でも家全体が暖かい「まほうの家」と呼ばれる新築住宅を購入する。だが入居後まもなく、家族の周辺で不可解な気配や異変が起こり始め、やがて人死にまでが相次いでいく。

◆ 謎

新居で起こる怪異は超自然的なものなのか、それとも人為なのか。なぜこの家を買った一家の周りでばかり人が死ぬのか。理想の住まいという密やかな空間に潜む「何か」の正体と、家族それぞれが隠している秘密が絡み合い、恐怖の源が問われていく。

2019日本横浜みなとみらい署暴対係

スクエア 横浜みなとみらい署暴対係

今野敏

警察小説社会派暴力団不動産詐欺

◆ 事件

横浜・山手の廃屋で二体の遺体が発見される。一体は三年前から消息を絶っていた中華街の資産家・劉、もう一体は詐欺師だった。暴力団関係者の関与が疑われ、県警本部長の要請で「ハマの用心棒」こと暴対係係長・諸橋が捜査に加わる。

◆ 謎

中華街で財を成した男はなぜ三年も姿を消し、詐欺師とともに殺されたのか。天敵のはずの監察官・笹本が同行する異例の捜査体制の裏には何があるのか。暴力団絡みに見える事件の背後に潜む構図を、諸橋と城島のコンビが追っていく。

2019日本

スワン

呉勝浩

社会派サスペンス無差別銃撃検証劇日本推理作家協会賞

◆ 事件

巨大ショッピングモール「スワン」で無差別銃撃事件が発生し、21人が死亡する。犯人と間近に接しながら生き延びた高校生いずみは、同級生・小梢の告発により「犯人に次に殺す相手を指名していた」と週刊誌で暴露され、被害者から一転、世間の非難の的となる。

◆ 謎

数ヶ月後、弁護士・徳下の招待で生存者ら五人が集められ「お茶会」が開かれる。目的は犠牲者の一人・吉村菊乃の死の検証。犯行開始時刻にスカイラウンジにいたはずの菊乃が、なぜ一階エレベーター乗り場で撃たれて死んでいたのか。そして五人は何を隠しているのか。

2019日本

そして誰も死ななかった

白井智之

特殊設定新本格孤島クリスティーオマージュ多重解決

◆ 事件

覆面作家・天城菖蒲の招待で、絶海の孤島に建つ天城館に五人の推理作家が集まる。招待主は現れず、食堂には先住民族の儀式に使われた不気味な泥人形が並ぶ。やがて五人全員が九年前に不可解な死を遂げた女性・晴夏と関わりを持つことが判明し、作家たちは次々と奇怪な死を遂げる。

◆ 謎

全員が死に「誰もいなくなった」とき、本当の事件が幕を開ける。なぜ死んだはずの者が動き出すのか。誰がいつ死に、誰が生きていたのか。死そのものが信用できない状況で、推理作家たちによる苛烈な推理合戦と多重解決が繰り広げられる。

2019日本

そのナイフでは殺せない

森川智喜

特殊設定倒叙サスペンス蘇生するナイフ警察対犯人

◆ 事件

自主制作映画を撮る大学生・七沢は、イタリアの蚤の市で買ったナイフに宿る霊ガボーニから「このナイフで殺した命は一六時三二分に生き返る」と告げられる。やがて彼の映画に「本当に動物を殺しているのでは」と通報が入り、小曾根警部が捜査に乗り出す。

◆ 謎

蘇るとはいえ生き物を殺し続ける七沢の行為を、法はどう裁けるのか。殺人罪も傷害の物証も成立しない相手を、犯罪を憎み規律を重んじる小曾根警部はどうやって追い詰めるのか。特殊なナイフを駆使して七沢が仕掛けるトリックの数々が謎となる。

2019日本WWシリーズ

それでもデミアンは一人なのか?

森博嗣

特殊設定本格SFミステリウォーカロン講談社タイガ

◆ 事件

楽器職人として隠遁生活を送るグアトのもとに、日本刀を背負った金髪碧眼の長身の男が現れる。デミアンと名乗る彼は軍事用に開発された特殊なウォーカロンで、計画頓挫後に廃棄を免れて逃走し、情報局に追われながらロボット「ロイディ」を探していた。

◆ 謎

デミアンはなぜロイディを探すのか。彼を巡って現れる人物たち、ヘルゲンやミュラとの関係は何なのか。人工細胞でできた人造人間ウォーカロンと人間の境界が揺らぐ世界で、「それでもデミアンは一人なのか」という問いの意味が浮かび上がる。

2019日本

デルタの悲劇

浦賀和宏

本格サスペンスどんでん返し文庫オリジナル

◆ 事件

人気のない池で10歳の少年の溺死体が発見された。事故として処理されたが、十年後、当時犯行を疑われた幼馴染み三人組の前に謎の男が現れ、お前たちの仕業だと自白を迫る。男の出現によって、三人のそれぞれの日常は静かに狂い始めていく。

◆ 謎

少年の死は本当に事故だったのか、それとも三人のうちの誰かが手を下したのか。自白を迫る男は何者で、その目的は何なのか。母親の手紙、作中作、ジャーナリストの解説という入れ子の構成そのものが、読者にさらなる謎を突き付けてくる。

2019日本

ノースライト

横山秀夫

社会派サスペンス建築失踪家族

◆ 事件

一級建築士・青瀬稔は、施主の吉野夫妻から「あなた自身が住みたい家を」と依頼され、信濃追分にY邸を建てる。だが引き渡しから数ヶ月後、訪れた家は無人のまま。一家が入居した形跡はなく、残されていたのはブルーノ・タウトゆかりとおぼしき一脚の木製椅子だけだった。

◆ 謎

吉野一家はなぜ完成したばかりの「理想の家」に住まないまま姿を消したのか。なぜタウトの椅子だけが残されたのか。一家の行方を追う青瀬は、依頼の経緯や自身の父の記憶と向き合いながら、施主と自分を繋ぐ見えない糸を辿っていく。

2019日本

ノワールをまとう女

神護かずみ

ハードボイルド社会派江戸川乱歩賞潜入工作炎上

◆ 事件

西澤奈美は、企業の炎上やスキャンダルを裏で鎮める工作員。医薬品メーカー美国堂が、買収した韓国企業社長の過去の反日発言の流出で攻撃され、奈美は偽名で市民団体「美国堂を糺す会」に潜入する。そこで同志として再会したのは、児童養護施設で共に育った恋人・雪江だった。

◆ 謎

糺す会のリーダー・エルチェが手にしたという美国堂への「起死回生の爆弾」とは何か。約束の日に現れず、連絡を絶った雪江はどこへ消えたのか。潜入工作の駆け引きの中、奈美は仕事と私情の狭間で、消えた恋人の足取りと企業の闇を同時に追うことになる。

2019日本嗤う淑女シリーズ

ふたたび嗤う淑女

中山七里

イヤミスサスペンス悪女コンゲーム

◆ 事件

稀代の悪女・蒲生美智留が世間を震撼させた事件から3年。美貌の投資顧問「野々宮恭子」と名乗る女が現れ、政治団体の事務局長を務める女性を巧みに誘導し、違法な資金運用へと引きずり込んでいく。再び破滅の連鎖が始まる。

◆ 謎

周到な話術で人を操り、破滅へと導いていく野々宮恭子とはいったい何者なのか。彼女の目的はどこにあるのか。そして消えたはずの稀代の悪女・蒲生美智留と、この謎の女はどこでどう繋がっているのか。悪意の正体が問われる。

2019日本

マーダーズ

長浦京

サスペンスハードボイルドクライムノベル連続失踪

◆ 事件

会社経営者の阿久津清春は、襲われていた女・夕希玲美を助けるが、彼女は清春が過去に人を殺めてきた事実を知っていた。沈黙と引き換えに玲美の姉の捜索を引き受けた清春は、同じく人を殺した過去を持つ刑事・則本敦子とともに、連続失踪の闇へ踏み込んでいく。

◆ 謎

玲美の姉はなぜ消えたのか。各地に散らばる未解決事件はどう繋がるのか。法で裁かれない殺人者たちは「正義」を名乗れるのか。殺した過去を持つ者同士の共闘と騙し合いの中で、失踪の背後に潜む何者かの影が浮かび上がってくる。

2019日本

マーダーハウス

五十嵐貴久

サスペンスイヤミスシェアハウスクローズドサークル

◆ 事件

大学合格を機に上京した藤崎理佐は、ネットで見つけた鎌倉の豪華なシェアハウスに格安家賃で入居する。美男美女の住人たちとの楽しい共同生活が始まるが、やがて住人が部活中の事故で死亡し、別の住人も蜂に刺されて死亡と、立て続けに死者が出る。

◆ 謎

相次ぐ死は本当にただの事故なのか。プール付きの洋館に家賃四万五千円という好条件すぎる物件には、なぜ若者ばかりが集められたのか。不安を抱いた理佐は高校時代の同級生・高瀬弘に相談し、高瀬はサニーハウス鎌倉の秘密を調べ始める。

2019日本

まほり

高田大介

サスペンス本格民俗学因習

◆ 事件

大学四年生の勝山裕は、上州の山村で「二重丸=蛇の目」の紋を記した紙札が至る所に貼られているという話を聞き、民俗学的な興味から幼馴染の香織とともに調査を始める。やがて地元の少年から、山中の堂に少女が監禁されているらしいという噂を耳にする。

◆ 謎

蛇の目の札は何を封じ、誰が何のために貼り続けているのか。監禁されている少女の噂は本当なのか。古文書や神社の由緒、語源の考証を膨大に積み重ねる調査の果てに、村に伝わる因習と「まほり」という言葉の意味が浮かび上がっていく。

2019日本

みどり町の怪人

彩坂美月

サスペンス連作短編都市伝説

◆ 事件

郊外の小さな町・みどり町では、一九六七年に未解決の母子殺人事件が起きて以来、「暗がりから現れて人を惨殺する怪人がいる」という都市伝説が囁かれてきた。九〇年代を舞台に、介護や失恋などそれぞれの事情を抱えた住民たちの身辺で不穏な出来事が続く。

◆ 謎

みどり町の怪人は本当に実在するのか。そもそも未解決の母子殺人事件の犯人は誰だったのか。語り手が一話ごとに変わる七つの物語の中で住民たちの不安と恐れは膨らみ、互いの出来事が少しずつ繋がりながら、噂の核心へと近づいていく。

2019日本

むかしむかしあるところに、死体がありました。

青柳碧人

本格特殊設定ユーモア短編集昔話

◆ 事件

誰もが知る日本昔ばなしの世界で殺人が起こる連作短編集。浦島太郎の龍宮城では伊勢海老のおいせが密室で殺され、花咲か爺さんの村では死者が謎の伝言を残し、一寸法師にはアリバイの謎が持ち上がるなど、「一寸法師の不在証明」「密室龍宮城」ほか全五編を収録する。

◆ 謎

打ち出の小槌や玉手箱、花を咲かせる灰といった昔話の「魔法」が実在する世界で、密室やアリバイ、死者の伝言はどう解かれるのか。各編とも昔話のお約束を逆手に取った謎が提示され、魔法のルールを前提とした論理的な解決が用意されている。

2019日本

ムゲンのi

知念実希人

特殊設定サスペンス医療ファンタジー本屋大賞ノミネート

◆ 事件

神経内科医・識名愛衣は、眠りから醒めない原因不明の病「特発性嗜眠症候群(イレス)」の患者を三人同時に受け持つ。祖母から受け継いだ沖縄のユタの力で患者の夢の世界に潜り、魂を呼び戻す「マブイグミ」を試みるうち、現実の世界では猟奇的な連続殺人が進行していく。

◆ 謎

なぜ複数のイレス患者が同時に現れたのか。患者たちのトラウマと連続殺人、そして23年前に愛衣の母の命を奪った通り魔「少年X」の事件はどう繋がるのか。うさぎ猫ククルと旅する夢の世界の冒険と現実の事件が交錯し、すべての糸が一点へ収束していく。

2019日本匠千暁シリーズ

悪魔を憐れむ

西澤保彦

本格サスペンス短編集推理合戦

◆ 事件

「その時間、先生が校舎五階から飛び降りないよう見張っていてほしい」と頼まれた匠千暁は、見張っていたにもかかわらず老教師の転落死を防げなかった。表題作のほか、十三年間も続く置時計が宙を飛ぶ怪現象を扱う「無間呪縛」など四編を収録。

◆ 謎

見張りの目の前で、老教師はなぜ死んだのか。誰も触れていないはずの置時計が、なぜ毎年決まって午前三時に飛んできてソファで眠る者を襲うのか。日常に紛れ込んだ不可解な現象や事件を、匠千暁たちが推論の積み重ねで解体していく。

2019日本育休刑事シリーズ

育休刑事

似鳥鶏

警察小説ユーモア育児連作

◆ 事件

県警の刑事・秋月春風は男性ながら育児休業を取得し、0歳の息子を抱えて日々奮闘する育休パパ。だが買い物先で質屋強盗殺人に遭遇するなど、なぜか次々と事件に巻き込まれ、赤ん坊を抱いたまま捜査の渦中へ放り込まれていく。

◆ 謎

乳児を連れた育休中の父親だからこそ気づける手がかりとは何か。各話の事件の裏には、乳幼児突然死症候群、育児放棄、親権争いといった育児を巡る社会の歪みが横たわる。そして仕事一筋に見える妻・沙樹には秘密の気配が漂う。

2019日本警視庁殺人分析班

雨色の仔羊

麻見和史

警察小説サスペンス警視庁捜査一課少年

◆ 事件

民家から拷問されたような血みどろの遺体が発見され、現場には血で「SOS」と書かれたタオルが残されていた。タオルを運んだのは九歳の少年・優太。警視庁殺人分析班の如月塔子は、頑なに口を閉ざしながらも自分にだけ懐く少年と向き合う。

◆ 謎

被害者はなぜ拷問されたのか。血のSOSは誰に宛てたものだったのか。そして少年・優太は何を見て、なぜ語ろうとしないのか。公安の動きからテロ組織の関与も疑われる中、塔子の視点と優太の視点が交互に描かれ、事件の核心へ近づいていく。

2019日本

怪物の木こり

倉井眉介

サスペンス特殊設定サイコパスこのミス大賞映画化

◆ 事件

サイコパスの弁護士・二宮彰は、ある夜「怪物のマスク」を被った男に斧で襲われる。同じ頃、世間では被害者の脳を持ち去る連続猟奇殺人「脳泥棒」事件が進行していた。警察に頼らず襲撃者を自力で探し始めた二宮は、26年前の児童連続誘拐事件の闇に行き当たる。

◆ 謎

なぜ二宮は狙われたのか。脳泥棒はなぜ被害者の脳を持ち去るのか。サイコパスである二宮自身の出自と、かつて誘拐された子供たち、そして「怪物の木こり」という残酷な絵本は何を意味するのか。怪物と怪物が互いを狩り合う追走劇が展開する。

2019日本ラストライン

割れた誇り

堂場瞬一

警察小説社会派冤罪無罪判決

◆ 事件

女子大生殺害の容疑で逮捕・起訴された青年・田岡勇太が、地裁で無罪判決を受けて、岩倉刑事の所属する南大田署管内の実家へ戻ってくる。だが世間の目は厳しく、やがて被害者の恋人だった光山が何者かに殺害される事件が発生する。

◆ 謎

田岡は本当に無実なのか、それとも法の網を逃れただけなのか。無罪となった男の周辺で、なぜ新たな殺人が起きたのか。世間の風当たりに晒される「無罪の男」と被害者遺族の間で、ベテラン刑事・岩倉剛は二つの事件の繋がりを追う。

2019日本看守シリーズ

看守の流儀

城山真一

社会派本格連作短編刑務所

◆ 事件

石川県の加賀刑務所を舞台にした連作ミステリ。仮釈放直前の模範囚の失踪をはじめ、塀の中と外で受刑者と刑務官を巡る事件が続発する。各話の背後には、謎めいた「指導官」と呼ばれる刑務官・火石司の影が見え隠れする。

◆ 謎

模範囚はなぜ仮釈放を目前にして姿を消したのか。各話の事件の裏で受刑者たちは何を抱えているのか。そして所内で一目置かれる謎めいた指導官・火石司とは何者なのか。最終話「お礼参り」で、全編を貫く大きな仕掛けが明らかになる。

2019日本

間宵の母

歌野晶午

イヤミスサスペンスホラー母娘

◆ 事件

小学三年生の詩穂と紗江子は親友同士。だが紗江子の母の再婚相手である優しい義父と、詩穂の母が同時に姿を消し、駆け落ちと噂される。その日を境に紗江子の母・己代子は常軌を逸した言動を見せ始め、二つの家庭は静かに崩壊へと向かっていく。

◆ 謎

二人は本当に駆け落ちしたのか。なぜ己代子は「狂って」しまったのか。章ごとに視点と時代が移り、大学生、社会人と成長する紗江子の周囲で起こる惨劇の中心に間宵母娘がいるのではないかという疑いが膨らみ、最終章で意外な人物が真相を語り始める。

2019日本加賀恭一郎シリーズ

希望の糸

東野圭吾

警察小説社会派家族不妊治療

◆ 事件

目黒区自由が丘の喫茶店で、店主の花塚弥生が殺害される。誰からも慕われた「いい人」の弥生に、恨まれる理由は見当たらない。捜査線上には元夫の綿貫と常連客の汐見が浮かび、加賀恭一郎の従弟である松宮脩平刑事が、動機の見えない事件を追っていく。

◆ 謎

動機なき殺人に見える事件の裏で、なぜ弥生は殺されねばならなかったのか。並行して描かれる、震災で子を失い不妊治療の末に娘を授かった汐見家の秘密とは何か。家族と血の繋がりを巡るいくつもの糸が、事件と少しずつ絡み合っていく。

2019日本機捜235

機捜235

今野敏

警察小説短編集バディもの

◆ 事件

警視庁第二機動捜査隊の高丸は、覆面車「機捜235」で街を流して初動捜査にあたる日々を送る。新たな相棒は定年間近の白髪のベテラン・縞長だった。凸凹コンビはひったくりから殺人まで様々な事件の現場に遭遇していく。九編の連作短編集。

◆ 謎

頼りなく見えた老刑事・縞長は、かつて見当たり捜査班に所属し、数多の指名手配犯の顔を記憶しているという経歴の持ち主だった。彼の「眼」は各話の事件でどのように活きるのか。年の離れた二人は本当の相棒になれるのか。

2019日本

帰去来

大沢在昌

特殊設定警察小説ハードボイルドパラレルワールド

◆ 事件

警視庁捜査一課の女性刑事・志麻由子は、連続殺人犯ナイトハンターの捜査中に何者かに襲われ意識を失う。目覚めるとそこは「光和二十六年・アジア連邦日本共和国」の東京。彼女はこの世界では、犯罪組織の壊滅を狙う孤立無援のエリート警視だった。

◆ 謎

ここは死後の世界か、それとも並行世界なのか。なぜ由子はもう一人の自分と入れ替わったのか。元の世界へ戻る方法はあるのか。二つの世界にまたがる連続殺人と、十年前に殺された父の事件が交錯し、世界移動の仕組みそのものが謎の核心となっていく。

2019日本神倉駅前交番 狩野雷太シリーズ

偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理

降田天

倒叙警察小説短編集交番

◆ 事件

神倉駅前交番には、元捜査一課で「落としの狩野」と異名を取った巡査・狩野雷太がいる。表題作では、老人を狙う「老老詐欺」グループを仕切る光代が、仲間に金を持ち逃げされたうえ一千万円を要求する脅迫状を受け取り、じわじわと追い詰められていく。

◆ 謎

各話は犯人の側の視点から語られる倒叙形式で進むが、読者にも事件の全容は伏せられたままだ。へらへらと軽薄に振る舞う狩野は、どこまで真相に気づいているのか。犯人たちは彼の世間話めいた会話をかわしきれるのか。五つの物語に張り巡らされた騙しの在処が謎となる。

2019日本

欺す衆生

月村了衛

社会派サスペンスクライムノベル詐欺山田風太郎賞

◆ 事件

戦後最大の詐欺事件を起こした横田商事の残党・隠岐隆は、会長刺殺の現場を目撃した過去を抱え、堅気として暮らしていた。だがかつての同僚・因幡に誘われ、原野商法の二次被害ビジネスから再び詐欺の世界へ舞い戻り、やがて地面師という巨大な欺しの構図へ踏み込んでいく。

◆ 謎

謎解きよりも「なぜ人は人を欺すのか」という問いが物語の軸となる。家族を守るためと言い聞かせる男の自己欺瞞、詐欺の精緻な手口と欺す側の論理と快楽が描かれ、隠岐がどこまで堕ち、欺しの連鎖がどこで終わるのかが緊張の核になっていく。

2019日本

教室が、ひとりになるまで

浅倉秋成

特殊設定本格青春学園

◆ 事件

私立北楓高校で生徒三人が立て続けに死亡する。いずれも「私は教室で大きな声を出しすぎました。調律される必要があります」という同じ文面の遺書を残した自殺として処理されるが、同級生の白瀬美月は「彼らは殺された」と主張し、垣内友弘は真相究明に乗り出す。

◆ 謎

この学校には代々受け継がれる四つの特殊能力があり、所持者は《受取人》と呼ばれる。遺書を残した死は本当に自殺なのか、能力でどうやって自殺に見せかけたのか。能力という特殊ルールを前提に、犯人の正体と殺害方法、連続死の動機が論理的に問われる。

2019日本

極上の罠をあなたに

深木章子

サスペンス連作短編コンゲーム

◆ 事件

地方都市・槻津市では、暴力ではなく悪知恵を武器にした犯罪が相次いでいた。議員の息子が誘拐され、身代金を工面した秘書は現金を奪われたうえ、その金が偽札だったことまで判明する。捜査一課の刑事・都築は、事件を追ううちに「便利屋」と名乗る男に行き着く。

◆ 謎

誘拐と偽札、強奪が絡み合う八方ふさがりの事件の構図はどうなっているのか。街にはびこる騙し合いの数々に、正体不明の便利屋はどう関わっているのか。騙す者と騙される者の関係が二転三転する中、悪事の連鎖を操る仕掛け人の存在が謎となる。

2019日本

君待秋ラは透きとおる

詠坂雄二

特殊設定青春超能力透明人間

◆ 事件

十九歳の女子大生・君待秋ラは、自他を透明化する特殊能力「匿技」の持ち主。ある匿技士の死をきっかけに、体内から鉄筋を生成する青年・麻楠均に自宅マンションを襲撃され、匿技士たちを管理する組織を巡る終わりなき戦いに巻き込まれていく。

◆ 謎

匿技とはそもそも何なのか。透明化した人間の目はなぜ見えるのか。匿技士の死の背後には何があり、秋ラを襲う者たちの目的は何か。組織に背を向けて生きようとしてきた秋ラが、なぜ自ら戦いに身を投じることになるのかが物語を牽引する。

2019日本

月の落とし子

穂波了

サスペンス特殊設定SFパンデミックアガサ・クリスティー賞

◆ 事件

月面で土壌サンプルを採取していた宇宙飛行士が突然吐血して死亡する。月往還船ゲイトウェイの船内では同様の症状による犠牲者が相次ぎ、未知の感染症の疑いが濃厚になる。ミッションは中止され、ウイルスを抱えたままの帰還船が地球を目指すことになる。

◆ 謎

生命は存在しないはずの月で、飛行士たちを蝕む病原体はどこから来たのか。感染を地球に持ち込まずに乗員を救う道はあるのか。月で何が起きたのかという科学的な謎と、帰還の可否を巡る決断のサスペンスが同時に進行していく。

2019日本

月輪先生の犯罪捜査学教室

岡田秀文

本格歴史・時代短編集明治

◆ 事件

明治の東京帝国大学で、探偵・月輪龍太郎が犯罪捜査学講座を受け持つことになる。教科書は使わず、実際に起きている未解決事件の現場に学生たちと臨むという型破りな授業で、失踪、誘拐、幽霊騒動、密室殺人といった奇怪な事件に教室の面々が挑む全四編。

◆ 謎

文明開化さめやらぬ明治の世で起こる事件は、人さらいや幽霊話など時代の空気をまとった不可解なものばかり。三人の受講生はそれぞれの推理を披露するが、果たして誰の筋読みが正しいのか。月輪が最後に示す真相が各話の眼目となる。

2019日本佐方貞人シリーズ

検事の信義

柚月裕子

法廷社会派短編集検察

◆ 事件

罪をまっすぐに裁かせることを信条とする検事・佐方貞人の活躍を描く連作短編集第四弾。表題作では、認知症の母を殺害したとして逮捕された息子の事件を担当する。介護疲れによる犯行と自供する被告だが、遺体発見から通報までの行動に不審な空白があった。

◆ 謎

介護殺人としては筋が通るのに、なぜ被告の行動には説明のつかない「空白の二時間」があるのか。ほかにも、高級時計を盗んだとされながら一切弁解せず裁きだけを望む被告など、各話で被告人の不可解な態度の理由が謎となり、佐方は調書の外の事実を掘り起こす。

2019日本

赤松利市

ハードボイルドサスペンスクライムノベル

◆ 事件

大阪でニューハーフの店を営む六十三歳の桜は、娘のように可愛がる若い従業員・沙希と慎ましく暮らしていた。そこへ桜の昔の男・安藤が現れ、桜は老後の蓄えである一千万円を用立てることになる。直後、その金とともに沙希が忽然と姿を消す。

◆ 謎

沙希はなぜ金を持って消えたのか。自らの意思による逃避行か、それとも安藤や裏社会が絡む犯罪なのか。沙希が残すSNSの投稿を手掛かりに、桜と安藤は大阪から西へ、彼女の足取りを追う旅に出る。「犬」という題名が誰を指すのかも問いとして漂う。

2019日本

虎を追う

櫛木理宇

社会派サスペンス冤罪未解決事件SNS

◆ 事件

昭和末期に起きた連続女児殺害事件から30年。死刑判決を受けた2人のうち1人は獄中で病死した。元刑事の老人は孫とともに事件を再調査し、冤罪の可能性をSNSで発信し始める。すると「虎」と名乗る人物から接触がある。

◆ 謎

「虎」が送りつけてきた包みには、真犯人しか知り得ない情報が含まれていた。30年前の捜査で何が見過ごされたのか。死刑囚とされた2人は本当に犯人だったのか。そして今になって名乗りを上げた「虎」の正体と目的は何か。

2019日本館四重奏シリーズ

紅蓮館の殺人

阿津川辰海

新本格青春館ものクローズドサークル名探偵論

◆ 事件

高校生探偵・葛城輝義と友人の田所信哉は、合宿を抜け出し山中に隠棲する作家を訪ねる途中、落雷による山火事に遭遇し、推理作家・財田雄山の館「落日館」に避難する。翌朝、前夜に言葉を交わした館の娘つばさが、落ちた吊り天井に潰された死体で発見される。

◆ 謎

迫る山火事で館は外界から隔絶され、容疑者は避難者と住人に限られる。つばさの死は事故か殺人か、吊り天井はなぜ落ちたのか。さらに十年前に死んだはずの連続殺人鬼「爪」が館内に潜むという疑惑が浮上し、元名探偵・飛鳥井光流の過去も事件に絡み始める。

2019日本

絞首商會

夕木春央

本格歴史・時代大正メフィスト賞秘密結社

◆ 事件

大正九年の東京。血液学の大家・村山鼓堂博士が自宅で刺殺される。博士には秘密結社「絞首商會」との関わりが囁かれていた。死体は移動され、鞄の内側はべっとりと血に濡れている。遺族が事件解決を依頼したのは、かつて村山邸に忍び込んだことのある元泥棒の蓮野だった。

◆ 謎

捜査の中で浮かんだ四人の容疑者には奇妙な共通点があった——誰もが「事件解決に熱心すぎる」のだ。彼らは何を隠し、何を求めているのか。死体が動かされた理由、血濡れの鞄の意味、そして絞首商會とは何なのか。厭世家の元泥棒が事件の核心へ迫っていく。

2019日本高校事変シリーズ

高校事変

松岡圭祐

サスペンス冒険・スパイ学園占拠アクションシリーズ第1作

◆ 事件

内閣総理大臣が視察に訪れた公立の武蔵小杉高校を、突如武装勢力が襲撃し占拠する。教師や生徒が殺害され、残る生徒たちは人質に。その中の一人、優莉結衣は平成最大のテロ事件を起こして死刑となった男の次女だった。

◆ 謎

武装勢力はなぜ要求を一切告げないのか。彼らの正体と真の目的は何か。公安にマークされながら児童養護施設で育った結衣は、幼い頃に父から叩き込まれた技能を解き放ち、たった一人で占拠者たちへの反撃を開始する。

2019日本百鬼夜行シリーズ(今昔百鬼拾遺)

今昔百鬼拾遺 河童

京極夏彦

本格歴史・時代妖怪昭和シリーズ外伝

◆ 事件

昭和29年、千葉の夷隅川水系で奇妙な水死体が相次いで発見される。同じ頃、薔薇十字探偵社には偽宝石を巡る依頼が持ち込まれていた。雑誌記者・中禅寺敦子は呉美由紀や妖怪研究家・多々良勝五郎とともに調査に乗り出す。

◆ 謎

人々はなぜ同じ水域で次々と溺れ死ぬのか。「河童の仕業」と囁かれる連続水死と、戦後の混乱期に計画されたという宝石盗難の噂、そして偽宝石の依頼はどこで繋がるのか。水辺の伝承と人間の欲望が絡み合う謎が立ち上がる。

2019日本百鬼夜行シリーズ(今昔百鬼拾遺)

今昔百鬼拾遺 鬼

京極夏彦

本格歴史・時代妖怪昭和シリーズ外伝

◆ 事件

昭和29年3月、駒沢野球場周辺で日本刀による連続通り魔「昭和の辻斬り」が発生する。7人目の被害者となった女学生・片倉ハル子は生前、後輩の呉美由紀に「片倉家の女は先祖代々斬り殺される定め」だと怯えを語っていた。

◆ 謎

辻斬りの正体は何者か。「女が斬り殺される家系」という因縁は実在するのか。雑誌記者・中禅寺敦子と女学生・呉美由紀が、被害者の遺した言葉を手がかりに、家に纏わる虚妄と人の心に巣食う「鬼」の正体へ迫っていく。

2019日本百鬼夜行シリーズ(今昔百鬼拾遺)

今昔百鬼拾遺 天狗

京極夏彦

本格歴史・時代妖怪昭和シリーズ外伝三部作完結編

◆ 事件

昭和29年8月、女学生・是枝美智栄が天狗伝説の残る高尾山中で消息を絶つ。約2か月後、遠く離れた群馬県の迦葉山で女性の遺体が発見されるが、その遺体はなぜか美智栄の衣服を身にまとっていた。失踪と死の連鎖が浮かび上がる。

◆ 謎

高尾で消えた娘の衣服を、なぜ群馬の山中で死んだ別の女がまとっていたのか。調べを進める中禅寺敦子と呉美由紀の前で、複数の女性の失踪が次々と明らかになる。旧弊な家に苦しむ女たちの悲恋が事件に重なり合っていく。

2019日本

最後のページをめくるまで

水生大海

イヤミスサスペンス短編集どんでん返し

◆ 事件

「使い勝手のいい女」と陰で呼ばれる女性のもとへ普通ではない来客が訪れる一編をはじめ、「骨になったら」「わずかばかりの犠牲」「監督不行き届き」「復讐は神に任せよ」を収録。日常に潜む悪意と犯罪を描くダークな五編の短編集。

◆ 謎

各編とも、語られる状況をそのまま信じて読み進めることができるが、最後の一ページに至るまで本当の結末が見えてこない。読者が信じていた構図のいったいどこが間違っているのか。五つの物語すべてで、真相は最後のページだけが知っている。

2019日本

罪と祈り

貫井徳郎

社会派サスペンス親子二代誘拐下町

◆ 事件

隅田川の畔で、地元の人望を集めた元警察官・辰司の遺体が見つかる。当初は事故と思われたが側頭部に殴打痕が見つかり、殺人の疑いが浮上する。息子の亮輔と、その幼馴染で刑事の賢剛は、正義感の強かった父がなぜ死んだのかをそれぞれの立場から追う。

◆ 謎

真面目を絵に描いたような元警官は、誰に、なぜ殺されたのか。物語は平成末の捜査と、昭和末のバブル期に辰司と友人・智士たちが生きた下町の日々を交互に描き、親世代が長年隠し続けてきた「何か」が事件の根にあることが次第に示されていく。

2019日本

罪の轍

奥田英朗

社会派警察小説昭和誘拐実在事件モデル

◆ 事件

昭和38年、東京オリンピックを翌年に控えた東京で男児誘拐事件が発生する。北海道礼文島から逃げるように上京した青年・宇野寛治は窃盗で食いつなぎ、警視庁捜査一課の落合昌夫ら刑事たちは、下町で噂される北国訛りの若い男の影を追い始める。

◆ 謎

誘拐犯は何者で、さらわれた吉夫ちゃんはどこへ消えたのか。身代金受け渡しの攻防、捜査の失策、報道規制下の世論が交錯する。子供たちに「莫迦」と呼ばれてきた青年の半生と事件はどこで交わるのか。刑事たちは執念の聞き込みで全貌に迫る。

2019日本

坂の上の赤い屋根

真梨幸子

イヤミスサスペンス事件ルポ信頼できない語り手

◆ 事件

十八年前、人格者と評判だった医師夫婦が実の娘とその恋人によって惨殺され、コンクリート詰めにされた「文京区両親強盗殺人事件」。新人作家の沙奈は新連載のため、この残虐事件のルポルタージュに取り組み、当時の関係者への取材を重ねていく。

◆ 謎

模範的な家庭で、なぜ娘は両親を手にかけたのか。取材で語られる証言は人物ごとに食い違い、特に大渕と青田彩也子の言い分はまるで噛み合わない。誰が本当のことを語っているのか。取材が進むほど真実は遠のき、新たな惨劇さえ起こり始める。

2019日本殺し屋富澤允シリーズ

殺し屋、続けてます。

石持浅海

日常の謎サスペンス短編集殺し屋

◆ 事件

経営コンサルタントを表の顔とする富澤允は、一件六百五十万円で殺しを請け負う凄腕の殺し屋。淡々と依頼をこなす彼の前に、週四日、三時間も交番の前に立ち続ける大学生など、奇妙な行動を取る標的たちが現れる。さらに同業の商売敵まで出現する。

◆ 謎

標的はなぜ特定の女性と会うときだけ結婚指輪をはめるのか。なぜ決まった道筋でだけ靴を履き替え、手袋をするのか。殺しを完遂する前に富澤が解かねばならない標的たちの不可解な行動の理由と、姿の見えない商売敵の正体が各話の謎となる。

2019日本

殺人鬼がもう一人

若竹七海

警察小説イヤミスユーモア短編集連作悪徳警官

◆ 事件

都心から一時間半のさびれたベッドタウン・辛夷ヶ丘。二十年前に「ハッピーデー・キラー」と呼ばれた連続殺人事件があったこの町で、放火殺人や空き巣、名家の老女を狙うひったくりなど不穏な事件が続発する。生活安全課の捜査員・砂井三琴らが事件に関わる全六編の連作集。

◆ 謎

各話の事件の裏には、被害届をもみ消し証拠品をくすねる警察関係者たちの腐敗が絡み、真相はいつも一筋縄ではいかない。そして最終話では、フリーの殺し屋マリの標的が何者かに先回りして殺される事態が発生する。この町に潜む「もう一人の殺人鬼」とは誰なのか。

2019日本

殺人犯対殺人鬼

早坂吝

本格特殊設定孤島クローズドサークル

◆ 事件

嵐の夜、職員が本土から戻れなくなった孤島の児童養護施設で、子どもたちだけの一夜が訪れる。かねて殺人を計画していた少年が決行に踏み切ろうとした矢先、標的の少年はすでに何者かに殺されており、遺体の片目には金柑が押し込まれていた。

◆ 謎

施設には自分以外にもう一人、人を殺す「殺人鬼」が潜んでいるのか。殺人を計画していた語り手は、自らの罪を隠しながら、先回りして連続殺人の犯人を突き止めようとする。奇怪な死体装飾の意味と、殺人鬼の正体・目的が謎の中心となる。

2019日本三毛猫ホームズ

三毛猫ホームズの危険な火遊び

赤川次郎

ユーモアサスペンス誘拐政界スキャンダル

◆ 事件

殺人容疑で東良二が逮捕された。兄を信じる妹・美咲は弁護士費用を捻出しようと、良二の弟分・中田克夫とともに狂言誘拐を計画する。ところが克夫は手違いで別人を連れ去ってしまう。連れ去られたのは、国会議員の愛人・氷室エミだった。

◆ 謎

誤って誘拐された女性が政界の秘密を握る愛人だったことから、狂言のはずの誘拐は思わぬ方向へ転がり出す。良二の事件の真相は何なのか、政治家側は何を隠そうとしているのか。片山兄妹と三毛猫ホームズが、絡み合う事件の糸を解いていく。

2019日本

死にゆく者の祈り

中山七里

社会派サスペンス死刑冤罪タイムリミット

◆ 事件

刑務所で死刑囚の心に寄り添う教誨師・顕真は、新たに担当する死刑囚が、大学時代に自分の命を救ってくれた旧友・関根であることに気づく。関根は二人を殺害した強盗殺人犯として死刑判決を受け、執行を待つ身だった。

◆ 謎

恩人である関根が、本当に人を殺したのか。罪を認めながらも何かを隠している様子の旧友を前に、顕真は事件を調べ直し始める。死刑執行の日は刻一刻と迫り、限られた時間の中で事件の不可解な点が次々と浮かび上がる。

2019日本竜泉家の一族シリーズ

時空旅行者の砂時計

方丈貴恵

特殊設定本格タイムトラベル館もの鮎川哲也賞

◆ 事件

2018年、加茂冬馬は瀕死の妻を救うため、「マイスター・ホラ」と名乗る謎の声に導かれ1960年へタイムトラベルする。妻の祖先・竜泉家を襲い一族の大半が死んだ「死野の惨劇」。土砂崩れがすべてを呑み込むまでの四日間に惨劇を阻止しなければ、妻の命も未来も失われる。

◆ 謎

竜泉家の別荘では、絵画『キマイラ』に見立てたかのような不可能殺人が連続する。タイムトラベルに厳密なルールが課された世界で、犯人は誰か、不可能状況はいかに作られたのか。読者への挑戦状を挟み、SF設定を組み込んだ論理で解明される。

2019日本

灼熱

秋吉理香子

イヤミスサスペンス復讐なりすまし

◆ 事件

幼くして両親を亡くした咲花子は、同じ境遇の忠寛と結婚するが、夫は窓から転落死してしまう。第一発見者の久保河内英雄は、忠寛が投資詐欺を働いていたことから殺人を疑われるが、自身も詐欺の被害者だったと判明して罪に問われなかった。

◆ 謎

夫の死は事故なのか、それとも殺人なのか。英雄は本当に潔白なのか。絶望の果てに復讐を決意した咲花子は、正体を隠して英雄に近づいていく。復讐は果たされるのか、そして憎むべき男と暮らす彼女自身の心は、どこへ向かっていくのか。

2019日本

初恋さがし

真梨幸子

イヤミス短編集連作探偵事務所

◆ 事件

所長も調査員も全員女性のミツコ調査事務所は「初恋の人、探します」という企画を掲げている。甘い思い出を求めて訪れる主婦や教師ら依頼人たち。だが調査が進むにつれ、依頼人や調査対象の周辺で不穏な出来事が起こり始める連作短編集。

◆ 謎

初恋の人はいまどこで何をしているのか。微笑ましいはずの依頼が、なぜか次々と秘密と殺意の絡む事態を掘り起こしていく。依頼人たちが本当に求めているものは何なのか。独立した各話が、どこかで繋がっているらしいことも次第に見えてくる。

2019日本

少女は鳥籠で眠らない

織守きょうや

法廷連作短編弁護士改題文庫化

◆ 事件

十五歳の少女にわいせつな行為をさせたとして、二十一歳の元家庭教師が逮捕される。新米弁護士の木村が接見や調査を進めるうち、被害者であるはずの高校生・黒野葉月が予想外の行動を取り始める。先輩弁護士・高塚とともに難事件に挑む全四話の連作集。

◆ 謎

葉月はなぜ被害者らしからぬ行動を取るのか。事件の当事者たちはいったい何を隠しているのか。各話の依頼人たちの不可解な言動の裏にある狙いを、木村たちは法律の知識を駆使して読み解いていく。法の隙間と人間の本音のずれが謎解きの鍵になる。

2019日本

真実の航跡

伊東潤

法廷歴史・時代社会派戦犯裁判海軍実話モデル

◆ 事件

昭和19年、インド洋で日本海軍の重巡洋艦「久慈」が英国商船を撃沈し、救助された捕虜が殺害される。敗戦後、艦長の乾と第十六戦隊司令官の五十嵐が戦犯として起訴され、香港でBC級戦犯裁判が開かれることになる。

◆ 謎

弁護人として香港に赴いた若手弁護士・鮫島は、裁判資料を読み込むうちに捕虜殺害を命じたのは誰なのかという責任の所在の曖昧さと、大日本帝国海軍という組織が抱える闇に気づいていく。勝者の裁きの中で正義は守られるのか。

2019日本WWシリーズ

神はいつ問われるのか?

森博嗣

特殊設定SFミステリ仮想現実講談社タイガ

◆ 事件

仮想世界「アリス・ワールド」が突然のシステムダウンを起こし、強制ログアウトされた依存度の高い利用者たちが自殺を図るなど社会問題に発展する。仮想空間を司る人工知能との対話者に選ばれたグアトは、パートナーのロジとともに仮想世界へ赴く。

◆ 謎

なぜアリス・ワールドはクラッシュしたのか。仮想世界でグアトたちを待っていた、熊のぬいぐるみを抱く少女アリスとは何者なのか。潜行するうちにリアルとヴァーチャルの境界は曖昧になり、いま自分がどちら側にいるのかさえ揺らいでいく。

2019日本刑事・片倉康孝シリーズ

赤猫 刑事・片倉康孝 只見線殺人事件

柴田哲孝

警察小説放火ローカル線

◆ 事件

二十年前、東京・練馬で起きた放火殺人事件の現場から、鮎子という謎の女が姿を消した。定年を目前にした石神井署の刑事・片倉康孝は、迷宮入りした事件に再び向き合い、女の足取りを辿って秘境のローカル線・只見線に乗り込み、奥会津から魚沼へと捜査の旅を続ける。

◆ 謎

旅先の魚沼で片倉は、四十年前にも「鮎子」という女が火事で死んでいた事実を突き止める。時を隔てて重なる「火事」と「鮎子」という名。二つの事件はいったい何で繋がっているのか。放火を意味する隠語「赤猫」が示す通り、火を巡る因縁の正体が謎の核心となる。

2019日本

千年図書館

北山猛邦

本格特殊設定短編集寓話SFミステリ

◆ 事件

おとぎ話のような寓話的世界を舞台にした5つの短編を収録。表題作では、外界から隔てられた図書館で「本」を守り続ける司書の少女の姿が描かれる。図書館は千年にわたり、その役目を絶やさず受け継いできたという。

◆ 謎

各編の物語の底には、読み進めるほどに膨らむ小さな違和感が沈んでいる。表題作では、少女が仕える図書館とはそもそも何なのか、千年も守られてきた「本」とは何なのかという根源的な謎が、静かな日常の描写の裏に潜む。

2019日本

早朝始発の殺風景

青崎有吾

青春日常の謎短編集ワンシチュエーション

◆ 事件

平日の早朝、始発電車に乗り込んだ高校生の加藤木は、車内で同級生の女子「殺風景」と二人きりで乗り合わせてしまう。気まずい沈黙の中、会話の端々から互いの外出の目的を探り合うことになる。ほか観覧車やファミレスなど、一場面だけで進む五編を収めた連作短編集。

◆ 謎

なぜ殺風景はこんな時間の電車に乗っているのか。部活の朝練と答える加藤木に対し、彼女は行き先を頑なに明かさない。各編とも日常の中の小さな違和感が謎として提示され、場面転換なしのリアルタイム進行で、会話だけを手掛かりに真相へ近づいていく。

2019日本

卒業タイムリミット

辻堂ゆめ

青春サスペンスタイムリミット高校生

◆ 事件

高校で人気の女性教師が誘拐され、「72時間後に始末する」とネット動画で予告される。3年生の黒川のもとには「誘拐の謎を解け」という挑戦状が届き、体育会系男子、学年一の美女、幼馴染みの優等生と4人で捜索を始める。

◆ 謎

犯人はなぜ警察ではなく生徒たちに挑戦状を送ったのか。なぜ黒川たち4人が選ばれたのか。そして教師はどこに監禁されているのか。卒業を目前に控えた高校生たちが、刻一刻と迫るタイムリミットへ向かって手がかりを繋いでいく。

2019日本

地面師たち

新庄耕

社会派サスペンスクライムノベル不動産詐欺映像化

◆ 事件

妻子を失った辻本拓海は、大物地面師ハリソン山中の詐欺グループに加わり、土地所有者へのなりすましで大金を騙し取る犯行を重ねていた。次の標的は泉岳寺駅至近、市場価格百億円という前代未聞の土地。一方、定年間近の刑事・辰がハリソンを追う。

◆ 謎

大手デベロッパー相手の百億円詐欺は成功するのか。なりすまし役の調達や本人確認の突破といった緻密な騙しの攻防に加え、ハリソンという男の底知れぬ正体、そして執念で迫る老刑事・辰の捜査がどこまで届くのかが焦点となっていく。

2019日本中野のお父さんシリーズ

中野のお父さんは謎を解くか

北村薫

日常の謎短編集安楽椅子探偵出版業界文学史

◆ 事件

出版社勤務の編集者・田川美希は、仕事の中で本と文学にまつわる謎に次々と出くわす。松本清張が「封印」した作品の真実、太宰治作品中の意味不明な言葉、泉鏡花はなぜ徳田秋声を殴ったのか――謎は実家の中野へ持ち込まれる。

◆ 謎

高校国語教師の父は、書斎にいながらにして文壇や出版界に秘められた謎を解く「本の名探偵」。犯罪も死体も登場しない、文献と教養と人情の機微だけを手がかりにした「日常の謎」は、どこまで鮮やかに解けるのか。シリーズ第2弾。

2019日本

潮首岬に郭公の鳴く

平石貴樹

本格函館見立て殺人旧家獄門島オマージュ

◆ 事件

函館の旧家・岩倉家の美人三姉妹の三女・咲良が行方不明となり、潮首岬の海岸で遺留品とともに血の付いた鷹のブロンズ像が見つかる。やがて「芭蕉の名を汚す強欲な者どもよ、滅べ」という脅迫状が届き、家宝の短冊に記された芭蕉の句に見立てたかのような連続殺人が一族を襲う。

◆ 謎

犯人はなぜ芭蕉の句に見立ててまで岩倉家の人々を殺すのか。刑事たちの地道な捜査では、錯綜する一族の人間関係と愛憎が浮かび上がるばかりで真相に届かない。タイトルに込められた「郭公」の意味と、見立て殺人の裏に潜む凄絶な動機とは何か。

2019日本

抵抗都市

佐々木譲

警察小説歴史・時代改変歴史

◆ 事件

日露戦争に敗れ、ロシアの事実上の属国となった大正五年の日本。東京・日本橋川の橋の袂で身元不明の男の刺殺体が見つかる。警視庁の新堂と老練な巡査部長・多和田が捜査を始めるが、高等警察とロシア統監府保安課が露骨に介入してくる。

◆ 謎

被害者は何者で、なぜ殺されたのか。なぜ一介の殺人事件に、反ロシア活動を取り締まる二つの治安機関が神経を尖らせるのか。改変された歴史の東京を舞台に、刑事の意地と国家の思惑が衝突し、一人の死の背後にある大きな構図が問われていく。

2019日本

展望塔のラプンツェル

宇佐美まこと

社会派サスペンス児童虐待貧困群像劇

◆ 事件

寂れた湾岸の町。児童相談所職員の松本は、虐待通報のあった家庭を訪ね歩く日々を送る。一方、親に顧みられない子どもたち――ナギサ、カイ、ハレは身を寄せ合って生き、展望塔を見上げていつかの幸せを夢見ていた。

◆ 謎

児童相談所の現場、不妊治療に取り組む夫婦、ネグレクトされた子どもたち。一見ばらばらに進む群像の糸は、どこでどう繋がっているのか。貧困と虐待の連鎖の果てに、それぞれの物語が思いも寄らない一点へ収束していく。

2019日本

桃源

黒川博行

警察小説ハードボイルド大阪詐欺

◆ 事件

沖縄の相互扶助の金融慣行「模合」で仲間から集めた六百万円を持ち逃げした男・比嘉の行方を、大阪府警泉尾署の刑事・新垣と上坂のコンビが追う。沖縄出身の二枚目と痛風持ちで饒舌な食いしん坊という凸凹コンビの捜査は、大阪と沖縄を往復していく。

◆ 謎

比嘉はどこへ消え、金はどこへ流れたのか。単純な横領事件のはずが、足取りを辿るうちに胡散臭い人物や組織が次々に現れる。沖縄近海に沈む中国船の財宝という景気のいい話の真偽、そして比嘉の身に何が起きたのかが捜査の焦点となっていく。

2019日本

廃墟の白墨

遠田潤子

サスペンス社会派過去の秘密語りの構成

◆ 事件

パン職人の青年・ミモザの父・閑のもとへ、チョークで描かれた薔薇の絵の写真と「四月二十日。零時。王国にて。」と記された封筒が届く。病の父に代わって廃墟と化した明石ビルへ向かったミモザを、3人の男たちが待っていた。

◆ 謎

男たちが三度に分けて語り始めたのは、いつも白いチョークで薔薇を描いていた哀しい少女「白墨」の凄まじい物語。白墨とは誰なのか、彼女の身に何が起きたのか。そして招かれたミモザと白墨はどう繋がっているのか。

2019日本

背中の蜘蛛

誉田哲也

警察小説社会派監視社会

◆ 事件

池袋で男の刺殺体が発見され、捜査本部が立つ。続いて新木場では爆発物による殺傷事件が発生する。どちらの事件でも出所不明の「タレコミ」が捜査を不自然なほど正確に導き、本宮ら刑事たちは違和感を抱えたまま犯人検挙に至ってしまう。

◆ 謎

誰が、どうやって捜査側しか知り得ないはずの情報を入手し、匿名で警察に流しているのか。タレコミの主の正体と目的、そして警察組織の奥で何が動いているのかが謎の軸となる。三部構成の最終章で、前二章の不可解さが一本の線へつながっていく。

2019日本犯罪心理分析班・八木小春シリーズ

犯罪心理分析班・八木小春 アイアンウルフの箱

佐藤青南

警察小説サスペンスプロファイリング爆弾魔

◆ 事件

「革命結社アイアンウルフ」を名乗る犯人によって政治家事務所が爆破される。犯罪心理分析班の新米刑事・八木小春は、相棒のプロファイラー・土岐田の分析をもとに、連続爆弾魔ユナボマーの模倣犯として犯人を追う。やがて第二の爆破が起き、第三の犯行予告が届く。

◆ 謎

アイアンウルフの正体と目的は何か。なぜ米国の連続爆弾魔ユナボマーを模倣するのか。犯行予告から次の標的をどう割り出すのか。プロファイリングを軸にした捜査の中で犯人像は二転三転し、爆弾が仕掛けられた標的の特定が時間との勝負になる。

2019日本

卑弥呼の葬祭 天照暗殺

高田崇史

歴史・時代邪馬台国神話

◆ 事件

高千穂の夜神楽の最中に男性の首なし死体が発見され、宇佐神宮では御霊水の井戸に禍々しいものが見つかる。「卑弥呼の調査に行く」と言い残して消息を絶った従弟・漣を追う萬願寺響子は、九州で連続する怪事件の渦中へと巻き込まれていく。

◆ 謎

首なし死体事件の犯人は誰で、従弟はどこへ消えたのか。実在する凶首塚古墳や百体神社に伝わる謎、奇妙な天岩戸伝説は事件とどう繋がるのか。そして邪馬台国はどこにあり、卑弥呼と天照大神はどんな関係にあるのかという歴史の謎が現代の事件と交錯する。

2019日本

病弱探偵 謎は彼女の特効薬

岡崎琢磨

日常の謎青春短編集安楽椅子探偵学園

◆ 事件

高校一年生の貫地谷マイは生まれつき病弱で、入院や自宅療養を繰り返し学校もろくに通えない。健康優良児の幼なじみ・山名井ゲンキは、ひそかに想いを寄せるマイのため、学校で起こった不思議な事件の数々を今日も彼女のベッドサイドへ届け続ける。

◆ 謎

マイは病床に居ながらにして、ゲンキの報告だけを手がかりに事件の真相を見抜けるのか。学校で起こる六つの不可解な出来事はなぜ起きたのか。謎解きの合間に少しずつ近づいていく二人の関係の行方も、もうひとつの謎として物語を引っ張る。

2019日本葉村晶シリーズ

不穏な眠り

若竹七海

ハードボイルドサスペンス短編集女探偵私立探偵

◆ 事件

不運すぎる女探偵・葉村晶の連作短編集。表題作では、依頼人が従妹から相続した家に見知らぬ女・宏香がいつの間にか居着き、そのまま病死していたことが判明。葉村は宏香の知人を捜してほしいという奇妙な依頼を引き受ける。

◆ 謎

死んだ女は何者で、なぜ赤の他人の家に堂々と住み着いていたのか。彼女の足取りを辿る葉村は、宏香を家に連れ込んだ男の存在に行き当たるが、調査はいつものように不運な方向へ転がり、葉村自身が思わぬ危険に巻き込まれていく。

2019日本

不老虫

石持浅海

特殊設定サスペンス寄生虫頭脳戦

◆ 事件

宿主に不老をもたらすとされる寄生虫「サトゥルヌス・リーチ」、通称・不老虫が日本に密輸されるという密告が届く。農林水産省の防疫職員・恭平は、猫を連れた米国帰りの若き女性専門家とともに、人類の脅威となる虫の上陸を阻止すべく奔走する。

◆ 謎

不老虫とはいかなる生き物で、どのような習性を持つのか。誰が何の目的で日本に持ち込もうとしているのか。密告の真意はどこにあるのか。姿を見せない密輸側の正体と次の一手を、限られた手がかりから読み合う頭脳戦の行方が謎の中心となる。

2019日本

夫の骨

矢樹純

イヤミスサスペンス短編集家族日本推理作家協会賞短編部門受賞

◆ 事件

表題作では、夫を亡くした妻が遺品を整理するうち、倉庫に隠されていた小さな乳児の遺骨を発見する。穏やかだったはずの結婚生活に暗い疑念が兆していく。家族の内側に潜む秘密と悪意を描いた9つの短編を収録した文庫オリジナル集。

◆ 謎

乳児の遺骨は誰のものなのか。夫はなぜそれを隠し、何も告げずに死んだのか。隠し子の存在を疑う妻の前に、義父母を含む夫の家族の不可解な過去が立ち上がる。9編すべてに、日常の風景を反転させる仕掛けが潜んでいる。

2019日本教場シリーズ

風間教場

長岡弘樹

警察小説警察学校長編

◆ 事件

警察学校の鬼教官・風間公親に、新任の久光校長が「退校者ゼロ」の教場作りを命じる。一人でも落伍者が出れば風間自身が学校を去るという条件付きだ。例年約十名の退校者が出る中、備品の紛失や生徒の妊娠発覚など、教場では問題が次々と持ち上がる。

◆ 謎

資質なしと見れば容赦なく生徒を切り捨ててきた風間は、従来と正反対の方針をどう実現するのか。遅刻癖のある生徒や喫煙の噂、入学早々の退学志望者など、一筋縄ではいかない生徒たちの問題の裏に何があるのか。校長が難題を課した真意も気にかかる。

2019日本屍人荘の殺人シリーズ

魔眼の匣の殺人

今村昌弘

新本格特殊設定クローズドサークル予言

◆ 事件

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子は、謎の組織・班目機関の元研究施設「魔眼の匣」を訪れる。施設の主である老女サキミは「あと二日のうちに、この地で男女四人が死ぬ」と予言。直後に外界へ通じる唯一の橋が焼け落ち、居合わせた者たちは隔絶される。

◆ 謎

サキミの予言は過去に幾度も的中してきたという。閉ざされた土地で予言をなぞるように死者が出始め、人々は疑心暗鬼に陥る。予言は本物なのか、それとも予言を利用した殺人なのか。死は事故か他殺か、そして誰が予言の成就を望むのか。

2019日本魔法使いマリィシリーズ

魔法使いと最後の事件

東川篤哉

ユーモア特殊設定倒叙シリーズ完結編連作短編

◆ 事件

八王子署の小山田刑事はこれまで、家政婦にして本物の魔法使いのマリィの力をこっそり借りて難事件を解決してきた。だがマリィはオカルト雑誌に正体を目をつけられ、八王子から忽然と姿を消してしまう。シリーズ完結編。

◆ 謎

鉄壁のアリバイ、隠されたダイイングメッセージ、入れ替わりトリック――犯人側の視点から始まる倒叙形式で難事件が続発する。魔法の助けを失った小山田刑事は、果たして自力で犯人のミスと矛盾を見つけ出せるのか。

2019日本

名もなき星の哀歌

結城真一郎

特殊設定サスペンス青春記憶デビュー作

◆ 事件

銀行員の良平と漫画家志望の健太は、人の記憶を売買する謎めいた「店」にスカウトされ、記憶の取引に関わるようになる。二人は神出鬼没の路上シンガー・星名に心を奪われ、決して素性を明かさない彼女の過去をひそかに調べ始める。

◆ 謎

星名は何者で、なぜ頑なに過去を語らないのか。調べを進める二人の前に、医者一家の焼死事件や、彼女のために命を絶ったという男の存在が浮かび上がる。記憶を売買できる世界で「本当の自分」とは何かという問いが、ミステリの謎と重なっていく。

2019日本

目を見て話せない

似鳥鶏

日常の謎青春連作短編大学コミュ障探偵

◆ 事件

国立大学法学部1年の藤村京は、人の目を見て話せないほどの極度のコミュ障。だが観察眼と推理力は人一倍鋭い。傘の忘れ物の持ち主当てに始まり、キャンパスで起こる小さな謎を「会話せずに」解いていく連作ミステリ。

◆ 謎

推理はできるのに、それを口に出して伝えられない探偵はどう謎を解くのか。小学校の同級生との再会を経て、謎解きを通じて少しずつ人と繋がっていく京。だが扱う謎は次第に重みを増し、彼自身の過去が物語の中心に迫り出す。

2019日本

予言の島

澤村伊智

本格サスペンスホラー孤島霊能者

◆ 事件

瀬戸内海の霧久井島は、かつて一世を風靡した霊能者・宇津木幽子が「二十年後、この島で六人が死ぬ」という最後の予言を残した場所。予言の年、天宮淳は友人たちと興味本位で島を訪れるが、台風で連絡が絶たれる中、予言をなぞるように死者が出始める。

◆ 謎

霊魂「ヒルコ様」の祟りを恐れる島民と、予言の成就を煽るオカルト好きの観光客。相次ぐ死は祟りなのか、予言を利用した殺人なのか。霊能者の予言は本当に的中するのか。ホラーと本格が交錯する中、語り手の見ている世界そのものに違和感が忍び込んでいく。

2019日本

落日

湊かなえ

サスペンス社会派映像業界家族

◆ 事件

新人脚本家の甲斐真尋は、国際的に評価される映画監督・長谷部香から、十五年前の「笹塚町一家殺害事件」を題材にした映画の脚本を依頼される。引きこもりの兄が妹を刺殺し、放火で両親も死亡したとされる事件を、二人はそれぞれの動機から調べ直していく。

◆ 謎

死刑判決を受けた兄はなぜ妹を殺したのか。なぜ事件の夜、家は燃やされなければならなかったのか。取材を進めるほど報道された事件像と関係者の証言に食い違いが見つかり、監督の香がこの事件に執着する理由も謎として浮かび上がってくる。

2019日本

傲慢と善良

辻村深月

サスペンス社会派婚活失踪

◆ 事件

婚活アプリで知り合い婚約した坂庭真実が、ストーカー被害を訴えた末に突然姿を消した。残された婚約者の西澤架は、彼女の故郷や過去の見合い相手たちを訪ね歩き、自分の知らなかった婚約者の人生と人間関係を辿りながら行方を追い始める。

◆ 謎

真実は事件に巻き込まれたのか、それとも自らの意思で消えたのか。ストーカーは実在するのか。架が彼女の過去を辿るほど、婚活で出会った男たち、支配的な母親、地方社会の価値観が絡み合い、「彼女は何者だったのか」という問いが深まっていく。

2020日本

#柚莉愛とかくれんぼ

真下みこと

サスペンス社会派青春メフィスト賞デビュー作SNSアイドル

◆ 事件

三人組地下アイドル「となりの☆SiSTERs」のセンター青山柚莉愛が、生配信の終わりぎわに血を吐いて倒れ、「柚莉愛を見つけてね」「#柚莉愛とかくれんぼ」という謎の文面が画面に映し出される。事務所主導のドッキリ企画は、やがてSNS上の大炎上へと発展していく。

◆ 謎

配信動画を執拗に分析し柚莉愛を批判する匿名アカウント「僕」とは何者なのか。文面の画用紙を持つ手が柚莉愛本人のものと違うという指摘はなぜ生まれ、誰が何の目的で炎上を煽り続けるのか。アイドルを追い詰める悪意の出どころが謎として迫る。

2020日本Another

Another 2001

綾辻行人

特殊設定サスペンスホラー学園

◆ 事件

1998年の災厄から3年。夜見山北中学3年3組に転入した比良塚想は、「いないもの」を二人にするなどの対策が講じられたクラスで新学期を迎える。しかし対策もむなしく、クラス関係者が次々と命を落とす「災厄」が再び始まってしまう。

◆ 謎

今年のクラスに紛れ込んだ「死者」は誰なのか。対策係や見崎鳴の協力を得て、想は死者を見つけ出し災厄を止めようとするが、災厄は例年と異なる異常な規模で加速していく。なぜ今年に限って対策が機能しないのかが最大の謎となる。

2020日本仲田・真壁

あの子の殺人計画

天祢涼

社会派倒叙警察小説児童虐待貧困

◆ 事件

小学5年生の椎名きさらは、誰にも言えない家庭の秘密を抱えて暮らしている。やがて風俗店経営者の男が殺害される事件が起き、神奈川県警の刑事たちが捜査を始めると、容疑者として浮かび上がったのはきさらの母親だった。

◆ 謎

物語は少女きさらの視点と刑事の視点が交互に進む。母親には娘の証言によるアリバイがあり、捜査は壁に突き当たる。虐待されながらも母を信じようとする少女の心情と、タイトルの「あの子の殺人計画」がいったい何を意味するのかが、読者に突きつけられる謎となる。

2020日本

あの日の交換日記

辻堂ゆめ

日常の謎サスペンス短編集交換日記伏線回収

◆ 事件

入院患者と見舞い客、教師と児童、姉と妹、母と息子、加害者と被害者——さまざまな間柄の二人が綴る七冊の交換日記が順に提示される。日記の行間には小さな違和感や食い違いが潜み、やがてある出来事の輪郭が浮かび上がっていく連作短編集。

◆ 謎

それぞれの日記で、書き手は本当は何者で、二人の間に何があったのか。読者の思い込みを揺さぶる仕掛けが各話に施され、一見無関係に見える七つの物語が最終的にどう繋がるのか、その全体像こそが最大の謎として用意されている。

2020日本

アンダードッグス

長浦京

冒険・スパイサスペンス大藪春彦賞香港返還クライムノベル

◆ 事件

返還を目前にした1997年の香港。政争に巻き込まれて失脚した元官僚・古葉慶太は、イタリア人大富豪マッシモから、香港のメガバンク地下に眠る機密文書の強奪を強要される。国籍も経歴もばらばらの「負け犬」たちとチームを組み、命懸けの争奪戦に身を投じる。

◆ 謎

機密文書とは何なのか、チームの誰が味方で誰が裏切るのか。各国の諜報機関や犯罪組織が入り乱れる争奪戦の中、古葉たちは幾重にも仕掛けられた罠と駆け引きを生き延びられるのか。2018年の現代パートに登場する義娘・瑛美の物語との繋がりも謎として置かれる。

2020日本

インビジブル

坂上泉

警察小説歴史・時代社会派日本推理作家協会賞戦後大阪直木賞候補バディもの

◆ 事件

昭和29年、大阪城近くで政治家秘書が頭部を麻袋で覆われた刺殺体として発見される。中卒叩き上げの大阪市警視庁の刑事・新城と、帝大卒のエリート警察官僚・守屋が反発し合いながらコンビを組み、やがて連続する猟奇殺人の捜査にあたることになる。

◆ 謎

被害者たちを繋ぐものは何か。そして各章の冒頭に挿し挟まれる、満州での戦争の記憶を語る人物は誰なのか。警察機構の再編に揺れる戦後大阪を舞台に、階級も出自も異なる二人の刑事が、事件の底に沈む戦争の傷へと迫っていく。

2020日本

うるはしみにくし あなたのともだち

澤村伊智

サスペンス特殊設定青春ホラーミステリ学園ルッキズム

◆ 事件

四ツ角高校三年二組で一番美しく人気もあった更紗が、遺書もいじめの形跡もないまま自殺する。それを境に、女子生徒たちが見えない力によって次々と容姿を傷つけられていく。学校には、怪雑誌「ユアフレンド」を手にした者は他人を醜くできるという伝説があった。

◆ 謎

おまじないは実在するのか、それとも人為的な犯行なのか。「ユアフレンド」を手にしているのは誰で、なぜ標的は容姿に恵まれた少女ばかりなのか。美醜をめぐる教室の序列と嫉妬が渦巻くなか、後半は加害者の正体と動機を突き止める犯人捜しが加速する。

2020日本蜘蛛手啓司シリーズ

エンデンジャード・トリック

門前典之

本格新本格建築読者への挑戦バカミス

◆ 事件

百白荘のゲストハウス「キューブハウス」で施工業者が転落死し、翌年には本館で設計者の首吊り死体が発見される。五年後、いわくつきのキューブハウスに集まった客たちの中に、二つの未解決事件の解明を依頼された建築士探偵・蜘蛛手啓司の姿があった。

◆ 謎

二つの死は事故と自殺なのか、それとも連環する殺人なのか。終盤には「犯人の名前を指摘することは読者には不可能だが、犯人を特定することは可能」という変則的な読者への挑戦状が突きつけられ、犯人像そのものの在り方が謎の核心となる。

2020日本

カケラ

湊かなえ

イヤミス社会派ルッキズム母娘独白形式

◆ 事件

美容外科医・橘久乃は、故郷の幼馴染から、同級生だった横網八重子の娘・有羽が大量のドーナツに囲まれて亡くなったと聞かされる。明るく人気者だったはずの少女の死は自殺とみられ、久乃は同級生や母親、教師ら関係者の話を順に聞いて回る。

◆ 謎

なぜ少女は死を選んだのか。語り手たちの一人語りからは、容姿や体型をめぐる値踏み、母娘の確執、田舎町の人間関係が浮かび上がる。証言は微妙に食い違い、誰の言葉が真実なのか、有羽の本当の姿はどこにあるのかが謎として迫ってくる。

2020日本きたきた捕物帖シリーズ

きたきた捕物帖

宮部みゆき

歴史・時代日常の謎江戸捕物帖連作シリーズ第1作

◆ 事件

江戸深川。岡っ引きの千吉親分がふぐ中毒であっけなく世を去り、子分だった16歳の北一は親分の本業だった文庫売りで生計を立てながら、町で起こる事件や怪事に関わっていく。やがて湯屋の釜焚きの謎めいた少年・喜多次と出会い、相棒となる。

◆ 謎

呪いがかかったという福笑い、双六遊びの最中に起きた子どもの神隠し、祝言の日に現れた「亡き前妻の生まれ変わり」を名乗る女。怪異としか思えない出来事の裏に何があるのか、頼りない北一が周囲の助けを得て人々の思惑を解きほぐしていく。

2020日本

コーチ

堂場瞬一

警察小説連作育成

◆ 事件

伸び悩む三人の若手刑事のもとに、警務部人事二課の謎の男・向井光太郎が現れ、的確な助言で彼らを立ち直らせていく。数年後、捜査一課で再会した三人は、女子大生殺害事件を担当しながら、恩人である向井の知られざる過去を探り始める。

◆ 謎

刑事でもないのに現場を知り尽くした向井は何者なのか。なぜ人事二課に籍を置きながら若手刑事を「コーチ」して回るのか。三人が追う女子大生殺害事件と向井の過去は、やがて十五年前に起きたある未解決事件で交錯することになる。

2020日本

コープス・ハント

下村敦史

サスペンス青春警察小説シリアルキラー死体探し二重構成

◆ 事件

八人の既婚女性を殺害した美貌の死刑囚・浅沼聖悟が、判決直後の法廷で「一件は俺の犯行ではない。真犯人の一人はもう俺が殺し、死体は思い出の場所に隠した」と告白する。真偽を追う女刑事と、死体探しに乗り出す少年たちの物語が並行して描かれる。

◆ 謎

死刑囚の告白は真実なのか。彼の犯行を模倣した真犯人とは誰で、死体はどこに隠されているのか。刑事・折笠望美の捜査パートと、少年・福本宗太たちのひと夏の探索行パートという二つの物語は、いったいどこでどう交わるのかが最大の興味となる。

2020日本

この本を盗む者は

深緑野分

特殊設定青春ビブリオミステリファンタジー本屋大賞ノミネート

◆ 事件

本の街・読長町。巨大書庫「御倉館」の蔵書が盗まれたとき、本に憑いた呪い「ブック・カース」が発動し、町全体が物語の世界へと変貌してしまう。書物嫌いの高校生・御倉深冬は、白い髪の少女・真白とともに、泥棒を追って物語の中を旅する羽目になる。

◆ 謎

御倉館の本を盗んだ者は誰なのか。なぜ本が盗まれるたびに町ごと物語に閉じ込められるのか。忽然と現れた謎の少女・真白の正体は何か。御倉家が背負う呪いの由来をめぐる謎が、「本を読むとはどういうことか」という問いと重なりながら解かれていく。

2020日本

これはミステリではない

竹本健治

新本格アンチミステリメタフィクション作中作

◆ 事件

香華大学ミステリクラブの夏合宿で、メンバーをモデルにした犯人当て小説「読んではいけない」の問題篇が披露される。翌日、その小説の記述どおりに濃霧が立ちこめるなか、出題者が解決篇の原稿とともに忽然と姿を消してしまう。

◆ 謎

出題者はなぜ、どこへ消えたのか。作中作の犯人当ての「解決」はどこにあるのか。同じ施設に居合わせた汎虚学研究会の高校生たちも巻き込まれ、現実と作中作が互いに浸食し合うなかで、「ミステリとは何か」という問いそのものが謎として突きつけられる。

2020日本幽霊屋敷シリーズ

そこに無い家に呼ばれる

三津田信三

サスペンス特殊設定ホラーミステリ幽霊屋敷実話怪談形式

◆ 事件

作家・三津田信三のもとに、知人の三間坂家の蔵から見つかった厳重に封印された三つの古い記録が持ち込まれる。大学ノートの新社会人の報告、自分宛ての私信、精神科医の記録——いずれも「そこに無いはずの家」に引き寄せられた人々の体験が綴られていた。

◆ 謎

三つの記録はすべて「家そのものが幽霊」としか言いようのない怪異を語る。なぜ特定の人間にだけその家が見えるのか、家は何の目的で人を招き入れようとするのか。記録同士の繋がりと、読み解く側へ忍び寄る影が不気味な謎となって迫る。

2020日本

たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説

辻真先

本格歴史・時代青春このミス1位ランキング三冠昭和学園

◆ 事件

昭和24年の名古屋。新制高校に通う推理小説家志望の風早勝利は、推理小説研究会と映画研究会の合同小旅行で湯谷温泉を訪れる。その旅先で山間のモデルハウスを現場とする密室殺人に遭遇し、さらにキティ台風が迫る夜、廃墟で死体が切断された解体殺人が起きる。

◆ 謎

格子のはまった窓しかない建物でいかに殺人が行われたのかという密室の謎と、台風の夜のわずかな時間でなぜ死体を解体できたのかという謎。敗戦で価値観が反転した時代を背景に、生徒たちのすぐ近くに潜む犯人の正体が浮かび上がっていく。

2020日本メルヘン殺しシリーズ

ティンカー・ベル殺し

小林泰三

特殊設定本格メルヘン夢世界シリーズ最終作

◆ 事件

大学院生の井森建は、夢の中で蜥蜴のビルとしてネヴァーランドに迷い込む。そこは永遠の子供ピーターが迷子たちを率い、大人と子供がひたすら殺し合う修羅の国だった。やがて妖精ティンカー・ベルが殺され、地球側でもそれに対応する事件が起きる。

◆ 謎

夢世界の住人と地球の人間が一対一に対応する「アヴァタール」設定のもと、ネヴァーランドでの死は地球側の死を意味する。神の視点では早々にピーターによる殺害場面が描かれているのに、なぜ「ティンカー・ベル殺し」はなお謎として残り続けるのか。

2020日本ドミノ

ドミノin上海

恩田陸

ユーモアサスペンス群像劇コメディケイパー

◆ 事件

上海の老舗ホテル青龍飯店に、ゾンビ映画の撮影クルー、警察に追われる寿司配達人、アートフェアに招かれた彫刻家ら二十五人と三匹が集結する。厨房でハリウッド俳優のペットのイグアナが調理されてしまう珍事を発端に、騒動がドミノ式に連鎖していく。

◆ 謎

香港から密輸された幻の至珠「蝙蝠」はどこへ消えるのか。動物園を脱走したパンダの厳厳はどこへ向かうのか。一見無関係な人々の思惑と偶然がどう繋がり、最後に何が誰の手に落ちるのか。雪崩を打つ偶然の連鎖そのものが群像クライムコメディの謎となる。

2020日本

ナキメサマ

阿泉来堂

サスペンス特殊設定ホラーミステリ因習村横溝正史ミステリ&ホラー大賞読者賞デビュー作

◆ 事件

ルームメイトの小夜子が、二十三年ごとに奇怪な儀式が行われる故郷の稲守村へ巫女役として帰省したまま戻らない。心配した弥生は、小夜子の元恋人を名乗る男とともに村を訪れるが、閉鎖的な村では「ナキメサマ」をめぐる怪異と惨劇が連鎖し始める。

◆ 謎

ナキメサマとは何か。なぜ村は二十三年周期の婚姻めいた儀式に固執するのか。小夜子はどこへ消えたのか。怪異の正体とともに、同行者たちの言動に潜む不自然さや明らかに怪しい人物の存在が、因習村ホラーの枠を超えた謎として浮かび上がる。

2020日本

パンダ探偵

鳥飼否宇

特殊設定ユーモア本格短編集動物ミステリ講談社タイガ

◆ 事件

人類絶滅から二百年後、動物たちの共和国アフラシアで、白黒ツートーンの動物ばかりを狙う連続誘拐が発生。さらに施錠された保管庫から草食動物の非常食の干し草が大量に消え、ついには共和国大統領の暗殺事件まで起こる。

◆ 謎

姿なき誘拐犯はなぜ白黒の動物ばかりを攫うのか。密室から干し草はどうやって消えたのか。そして大統領を殺した犯人は誰か。新米パンダ探偵ナンナンが、憧れの先輩探偵ライガーのタイゴとともに三つの怪事件に挑む。

2020日本ビブリア古書堂の事件手帖

ビブリア古書堂の事件手帖II 〜扉子と空白の時〜

三上延

日常の謎ビブリオミステリ古書横溝正史連作

◆ 事件

鎌倉のビブリア古書堂に、この世に存在しないはずの本――横溝正史の幻の作品『雪割草』が盗まれたという奇妙な相談が持ち込まれる。元華族に連なる旧家・上島家では、所有者だった女主人秋世の死をきっかけに、姉妹間の相続争いが燻っていた。

◆ 謎

単行本化されず長らく幻とされてきた『雪割草』を、誰が、なぜ盗んだのか。姉の春子は妹の初子を犯人と決めつけるが、確たる証拠はない。『獄門島』の取引をめぐるもう一つの事件も絡み合い、半世紀にわたる一家の因縁が謎をいっそう深めていく。

2020日本ヒポクラテスシリーズ

ヒポクラテスの試練

中山七里

社会派サスペンス法医学感染症シリーズ第3作

◆ 事件

浦和医大法医学教室の光崎教授のもとに、肝臓がんとされた元都議会議員の死をめぐる不審が持ち込まれる。解剖の結果、死因はがんではなく肝臓に巣食った寄生虫によるものと判明。同様の感染者が次々と見つかり、感染源の特定が急務となる。

◆ 謎

検出されたのは突然変異した寄生虫エキノコックス。本来は北海道などで犬を介して感染するはずの寄生虫が、なぜ都心の、しかも特定の人々の体内にだけ巣食っているのか。感染経路はどこにあり、そこに人の悪意は介在するのかが謎となる。

2020日本ブラック・ショーマン

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人

東野圭吾

本格サスペンスマジシャンコロナ禍同窓生

◆ 事件

コロナ禍で活気を失った地方の町で、元中学教師の神尾英一が自宅で絞殺される。葬儀のため帰郷した娘の真世の前に、元マジシャンの叔父・武史が現れ、警察とは別に独自の調査を開始。人気漫画を核とした町おこしに集う英一の教え子たちが捜査線上に浮かぶ。

◆ 謎

誰が温厚な元教師を殺したのか。事件の夜、英一の家を訪れたのは誰で、何が目的だったのか。武史は容疑者となった同級生たちを教室に集め、マジックさながらの「ショータイム」で偽の推理を見せながら、各人が隠す秘密と嘘を次々と暴いていく。

2020日本

プロジェクト・インソムニア

結城真一郎

特殊設定本格サスペンスSF設定クローズドサークル

◆ 事件

ナルコレプシーで職を失った蝶野恭平は、報酬と引き換えに極秘の人体実験「プロジェクト・インソムニア」の被験者となる。脳にチップを埋め込み、七人の男女と九十日間夢を共有する実験だ。だが願望を具現化できる理想郷ユメトピアに、死の影が忍び寄る。

◆ 謎

夢の中で殺された者は現実でも死ぬのか。被験者たちは互いに現実の素性を知らず、夢の中の姿も本人と同じとは限らない。ユメトピアで起きる連続殺人の犯人は誰で、どうやって相手に夢と現実を取り違えさせて殺しているのか。特殊設定の論理が問われる。

2020日本

ムシカ 鎮虫譜

井上真偽

特殊設定サスペンス孤島パニックホラー音楽

◆ 事件

スランプに悩む音大三年の五人組が、音楽の神を祀る神社があるという瀬戸内海の小島に渡る。だが上陸した一行は、カメムシをはじめとする虫の大群に襲われてしまう。島には牢に閉じ込められた巫女がおり、虫を音楽で鎮めるという奇怪な祭祀が残されていた。

◆ 謎

なぜこの島では虫が異常発生し、執拗に人を襲うのか。巫女たちが奏でる「鎮虫譜」とはどんな曲で、なぜ音楽が虫を鎮めることができるのか。同行する音楽雑誌編集者を名乗る一団の不審な動きも含め、孤島からの脱出と謎解きが同時に展開していく。

2020日本

もう、聞こえない

誉田哲也

警察小説特殊設定死者の声未解決事件

◆ 事件

週刊誌編集者の中西雪実が、自宅で身元不明の男を置物で殴って死なせ、傷害致死容疑で逮捕される。罪は認めて聴取に応じるのに、動機や被害者との関係については多くを語らない。そして取調べの場で突然、「女の人の声が、聞こえるんです」と言い出す。

◆ 謎

雪実に聞こえるという「声」の主は誰なのか。死んだ男・浜辺友介は何者で、なぜ彼女の部屋にいたのか。捜査線上には15年前の少女殺害という未解決事件と、行方不明になっている雪実の職場の前任者が浮かぶ。三つの糸はどこで一本に結ばれるのか。

2020日本

ループ・ループ・ループ

桐山徹也

特殊設定青春タイムループ学園このミス大賞

◆ 事件

高校生の橋谷郁郎は、11月24日という同じ一日が繰り返されていることに気づく。だが自分はループを引き起こした張本人ではなく、誰かのループに巻き込まれただけの「モブキャラ」らしい。折しも世間では連続殺人事件が続いており、不穏な空気が漂っていた。

◆ 謎

ループを起こしている本当の「主人公」は誰で、何のために同じ一日を繰り返しているのか。前日の記憶を保ったまま目覚める仲間を少しずつ増やしながら、郁郎たちはループの原因を探り、連続殺人事件や一年前の女生徒の自殺との関わりに踏み込んでいく。

2020日本

わたしが消える

佐野広実

社会派サスペンス江戸川乱歩賞デビュー作認知症

◆ 事件

元刑事の藤巻は交通事故をきっかけに、自身に軽度認知障害の症状が出ていることを知る。折しも、娘が介護実習で通う施設には、門の前に置き去りにされた身元不明の老人「門前さん」がいた。藤巻は刑事としての最後の仕事のつもりで、老人の身元調査を始める。

◆ 謎

認知症で意思の疎通ができない老人はいったい何者で、誰が、なぜ施設の前に置き去りにしたのか。自らも記憶が消えていく恐怖と闘いながら調査を進める藤巻の前に、老人の過去に隠された思いがけない人生が少しずつ姿を現していく。

2020日本

ワン・モア・ヌーク

藤井太洋

冒険・スパイサスペンス核テロ東京五輪タイムリミット

◆ 事件

東日本大震災から九年後の2020年3月11日午前零時、五輪開催を目前に控えた東京・新国立競技場での核爆発が予告される。実業家・但馬樹はテロリストのイブラヒムと組んで核爆弾を都内に持ち込み、警視庁公安部の早瀬警部補らが残された五日間で追跡する。

◆ 謎

但馬はいかにして核爆弾を製造し、厳戒下の都心へ運び込んだのか。イスラム国幹部と日本人実業家を結びつけたものは何か。そして爆発は本当に起きるのか。タイムリミットへ向かう攻防のなか、犯人の真の目的こそが最大の謎として迫ってくる。

2020日本

暗鬼夜行

月村了衛

サスペンス社会派SNS炎上学校盗作疑惑

◆ 事件

地方都市の公立中学で、読書感想文コンクールの学校代表に選ばれた女子生徒・藪内三枝子の作品に、SNS上で盗作疑惑が投じられる。彼女が教育長の娘だったことから騒動は保護者や地域へ飛び火し、国語教師の汐野は真相究明の矢面に立たされる。

◆ 謎

感想文は本当に盗作なのか、そうだとして告発を投稿したのは誰なのか。生徒、保護者、教師、地元政治家の思惑が絡み、疑心暗鬼が学校を呑み込んでいく。元作家志望という汐野自身の抱える秘密も、騒動の中で軋みをあげはじめる。

2020日本

暗黒残酷監獄

城戸喜由

イヤミスサスペンス日本ミステリー文学大賞新人賞デビュー作家族の秘密

◆ 事件

友人もなく人妻との不倫に溺れる高校生・清家椿太郎の身辺で、姉が磔にされた死体となって発見される。姉は「この家には悪魔がいる」というメモを残していた。椿太郎は自分の家族の来歴を調べ始め、一家に堆積した秘密を次々と掘り起こしていく。

◆ 謎

姉を殺した「悪魔」とは家族の誰なのか。父が関わったらしい誘拐事件、事故死したと届けられたはずの母の生存疑惑、自殺した兄が残した謎めいた小説。家にまつわる不穏な断片はどう繋がり、姉の死の真相を指し示すのかが軸となる。

2020日本

汚れた手をそこで拭かない

芦沢央

イヤミスサスペンス短編集直木賞候補

◆ 事件

自信家の老父の急死、思わぬ事件の後始末、亡き夫宛てに届く少額の督促状、お蔵入りになった映像作品、マンションに清掃員として現れた昔の恋人。ごく普通の人々の日常の断片に生じた小さな綻びから、ずるさと悪意が静かに顔を出す全5編の短編集。

◆ 謎

各編は派手な殺人ではなく、日常のささいな違和感を起点とする。なぜ父は死んだのか、督促状の額はなぜ不自然に少ないのか、証言者は何を隠しているのか。登場人物の語りの裏にある思惑が少しずつ露わになり、最後の数行で見えていた景色が反転する。

2020日本

化け者心中

蝉谷めぐ実

歴史・時代特殊設定江戸歌舞伎新人賞受賞作

◆ 事件

文政の江戸。中村座に集った役者六人が新作『堂島連理柵』の前読みをしていると、輪の真ん中に何者かの生首が転がり落ちる。だが座にいる役者の数は変わらない——鬼が役者の一人を喰い殺し、成り代わっているのだ。元天才女形の魚之助と鳥屋の藤九郎が「鬼探し」を始める。

◆ 謎

六人の役者のうち、誰が人ではなく鬼なのか。調べを進めるほどに暴かれるのは、芸を極めるためなら何でもする役者たちの嫉妬と悪意と画策ばかり。人と鬼、男と女、正気と狂気の境目が揺らぐ中、所作と心の襞から「人ならざるもの」を見抜けるかが問われる。

2020日本

歌舞伎座の怪紳士

近藤史恵

日常の謎観劇再生劇場

◆ 事件

職場のハラスメントで退職し、心を閉ざしていた27歳の岩居久澄は、祖母から「代わりに芝居を観て感想を聞かせてほしい」という奇妙なアルバイトを頼まれる。歌舞伎やオペラ、演劇に通ううち、行く先々で品の良い謎めいた老紳士と出会うようになる。

◆ 謎

外出もままならない祖母は、なぜ観劇のチケットを毎月手にしているのか。劇場に必ず現れ、久澄の悩みをさりげなく解きほぐしてくれる「怪紳士」堀口とは何者なのか。観劇のたびに出会う小さな違和感と謎が、舞台の演目と重なりながら解かれていく。

2020日本

火喰鳥を、喰う

原浩

特殊設定サスペンスホラー横溝正史ミステリ&ホラー大賞デビュー作戦争

◆ 事件

信州に暮らす久喜雄司のもとに、約70年前にニューギニア戦線で戦死した大伯父・貞市の手記が届けられる。その直後から、墓石から貞市の名前が削り取られる事件が起き、雄司の妻・夕里子ら家族の周囲で不可解な出来事が連鎖し始める。

◆ 謎

戦死したはずの貞市の手記は、なぜ今になって現れたのか。墓を汚したのは誰で、久喜家を蝕んでいく怪異の正体は何なのか。ホラーとしか思えない現象と、その裏に見え隠れする人間の意図。平和な日常が静かに侵食されていく恐怖の源が謎となる。

2020日本

楽園とは探偵の不在なり

斜線堂有紀

特殊設定本格クローズドサークル孤島天使

◆ 事件

二人以上殺した者は天使に地獄へ引きずり込まれるようになった世界。探偵の青岸焦は大富豪・常木王凱に招かれ、天使が集う孤島・常世島を訪れる。だが滞在中、島に集った客人たちが次々と殺害され、死者が三人を超えても事件は止まらない。

◆ 謎

この世界では一人の人間による連続殺人は原理的に不可能のはず。それなのに犯人はなぜ天使に裁かれず地獄へ堕ちないのか。「天使が殺人者を裁くなら探偵は必要なのか」という問いを抱えた青岸が、特殊設定の論理を逆手に取った連続殺人の構図に挑む。

2020日本K2 池袋署刑事課 神崎・黒木

帰ってきたK2 池袋署刑事課 神崎・黒木

横関大

警察小説バディもの池袋

◆ 事件

池袋のアパートでシングルマザーの木原希実が殺害され、幼い娘が残された。ストーカー相談の対応中に現場へ駆けつけた池袋署の神崎と黒木は犯人検挙を誓うが、翌日、捜査一課の同期・若田部の介入により、二人は突然捜査本部から外されてしまう。

◆ 謎

なぜ二人は捜査から排除されたのか。被害者の身辺には何が隠されているのか。実直で論理派の神崎と、直感で動く破天荒な黒木。流儀の正反対なコンビが捜査本部の外から独自に事件を追い、母を失った娘のために真相へ迫っていく。

2020日本

欺瞞の殺意

深木章子

本格書簡体多重解決毒入りチョコレート事件オマージュ

◆ 事件

昭和41年、資産家・楡家の法要の席で、当主の長女と孫がヒ素入りチョコレートにより毒殺される。長女の婿養子である弁護士のポケットから毒入りチョコの包み紙が発見され、彼は無実を訴える周囲をよそに「自白」して無期懲役となった。

◆ 謎

歳月を経て、事件関係者の間で交わされる往復書簡により、毒入りチョコレート事件の真相をめぐる推理合戦が始まる。なぜ弁護士は無実なのに自白したのか、真犯人は誰なのか。書簡上の推理は二転三転し、何が「欺瞞」なのかを読者自身が見極めることになる。

2020日本

逆ソクラテス

伊坂幸太郎

青春ユーモア短編集小学生柴田錬三郎賞本屋大賞ノミネート

◆ 事件

学力も運動も平凡な小学6年生の「僕」は、転校生の安斎からある作戦を持ちかけられる。それはカンニングから始まる、教室を支配する空気と担任教師への小さな反乱だった。表題作のほか、小学生たちの世界を描く全5編を収録した短編集。

◆ 謎

本格的な犯罪の謎ではなく、子どもたちの仕掛けがどんな結末を生むのかが興味の中心となる。決めつけで人を見る大人の先入観は覆せるのか。各編に丁寧に張られた伏線がどう回収されるのか、ミステリ作家ならではの構成の妙が読みどころとなっている。

2020日本

教室に並んだ背表紙

相沢沙呼

日常の謎青春短編集連作図書室ビブリオミステリ

◆ 事件

中学校の図書室を舞台に、クラスに居場所のない少女、本に挟まれた古い手紙を見つけた図書委員、本を読まずに読書感想文を仕上げようとする少女など、思春期の女子生徒たちが抱える小さな事件と心の揺れを描く全六編の連作集。

◆ 謎

本に興味がないはずの同級生は、なぜ毎日図書室へ来るのか。古い文庫本に挟まれていた手紙の差出人は誰なのか。各編の小さな謎が解かれていく一方、生徒たちにそっと寄り添う学校司書「しおり先生」の存在が全編を静かにつないでいく。

2020日本

鏡影劇場

逢坂剛

歴史・時代サスペンス書誌ミステリホフマン袋とじ

◆ 事件

ギタリストの倉石はマドリードの古書店で手に入れた古楽譜の綴じ込みから、19世紀ドイツの文豪E・T・A・ホフマンの行動を事細かに記した筆者不明の報告書を発見する。解読を進めるうち、手稿の世界は現代日本の倉石たちの周辺と奇妙に呼応し始める。

◆ 謎

報告書を書いた「ヨハネス」とは何者で、なぜホフマンを監視し、その妻ミーシャに宛てて報告していたのか。手稿の中の人間関係と現代の登場人物たちの関係は、なぜ鏡像のように重なるのか。解読を依頼された偏屈な学者・本間鋭太の正体も謎めいていく。

2020日本使用人探偵シズカシリーズ

鏡館の殺人

月原渉

新本格サスペンス館もの使用人探偵

◆ 事件

妾腹の少女たちが暮らす「鏡館」。左右対称に建てられた新旧二つの館には48枚の姿見が配され、富豪の父は年に一度だけ訪れて、政略結婚のための娘を選んでいく。そんな館で、鏡に映る「わたし」の隣に死んだはずの姉が現れ、ついに殺人が起こる。

◆ 謎

鏡に映った死んだはずの姉は何者なのか。鏡面に浮かび上がる殺人予告めいた不吉な文字は、誰が何のために残しているのか。左右対称の新旧館と48枚の姿見という構造を利用した「殺人者は鏡から現れる」という怪異の正体に、使用人探偵シズカが挑む。

2020日本

銀色の国

逸木裕

社会派サスペンスVR自殺現代テーマ

◆ 事件

自殺対策NPO「レーテ」代表の晃佑のもとに、立ち直ったはずの元相談者が自死したという報せが届く。彼は死の直前、VRゲームに異様なほどのめり込んでいた。一方、生きづらさを抱える浪人生の少女は、SNS経由でVRゲーム「銀色の国」へと招かれる。

◆ 謎

「銀色の国」とはいったい何なのか。自助グループを名乗る運営者の正体と目的は何か。遺品のVRゴーグルを手がかりに開発者を追う晃佑の調査と、ゲーム内で案内人に導かれ日々のミッションをこなす少女の体験が交わるとき、恐るべき計画が姿を現す。

2020日本浜中刑事シリーズ

愚者の決断 浜中刑事の杞憂

小島正樹

倒叙本格警察小説やりすぎ本格中編集

◆ 事件

群馬県警捜査一課の浜中康平は、村の駐在所勤務を夢見る心配性ながら、不思議な強運で事件を解決へ導く刑事。本作は犯人側の視点から犯行とその綻びを描く中編二本立てで、周到に偽装されたはずの死をめぐり、浜中がささいな取っ掛かりから核心へ迫る。

◆ 謎

犯人の計画は一見完璧で、死は自殺として処理されかけている。アリバイにも死体の状況にも綻びはないように見えるのに、浜中の「杞憂」めいた引っかかりがどこから真相を手繰り寄せるのか。倒叙ものとして、崩される側の緊張感が読みどころとなる。

2020日本警視庁犯罪被害者支援課

空白の家族

堂場瞬一

警察小説社会派誘拐加害者家族

◆ 事件

人気子役の少女が誘拐され、警視庁犯罪被害者支援課の村野は家族支援のため状況把握に動き出す。少女の父は大規模な未公開株詐欺事件で有罪となった男だった。並行して支援要請のあった火災による不審死が、誘拐事件と奇妙な接点を見せ始める。

◆ 謎

身代金目的とも思えない誘拐犯の狙いは何か。詐欺事件の加害者の家族は、なぜ標的に選ばれたのか。一見無関係な火災死と誘拐はどこでつながるのか。被害者支援という立場から事件に関わる村野の視点で、二つの事件が錯綜していく。

2020日本鯉ヶ窪学園シリーズ

君に読ませたいミステリがあるんだ

東川篤哉

ユーモア青春本格連作作中作学園ミステリ

◆ 事件

高校の「第二文芸部」の部室に迷い込んだ一年生の「僕」は、自称・学園一の美少女である部長の水崎アンナに、彼女が書いたミステリ短編を次々と読まされる羽目になる。音楽室での殺人、狙われたハンドボール部員など、作中作の中で事件が連続する。

◆ 謎

アンナの書く短編はそれぞれ独立した謎解きとして展開するが、読み進めるうちに作中作同士の細部に妙な引っかかりが生じてくる。彼女はなぜこの順番で「僕」に読ませるのか、作中作の連なりに隠された大きな仕掛けは何かが焦点となる。

2020日本竜泉家の一族

孤島の来訪者

方丈貴恵

特殊設定本格クローズドサークル孤島復讐

◆ 事件

幼馴染を謀殺された竜泉佑樹は、復讐のためにテレビ局のADとなり、標的の3人を含むロケ隊9人とともに曰くつきの無人島へ渡る。だが自らが手を下す前に、標的の一人が何者かに殺されているのが発見され、閉ざされた孤島で連続殺人が始まってしまう。

◆ 謎

復讐者である佑樹自身が「自分ではない誰か」による殺人の謎を追うという逆転の構図。閉ざされた島で標的たちを先回りして殺しているのは誰なのか。やがて犯行には人間にはあり得ない要素が絡んでいることが判明し、一行に紛れ込んだ「何か」の正体が謎の中心となる。

2020日本

向日葵を手折る

彩坂美月

青春サスペンス閉鎖的な村成長物語推理作家協会賞候補

◆ 事件

父を亡くした小学六年生のみのりは、母とともに山形の山あいの集落・青塚に移り住む。初めて迎えた夏、盆の「向日葵流し」のために育てられていた向日葵が何者かにすべて切り落とされ、以後も不穏な出来事が相次ぐ。村には「向日葵男」の影が囁かれていた。

◆ 謎

向日葵を手折ったのは誰なのか。集落に伝わる向日葵男とは何者で、なぜ子供たちの周りにばかり怪事が起きるのか。みのりが隼人や怜とともに過ごす四年間の成長の中で、閉鎖的な村の光と闇、そして一連の事件に込められた真意が静かに問われていく。

2020日本高校事変

高校事変V

松岡圭祐

冒険・スパイサスペンス文庫オリジナルクライムアクション

◆ 事件

武蔵小杉高校事変で優莉結衣に救われた少女・濱林澪は、編入先の下見に訪れた農業高校で、結衣の父が起こしたサリン事件の遺族である生徒・沙津希と出会う。教師たちの異様な気配を感じ取った澪は、沙津希の身を案じて結衣に助けを求める。

◆ 謎

平凡に見える農業高校で、教師たちは何を隠しているのか。死刑となったテロリストの娘・結衣を執拗に追い込む公安と、父亡き後の裏社会の再編をもくろむ半グレ勢力の狙いは何か。結衣はふたたび国家規模の陰謀へと巻き込まれていく。

2020日本岬洋介シリーズ

合唱 岬洋介の帰還

中山七里

法廷サスペンスオールスター刑法39条デビュー10周年

◆ 事件

幼稚園で園児らを惨殺し自らに覚醒剤を注射した「平成最悪の凶悪犯」仙街不比等。担当検事の天生は刑法39条による無罪判決を恐れて取り調べに苦慮するが、執務室で突如意識を失い、目覚めると眼前に仙街の射殺死体が。天生自身が殺人の容疑者となる。

◆ 謎

銃声がした時、現場となった検察庁の執務室に出入りできた人間はごく限られていた。天生は本当に犯人なのか、誰がどうやって被疑者を射殺したのか。窮地の旧友を救うため、天才ピアニスト岬洋介が地球の裏側から帰国し、法廷で真相に挑む。

2020日本

告解

薬丸岳

社会派贖罪加害者家族犯罪小説

◆ 事件

大学生の籬翔太は、深夜に飲酒運転で老女をはねて死なせ、恐怖のあまりそのまま逃走してしまう。やがて逮捕されて実刑判決を受けた翔太と、世間の非難に晒されて壊れていく加害者家族、そして最愛の妻を奪われた被害者遺族、それぞれの歳月が描かれる。

◆ 謎

本作はフーダニットではなく、罪と罰を見つめる犯罪小説である。被害者の夫・法輪二三久はなぜ怒りや憎しみをぶつけるのではなく、「やらなければいけないことがある」と加害者の出所をじっと待ち続けるのか。その真意こそが物語全体を貫く謎となる。

2020日本

詐欺師は天使の顔をして

斜線堂有紀

特殊設定異世界転移バディ霊能力詐欺

◆ 事件

相棒の呉塚要との霊能力詐欺で一世を風靡したカリスマ霊能力者・子規冴昼が失踪して三年。突然の連絡を受けた要が指示どおりに動くと、サイコキネシスが当たり前に使われる異世界へ飛ばされてしまう。冴昼はその世界で殺人事件の容疑者として勾留されていた。

◆ 謎

超能力者しかいない街で起きた、「非能力者にしか起こせない」とされる殺人の真相とは何か。奇跡をすべて演出で偽造してきた詐欺師コンビは、本物の奇跡が実在する世界で、トリックの種も本物の霊能力も持たないまま、どうやって冤罪を晴らすのか。

2020日本芸術探偵シリーズ

最高の盗難

深水黎一郎

本格短編集音楽ミステリ芸術探偵

◆ 事件

国際コンクールを制した気鋭のヴァイオリニストの凱旋公演で、時価十数億円のストラディヴァリウスが超満員の音楽ホールから忽然と消え失せる。表題作のほか、ワーグナーをめぐる三部作や純文学的な趣向の一編を収めた、音楽づくしの作品集。

◆ 謎

厳重に人目のある会場から、容易には隠せない名器をどうやって持ち出したのかというハウダニットが焦点となる。犯人はなぜ同じく高価な弓には手を付けなかったのか。芸術探偵・神泉寺瞬一郎が、音楽と楽器の専門知識を武器に「芸術的」な盗難の手口に挑む。

2020日本

罪人の選択

貴志祐介

サスペンス特殊設定短編集SF二者択一

◆ 事件

表題作では1946年夏、戦地から復員した佐久間が、留守中に妻と関係を持った磯部に究極の選択を迫る。目の前に置かれたのは一升瓶の焼酎と缶詰。一方には猛毒が入っており、どちらかを口にして生き延びれば許すという。SFを含む全4編の中短編集。

◆ 謎

焼酎と缶詰、生き残る選択はどちらか。猛毒はどちらに仕込まれ、佐久間の言動に紛れ込んだ手がかりをどう読み解くべきかという緊迫の心理戦が展開される。さらに18年後の1964年を描く後段が、この選択の物語とどう響き合うのかも趣向となる。

2020日本死香探偵

死香探偵 哀しき死たちは儚く香る

喜多喜久

特殊設定本格科学ミステリ文庫オリジナル

◆ 事件

死者の放つ「死香」を食べ物の匂いとして知覚する青年・桜庭潤平と、分析化学者・風間のコンビは、ホームレス襲撃現場に残る二つの死香や、緑茶の香り漂う幼女誘拐事件を嗅ぎ解いていく。だが潤平は何者かに特殊な薬品を浴びせられ、嗅覚を失ってしまう。

◆ 謎

潤平から能力を奪ったのは一体誰なのか。二人の住む高セキュリティのマンションへ届く不審な郵便物の差出人は何者なのか。風間は、潤平と同じ能力を持ちながら歪んだ思想を抱く男・月森の関与を疑い、慎重に調査を進めていく。

2020日本紙鑑定士の事件ファイル

紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人

歌田年

本格サスペンスこのミステリーがすごい!大賞デビュー作プラモデル

◆ 事件

あらゆる紙を見分けられる紙鑑定士・渡部のもとに、「神探偵」と勘違いした女性が浮気調査を依頼してくる。手がかりはプラモデルの写真一枚。やがて、行方不明の妹を捜す女性が妹の部屋にあった一基のジオラマを持ち込み、そこから恐るべき計画の影が浮かび上がる。

◆ 謎

紙の知識と、伝説のプラモデル造形家・土生井の模型の知識を組み合わせて、ジオラマに込められた意味を読み解いていく異色の鑑定ミステリ。ジオラマは何を表しているのか、それが示唆する「大量殺人計画」とは何か、そして消えた妹はどこにいるのかが謎となる。

2020日本芸術探偵シリーズ

詩人の恋

深水黎一郎

本格歴史・時代音楽ミステリ連作シューマン芸術探偵

◆ 事件

シューマンの妻クララのもとに、夫が遺した連作歌曲集『詩人の恋』をめぐる脅迫めいた手紙が届く。詩人の許可なく詩句を改変することが許されなかった時代である。そして約180年後の現代でも、この歌曲集をめぐって不可解な出来事が相次いでいく。

◆ 謎

謹厳なシューマンはなぜ、ハイネの詩にひそかに手を入れるという不正をおかしたのか。その改変の痕跡には何が込められているのか。19世紀のブラームスらによる追跡と、現代の芸術探偵・神泉寺瞬一郎の綿密な楽曲解釈が、歌曲集に隠された秘密に迫る。

2020日本

囚われの山

伊東潤

歴史・時代サスペンス八甲田山実在事件山岳

◆ 事件

1902年1月、八甲田山の雪中行軍演習で210名中199名が死亡する世界山岳史上最大級の遭難事件が起きた。現代、歴史雑誌の編集記者・菅原誠一は、当時の顛末書に「遭難死200名」と記されていることに気づく。公式記録と一致しない「もう一人」の存在の追跡が始まる。

◆ 謎

死者数の食い違いはなぜ生じたのか。記録から消された兵士は誰で、雪の中で何があったのか。1902年の凄絶な遭難の再現と現代の取材が交互に描かれ、菅原は事件発生と同じ1月23日、地元ガイドを伴って猛吹雪の八甲田へと自ら踏み込んでいく。

2020日本

修羅の家

我孫子武丸

サスペンスイヤミス実在事件モチーフ監禁マインドコントロール

◆ 事件

簡易宿泊所暮らしの晴男は、犯罪の現場を中年女性・優子に目撃され、彼女の「家」へ連れて行かれる。そこでは十人ほどの男女が「家族」として暮らしており、おぞましい儀式を経て一員となった晴男は、住人たちが優子に支配され虐待されている実態を知る。

◆ 謎

優子はいかにして血の繋がらない人々を支配し、「家族」同士に監視と制裁を行わせているのか。一方、区役所職員の北島は中学時代の初恋の相手・愛香と再会し、「家」での窮状を聞かされる。誰がこの強固な支配の構造を内側から壊せるのかが焦点となる。

2020日本

十の輪をくぐる

辻堂ゆめ

社会派サスペンス東京オリンピック認知症親子三代吉川英治文学新人賞候補

◆ 事件

スポーツ用品会社で働く泰介は、認知症を患う八十歳の母・万津子を介護しながら、妻とバレーボール部でエースの娘と暮らしている。ある日、母がテレビの五輪特集を見て「私は……東洋の魔女」「泰介には、秘密」と呟き、泰介は母の過去を何も知らないことに気づく。

◆ 謎

五十一年前、紡績工場の女工だった万津子はなぜ故郷の九州を捨て、幼い息子を連れて上京したのか。「東洋の魔女」という呟きの真意と、母が隠し続けた「秘密」とは何か。一九六四年と二〇二〇年、二つの東京五輪の時代を往還しながら親子三代の謎が解かれていく。

2020日本

十字架のカルテ

知念実希人

社会派サスペンス短編集連作医療ミステリ精神鑑定

◆ 事件

精神鑑定の第一人者・影山司に師事することになった新人医師・弓削凛が、凶悪事件の容疑者たちの心の闇と向き合う連作集。容疑者の責任能力をめぐる鑑定の攻防が各話で描かれ、最終話では同僚を刺殺した女・桜庭瑠香子の鑑定が始まる。

◆ 謎

容疑者は本当に病んでいるのか、それとも巧妙な詐病なのか。鑑定室での対話だけを武器に、影山は嘘と真実を見極めていく。凛自身も、九年前に親友を殺されながら加害者が罪に問われなかった過去を抱えており、その事件の真相が連作全体を貫く謎となる。

2020日本隠蔽捜査シリーズ

清明 隠蔽捜査8

今野敏

警察小説キャリア官僚合同捜査中華街

◆ 事件

大森署署長から神奈川県警刑事部長へ異動した竜崎伸也は、着任早々、東京都との境で発見された他殺体の事件に直面する。被害者が中国人と判明すると公安が関心を寄せ、警視庁との合同捜査というやっかいな枠組みの中で捜査が進むことになる。

◆ 謎

被害者は何者で、なぜ殺されたのか。中国側の組織の影がちらつくなか、縄張り意識の強い二つの警察組織の狭間で、原理原則を貫く竜崎がどう事件と組織の摩擦を捌くのか。事件の全貌をマスコミに公表すべきかという政治的判断も焦点となる。

2020日本

生まれつきの花 警視庁花人犯罪対策班

似鳥鶏

特殊設定警察小説社会派差別特殊体質

◆ 事件

容姿・知力・体力に優れ、百合に似た芳香と常人には聞こえない「超話」を持つ特異体質の人々「花人」。温厚で犯罪を起こさないとされてきた花人による、日本初とみられる殺人事件が発生し、捜査一課の火口竜牙と花人警察官・水科此葉が捜査にあたる。

◆ 謎

本当に花人が人を殺したのか。常人には不可能に見える手口はどのように実現されたのか。事件はいったん解決したかに見えたが、続けて第二、第三の犯行が発生する。花人と常人のあいだに横たわる嫉妬や差別の感情が、事件の輪郭を歪めていく。

2020日本

赤い砂

伊岡瞬

サスペンス警察小説感染連鎖自殺デビュー前作品

◆ 事件

男が電車に飛び込み、現場検証にあたった鑑識係は同僚の拳銃を奪って自らを撃ち、電車の運転士も、拳銃を奪われた警察官までもが次々と死を選ぶ。連鎖する自殺を不審に思った刑事・永瀬遼が調べを進める中、大手製薬会社に「赤い砂を償え」という脅迫状が届く。

◆ 謎

なぜ自殺はまるで感染するかのように連鎖していくのか。「赤い砂」とは何を指し、脅迫者は製薬会社にいったい何を償わせようとしているのか。著者のデビュー前に執筆され長く眠っていた、感染の恐怖を予言的に描いたノンストップ・サスペンス。

2020日本

赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。

青柳碧人

本格特殊設定ユーモア短編集童話ミステリ連作

◆ 事件

おしゃれな旅をする赤ずきんが、童話の世界を巡りながら行く先々で死体や事件に出くわす連作集。シンデレラの舞踏会の夜に起きた殺人を皮切りに、ヘンゼルとグレーテル、眠れる森の美女、マッチ売りの少女の世界で、四つの事件と謎解きが繰り広げられる。

◆ 謎

ガラスの靴や魔法といった童話のガジェットが、アリバイや凶器、トリックの手がかりとして機能する。各話の事件の犯人は誰なのか。そしてそもそも赤ずきんはなぜ旅を続けるのか。最終話で旅の真の目的が明かされる連作全体の構成も謎の一つとなる。

2020日本

戦時大捜査網

岡田秀文

警察小説歴史・時代冒険・スパイ戦時下特高謀略

◆ 事件

日本本土への空襲が迫る昭和19年冬、人員を大幅に削られた警視庁特別捜査隊は連続殺人を追っていた。倉庫で見つかったのは、丸刈りに国民服で男装した女の死体。続いて同じ手口で中学校教師が殺され、捜査線上に特高警察や陸軍の影がちらつき始める。

◆ 謎

男装の女と中学教師は何で繋がっているのか。猟奇殺人に見えた事件の背後に浮かぶ「読書倶楽部」なる地下組織の正体とは。捜査を浚おうとする特高、暗躍するもう一つの組織を相手に、戦時下の制約の中で特捜は真相へ迫れるのかが焦点となる。

2020日本

騒がしい楽園

中山七里

社会派サスペンス幼稚園待機児童現代テーマ

◆ 事件

埼玉の山村から都内の幼稚園に転任した保育士・神尾舞子を待っていたのは、騒音クレーム、待機児童問題、モンスターペアレントとの板挟みだった。やがて園で飼育されている小動物が惨殺される事件が起き、園に向けられた悪意は次第にエスカレートしていく。

◆ 謎

動物たちを殺している犯人は誰で、目的は何なのか。クレームを寄せる近隣住民か、不満を抱える保護者か、それとも内部の人間か。幼稚園を取り巻く軋轢が次々と容疑者を浮かび上がらせる中、事件はついに園児の身に危険が及ぶ事態へと発展していく。

2020日本谷根千ミステリ散歩

谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題

東川篤哉

ユーモア日常の謎短編集連作下町

◆ 事件

谷中・根津・千駄木——下町情緒あふれる谷根千の路地裏で、石材店に入りながら何も盗らずに逃げた泥棒、祖母の家の家具や置物が軒並み逆さまにされた事件、風呂場の浴槽に上半身を突っ込んで死んでいた男など、奇妙な事件が次々と持ち上がる。

◆ 謎

居酒屋「鰯の吾郎」の看板娘で女子大生のつみれが持ち込む怪事件の数々を、謎めいた雑貨屋「怪運堂」店主・竹田津優介が散歩がてら解き明かす。泥棒はなぜ何も盗まなかったのか。そして家中の物はなぜ「中途半端に」逆さまなのか。

2020日本

竹林の七探偵

田中啓文

歴史・時代本格短編集中国竹林の七賢安楽椅子探偵

◆ 事件

魏晋の御代、「疑」の国の竹林に集う七人の賢者たちは、俗世の権力を厭い、酒と清談に興じながら「疑案」と呼ばれる謎話を持ち寄って論じ合う。鬼神は実在するか、老子はどこへ消えたのか——史実と伝説の狭間で奇怪な謎が語られる全6編の連作集。

◆ 謎

持ち寄られる疑案は、怪異譚めいた失踪や不可解な死など、一見すると人知を超えた出来事ばかり。七賢それぞれが知恵を競って推理を披露するが議論は紛糾する。果たして誰が、どのように枝葉末節まで筋の通った解決へ辿り着くのかが趣向となる。

2020日本森江春策

鶴屋南北の殺人

芦辺拓

本格歴史・時代歌舞伎幻の戯曲ミステリー・リーグ

◆ 事件

ロンドンで四世鶴屋南北の幻の戯曲が発見され、京都で復活上演されることになる。だが上演準備の進む劇場に死体が出現し、戯曲の内容をなぞるかのような不可解な連続死が、江戸と現代、舞台と現実を交錯させながら起きていく。

◆ 謎

幻の戯曲は『仮名手本忠臣蔵』の登場人物を借りながら、原典とも史実の赤穂事件とも似ても似つかない不可解な内容だった。南北はなぜこのような芝居を書いたのか。戯曲そのものに潜む謎と現代の連続死の謎を、弁護士探偵・森江春策が解きほぐしていく。

2020日本

帝都地下迷宮

中山七里

社会派サスペンス地下鉄廃駅

◆ 事件

鉄道マニアの公務員・小日向は、銀座線の廃駅・万世橋駅へ探検に忍び込み、地下空間でひそかに暮らす約百人の集団に遭遇する。やがてその地下世界で住人の女性が撲殺死体で発見され、警察と公安が廃駅をめぐって動き出す。

◆ 謎

太陽の下に出られないという住人たちは何者で、なぜ政府は彼らの存在を隠すのか。殺された女性は何者で、誰が手を下したのか。地下共同体に取り込まれた小日向は、国家が秘匿する事情と殺人の真相に同時に直面していく。

2020日本狩人シリーズ

冬の狩人

大沢在昌

ハードボイルド警察小説未解決事件新宿

◆ 事件

三年前、H県本郷市の料亭「冬湖楼」で起きた未解決の殺人事件。行方を絶っていた重要参考人・阿部佳奈を名乗る女からH県警にメールが届き、新宿署の佐江刑事の護衛を条件に出頭を申し出る。だが接触の場に殺し屋が現れる。

◆ 謎

出頭の情報はなぜ漏れたのか。県警内部に裏切り者がいるのか。女はなぜ面識のないはずの佐江を指名したのか、そもそも本物の阿部佳奈なのか。冬湖楼事件の背後で誰が何を守ろうとしているのかを、佐江と若手刑事・川村が追う。

2020日本十津川警部シリーズ

東京オリンピックの幻想

西村京太郎

歴史・時代社会派幻の東京五輪昭和史

◆ 事件

2020年東京五輪を控え、警備計画の検討を重ねる警視庁。十津川警部は大会が失敗する可能性も視野に、昭和15年に開催直前で「返上」されたアジア初の東京オリンピックの調査を命じられ、戦時下の関係者たちの足跡をたどり始める。

◆ 謎

幻の東京五輪はなぜ実現しなかったのか。通説の「日中戦争の悪化」の裏に、開催を潰した黒幕は存在したのか。五輪宣伝担当だった古賀大二郎、陸軍の石原莞爾、昭和天皇、米国大統領——歴史の表に出ない思惑を十津川が掘り起こす。

2020日本

透明人間は密室に潜む

阿津川辰海

特殊設定本格短編集本格ミステリ・ベスト10第1位

◆ 事件

細胞の変異で全身が透明になる「透明人間病」が社会に存在する現代日本。透明人間の女が、その透明さを利用して透明人間病を研究する川路教授の殺害を周到に計画し実行する。だが逃走する前に教授の関係者たちが現場に到着し、彼女は殺人現場の部屋に閉じ込められてしまう。

◆ 謎

表題作は犯行の一部始終を読者に見せる倒叙形式。室内に潜んでいるはずの透明人間が、徹底した捜索でもなぜ発見されないのか、そして彼女はなぜ治療を研究する教授を殺したのかという動機の謎が焦点となる。ほかに裁判員評議や超聴覚探偵など趣向の異なる本格全4編を収録。

2020日本

同姓同名

下村敦史

社会派サスペンスイヤミスSNS実名報道誹謗中傷

◆ 事件

六歳女児の惨殺事件で逮捕された未成年の犯人の実名「大山正紀」が週刊誌に暴かれる。その瞬間から、日本中の同姓同名の大山正紀たち――サッカー少年も会社員も就活生も――の人生が音を立てて狂い始める。やがて犯人の出所を機に被害者の会が結成される。

◆ 謎

物語には大山正紀が二十人以上登場し、いまどの「大山正紀」の視点なのか読者にも容易に判別できない。出所した殺人犯はどこに潜み、誰なのか。そして冒頭に置かれた「大山正紀が大山正紀を殺した」という新聞記事は、いったい誰と誰のことなのか。

2020日本作家刑事毒島

毒島刑事最後の事件

中山七里

警察小説サスペンス劇場型犯罪取調べ

◆ 事件

皇居近くで男二人が射殺される「大手町のテロリスト」事件を皮切りに、出版社の連続爆破、女性を狙った硫酸襲撃など、劇場型の凶悪事件が立て続けに起こる。警視庁の毒島刑事は、毒舌の取調べで容疑者たちを追い詰めていく。

◆ 謎

接点のないはずの犯人たちは、なぜ次々と凶行に走るのか。一連の事件の裏には、犯人たちを焚きつける「教授」と呼ばれる人物の影がちらつく。毒島はその正体に迫れるのか。そして本作が「最後の事件」と題される理由とは。

2020日本

縄紋

真梨幸子

イヤミスサスペンス歴史推理作中作

◆ 事件

フリー校閲者・興梠大介のもとへ、自費出版原稿『縄紋黙示録』のゲラが持ち込まれる。意識が縄文時代へ飛んだ人物を描く幻想小説だが、読み進めるうち興梠の周囲で不可解な死が相次ぎ、現実の凄惨な一家殺害事件と記述が重なり始める。

◆ 謎

『縄紋黙示録』の作者は何者で、なぜこの原稿を世に出そうとするのか。貝塚から出土した縄文人骨と現代の事件現場はなぜ酷似するのか。カラス、蛇、鳥居、鏡——原稿に散りばめられた記号が指すものを、興梠と元同僚の市場が追う。

2020日本

日没

桐野夏生

社会派サスペンスイヤミスディストピア表現の自由検閲

◆ 事件

小説家のマッツ夢井のもとに、政府組織「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る差出人からの召喚状が届く。出頭先は断崖に建つ海辺の療養所。「社会に適応した小説」を書くよう命じる所長のもと、囚人同然の、終わりの見えない軟禁生活が始まる。

◆ 謎

療養所は作家の何を「更生」させようとしているのか。これまで収容された作家たちはどこへ消えたのか。マッツに脱出の道はあるのか。国家による検閲と矯正が個人の精神を侵食していく過程そのものが、出口の見えないサスペンスとして読者を締め上げる。

2020日本猫河原家の人びと

猫河原家の人びと 花嫁は名探偵

青柳碧人

ユーモア本格連作長編文庫オリジナル結婚式

◆ 事件

「推理せざる者、食うべからず」が家訓の、一家全員が探偵気質という猫河原家。姉のかおりが結婚を宣言するが、相手は事件の第一容疑者になりやすい体質の男で、新郎側の一家も曲者揃い。両家顔合わせから挙式まで、行く先々で事件が起こる。

◆ 謎

「爪噛温泉殺人事件」をはじめ、結婚式場ならではの設備や習慣を利用した難事件が続発する。「私は名探偵というのが嫌いでね」と宣言する新郎の父との推理バトルの行方は。そして披露宴で起きた事件では、主人公・友紀の謎解きが大ピンチに陥る。

2020日本小市民

巴里マカロンの謎

米澤穂信

日常の謎青春短編集スイーツ約10年ぶりの新刊

◆ 事件

小鳩常悟朗と小佐内ゆきの「互恵関係」は高校2年になっても続いていた。新規開店したパティスリーで小佐内さんが注文したマカロンは3つのはずなのに、皿の上にはなぜか4つ載っていた。お菓子をめぐる不思議な事件を描く〈小市民〉シリーズの短編集。

◆ 謎

注文していない4つめのマカロンは、誰が、何のために紛れ込ませたのか。表題作のほか、チーズケーキ、あげぱん、シュークリームと、スイーツに絡む日常の謎が4編並び、小鳩くんの推理と小佐内さんの「おやつ」への執念が小気味よく交錯する。

2020日本傍聞きシリーズ

緋色の残響

長岡弘樹

警察小説本格短編集連作母娘

◆ 事件

シングルマザーの強行犯係刑事・羽角啓子と、新聞記者を夢見る中学生の娘・菜月。地元の不良青年の殺害、教師の不審死、菜月がかつて通ったピアノ教室での生徒の急死など、母娘の身近で起こる事件を描く連作短編五編を収録する。

◆ 謎

表題作では、ピアノ教室の生徒の死は不慮の事故として処理されかける。だが現場に残る違和感と娘・菜月のささいな行動が、刑事である母の目に別の可能性を映す。各編とも、遺品や古い新聞記事、似顔絵といった細部が真相への鍵になる。

2020日本

法廷遊戯

五十嵐律人

法廷サスペンスメフィスト賞デビュー作映画化

◆ 事件

ロースクール生の久我清義と織本美鈴は、天才・結城馨が主宰する模擬裁判「無辜ゲーム」に参加していた。やがて二人の隠したい過去を暴くような嫌がらせが続き、数年後、法廷で馨自身が刺されて命を落とす事件が発生。被告人となった美鈴の弁護を、弁護士となった清義が引き受ける。

◆ 謎

美鈴は本当に馨を殺したのか。衆人環視の法廷でなぜ殺人が起きたのか。清義と美鈴が施設時代から隠してきた過去とは何か、二人を標的にした嫌がらせの送り主は誰か。そして馨が最後に意図した「審判」の目的が、裁判の進行とともに大きな謎として立ち上がる。

2020日本孤狼の血

暴虎の牙

柚月裕子

ハードボイルド警察小説孤狼の血シリーズ完結編広島極道

◆ 事件

広島の愚連隊「呉寅会」を率いる沖虎彦は、ヤクザをも恐れぬ圧倒的な暴力とカリスマで勢力を拡大していく。昭和57年にはマル暴刑事・大上章吾が沖と対峙し、平成16年には大上の遺志を継ぐ日岡秀一が、出所した沖と再び対決することになる。

◆ 謎

謎解きよりも、警察と極道の暗闘を描くクライムノベル。組織に属さず暴れ回る沖を、ヤクザと警察はどう御し、誰が利用し、誰が裏切るのか。大上から日岡へと受け継がれた「狼」の系譜が、制御不能の「虎」をどう狩るのかが物語の焦点となる。

2020日本

僕の神さま

芦沢央

日常の謎青春連作小学校切ない結末

◆ 事件

「知ってる?川上さん、父親に殺されたらしいよ」。小学校に広がる転校した少女の死の噂は、図書室の「呪いの本」の怪談にまで膨らんでいく。小学五年の「僕」は、学年一小柄なのに大人びた水谷くん——僕らの「神さま」——とともに身近な謎に向き合う。

◆ 謎

祖母の形見である桜の塩漬けの瓶を割ったのは誰か、夏休みの自由研究をめぐる企み、そして川上さんの死の真相。子どもの世界の小さな謎の連なりの先で、なぜ僕らは水谷くんを「神さま」と呼ぶのか、その図式そのものが静かに問い直されていく。

2020日本

僕の目に映るきみと謎は

井上悠宇

特殊設定青春オカルトライト文芸学園

◆ 事件

高校で生徒の自殺が相次ぐ。背後には「受け取った者は次の友引の日に死ぬ、逃れるには友人へ渡すしかない」という呪いの人形・トモビキ人形の噂があった。親友から人形を受け取ってしまった女子生徒が、助けを求めて相談に訪れる。

◆ 謎

連続自殺は本当に呪いの仕業なのか、それとも人為なのか。トモビキ人形はどんな仕組みで人を死へ追いやるのか。怪異を視る霊能探偵の幼馴染・恋子が5W1Hでオカルトを追跡し、臆病な「僕」が助手として捜査を支える。

2020日本

本日はどうされました?

加藤元

イヤミス社会派サスペンス病院証言形式連続不審死

◆ 事件

E病院で入院患者の連続不審死が起こり、疑いの目は一人の看護師に向けられる。噂を聞きつけたフリー記者が、看護師の知人、死んだ患者の家族、隣のベッドにいた患者ら関係者を訪ね歩き、その「証言」だけが一章ごとに積み重ねられていく。

◆ 謎

読者に与えられるのは聞き取られた独白のみで、地の文による説明はない。証言は噂と偏見に塗れて食い違い、看護師は本当に犯人なのか、不審死はそもそも殺人なのかすら判然としない。語られる言葉の裏を読ませる証言構成ミステリの謎が展開する。

2020日本

未来からの脱出

小林泰三

特殊設定サスペンスSFミステリ脱出遺作

◆ 事件

森に囲まれた老人ホームらしき施設で穏やかに暮らす推定百歳のサブロウは、自分が何者でいつ入所したのか全く思い出せないことに気づく。やがて「ここは監獄だ。逃げるためのヒントはあちこちにある」という謎の協力者からのメッセージを発見する。

◆ 謎

この施設は何なのか。メッセージを残した協力者は誰なのか。サブロウは情報通のエリザ、洞察力のドック、工学に強いミッチを仲間に引き入れ脱走計画を進めるが、脱出した先には施設の謎をはるかに超える「未来」の真実が待ち受けていた。

2020日本

夢魔の牢獄

西澤保彦

特殊設定本格タイムリープ過去の事件

◆ 事件

50歳の田附悠成は、就寝中の夢の中でだけ過去の他人に憑依し、その人物の体験を追体験できる奇妙な能力に気づく。やがて夢は22年前、吹奏楽部仲間の結婚式が行われた夜に起きた殺人事件——音楽教師の義理の息子が殺された一件へと繋がっていく。

◆ 謎

過去には一切干渉も改変もできず、憑依した相手の心の裡を読むこともできない。「見る」ことしか許されない追体験だけを頼りに、22年前の殺人の犯人と動機を突き止められるのか。複数の視点を渡り歩くことで、当夜の人間関係の真の構図が浮かび上がる。

2020日本

名探偵のはらわた

白井智之

特殊設定本格連作昭和犯罪史本格ミステリ大賞候補

◆ 事件

大学生の原田亘は、名探偵・浦野灸の探偵事務所で働きながら、一家六人が死亡した放火事件の調査に関わる。やがて昭和犯罪史に名を残す殺人鬼たちが「人鬼」として現代に蘇り、各地で凄惨な事件を引き起こしていく。

◆ 謎

昭和の実在事件をモチーフにした殺人鬼たちは、なぜ、どのようにして現代に蘇ったのか。地獄から鬼を呼ぶ「召儺の儀式」とは何か。人鬼の仕業としか思えない不可能じみた凄惨な事件の数々に、蘇った名探偵と助手「はらわた」こと原田亘が論理で挑む。

2020日本ラストライン

迷路の始まり ラストライン3

堂場瞬一

警察小説文庫オリジナルベテラン刑事

◆ 事件

南大田署管内で深夜、精密機械メーカー勤務の男が殺害される。捜査が難航するなか、同時期に都内の別の場所で殺害された女性経済評論家との接点が浮上。捜査方針をめぐり本部内で孤立したベテラン刑事・岩倉は、外されながらも一人で事件を追う。

◆ 謎

業界も生活圏も異なる会社員と、テレビで活躍する経済評論家は、どこでつながっていたのか。二つの殺人の背後に見え隠れする組織の正体は何か。「事件を呼ぶ」刑事・岩倉の地道な単独捜査が、得体の知れない犯罪組織の輪郭を浮かび上がらせる。

2020日本

夜がどれほど暗くても

中山七里

社会派サスペンスマスコミ加害者家族

◆ 事件

スキャンダル雑誌「週刊春潮」の副編集長・志賀倫成は、大学生の息子が女性講師夫妻を殺害して自死したとされる「ストーカー殺人」の加害者家族として、一夜にして転落する。醜聞を追い報じる側だった男が、群衆とメディアに追われる側に回ることになる。

◆ 謎

息子は本当にストーカー殺人の犯人だったのか。現場の状況には不可解な点が残されていないか。報道と世間の憎悪に晒され、職場でも居場所を失いながら、志賀は事件を調べ直し、被害者の遺族である少女とともに、あの夜に起きたことの真相を探っていく。

2020日本

約束の小説

森谷祐二

新本格サスペンス館もの医療ミステリ新人賞受賞作

◆ 事件

父の訃報を受けた医師・辰史が、名家の後継ぎとして雪深い山中の屋敷を訪れると、先祖代々の掟を固く信じる祖母と、掟で定められた許婚が彼を待っていた。急な後継者候補の登場は正体不明の何者かの反感を買い、部屋が荒らされ、脅迫状が届き、ついに殺人が起きる。

◆ 謎

横溝正史風の旧家を舞台に、一族を縛る掟とは何か、辰史を拒む者は誰かが問われる。脅迫と殺人の裏にある一族の秘密、そして医師である辰史の専門知識が照らし出す違和感——館ものの空気と医療ミステリの謎が二重に重ねられていく。

2020日本

幽霊たちの不在証明

朝永理人

本格青春学園文化祭このミス大賞

◆ 事件

高校の文化祭で、クラスの出し物のお化け屋敷の最中に、首吊り幽霊役に扮していたクラス委員の少女が絞殺死体となって発見される。来場者の前に吊られていた彼女がいつから「本物の死体」にすり替わっていたのか、その場の誰にも分からなかった。

◆ 謎

被害者はいったいいつ、誰に殺されたのか。お化け屋敷の運営の段取りと目撃証言をもとに分刻みで時間を割り出し、級友たちのアリバイをひとつずつ精査して犯人を絞り込んでいく。「幽霊が目撃された時刻」と「死亡した時刻」のずれが推理の鍵を握る。

2020日本

誘拐屋のエチケット

横関大

ユーモアサスペンス連作クライムコメディ

◆ 事件

炎上や不倫、借金で人生崖っぷちの人間を「攫って匿う」ことで問題を解決する裏稼業・誘拐屋。腕利きの田村健一は、お人好しの新人・根本翼とコンビを組まされ、攫った相手の人生相談にまで首を突っ込む相棒のせいで厄介事に巻き込まれていく。

◆ 謎

「エチケット」と題された七つの誘拐仕事は、なぜかどれも妙な縁でつながっていく。ターゲットたちに共通するものは何なのか。寡黙な田村が隠し続ける過去とは。バラバラに見えた挿話の糸が、終盤で一気に手繰り寄せられていく。

2020日本

揺籠のアディポクル

市川憂人

特殊設定本格クローズドサークル無菌病棟パンデミック

◆ 事件

死体が蝋化する感染症が蔓延した世界。外界から隔絶された無菌病棟《クレイドル》で、少年タケルは隻腕の少女コノハと二人だけの日々を過ごしていた。大嵐で病棟が完全に孤立した翌日、コノハはメスで刺されて死んでいた。病棟には限られた人間しかいない。

◆ 謎

ウイルスすら出入りできない無菌病棟で、誰がどうやってコノハを殺したのか。凶器のメスはなぜ廊下に落ちていたのか。容疑は看護師らに向かうが、タケル自身の記憶にも曖昧な部分があり、病棟そのものの在り方にも違和感が積み重なっていく。

2020日本

虜囚の犬

櫛木理宇

イヤミスサスペンス監禁虐待

◆ 事件

元家裁調査官の白石のもとへ、刑事の友人から相談が持ち込まれる。かつて担当した少年・薩摩治郎が安ホテルで殺害され、その自宅からは鎖につながれ衰弱しきった女性が発見された。被害者と思われた男は一転、監禁事件の被疑者となる。

◆ 謎

女性たちを魅了する美しい青年だった治郎は、なぜ監禁と虐待に手を染めたのか。そして治郎自身を殺したのは誰なのか。「茨城飼育事件」と呼ばれる監禁の構図と、プロローグに描かれた鎖の女性の正体をめぐって白石の調査が進む。

2020日本地獄の犬たちシリーズ

煉獄の獅子たち

深町秋生

ハードボイルド警察小説ノワール暴力団潜入捜査

◆ 事件

巨大暴力団・東鞘会の会長氏家必勝が病に倒れ、実子の氏家勝一と神津組の神津太一による跡目争いが勃発する。組織は分裂し、暗殺と裏切りが連鎖する血みどろの抗争へ突入。警察も弱体化した東鞘会を壊滅させようと動き出す。

◆ 謎

下積みもないまま桁外れの資金力で神津組若頭に上り詰めた十朱とは何者なのか。抗争の裏で誰が誰を裏切っているのか。極道たちの愛憎と権力闘争を描くノワールでありながら、周到に伏せられた「仕掛け」が第一級のミステリとして読者に突きつけられる。

2020日本錬金術師シリーズ

錬金術師の密室

紺野天龍

特殊設定本格ファンタジーホムンクルスシリーズ第1作

◆ 事件

錬金術が実在する世界。「魂の合成」に成功し不死を得たと公言する大錬金術師フェルディナント三世が、お披露目の場で、三重に施錠された工房の中、ホムンクルスとともに殺害されているのが見つかる。容疑をかけられた錬金術師テレサらが真相を追う。

◆ 謎

出入口がダストシュートと反射炉のダクトしかない三重密室から、犯人はどうやって脱出したのか。なぜ使用者が特定されてしまう錬成をあえて使ったのか。錬金術という特殊設定のルールを踏まえた上で、密室の論理が厳密に組み立てられていく。

2020日本忘却探偵シリーズ

掟上今日子の設計図

西尾維新

本格ユーモアシリーズ探偵タイムリミット爆破予告

◆ 事件

『學藝員9010』を名乗る人物がウェブ上に爆破予告を投稿し、猶予はわずか9時間。爆弾処理班のエース・扉井あざなと、冤罪体質の青年・隠館厄介の依頼を受けた忘却探偵・掟上今日子が、タイムリミットまでに爆弾と犯人を突き止める捜査に挑む。

◆ 謎

予告された爆破の標的は本当に美術館なのか、爆弾はどこに仕掛けられているのか。そして犯人はなぜ爆破にこだわるのか。眠ると記憶がリセットされる今日子が、建築をめぐる手がかりを読み解きながら、9時間で犯人の正体と動機に迫る。

2020日本濱地健三郎シリーズ

濱地健三郎の幽たる事件簿

有栖川有栖

特殊設定本格短編集心霊探偵シリーズ第2作

◆ 事件

心霊現象専門の探偵・濱地健三郎と助手の志摩ユリエのもとには、今日も奇妙な依頼が舞い込む。駅のホームに佇む影、浴槽で死んだ花婿、部室に出る幽霊——霊が実在する世界で、怪異と人間の事件が絡み合う様を描く全7編の連作短編集第2弾。

◆ 謎

各編で持ち込まれるのは、単なる怪談では片付かない違和感を孕んだ心霊現象。なぜその霊はそこに現れるのか、霊の振る舞いは何を訴えているのか。怪異の背後に人間の悪意や犯罪が潜んでいないかを、濱地が霊視と推理の両輪で見極めていく。

2021日本

Butterfly World 最後の六日間

岡崎琢磨

特殊設定本格青春VRクローズドサークル

◆ 事件

蝶の翅を持つアバターたちが暮らすVR空間〈バタフライワールド〉。あらゆる暴力がシステムで禁じられた世界で、現実に居場所をなくしたアキは、ログアウトせず住み続ける者たちが集う〈紅招館〉を訪れる。ハッキングで館が孤立した翌朝、住人がナイフの刺さった死体となって見つかる。

◆ 謎

誰も他者を傷つけられないはずの非暴力のVR空間で、いかにして人は殺されたのか。そもそもログアウトもせず、食事すら摂らずに館に住み続ける謎の主・紅とは何者なのか。仮想と現実を往還しながら、連続殺人の謎と紅招館に集う人々の事情が解かれていく。

2021日本écriture 新人作家・杉浦李奈の推論シリーズ

écriture 新人作家・杉浦李奈の推論

松岡圭祐

本格サスペンスビブリオミステリ出版業界

◆ 事件

ラノベ作家の杉浦李奈は、雑誌対談で気鋭の作家・岩崎翔吾と知り合う。直後、岩崎の新刊に盗作疑惑が持ち上がり、本人は姿を消した。騒動のドキュメンタリー執筆を依頼された李奈は、調査の過程で岩崎の遺体を発見し、さらに盗作を訴えていた作家・嶋貫まで死体で見つかる。

◆ 謎

岩崎は本当に盗作したのか。二人の作家の死は自殺か、それとも他殺か。芥川と太宰を巡る対談を伏線に、テクストの読解力と出版界の実情を武器とする新人作家・李奈の推理が、盗作疑惑の裏に潜む過去の因縁と事件の構図を掘り起こしていく。

2021日本城塚翡翠シリーズ

invert 城塚翡翠倒叙集

相沢沙呼

倒叙本格短編集読者への挑戦霊媒探偵

◆ 事件

完全犯罪を確信する犯人たちの視点から殺人が実行される倒叙集。同僚を自殺に見せかけて殺すITコンサルタント、部下を手にかけ目撃者の証言操作を試みる元刑事の探偵など、各篇の犯人の前に、霊媒を名乗る不思議な女性・城塚翡翠が現れる。

◆ 謎

犯人は最初から読者に明かされており、焦点は翡翠がどの手掛かりから犯行を見抜き、いかに動かぬ証拠を突きつけるかにある。各篇に読者への挑戦が挟まれ、犯人が残した僅かな痕跡と論理の道筋を読者自身が特定できるかが試される。

2021日本

N

道尾秀介

本格サスペンス実験的構成連作720通り

◆ 事件

上下逆さに交互に印刷された6つの章を、読者が好きな順番で読む実験的長編。ペット探偵の死、異国で働く看護師と少女の死、老人と高校生によるヨウム探し。互いに繋がり合う人々の人生の断片が、それぞれの章で事件と喪失を伴って描かれていく。

◆ 謎

各章には宙吊りの謎が残される。少女オリアナはなぜ死んだのか、ペット探偵・吉岡精一の死の真相は何か。別の章を読むことで初めて手掛かりが補完される構造になっており、6章720通りの読み順が、謎の解け方と物語の「色」を変えていく。

2021日本QEDシリーズ

QED 源氏の神霊

高田崇史

本格歴史・時代歴史薀蓄源平合戦

◆ 事件

京都・亀岡の頼政塚に惨殺死体が放置され、続いて壇ノ浦では碇のオブジェに繋がれた遺体が発見される。源平合戦ゆかりの地で連鎖する殺人事件に、薬剤師にして稀代の歴史探偵・桑原崇と棚旗奈々が巻き込まれ、八百年前の歴史の闇と現代の事件が交錯していく。

◆ 謎

妖怪・鵺を退治して名刀獅子王を拝領し、従三位まで上り詰めた源頼政は、なぜ満たされていたはずの七十七歳の晩年に挙兵したのか。なぜ彼の墓・頼政塚は祟りをなすと伝えられるのか。現代の連続殺人と源平合戦の真実という二重の謎が同時に問われる。

2021日本

あさひは失敗しない

真下みこと

イヤミス青春サスペンス心理サスペンス母娘

◆ 事件

「あさひは失敗しないから」――幼い頃から母にかけられてきたおまじないは、いつしか呪いに変わった。女子大生のあさひは、飲み会で距離が縮まった友人の彼氏との関係、数少ない友人・律子との軋轢、そして母との確執の中で、失敗を許されないまま静かに追い詰められていく。

◆ 謎

「いい子」だったはずのあさひは、なぜ、どんな事件を引き起こすのか。男女関係・友人関係・母娘関係を描く三部構成が進むにつれ、自分の判断に自信を持てない娘と先回りする母の関係の歪みが浮かび、タイトルの「失敗しない」という言葉の意味が問い直されていく。

2021日本

あと十五秒で死ぬ

榊林銘

特殊設定本格短編集デビュー作ミステリーズ!新人賞

◆ 事件

「死までの十五秒」をめぐる四つの短編集。「十五秒」では通り魔に撃たれた主人公が死神から十五秒だけの猶予を与えられ、「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」では首を十五秒以内に繋げば死なない島で首なし死体が見つかるなど、奇妙な制約下の事件が並ぶ。

◆ 謎

残された十五秒で犯人をどう特定し、どう報いるのか。テレビから目を離した十五秒の間にドラマで何が起きたのか。首を繋げば死なない島で、なぜ死体は首を奪われたまま放置され、その身元は誰なのか。一篇ごとに「十五秒」が論理パズルの鍵として機能する。

2021日本

アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実

松岡圭祐

冒険・スパイ本格歴史・時代パスティーシュ昭和

◆ 事件

昭和4年。南仏での盗みに失敗したアルセーヌ・ルパンは、ある噂の真偽を確かめるべく日本へ旅立つ。同じ頃、東京では「黄金仮面」と呼ばれる謎の怪人が出没して世を騒がせていた。明智小五郎と55歳のルパンが、変装を重ねながら近代日本の現実の中で交錯していく。

◆ 謎

黄金仮面の正体は何者なのか。ルパンはなぜ極東の島国までやって来たのか。乱歩『黄金仮面』とルブラン原典に残る数々の矛盾や疑問、大鳥不二子との秘められた恋、そして明智とルパンの因縁に、史実と整合する「真実」の解答が用意されていく。

2021日本

アルテミスの涙

下村敦史

サスペンス社会派医療ミステリ生命倫理

◆ 事件

江花病院に長期入院する閉じ込め症候群の女性患者・愛華が深夜に体調を崩す。当直の産婦人科医・水瀬真理亜が診察すると、全身がほぼ動かせず意思疎通もままならないはずの彼女が妊娠していることが判明し、院内は性加害の疑いに騒然となる。

◆ 謎

寝たきりで身動きできない患者は、いつ、誰によって妊娠させられたのか。院内に加害者が潜んでいるのか、それとも別の真実があるのか。まばたきだけで意思を伝える愛華の「声」を聞き取ろうと、真理亜は真相究明に奔走する。

2021日本アンデッドガール・マーダーファルス

アンデッドガール・マーダーファルス 3

青崎有吾

特殊設定本格怪物人狼19世紀ヨーロッパ

◆ 事件

19世紀末の欧州。生首だけの不死の探偵・輪堂鴉夜と半人半鬼の真打津軽の一行は、ドイツの寒村ホイレンドルフを訪れる。人狼を恐れる人間の村と、隣接する人狼たちの村ヴォルフィンヘーレの双方で、少女ばかりを狙う連続殺人が並行して発生していた。

◆ 謎

人間の村の被害者と人狼の村の被害者、ふたつの連続殺人はどう繋がっているのか。犯人は人間なのか人狼なのか。保険機構ロイズの怪物ハンターや犯罪結社〈夜宴〉も入り乱れる三つ巴の攻防の中、鴉夜が怪物の世界のルールを前提とした推理を組み立てていく。

2021日本

ヴィクトリアン・ホテル

下村敦史

本格サスペンス群像劇ホテル

◆ 事件

百年の歴史を持つ老舗「ヴィクトリアン・ホテル」が最後の営業日を迎える。大女優、スリ、新人作家、宣伝マン、夫に伴われた妻。それぞれの事情を抱えた客たちが集い、最後の一夜に人生の岐路と盗難などの小さな事件が交錯する群像劇が幕を開ける。

◆ 謎

同じ一夜を過ごしているはずの五人の視点は、どこか噛み合わない違和感を孕んでいる。すれ違う人物たちの出会いと偶然はどう繋がっていくのか。読者の前提そのものを試す仕掛けが、最終盤まで静かに張り巡らされている。

2021日本仕立屋探偵 桐ヶ谷京介シリーズ

ヴィンテージガール 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介

川瀬七緒

本格社会派服飾コールドケース

◆ 事件

高円寺の商店街で仕立て屋を営む桐ヶ谷京介は、服飾と美術解剖学の知識から、衣服を見ただけで持ち主の生活や受けた暴力まで読み取れる男。テレビの公開捜査番組で、十年前に起きた身元不明少女の殺害事件と、遺留品である奇妙な柄のワンピースを目にし、独自の調査を始める。

◆ 謎

十年間誰も名乗り出ない被害少女は何者なのか。手作りとおぼしきワンピースの特殊な生地と希少なボタンは、どこで誰の手によって仕立てられたのか。衣服に残された痕跡だけを手がかりに、警察が辿り着けなかった少女の出自と、彼女が生きてきた歳月を復元できるのかが問われる。

2021日本姫川玲子シリーズ

オムニバス

誉田哲也

警察小説短編集

◆ 事件

警視庁捜査一課の姫川玲子率いる姫川班が、大小さまざまな事件に挑むシリーズ第三短編集。「それが嫌なら無人島」「六法全書」「正しいストーカー殺人」「赤い靴」「青い腕」「根腐れ」「それって読唇術?」の七編を収録し、ストーカー殺人から奇妙な遺留品の謎までを描く。

◆ 謎

一編ごとに語り手が交代し、菊田ら班員それぞれの目から見た姫川玲子と事件が描かれる。派手な事件から日常の小さな違和感まで、限られた紙幅でどのように真相へ迫るのか。そしてとりわけ「赤い靴」と「青い腕」の二編が、対になって何を描き出そうとしているのかが本書の核となる。

2021日本

おれたちの歌をうたえ

呉勝浩

ハードボイルドサスペンス暗号ロードノベル昭和直木賞候補

◆ 事件

元刑事の河辺のもとに、旧友・佐登志の死を告げる電話がかかる。佐登志は謎めいた五行詩の暗号を遺しており、河辺はチンピラの茂田とともに、信州の故郷で過ごした少年時代と四十年前のある出来事の記憶を辿る旅に出る。雪の日の死体の記憶が蘇っていく。

◆ 謎

佐登志が遺した五行詩は何を意味するのか。お宝の在り処を示すという噂は本当なのか。そして四十年前、少年たちの間で本当は何が起きたのか。昭和と令和を往還しながら、友情の崩壊と隠されてきた真実が、暗号解読とともに掘り起こされていく。

2021日本

ゴースト・ポリス・ストーリー

横関大

ユーモア警察小説特殊設定幽霊兄妹

◆ 事件

渋谷署の刑事・日樹は、血の繋がらない妹で同じく警察官の聖奈と暮らしていたが、ある夜何者かに刺殺されてしまう。幽霊となった日樹は「未練が解消されると成仏する」など幽霊の七つのルールに縛られながら、刑事となった聖奈をそばで見守り続ける。

◆ 謎

日樹を刺殺したのは誰で、なぜ彼は狙われたのか。兄の跡を継いで捜査に加わった聖奈は目覚ましい働きを見せるが、生前の日樹には警察内部の情報を漏らす内通者ではないかという疑惑がかけられていた。幽霊の兄に真相へ干渉する術はあるのか。

2021日本

サーカスから来た執達吏

夕木春央

本格歴史・時代大正宝探し暗号

◆ 事件

大正14年、莫大な借金を抱えた樺谷子爵家に、サーカス出身の少女・ユリ子が借金取りの執達吏として現れる。担保として差し出された三女・鞠子はユリ子と手を組み、返済のため、明治44年にある名家から密室状況で消えた財宝を探す冒険に乗り出す。

◆ 謎

厳重に守られた場所から忽然と消失した財宝はどこへ消えたのか。手掛かりは絵合わせめいた暗号文。財宝探しを進める二人は、14年前にその名家で起きた番人殺害という未解決事件の影に行き当たる。文字の読めない天才少女ユリ子の異様な地頭が冴えわたる。

2021日本

シリウスの反証

大門剛明

法廷社会派冤罪再審科学捜査

◆ 事件

平成8年、岐阜県郡上郡で棚瀬治一家4人が殺害された「吉田川事件」。犯人として死刑判決を受けた宮原信夫から、25年後、無実を訴える手紙が日本初の冤罪被害者救済団体「チーム・ゼロ」に届く。弁護士や学者のスペシャリスト集団が、確定死刑囚の再審という困難な道に挑む。

◆ 謎

宮原は本当に無実なのか。有罪の決め手となった証拠はどこまで信用できるのか。死刑執行の影に怯えながら進む再審請求の過程で、科学捜査の最後の砦とされてきた指紋鑑定そのものの信頼性が、人間の認知の不思議さとともに根本から問い直されていく。

2021日本

スイッチ 悪意の実験

潮谷験

特殊設定サスペンス本格メフィスト賞デビュー作心理実験

◆ 事件

心理コンサルタント・安楽は大学生6人に奇妙な実験を持ち掛ける。スマホのアプリのスイッチを押せば、見ず知らずの幸福な一家が営むパン屋への融資が打ち切られ一家は破滅する。押しても押さなくても報酬は100万円。そして実験期間中、誰かがスイッチを押した。

◆ 謎

押す理由が何もないのに、なぜスイッチは押されたのか。押したのは6人のうち誰なのか。実験後、パン屋を訪れた参加者たちは想定外の事件を目の当たりにする。安楽が観測しようとする「純粋な悪」は果たして存在するのか、という問いが物語を貫く。

2021日本

テスカトリポカ

佐藤究

サスペンスハードボイルド社会派クライムノベル麻薬カルテル臓器売買アステカ神話直木賞山本周五郎賞

◆ 事件

メキシコの麻薬カルテル抗争に敗れた密売人バルミロは、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカー末永と出会う。二人は川崎を拠点に子どもの心臓を売買する闇ビジネスを始動させ、孤独な巨躯の少年・土方コシモが組織へと引き込まれていく。

◆ 謎

アステカの神話と暴力が支配する組織の内側で、心臓ビジネスの全貌と関係者たちの運命はどこへ向かうのか。バルミロに「戦士」として見出されたコシモが、与えられた「家族」の中で何を学び、最後に何を選ぶのかが物語全体の焦点となる。

2021日本

トリカゴ

辻堂ゆめ

警察小説社会派大藪春彦賞無戸籍未解決事件

◆ 事件

蒲田署の刑事・森垣里穂子は殺人未遂事件の捜査中、無戸籍者たちが身を寄せ合って暮らす集団「ユートピア」の存在に行き当たる。容疑者の少女ハナはリーダー格の青年リョウの妹だった。捜査が彼らの唯一の居場所を壊しかねないことに里穂子は苦悩する。

◆ 謎

25年前、育児放棄され鳥のように鳴くことしかできない状態で保護された幼い兄妹が、施設から何者かに誘拐されて消息を絶った「鳥籠事件」。リョウとハナはこの事件の兄妹なのか。誘拐したのは誰で何のためだったのか。殺人未遂の真犯人と併せ、二つの事件の繋がりが焦点となる。

2021日本那々木悠志郎シリーズ

ぬばたまの黒女

阿泉来堂

特殊設定サスペンスホラー因習村

◆ 事件

井邑陽介は十二年ぶりに道東の寒村へ帰郷し、村の象徴だった三門神社が焼失し、巫女を継ぐはずだった憧れの少女が焼死していたことを知る。やがて焼け跡のそばに建てられた新たな神社で、全身の骨を砕かれた凄惨な死体が発見され、ホラー作家・那々木悠志郎が調査に乗り出す。

◆ 謎

全身の骨を砕くという人間業とは思えない殺し方は、何者の仕業なのか。村人たちが口を閉ざす神社の火事の夜、何があったのか。村に伝わる「黒女」の怪異は実在するのか。怪異と人間の悪意が入り混じる中、帯で予告されてなお見抜けないと評されたどんでん返しが待ち受ける。

2021日本ヒポクラテスシリーズ

ヒポクラテスの悔恨

中山七里

社会派サスペンス法医学解剖

◆ 事件

法医学の権威・光崎藤次郎教授がテレビで司法解剖の現状を痛烈に批判した直後、放送局のサイトに「一人だけ人を殺す。自然死にしか見えない状況で」という犯行予告が書き込まれる。浦和医大法医学教室の真琴と埼玉県警の古手川は、管内の異状死体を片端から洗い直すことになる。

◆ 謎

老衰、病死、事故死。自然死にしか見えない遺体の中に、本当に殺人が紛れ込んでいるのか。犯行予告はなぜ光崎個人に宛てられたのか。解剖のたびにいつになく動揺を見せる光崎は、犯人に心当たりがあるのか。予告者の正体と、光崎の過去に潜む「悔恨」の中身が焦点となる。

2021日本

ペッパーズ・ゴースト

伊坂幸太郎

特殊設定サスペンスユーモア未来予知作中作

◆ 事件

中学の国語教師・檀は、相手の唾液が体内に入るとその人物の翌日の出来事が見える「先行上映」の力を持つ。ある日、教え子の父親が監禁される場面を視てしまった檀は、「カフェ・ダイヤモンド事件」の被害者遺族らが集う組織「サークル」の計画に巻き込まれていく。

◆ 謎

教え子の布藤鞠子が書き継ぐ小説には、猫を虐待した人間に制裁を加える二人組「ネコジゴハンター」のロシアンブルーとアメショーが登場する。なぜ作中作の出来事は現実と奇妙に響き合うのか。サークルは何を企てているのか、檀は視えた未来の惨事を変えられるのか。

2021日本神奈川県警少年捜査課

ボーダーライト

今野敏

警察小説特殊設定横浜伝奇少年犯罪

◆ 事件

神奈川県内で少年犯罪が急増する。少年捜査課の高尾と丸木が調べ始めた矢先、顔見知りの高校生・赤岩が薬物取引の現場で検挙された。横浜では売春や特殊詐欺も多発するが、罪を犯した若者たちの共通点は人気バンド「スカG」のファンであることだけだった。

◆ 謎

なぜスカGのファンばかりが次々と罪を犯すのか。カリスマボーカルのミサキと犯罪の連鎖に関係はあるのか。古代の霊能者・役小角を自らに降臨させるという不思議な少年・賀茂晶の警告とともに、「その少女の歌を聴いてはいけない」という謎が深まる。

2021日本マリア&漣シリーズ

ボーンヤードは語らない

市川憂人

本格警察小説短編集前日譚

◆ 事件

1980年代、もうひとつの世界のU国。空軍基地の「飛行機の墓場(ボーンヤード)」で兵士の変死体が発見され、軍用機部品の横流し疑惑が絡む中、空軍少佐ジョンはフラッグスタッフ署の刑事マリアと漣に非公式の協力を求める。表題作ほか、刑事コンビの過去を描く全四編を収めた短編集。

◆ 謎

厳重に管理された基地内で兵士はなぜ死んだのか。表題作の謎に加え、漣の高校時代に雪上へ残された足跡の謎、マリアの学生時代に立ちはだかる強固なアリバイの謎、そして反目し合う二人がいかにして相棒となったのか。各編で、若き日の二人が対峙した事件への苦い後悔が描かれる。

2021日本

ぼくらはアン

伊兼源太郎

社会派青春無戸籍戦後史

◆ 事件

弁護士事務所で働く諒佑のもとに、幼馴染・誠の捜索依頼が舞い込む。毎年必ず集まると約束した日を前に、誠はなぜ消えたのか。無戸籍の双子、ヤクザの息子、不法滞在のタイ人姉弟――社会の枠組みから外れた5人の子供たちと、18年前に彼らの人生を変えた殺人事件の記憶が甦る。

◆ 謎

誠はなぜ約束を破って姿を消したのか。子供時代、山で彼らを見守った戦争経験者の「じいちゃん」とは何者だったのか。そもそもなぜ諒佑たちは戸籍を持てなかったのか。「アン(un=〜でない)」と呼ばれる、何者でもない子供たちの過去に潜む事件の真相が問われる。

2021日本

マザー・マーダー

矢樹純

イヤミスサスペンス短編集連作毒親

◆ 事件

息子を溺愛し学校や近隣でトラブルを繰り返す母親と、家から一歩も出ず誰も姿を見たことのない引きこもりの息子。周囲の女性たちの視点から、毒親や介護、ママ友関係など「母」をめぐる悪意と事件が連作形式で積み重なっていく。

◆ 謎

各話で語られる事件の裏に、なぜ同じ母子の影がちらつくのか。溺愛されているはずの息子は本当に実在するのか。やがて息子が母親殺しの犯罪者として報じられるに至り、梶原家に隠された秘密の正体が最終話で問われる。

2021日本

まだ人を殺していません

小林由香

サスペンスヒューマンミステリ親子殺人犯の子

◆ 事件

猟奇的な「ホルマリン殺人事件」を起こした男の息子・良世は「殺人犯の子」と世間に晒される。事故で娘を亡くした翔子は、亡き姉が遺した甥の良世を引き取り育てることになるが、言葉を発しない少年は小動物の死や不穏な絵など不気味な行動を重ねていく。

◆ 謎

何を考えているのか分からない良世は、父と同じ残虐性を受け継いでいるのか。首のない赤ん坊の絵やハムスターの死は何を意味するのか。世間の偏見と匿名の悪意に晒されながら、翔子は甥の心の奥にあるものを見極めようとする。

2021日本

ミカエルの鼓動

柚月裕子

社会派サスペンス医療ミステリ直木賞候補手術支援ロボット

◆ 事件

北海道の大学病院で手術支援ロボット「ミカエル」を駆使する心臓外科医・西條は、ロボット医療を担う第一人者。そこへドイツ帰りの天才外科医・真木が赴任する。彼はミカエルを使わず自らの手による開胸手術にこだわり、難病の少年の治療方針を巡って西條と対立する。

◆ 謎

最先端のロボット手術か、人の手による術式か。なぜ真木は頑なにミカエルを拒むのか。病院長が強引に推し進めるミカエル導入の裏には何があるのか。西條を慕っていた若手医師の死をきっかけに、大学病院の構造的な闇が少しずつ姿を現していく。

2021日本

ミステリー・オーバードーズ

白井智之

本格特殊設定イヤミス短編集グルメ悪趣味

◆ 事件

暴食、奇食、人肉食。「食」を題材に悪趣味と精緻なロジックを盛り合わせた全5編の短編集。グルメ探偵の失踪、嘔吐と下痢が交錯する惨劇、大食い大会の怪事件、そして探偵たちの集う館で起きる殺人と、度を越した「過剰摂取」の世界が広がっていく。

◆ 謎

「グルメ探偵が消えた」では失踪の謎、「ちびまんとジャンボ」では大食い大会を巡る事件、最終話「ディティクティブ・オーバードーズ」では館に集った探偵たちの眼前で起きた殺人の真相が問われる。汚穢にまみれた異常な状況から、どんな論理が立ち上がるのか。

2021日本『むかしむかしあるところに、死体がありました。』シリーズ

むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。

青柳碧人

本格特殊設定ユーモア短編集昔ばなし

◆ 事件

「かぐや姫」「おむすびころりん」「わらしべ長者」「さるかに合戦」「ぶんぶく茶釜」。誰もが知る昔ばなしの世界で、やっぱり死体が見つかる。昔ばなしの世界観や道具立てをそのまま生かして殺人事件と謎解きを仕込んだ、人気シリーズ第2弾となる全5編の短編集。

◆ 謎

竹取の翁の屋敷で、ねずみの穴の奥で、猿蟹合戦の仇討ちの裏で。それぞれの物語に潜む原典の不自然な点こそが手掛かりとなる。なぜ臼や栗は動いて仇を討てたのか。昔ばなしの「公式の筋書き」の裏に、どんな事件の真相が隠れているのかが各編の謎となる。

2021日本銘探偵メルカトル鮎シリーズ

メルカトル悪人狩り

麻耶雄嵩

新本格ユーモア短編集銘探偵アンチミステリ

◆ 事件

「銘探偵」を自称し、決して推理を誤らないメルカトル鮎と、振り回される作家・美袋三条のコンビが八つの事件に臨む短編集。動物愛護を掲げたような連続殺人、曜日に縛られた怪事件など、一筋縄ではいかない事件と人を食った探偵の言動が並ぶ。

◆ 謎

各篇の謎解きと同時に、「常に正しい探偵」メルカトルの言動そのものが謎として機能する。なぜ彼は事件が起きる前からすべてを知っているかのように振る舞えるのか。ノックスの十戒など本格ミステリの規範を逆手に取った仕掛けが随所に潜んでいる。

2021日本刑事犬養隼人シリーズ

ラスプーチンの庭

中山七里

警察小説社会派医療カルト

◆ 事件

警視庁の刑事・犬養隼人は、娘の入院仲間だった少年・庄野祐樹の告別式で、遺体に無数の奇妙な痣があることに気づく。少年は退院して自宅療養に切り替えた一か月後に急死していた。やがて同じ痣を持つ自殺死体が見つかり、双方に民間医療団体「ナチュラリー」の冊子が残されていた。

◆ 謎

標準治療を捨てた患者たちはなぜ次々と死んでいくのか。遺体に残る痣は何の痕跡なのか。「ナチュラリー」を率いる祈祷師めいた男・織田豊水は、現代に蘇ったラスプーチンなのか、ただの詐欺師なのか。藁にもすがる患者心理につけ込む構造の全体像と、死の連鎖の真因が問われる。

2021日本ルパンの娘

ルパンの絆

横関大

ユーモアサスペンス泥棒一家シリーズ完結

◆ 事件

泥棒一家・三雲家の娘で「Lの一族」の血を引く華の夫、警察官の和馬がホテルのバーで意識を失い、目覚めるとスイートルームの浴室には女性の死体があった。同じ頃、華のもとには娘を誘拐したと告げ、百億円を要求する犯人からの電話がかかってくる。

◆ 謎

和馬は何者かに殺人の濡れ衣を着せられたのか。娘の誘拐と法外な身代金要求は誰の仕業なのか。同時に起きた事件はなぜ三雲家ばかりを狙うのか。華は一族が触れずにきた禁忌、「Lの一族」のパンドラの箱に手をかけることになる。

2021日本公安外事・倉島警部補

ロータスコンフィデンシャル

今野敏

冒険・スパイ警察小説公安国際謀略

◆ 事件

ロシア外相の来日を控え、「ゼロ」帰りの公安マン・倉島警部補は随行員の行動確認を命じられる。同じ頃、都内でベトナム人男性の殺害事件が発生し、容疑者としてロシア人ヴァイオリニスト・ヴォルコフが浮上。中国担当の盛本も独自に情報を集めていた。

◆ 謎

一介のベトナム人殺害事件に、なぜロシアと中国の影が差すのか。ヴォルコフは本当に殺人犯なのか、外相随行員との接触は何を意味するのか。事件を外事マターと見なさなかった倉島が逡巡するうち、同僚の盛本が消息を絶ってしまう。

2021日本

一九六一 東京ハウス

真梨幸子

イヤミスサスペンスリアリティショー昭和団地

◆ 事件

多額の賞金を懸け、昭和三十六年の団地の暮らしをそっくり再現して生活するリアリティショーが企画される。参加した二組の家族は、カメラの前で昭和の主婦業や近所付き合いを演じるうちに、序列と監視が支配する険悪な空気へと呑み込まれていく。

◆ 謎

楽しいはずの昭和体験は、なぜ底意地の悪い緊張と不穏な出来事の連続に変質していくのか。番組制作陣は何を狙ってこの企画を仕組んだのか。昭和と令和を行き来する語りの中で、六十年前の団地で起きた出来事の影が参加者たちに忍び寄る。

2021日本呻木叫子シリーズ

影踏亭の怪談

大島清昭

本格特殊設定ホラー短編連作ミステリーズ!新人賞

◆ 事件

怪談作家・呻木叫子が自宅マンションで、両瞼を自らの髪の毛で縫い合わされた昏睡状態で発見される。直前まで彼女が取材していたのは、曰くつきの旅館・影踏亭だった。弟は姉の原稿を手がかりに旅館へ向かい、密室状況の怪死事件に遭遇する。実話怪談と本格推理を融合させた連作四編。

◆ 謎

瞼を縫われた怪事は人の仕業か、怪異の仕業か。影踏亭の開かずの間では何が起きているのか。朧トンネルで見つかる首のない遺体、ドロドロ坂の怪、冷凍メロンと不可解な死。各編で怪談の取材記録と不可能状況の謎解きが並走し、論理と超自然のどちらが真相なのかが揺さぶられ続ける。

2021日本使用人探偵シズカシリーズ

炎舞館の殺人

月原渉

本格新本格館ものバラバラ死体

◆ 事件

身体に欠落を抱える者たちが集い、陶芸で身を立てる山奥の函型の館・炎舞館。師匠が行方知れずとなり、後継者を巡って弟子たちの確執が深まる中、窯の中からバラバラ死体が発見される。奇怪なことに、死体はなぜか胴体だけが何者かに持ち去られていた。

◆ 謎

なぜ犯人は死体を切断し、胴体だけを持ち去ったのか。どこを隠し、どこを見せるかという死体損壊に込められた意図とは何か。後継争いに揺れる閉ざされた館で、使用人探偵シズカが、欠落を抱えた住人たちの愛憎とバラバラ死体の論理を解きほぐしていく。

2021日本巷説百物語シリーズ

遠巷説百物語

京極夏彦

歴史・時代本格短編連作妖怪吉川英治文学賞

◆ 事件

江戸末期の遠野。盛岡藩筆頭家老の密命を受けた宇夫方祥五郎は、巷に流れる噂話を集めて報告する役目を負う。菓子司から出て行った座敷童衆、夕暮れに現れる目鼻のない花嫁、迷家に棲みついた流れ者の仲蔵。山に囲まれた小さな町で、怪異めいた噂と厄介事が次々と持ち上がる。

◆ 謎

噂はなぜ生まれ、誰が広めているのか。座敷童衆や顔のない女といった怪異は本物なのか、それとも何者かの仕業なのか。藩政のひずみや家々の醜聞が絡む厄介事が、なぜか怪異の幕引きとともに丸く収まっていく。その背後で糸を引く者の正体と狙いが浮かび上がっていく。

2021日本

花束は毒

織守きょうや

サスペンスイヤミス探偵どんでん返し

◆ 事件

法律家志望の大学生・木瀬は、恩人である幼馴染の真壁に届いた「結婚をやめろ」という脅迫状の調査を、中学時代に知り合った探偵・北見理花に依頼する。真壁にはかつて、教え子への強姦容疑で人生を狂わされた過去があり、調査は否応なくその古傷へと踏み込んでいくことになる。

◆ 謎

脅迫状の差出人は誰で、目的は何なのか。過去の事件は冤罪だったのか、それとも真壁は本当に罪を犯したのか。調べるほどに食い違っていく関係者の証言。依頼人の善意から始まった調査は、やがて、調べない方がよかったのではないかと思わせる場所へ辿り着く。ラスト一行の衝撃が話題を呼んだ。

2021日本

海神

染井為人

社会派サスペンス震災実在事件モデル

◆ 事件

東日本大震災で甚大な被害を受けた三陸の天ノ島。復興の救世主と崇められたNPO法人代表・遠田政吉に、巨額の復興支援金を使い込んだという横領疑惑が浮上する。震災から10年後、島の浜辺で少女が黄金のインゴットを拾ったことをきっかけに、止まっていた事件が再び動き出す。

◆ 謎

命の金はどこへ消えたのか。よそ者の遠田はいかにして島民の信頼を掴み、何を企んでいたのか。地元紙記者・菊池一朗、ボランティアの大学生・椎名姫乃、養護施設職員・堤佳代の三つの視点と、震災直後・2年後・10年後の三つの時間軸が交錯しながら真相に迫っていく。

2021日本捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎

灰いろの鴉 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎

櫛木理宇

警察小説サスペンスシリーズ第1作カラス

◆ 事件

刑務所帰りの男・土橋が老人ホームを襲い、入居者多数を殺傷する事件が発生する。高齢者へのヘイトクライムと見られたが、被害者の一人・吉永欣造が、三十二年前に小学生二人が起こした「老人連れ去り殺人事件」の被害者の息子だと判明する。

◆ 謎

無差別に見えた襲撃は、なぜ三十二年前の事件の関係者に行き着くのか。当時の加害少年たちは今どこで何をしているのか。鴉と心を通わせる異能の刑事・鳥越恭一郎が、警察官だった父との苦い記憶を抱えながら、世代を跨ぐ因縁の構図に迫る。

2021日本

楽園のアダム

周木律

特殊設定本格SFポストアポカリプス

◆ 事件

大災厄により人類が1パーセント未満まで激減してから約千年後の地球。生き残った人々は人工知能カーネに生活を管理され、争いのない平和な日々を送っていた。珊瑚礁の島で育った学生アスムの前で、助教授が南極から連れ帰った「何か」に殺されるという、あり得ないはずの殺人が起こる。

◆ 謎

暴力も殺人も存在しないはずの楽園で人を殺した、南極で捕獲された存在「セジ」とは何なのか。人工知能カーネは何を管理し、人類から何を隠しているのか。災厄後の世界の成り立ちそのものに関わる秘密が、殺人事件の謎と分かちがたく結びついて展開していく。

2021日本刀城言耶シリーズ

忌名の如き贄るもの

三津田信三

本格ホラー民俗ミステリ因習村

◆ 事件

生名鳴地方の旧家・尼耳家には、子に「忌名」を与え、節目の歳に滝へ札を流す儀礼が伝わる。決して振り返ってはならない儀礼の道中で怪異が囁きかけ、やがて儀礼に臨んだ者の周囲で不審な死が発生。怪異譚の蒐集に訪れた刀城言耶が事件に遭遇する。

◆ 謎

儀礼の最中に起きた死は、忌名に憑く魔物の仕業なのか、人間の犯行なのか。振り返った者に禍が起きるという伝承どおりの不可解な状況、村と尼耳家を覆う余所余所しい空気の正体、連続する死の繋がりを、言耶が怪異と論理の両面から検討していく。

2021日本

貴方のために綴る18の物語

岡崎琢磨

日常の謎サスペンス作中作連作

◆ 事件

駅のホームで見知らぬ老紳士から声をかけられた美織は、「ミスター・コント」と名乗る謎の人物が記した18本の短編小説を読み、一字十円・総額百四十三万円で感想を書くという破格の仕事を持ちかけられる。差出人の正体も目的も知らされぬまま、奇妙な読書の日々が始まる。

◆ 謎

ミスター・コントとは何者で、なぜ大金を払ってまで美織に物語を読ませようとするのか。18の短編はなぜ「貴方のため」に綴られたのか。作中作として次々に提示される物語群に隠された繋がりと、この依頼の真の目的が、読み進めるほどに大きな謎として立ち上がる。

2021日本少年探偵・狩野俊介シリーズ

鬼哭洞事件

太田忠司

本格少年探偵因習村

◆ 事件

27年前に消えた母と妹を捜してほしい――私立探偵・野上英太郎にそう依頼した佐方康之が、翌日死体となって発見される。野上と中学二年の少年探偵・狩野俊介は康之の故郷・鳶笊村へ。洞窟の中に建つ奇怪な邸、隣村に伝わる謎の神楽、佐方家の財産を巡る確執が二人を待っていた。

◆ 謎

依頼人はなぜ殺されたのか。27年前、母と妹はなぜ村から消えたのか。神楽が舞われる夜、衆人環視の中で第二の殺人が起こる。冷徹な論理だけで真実を求める新たな「名探偵」烏丸も現れ、人に寄り添おうとする俊介の推理と探偵観そのものが正面から対峙する。

2021日本警視庁公安分析班シリーズ

偽神の審判 警視庁公安分析班

麻見和史

警察小説サスペンス公安潜入捜査ドラマ化

◆ 事件

鑑定士事件の決着がつかぬまま、公安分析班は監視対象の宗教団体・世界新生教の捜査を進め、組織内部に協力者を送り込む潜入工作に乗り出す。そんな中、関係者の沢木が殺害され、教団と正体不明の殺人仲介者「鑑定士」、連続する不審死が複雑に絡み合っていく。

◆ 謎

依頼人とも実行犯とも決して顔を合わせず、メールだけで殺人を仲介する「鑑定士」とは何者なのか。教団の内部では何が進行しているのか。沢木はなぜ殺されたのか。現場に残された矛盾を手がかりに、嘘とフェイクが幾重にも重なった構図の奥にいる本当の敵を探り当てねばならない。

2021日本天久鷹央の事件カルテ

久遠の檻 天久鷹央の事件カルテ

知念実希人

本格医療ミステリ文庫オリジナル

◆ 事件

かつて子役アイドルとして活動していた少女・楯石希津奈が、十五年以上の歳月を経たはずなのに当時とまったく同じ容姿で病院に現れる。精神科部長から診察を依頼された天久鷹央が検査に乗り出した矢先、父親が現れて希津奈は連れ去られてしまう。

◆ 謎

十五年たっても老いない「不老の少女」は実在するのか。ミイラ化した遺体、自殺したはずの人物の復活、転生を思わせる出来事など、新興宗教めいた不可思議な現象が相次ぎ、鷹央はそのすべてに医学的な説明をつけようと挑む。

2021日本

救国ゲーム

結城真一郎

本格社会派限界集落テロ本格ミステリ大賞候補

◆ 事件

都会からの移住者が集う岡山の山奥の"奇跡"の限界集落・奥霜里。地方再生の旗手として知られた元官僚・神楽零士が首なし死体となって発見される。直後、「愛国者にして救世主」を名乗るパトリシアが犯行声明を出し、すべての地方都市を放棄せよ、人質は地方に暮らす八千万人の国民だと宣告する。

◆ 謎

人目につかず集落から神楽の遺体を運び、首を奪ったのは誰か、どうやってか。やがて頭部はドローンの物資運搬ボックスの中から発見される。ドローン配送網に支えられた村でのハウダニットと、神楽の論敵だったパトリシアの正体、国家全体を人質に取る目的が問われる。

2021日本一服堂・一服亭シリーズ

居酒屋「一服亭」の四季

東川篤哉

本格ユーモア短編集安楽椅子探偵

◆ 事件

鎌倉の路地裏にひっそり佇む居酒屋「一服亭」。極度の人見知りの女将・二代目安楽ヨリ子のもとへ、頭や手脚を切断された画家、老舗レストランの首なし死体、海辺の巨岩上で右脚だけを失った遺体など、猟奇的な難事件の話が次々と持ち込まれる全4話の連作集。

◆ 謎

なぜ死体はバラバラにされ、首や脚が持ち去られねばならなかったのか。ほぼ密室状態の現場からバラバラ死体はどこへ消えたのか。各話とも凄惨な死体損壊に潜む「合理的な理由」が中心的な謎となり、手料理をふるまう女将の安楽椅子推理が猟奇を料理していく。

2021日本

虚魚

新名智

特殊設定サスペンス横溝正史ミステリ&ホラー大賞ホラー怪談

◆ 事件

怪談師の三咲は「体験した人が本当に死ぬ怪談」を探し続けている。同居人のカナちゃんは「呪いや祟りで死にたい」と願う少女。ある日「釣り上げた人が死ぬ魚」の噂を聞いた二人は、静岡の川沿いに群発する怪談の発生源を遡る調査の旅に出る。

◆ 謎

釣った者を死なせる「魚」の怪談は実在するのか。なぜ一本の川の流域にだけ、似通った怪談がいくつも蓄積しているのか。怪談は嘘か真か。三咲が死の怪談を求める理由と、カナちゃんの「死にたい」という願いの真意が、旅の中で問い直されていく。

2021日本剣崎比留子シリーズ(屍人荘の殺人シリーズ)

兇人邸の殺人

今村昌弘

新本格特殊設定サスペンスクローズドサークル廃遊園地

◆ 事件

班目機関の研究資料を狙う実業家・成島の依頼で、葉村譲と剣崎比留子は廃遊園地に建つ屋敷「兇人邸」へ潜入する。だが邸内には大鉈を振るう隻腕の巨人が徘徊しており、一行は次々と首を刈られて閉じ込められ、さらに巨人によらない他殺死体も見つかる。

◆ 謎

不死身としか思えない巨人の正体は何者で、なぜ被害者の首を持ち去るのか。巨人の脅威下で起きた、明らかに人間の手による殺人は誰の仕業なのか。邸を支配する元研究者・不木の目的と、班目機関が行っていた実験の真相も問われていく。

2021日本教場シリーズ

教場X 刑事指導官・風間公親

長岡弘樹

警察小説倒叙短編集前日譚ドラマ化

◆ 事件

警察学校の鬼教官として知られる風間公親の、刑事指導官時代を描く連作短編集。轢き逃げで妻を失った男が不起訴となった加害者と対峙する「硝薬の裁き」をはじめ全六編。「風間道場」と呼ばれる実地指導の下、管内で起こる殺人事件に新米刑事たちが挑んでいく。

◆ 謎

各話は犯人側の視点から始まる倒叙形式で進む。一見自殺や事故に見える現場に残されたわずかな違和感を、新米刑事たちが風間の鋭い示唆を頼りに拾い上げていく。完全に見えた偽装のどこに綻びがあるのか、風間はなぜ最初から真相を見抜いているように振る舞えるのかが読みどころとなる。

2021日本剣持麗子シリーズ

元彼の遺言状

新川帆立

本格ユーモアこのミステリーがすごい!大賞弁護士遺産相続

◆ 事件

敏腕弁護士・剣持麗子のもとに、製薬会社御曹司である元彼・森川栄治の死の報せが届く。彼は「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という異様な遺言を残していた。森川家は「犯人選考会」を開き、麗子は犯人候補を名乗る男の代理人として乗り込む。

◆ 謎

インフルエンザをこじらせて病死したはずの栄治を「殺した犯人」は存在するのか。なぜ彼はこんな遺言を残したのか。遺産目当ての犯人候補が殺到する異常な相続争いの中、依頼人を「犯人」に仕立てようと奔走する麗子は、死の真相そのものに踏み込んでいく。

2021日本

原因において自由な物語

五十嵐律人

法廷社会派青春リーガルミステリ作中作いじめ

◆ 事件

人気作家・二階堂紡季は新作「原因において自由な物語」を執筆中、恋人で弁護士の遊佐想護が廃病院から転落して意識不明となる。やがて紡季は、自分が書き進めている小説の内容が、想護の関わっていた実際の事件を克明になぞっていることに気付く。

◆ 謎

想護の転落は事故か、自殺か、それとも事件なのか。小説のプロットはなぜ現実のいじめ事件と重なるのか。容姿を採点するアプリが支配する高校で何が起きていたのか。法律概念「原因において自由な行為」を冠した物語の意味が、調査とともに問われていく。

2021日本

幻月と探偵

伊吹亜門

歴史・時代本格満洲昭和史ホワイダニット

◆ 事件

昭和13年の満洲国。革新官僚・岸信介の秘書が小柳津邸の晩餐会の後に急死し、毒殺の疑いが浮上する。私立探偵・月寒三四郎が真相究明を依頼されるが、邸の主である元陸軍中将・小柳津義稙のもとには「三つの太陽を覚へてゐるか」と記された脅迫状と古い銃弾が届いていた。

◆ 謎

初対面のはずの秘書を、誰が、なぜ毒殺できたのか。脅迫状の「三つの太陽」とは何を指すのか。動機を持つ者には機会がなく、機会を持つ者には動機がないという背馳した状況を前に、月寒は満洲国の闇と旧軍の過去へと踏み込んでいく。

2021日本

黒牢城

米澤穂信

歴史・時代本格戦国籠城安楽椅子探偵直木賞本格ミステリ大賞

◆ 事件

織田信長に叛旗を翻した荒木村重が籠る有岡城。大軍に包囲された城内で、人質の少年が雪に足跡なき納戸で殺され、夜討ちの首級の帰属、僧侶と密使の変死など怪事が続発する。人心の動揺を恐れた村重は、土牢に幽閉した黒田官兵衛に知恵を求める。

◆ 謎

見張りと雪の足跡に守られた納戸で、なぜ人質は殺されたのか。夜討ちで挙がった四つの首の手柄は誰のものか。城内の怪事は誰が何のために起こしているのか。そして敵将であるはずの官兵衛が、なぜ村重に協力するのかという真意も謎として横たわる。

2021日本ラストライン

骨を追え ラストライン4

堂場瞬一

警察小説白骨死体コールドケースシリーズコラボ

◆ 事件

立川中央署に異動したベテラン刑事・岩倉剛を待っていたのは、十年前に失踪した女子高生・真中礼央の白骨遺体の発見だった。当時、交際相手だった同級生・三川が容疑者として浮かんだが証拠はなく、その三川は今や癌に冒され余命わずかの身だった。

◆ 謎

礼央は誰に殺され、なぜ十年間も発見されなかったのか。疑われ続けた三川は本当に犯人なのか。犯罪被害者支援課の村野が遺族のケアに入る中、岩倉の地道な聞き込みが、被害者家族の語ろうとしない歪みを少しずつ掘り起こしていく。

2021日本小余綾俊輔シリーズ

采女の怨霊 小余綾俊輔の不在講義

高田崇史

歴史・時代本格歴史ミステリ民俗学奈良

◆ 事件

フリー編集者・加藤橙子は奈良で采女祭を目にし、華やかな祭礼に強い違和感を覚える。帝の寵愛が衰えたのを苦に猿沢池へ入水した采女を鎮めるはずの祭なのに、肝心の采女神社は池に「背を向けて」鎮座していた。橙子は助手の堀越誠也とともに古代史の闇へ分け入る。

◆ 謎

一介の采女がなぜ千年以上も手厚く祀られ続けるのか。なぜ采女神社は猿沢池に背を向けて建つのか。そして藤原氏が心底怖れたという〈大怨霊〉とは誰なのか。民俗学者・小余綾俊輔の「不在講義」が、壬申の乱まで遡って祭礼に隠された鎮魂の構造を解いていく。

2021日本警視庁監察ファイル

残響 警視庁監察ファイル

伊兼源太郎

警察小説サスペンス監察シリーズ完結

◆ 事件

警察官の不正を取り締まる警視庁人事一課監察係の佐良は、法で裁けぬ悪を私的制裁で処断する庁内の秘密組織「互助会」の全容解明に乗り出す。同僚の皆口菜子、毛利とともに本格的な監察を始めた矢先、監察のトップである警務部長が何者かに狙われる事件が起こる。

◆ 謎

互助会はどこまで警察組織を蝕んでいるのか。警務部長襲撃は警察内部の犯行か、それとも犯罪組織の報復か。そして、佐良と皆口の心に深い傷を残した刑事・斎藤はなぜ殺されたのか――シリーズ三作を貫いてきた謎の数々が、ついにすべて解き明かされる。

2021日本探偵AIシリーズ

四元館の殺人 探偵AIのリアル・ディープラーニング

早坂吝

特殊設定新本格館ものAIクローズドサークル

◆ 事件

犯罪AI・以相が電脳空間で開いた闇オークションで、従姉を殺され復讐を誓う少女が「犯罪」を落札した。阻止に乗り出した探偵AI・相以と助手の輔が辿り着いたのは、山奥に建つ奇怪な館・四元館。電話線は切られ、橋は落ち、孤立した館で遺産相続に絡む殺人が連鎖する。

◆ 謎

クローズドサークルと化した四元館で殺人を重ねる犯人は誰か。オークションを仕掛けた以相の真の狙いは何か。遺産を巡る一族の争いという館もの本格の定石をなぞるかに見える事件の裏で、AIならではの推理と読者の思い込みを突く大胆な仕掛けが進行していく。

2021日本

時空犯

潮谷験

特殊設定本格タイムループSFミステリ犯人当て

◆ 事件

私立探偵・姫崎智弘は、情報工学の権威・北神伊織博士から成功報酬一千万円の奇妙な依頼を受ける。2018年6月1日が千回近く繰り返されているというのだ。ループを認識できる薬を飲んだ八人の検証メンバーが集うが、再開した6月1日に博士が他殺死体で発見される。

◆ 謎

ループを認識できるはずのメンバーの中で、誰が、なぜ殺人を犯すのか。巻き戻るたびに被害者は増え、犯人はタイムリープを駆使して襲いかかってくる。そもそも一日が千回近く繰り返されるという現象の原因は何なのかという、世界規模の謎も並走する。

2021日本

邪教の子

澤村伊智

サスペンスイヤミスカルトホラー二部構成

◆ 事件

ニュータウンに越してきた少女・茜は、新興宗教「コスモフィールド」にすがる親から虐待されているらしい。同級生の慧斗は仲間たちと、囚われの茜を救い出す計画を立てる。前半は子供たちの冒険譚として、後半はテレビディレクターによる教団取材として物語は進む。

◆ 謎

子供たちの「救出作戦」は成功するのか。だが慧斗の語りには、同級生のはずの祐仁が大人びすぎているなど、不自然な違和感が随所に潜む。後半、この記録を読む人物が現れたとき、何が本当で何が嘘なのか、「邪教の子」という言葉が誰を指すのかが問われ始める。

2021日本警視庁公安分析班シリーズ

邪神の天秤 警視庁公安分析班

麻見和史

警察小説サスペンス公安見立て殺人ドラマ化

◆ 事件

赤坂で爆破テロが起き、混乱の最中に与党議員・真藤健吾が殺害される。遺体からは臓器が抜き取られ、傍らには鳥の羽と心臓を載せた天秤と、ヒエログリフが刻まれた板が残されていた。公安部に異動した元刑事・鷹野秀昭ら公安分析班が、古代エジプト神話を模した連続殺人を追う。

◆ 謎

犯人はなぜ臓器を持ち去り、死者の審判を模した天秤を現場に残すのか。使用された爆発物が過去の左翼団体のものと一致するのはなぜか。監視対象の宗教団体は関与しているのか。猟奇的な見立ての裏にある合理的な目的と、捜査の網にかからない犯人の正体が問われる。

2021日本

灼熱

葉真中顕

社会派歴史・時代サスペンスブラジル移民勝ち負け抗争クライムノベル

◆ 事件

1934年、ブラジルの日本人入植地・弥栄村で出会った沖縄出身の勇と日系二世のトキオは無二の親友となる。だが敗戦後、移民社会は日本の勝利を信じる「戦勝派」と敗戦を受け入れる「認識派」に分裂し、テロと暗殺が吹き荒れる抗争に二人も呑み込まれていく。

◆ 謎

玉音放送を聴いてなお、なぜ人々は「日本は勝った」と信じ続けたのか。勝利を伝えるデマ報道は誰が何のために流したのか。抗争で引き裂かれていく勇とトキオの運命と、現代パートで移民史を語る老人の正体が、物語を貫く謎として横たわる。

2021日本

硝子の塔の殺人

知念実希人

新本格倒叙館ものクローズドサークル新本格オマージュ本屋大賞ノミネート

◆ 事件

雪深い山中に大富豪・神津島太郎が建てた、地上11階の硝子張りの塔状の館。ミステリを愛する主の招きで刑事、霊能力者、小説家ら曲者の客が集うが、館の主の毒殺を皮切りに連続殺人が発生し、名探偵を自称する碧月夜と医師・一条遊馬が事件に向き合う。

◆ 謎

外界と遮断された硝子の塔で、施錠された各室に犯人はいかに出入りしたのか。ミステリマニアの主はなぜ殺されたのか、13年前の事件との因縁は何か。古典オマージュに満ちた館を舞台に、「誰が名探偵で誰が犯人か」という構図そのものが揺さぶられる。

2021日本

真夜中のマリオネット

知念実希人

サスペンス医療ミステリ連続殺人

◆ 事件

婚約者を殺害された過去を持つ救急医・秋穂が職場復帰した夜、交通事故で重傷を負った美少年・涼介が搬送されてくる。命を救った直後、刑事が告げる。彼こそ遺体を切り刻む連続猟奇殺人犯「真夜中の解体魔」の容疑者であり、秋穂の婚約者もその被害者の一人だったと。

◆ 謎

涙ながらに「罠にかけられた」と無実を訴える涼介。彼が示す証拠は冤罪を示唆しているように見える。復讐心と疑念の間で揺れる秋穂は涼介とともに真犯人を探し始めるが、解体魔は誰なのか、少年は本当に無実なのか、彼を陥れた者がいるのかが宙吊りにされ続ける。

2021日本

神の悪手

芦沢央

本格サスペンス短編集将棋奨励会

◆ 事件

将棋に魅せられた者たちを描く短編集。プロを目指す奨励会員の苛烈な競争、震災避難所での指導対局、詰将棋作家の業など、盤を挟んだ人間たちの極限の心理が、それぞれの局面で小さな事件や不可解な行動として表出していく。

◆ 謎

収録作「弱い者」では、避難所の指導対局で才能を感じさせる少年が、勝ちの見えた局面で誰の目にも明白な悪手を、一度ならず二度までも放つ。なぜ少年はわざと悪手を指すのか。盤上の不可解な一手の裏にある事情を、対局したプロ棋士が読み解いていく。

2021日本

神よ憐れみたまえ

小池真理子

サスペンス社会派大河小説昭和史

◆ 事件

三井三池炭鉱の爆発事故と国鉄の列車事故が同日に重なった昭和38年の「魔の土曜日」の夜、12歳の黒沢百々子の両親が自宅で何者かに惨殺される。莫大な遺産を残された百々子は、事件の真相を知らぬまま、その後の半世紀におよぶ波乱の人生を歩んでいく。

◆ 謎

両親を殺したのは誰で、なぜ一家が狙われたのか。警察の捜査は実を結ばず、百々子は犯人を知らないまま生きていく。読者だけが知る犯人の影が彼女の人生に寄り添い続けるという構図の中で、真実がいつ、どのような形で彼女に届くのかが緊張の軸となる。

2021日本

推理大戦

似鳥鶏

本格特殊設定ユーモア名探偵推理合戦聖遺物

◆ 事件

世界各国で名を馳せる名探偵たち、AI探偵、超高速思考のクロックアップ探偵、五感の探偵、霊視探偵らが日本に招集される。カトリックの聖遺物を巡って主催者の屋敷で盗難事件が発生し、各国代表の名探偵たちによる前代未聞の推理合戦が幕を開ける。

◆ 謎

前半は各国の探偵の腕前を示す4つの事件、後半は北海道の屋敷に集った探偵たちが聖遺物盗難の謎に挑む頭脳戦。特殊な能力と流儀を持つ探偵たちが同じ謎に挑むとき、誰が最初に真相へ到達するのか。そもそもこの「大会」自体に裏はないのかが焦点となる。

2021日本警視庁総合支援課

聖刻

堂場瞬一

警察小説社会派加害者家族誹謗中傷前日譚

◆ 事件

大物司会者の息子が、元恋人を殺したと出頭してくる。捜査一課の女性刑事・柿谷晶が取り調べに当たるが、男は犯行を認める一方で動機については頑なに口を閉ざす。一家にはネット上の誹謗中傷が殺到し、加害者家族は終わりのない悪意に晒されていく。

◆ 謎

なぜ被疑者は動機だけを語ろうとしないのか。著名人一家への過熱するバッシングの陰で何が起きているのか。自身も加害者家族としての過去を持つ晶は、家族に張り付いて事件の背景を探るが、事態は最悪の方向へと転がり始める。

2021日本心霊探偵八雲シリーズ

青の呪い 心霊探偵八雲

神永学

特殊設定青春サスペンス共感覚学園番外編

◆ 事件

人の声が色として見える共感覚の持ち主・琢海は、"青い"声を持つ少女・真希に頼まれ、学校に伝わる「呪われた絵」を調べ始める。その矢先、美術室で美術部顧問の教師が殺害される事件が発生。秘密を抱えた琢海の前に、死者の魂が見える孤高のクラスメート・斉藤八雲が現れる。

◆ 謎

呪われた絵には本当に人を死なせる力があるのか。美術教師を殺したのは誰か。そして琢海が抱える、真希に関する秘密とは何か。感情で形を変え嘘で黒く濁る色を見る琢海の共感覚と、死者の声を聞く八雲の左眼、見える世界が違う二人の推理が交錯する。

2021日本館四重奏シリーズ

蒼海館の殺人

阿津川辰海

新本格青春館ものクローズドサークル災害

◆ 事件

紅蓮館の事件で名探偵としての自信を失い、不登校となった葛城輝義を連れ戻すため、田所は葛城家の本邸・青海館を訪れる。折からの豪雨で河川は氾濫寸前となり、政治家や医師を輩出した名家の館を舞台に、当主一族を狙う連続殺人が幕を開ける。

◆ 謎

迫る洪水で館ごと水没すれば、探偵も犯人も全員が死ぬ。その極限状況の中で、誰が何の目的で一族を殺していくのか。事件の裏で全体を操る「蜘蛛」と呼ばれる黒幕の正体は誰か。そして打ちのめされた葛城は探偵として再起できるのかが焦点となる。

2021日本市立高校シリーズ

卒業したら教室で

似鳥鶏

日常の謎青春学園作中作

◆ 事件

卒業の季節を迎えた市立高校。後輩の秋野麻衣が、真っ暗なCAI室に鍵をかけ、電源も入れないパソコンに向かう何者かを目撃したと相談を持ちかける。それは校内八番目の七不思議、神出鬼没の「兼坂さん」らしい。葉山君たちが真相解明に乗り出す、シリーズ五年ぶりの新作長編。

◆ 謎

施錠された暗闇の教室で「兼坂さん」は何をしていたのか。目次に並ぶ「未来──12年後」「異世界──王立ソルガリア魔導学院」という学園ミステリらしからぬ章は何を意味するのか。そしてシリーズ積年の謎、なぜ伊神さんは卒業後も事件解決に協力し続けるのかにも答えが与えられる。

2021日本

大鞠家殺人事件

芦辺拓

本格歴史・時代戦時下大阪・船場旧家推理作家協会賞本格ミステリ大賞

◆ 事件

戦時下の昭和18年、大阪・船場で婦人化粧品商として栄えた大鞠家に、陸軍軍人の娘・美禰子が嫁ぐ。夫は軍医として出征し、残された旧家では当主の変死を皮切りに、空襲の影が迫る中、一族を襲う連続殺人と怪異めいた出来事が相次いでいく。

◆ 謎

商家のしきたりと戦時統制に縛られた閉鎖的な一族の中で、誰が何のために殺人を重ねるのか。明治期から語り継がれる怪異と現在の事件はどう繋がるのか。物語の冒頭、病床で「みんな殺した」と告白する人物の正体も、読者への仕掛けとして提示される。

2021日本

転がる検事に苔むさず

直島翔

社会派法廷検察デビュー作警察小説大賞

◆ 事件

夏の夜、若者が高架鉄道から転落し、走ってきた車に撥ねられて死亡する。自殺か他殺か判断に迷う刑事課長は、飲み友達の検事・久我周平に相談を持ちかける。出世コースを外れて罰金刑ばかり扱う窓際の久我だが、遺体の検分には豊富な経験を持っていた。

◆ 謎

遺体の靴に残る不自然な傷は、転落に他者が関与した可能性を示していた。死んだ若者は何者で、なぜ転落したのか。交番巡査や新人女性検事の倉沢とともに身辺を洗ううち、高級外車をめぐる海を越えた取引が浮かび上がってくる。

2021日本剣持麗子シリーズ

倒産続きの彼女

新川帆立

社会派ユーモア弁護士企業ミステリ

◆ 事件

婚活中のぶりっ子弁護士・美馬玉子は、先輩の剣持麗子とともに、倒産危機の老舗アパレル・ゴーラム商会から「会社を倒産に導く女」と噂される経理課員の身辺調査を依頼される。調査の最中、総務課長・只野愛子の首を切られた遺体が発見され、同僚弁護士も刺されて意識不明に陥る。

◆ 謎

勤め先が次々と倒産していくという女の正体と目的は何か。なぜ総務課長は首を切断された姿で発見されたのか。弁護士への襲撃は誰の仕業なのか。「連続殺法人事件」とも呼ぶべき企業の連続倒産の裏に潜む仕組みと、無関係に見える事件群をつなぐ糸が問われる。

2021日本倉持・深江シリーズ

冬華

大倉崇裕

ハードボイルドサスペンス山岳ミステリアクション

◆ 事件

月島の便利屋・倉持の相棒で、元自衛隊特殊部隊の凄腕・深江が突然姿を消した。行方を追う倉持に何者かから強い警告が届く。「警察の方から来た男」儀藤の協力でようやく所在を掴むが、その先に待っていたのは厳冬の北アルプス、白く凍てつく穂高の稜線だった。

◆ 謎

殺しも辞さない歴戦の深江は、なぜ何も告げずに倉持の前から失踪したのか。彼を待ち受ける罠を仕掛けたのは何者なのか。雪山の稜線で深江を狙う謎の狙撃の名手の正体と、その狙撃依頼の出所が、極限の山岳アクションとともに解き明かされていく。

2021日本ガリレオシリーズ

透明な螺旋

東野圭吾

本格サスペンスガリレオ母子DV

◆ 事件

房総沖で男性の銃殺死体が発見される。被害者は上辻亮太。同居していた恋人の島内園香は、親しくしていた絵本作家・松永奈江とともに姿を消した。捜査線上に天才物理学者・湯川学の名が浮かび、草薙と内海は横須賀で過ごす湯川を訪ねて協力を仰ぐ。

◆ 謎

上辻を撃ったのは誰か。園香と奈江はなぜ逃げ続けるのか。そして事件関係者と湯川の間にどんな接点があるのか。タイトルの「螺旋」=DNAが示すとおり、母と子の血の繋がりを巡る系譜が、事件の構図と湯川自身の過去に静かに絡み付いていく。

2021日本

同志少女よ、敵を撃て

逢坂冬馬

冒険・スパイ歴史・時代サスペンスアガサ・クリスティー賞本屋大賞独ソ戦狙撃手

◆ 事件

独ソ戦下の1942年、モスクワ近郊の村がドイツ軍に襲われ、少女セラフィマは母を狙撃手イェーガーに撃ち殺される。赤軍の女性兵士イリーナに「戦いたいか、死にたいか」と問われた彼女は、復讐を誓って女性狙撃兵訓練学校に入り、スターリングラードの激戦へ赴く。

◆ 謎

母を撃ったイェーガーへの復讐は果たせるのか。焼け落ちた村に何があったのか、教官イリーナの真意はどこにあるのか。そして「敵を撃て」という言葉の「敵」とは誰を指すのか。戦場を生き抜くセラフィマの先に、タイトルに込められた問いの答えが待っている。

2021日本

二十面相 暁に死す

辻真先

歴史・時代本格ユーモア少年探偵団戦後オマージュ

◆ 事件

敗戦後の1946年春。疎開していた少年探偵団の団員たちが東京へ戻り始めた頃、怪人二十面相が再び暗躍を始める。羽柴家には明智小五郎と小林少年の偽者が現れ、銀座の美術店では中世の魔道書が、名古屋の映画館では国宝級の屏風絵が、これ見よがしの手口で奪われていく。

◆ 謎

神出鬼没の二十面相はなぜ偽明智と偽小林を仕立て、派手な犯行を重ねるのか。一連の盗みの真の狙いは何か。そして奥多摩の学園建設予定地で訪れる名探偵との直接対決の行方は。題名が予告する「二十面相の死」が何を意味するのかが、焼跡の残る戦後の風景を舞台に問われていく。

2021日本

熱風団地

大沢在昌

冒険・スパイサスペンス団地国際謀略バディもの

◆ 事件

あがり症で冴えない語学の達人・佐抜は、NPO法人を名乗る坂東から「来日しているはずの小国ベサールの王子を探してほしい」と依頼される。相棒はベサール人とのハーフで元女子プロレスラーのヒナ。手がかりを追って二人は外国人住民が集住する団地へ向かう。

◆ 謎

簡単なはずの人探しは、なぜか妨害と尾行だらけの難事件に変わる。依頼主のNPOは何者で、誰が何のために王子を狙うのか。クーデター後のベサール王位の行方をめぐり、団地に集う人々と大国の思惑が複雑に交錯していく。

2021日本

能面鬼

五十嵐貴久

サスペンスイヤミス復讐劇スラッシャー

◆ 事件

名門私大のサークル「ヒートウェーブ」の新歓コンパで、無理矢理酒を飲まされ続けた新入生・諸井保が急性アルコール中毒で死亡した。保身に走ったメンバーたちは死因を偽装して事件を隠蔽する。一年後、保の実家の寺で営まれる一周忌法要に、彼らは何者かによって招集される。

◆ 謎

法要の場に現れた、能面の鬼に扮した連続殺人者の正体は誰なのか。なぜ一年前の隠蔽を知る者たちが一堂に集められたのか。閉ざされた寺で関係者が次々と惨殺されていく中、自らの罪に怯える者たちの疑心暗鬼が膨れ上がり、地獄のような一夜が幕を開ける。

2021日本能面検事

能面検事の奮迅

中山七里

社会派法廷検察大阪文書改竄

◆ 事件

学校法人荻山学園への国有地払い下げをめぐり、近畿財務局職員の収賄疑惑が浮上する。大阪地検特捜部が捜査に乗り出すが、今度は特捜部検事による決裁文書改竄の疑いが持ち上がり、最高検の監察チームに「能面検事」不破俊太郎も招集される。

◆ 謎

なぜエリート検事は危険を冒してまで決裁文書を改竄したのか。国有地の払い下げ先はなぜ不自然に変更されたのか。森友問題を思わせる疑獄の構図の裏側で、事件関係者たちの二十年前の過去が静かに、深く絡み合っていく。

2021日本

廃遊園地の殺人

斜線堂有紀

本格サスペンスクローズドサークル廃墟宝探し

◆ 事件

プレオープン中の銃乱射事件で開園することなく閉じられた遊園地イリュジオンランド。廃墟コレクターの資産家・十嶋庵が二十年ぶりに門を開き、「宝を見つけた者に園を譲る」と招待客を集める。宝探しが始まった翌朝、串刺しの着ぐるみ死体が見つかり、連続殺人が幕を開ける。

◆ 謎

電波の届かない山中で外部と隔絶された招待客たち。広大な園内で誰がどう手を下したのか、被害者はなぜ着ぐるみ姿で殺されたのか。そして二十年前、四人を殺して自殺したとされる青年の銃乱射事件の真相が、現在の殺人と少しずつ重なっていく。

2021日本

白鳥とコウモリ

東野圭吾

社会派サスペンス加害者家族被害者遺族罪と罰

◆ 事件

東京の竹芝桟橋近くで弁護士・白石健介の刺殺死体が発見される。捜査線上に浮かんだ愛知の男・倉木達郎は犯行を自供し、さらに時効が成立した1984年の金融業者殺しも自分の仕業だと告白する。事件は解決に見えたが、自供には不可解な点が残されていた。

◆ 謎

倉木の自供はなぜ細部で食い違うのか。加害者家族となった倉木の息子・和真と、遺族である白石の娘・美令は、それぞれ父の言動への違和感から独自に調べ始める。三十数年前の事件と現在の殺人がどう繋がっているのかが核心の謎となる。

2021日本刑事・三ツ矢秀平シリーズ

彼女が最後に見たものは

まさきとしか

警察小説社会派身元不明死体家族

◆ 事件

クリスマスイブの夜、新宿の空きビルで五十代とみられる女性の遺体が発見される。身元不明の彼女の指紋は、千葉県で起きた男性刺殺の未解決事件の現場に残された指紋と一致した。警視庁の三ツ矢秀平と所轄の田所は、ホームレスだった女性・松波郁子の足取りを辿り始める。

◆ 謎

郁子はなぜ住まいを失い、路上で生きることになったのか。千葉の刺殺事件の現場に彼女がいたのはなぜか。誰が何のために彼女を殺したのか。捜査が掘り起こすのは複数の家族の崩壊の軌跡であり、彼女が死の間際に「最後に見たもの」が何だったのかが、題名そのものの謎として迫り上がる。

2021日本

不可逆少年

五十嵐律人

社会派サスペンスリーガルミステリ少年法家庭裁判所

◆ 事件

13歳の少女・詩緒が3人の男を殺害する事件が発生。刑事未成年のため罰せられない彼女に世間は激しく動揺する。数年後、家庭裁判所調査官の瀬良は、電車内で他人の髪を切る「カミキリムシ」事件や少女の覚醒剤所持事件の調査を通じて、過去の事件の影に直面する。

◆ 謎

罪を犯した少年たちは本当に更生できるのか。一見ばらばらに見えるカミキリムシ事件、覚醒剤所持、そして新たに発見された青年の遺体は、どこでどう繋がっているのか。少年法が引く「14歳」の線の意味と、詩緒の事件の本当の構図が改めて問われていく。

2021日本

北緯43度のコールドケース

伏尾美紀

警察小説社会派江戸川乱歩賞北海道未解決事件

◆ 事件

札幌の倉庫で幼い少女の遺体が発見される。5年前に未解決のまま終わった誘拐事件の被害者・島崎陽菜だった。博士号を持ちながら30歳で北海道警に入った沢村依理子が捜査に加わるが、単独行動を咎められて外され、やがて捜査資料の漏洩疑惑まで掛けられる。

◆ 謎

容疑者とされた男はすでに死亡している。陽菜は誘拐から発見までの5年間、どこで誰と過ごしていたのか。事件に共犯者はいたのか。当時の捜査資料を新聞にリークしたのは誰なのか。組織の壁に阻まれながら、沢村がコールドケースの真相に迫っていく。

2021日本本所署〈白と黒〉の事件簿

無垢の傷痕 本所署〈白と黒〉の事件簿

麻見和史

警察小説本格短編集連作下町バディもの

◆ 事件

縁起の悪い名前ゆえに超ネガティブ思考の本所署刑事・黒星達成は、元看護師の経歴を持つ白石雪乃巡査長と組まされる。星型の傷を刻まれた変死体、美容外科医の妻の絞殺、台風の夜の轢き逃げ死体など、東京の下町で奇妙な事件が相次いで起こる。

◆ 謎

遺体や現場に残された「傷痕」は何を語るのか。警察を挑発するメモを残した犯人は誰か。関係者全員に動機とアリバイがある絞殺事件はいかにして解かれるのか。おっとりした白石の観察眼が、見過ごされた手がかりを静かに掬い上げていく。

2021日本堀内・伊達シリーズ

熔果

黒川博行

ハードボイルド大阪犯罪小説元刑事コンビ

◆ 事件

大阪府警のマル暴刑事だった堀内と伊達は、警察を離れた身でありながら五億円相当の金塊強奪事件に目をつける。事件の裏に下関港で発生した金塊密輸事件との繋がりを嗅ぎ取った二人は、まだ押収されていない金塊の行方を追って動き出す。

◆ 謎

強奪された金塊はどこに消え、誰が筋を引いたのか。密輸ルートと強奪犯はどう繋がっているのか。金塊に群がるヤクザ、半グレ、外国人密輸集団、さらには汚職警官の思惑が入り乱れ、二人は命懸けの争奪戦に巻き込まれていく。

2021日本

雷神

道尾秀介

サスペンス社会派家族過去の事件神シリーズ

◆ 事件

藤原幸人のもとに一本の脅迫電話がかかり、封印してきた記憶が動き出す。三十年前、故郷の村の祭りで毒入りの神酒により死者が出ており、その前年には幸人の母が不審な死を遂げていた。幸人は姉の亜沙実、娘の夕見とともに雪深い村へ戻り、過去を辿る。

◆ 謎

母はなぜ死んだのか、祭りの毒殺事件の犯人は誰だったのか。そして三十年を経た今、一家を脅迫する者の正体と目的は何か。村に伝わる雷神の祭りと、家族それぞれが抱えてきた秘密が絡み合い、過去と現在のふたつの謎が並走して進んでいく。

2021日本

連弾

佐藤青南

警察小説サスペンス音楽ミステリ二時代構成

◆ 事件

都内の小さな公園で男の死体が発見され、特別捜査本部が設置される。捜査一課の音喜多弦は、遺留品のクラシックコンサートのチケットを手がかりに、高名な指揮者・篁奏の周辺を洗い始める。殺された男は、篁の「恩人」を自称する人物だった。事件の鍵を握るのはベートーベン。

◆ 謎

被害者と指揮者の間にはどんな因縁があるのか。物語は2019年の捜査と、少女ピアニスト・弥生と彼女が音楽の道へ導いた少年を描く1984年とがカットバックで進行し、二つの時代を繋ぐ「追憶と血塗られた殺人の旋律」の正体が少しずつ浮かび上がっていく。

2021日本

老い蜂

櫛木理宇

サスペンス警察小説社会派高齢化ストーカー

◆ 事件

友安小輪と恋人の暮らすアパートに見知らぬ老人が現れ、昼夜を問わない執拗な嫌がらせが始まる。やがて若い夫婦が何者かに襲われて夫が殺害され、妻が連れ去られる事件が発生。子供の頃に姉を殺された過去を持つ刑事が捜査に当たることになる。

◆ 謎

老人はなぜ見ず知らずの若い女性たちに付きまとうのか。襲撃事件と嫌がらせの老人は同一の存在なのか。捜査が進むうち、二十年前に若い女性ばかりが犠牲になった連続殺人事件との繋がりが浮かび上がり、老いた悪意の正体が問われる。

2021日本

老虎残夢

桃野雑派

本格特殊設定歴史・時代江戸川乱歩賞武侠百合

◆ 事件

南宋の時代、湖に浮かぶ孤島の楼閣・八仙楼で、武術の大家・梁泰隆が遺体となって発見される。三人の武侠を招き、うち一人に奥義を授けると告げた矢先のことだった。弟子であり恋人でもある女性武侠・蒼紫苑が、師父の死の真相究明に乗り出す。

◆ 謎

唯一の船は島側に残され、武芸の達人たちをもってしても侵入不可能に見える「湖上の密室」。誰が、いかにして泰隆を殺したのか。内功の達人には毒が効かず、軽功の使い手は足跡を残さないという武侠世界の理の中で、授けられるはずだった奥義の正体も謎を深める。

2021日本

六人の嘘つきな大学生

浅倉秋成

サスペンス青春本格就活犯人当て伏線回収本屋大賞ノミネート

◆ 事件

急成長中のIT企業スピラリンクスの新卒採用最終選考で、六人の就活生にグループディスカッションが課される。当日、会場には六人それぞれの「裏の顔」を告発する六通の封筒が仕込まれており、内定を懸けた議論は互いの罪を暴き合う糾弾の場へと変貌する。

◆ 謎

告発文書を仕込んだ犯人は六人の中の誰で、目的は何だったのか。八年後、当時の参加者たちへの取材で語られる証言は食い違い、誰もが嘘つきに見える。やがて死亡した波多野が遺した資料を手掛かりに、あの密室の一日の真実が再検証されていく。

2021日本嗤う淑女

嗤う淑女二人

中山七里

イヤミスサスペンス悪女連続殺人

◆ 事件

高級ホテルの宴会場で十七人が毒殺され、犠牲者である国会議員の手には〈1〉と記された紙片が残されていた。防犯映像には医療刑務所から脱走した連続殺人犯・有働さゆりの姿が映る。その後もバス爆破や校舎放火など、番号札を伴う凶悪事件が続発する。

◆ 謎

無差別テロにしか見えない事件群に、なぜ番号札と有働さゆりの痕跡が必ず残されるのか。脱走犯さゆりの背後で糸を引いているのは誰か。二人の「嗤う淑女」それぞれの目的と、犠牲者たちに共通するものは何かが問われていく。

2021日本忘却探偵シリーズ

掟上今日子の鑑札票

西尾維新

特殊設定サスペンス忘却探偵シリーズ転換点

◆ 事件

眠るたびに記憶がリセットされる忘却探偵・掟上今日子が、病室で重役が狙撃された事件を調査中、自らも頭部を撃ち抜かれる。一命は取り留めたものの、今日子は探偵としての能力を失ってしまい、隠館厄介は変わり果てた彼女とともに狙撃犯を追うことになる。シリーズ第十三作。

◆ 謎

重役と今日子を撃った狙撃手は何者で、なぜ今日子を狙ったのか。眠ると記憶を失う体質は、そもそもなぜ生まれたのか。事務所の天井の文字や、海外で目撃された今日子そっくりの人物など、シリーズに張られてきた伏線が束ねられ、忘却探偵の隠された過去そのものが謎の中心となる。

2021日本

琥珀の夏

辻村深月

社会派サスペンスカルト記憶友情

◆ 事件

かつて「ミライの学校」と呼ばれた合宿型の教育団体の跡地から、子どもの白骨死体が発見される。弁護士の近藤法子は関係者からの依頼をきっかけに、小学生時代に夏合宿で出会った少女ミカの記憶と向き合いながら、三十年前の出来事を調べ始める。

◆ 謎

発見された白骨は誰のものなのか。あの夏、泉のほとりの施設で子どもたちに何が起きていたのか。法子とミカ、ふたつの視点から語られる記憶は少しずつ食い違い、理想を掲げた共同体の内側に隠されていた出来事が次第に浮かび上がっていく。

2021日本理瀬シリーズ

薔薇のなかの蛇

恩田陸

新本格サスペンスゴシック英国古城

◆ 事件

英国・ソールズベリー近郊にそびえる薔薇の形の古城ブラックローズハウス。当主の誕生パーティに招かれた水野理瀬が滞在するさなか、首を切断され胴を両断された死体が祭壇に供物のように飾られるという猟奇殺人「祭壇殺人事件」が発生する。

◆ 謎

死体はなぜ残酷な「祭壇」として演出されたのか。レミントン家に伝わる聖杯伝説や秘密結社めいた「兄弟団」の影、そして理瀬とヨハンがこの地を訪れた本当の目的とは何か。古城に集う人々の思惑が交錯し、誰が何のために事件を仕組んだのかが問われる。

2022日本

#真相をお話しします

結城真一郎

本格社会派イヤミス短編集SNS現代社会

◆ 事件

リモート飲み会、精子提供、マッチングアプリ、子供YouTuber。現代のネット文化や新しい生活様式の裏に潜む歪みを描いた5編を収める短編集。家庭教師の営業マンが訪問先の家庭で覚える違和感を描く「惨者面談」など、日常が静かに反転していく。

◆ 謎

表題作では離島の子供たちが撮影するYouTube動画に映り込んだ違和感、「惨者面談」では訪問先の母子のかみ合わない言動など、ありふれた日常の細部に潜む齟齬が謎として提示され、各編とも最後の一撃に向かって収束していく。

2022日本

11文字の檻

青崎有吾

本格特殊設定短編集ディストピアデビュー10周年

◆ 事件

デビュー10周年を記念した全8編の短編集成。書き下ろしの表題作では、全体主義国家・東土で言論統制に触れた縋田が奇妙な刑務所に収監される。釈放の条件はただ一つ、「政府に恒久的な利益をもたらす11文字の日本語」を当てることだった。

◆ 謎

ヒントは一切なし、回答権は1日1回。漢字・ひらがな・カタカナの組み合わせは優に百億を超え、そもそも正解が実在するのかすら分からない。同房の飛井らとともに、縋田は檻からの脱出を懸けた絶望的なパスワード当てに論理で挑んでいく。

2022日本

5A73

詠坂雄二

警察小説サスペンス幽霊文字連続不審死このミス国内38位

◆ 事件

全国で互いに関連のない不審死が相次ぎ、遺体にはJISコード5A73に登録されながら出自も読みも不明の幽霊文字「暃」のタトゥーシールが共通して残されていた。警察組織のはみ出し者である山本と早川が、点と点を結ぶ異例の捜査に乗り出していく。

◆ 謎

意味も読みも持たない、存在しないはずの文字が、なぜ死者たちの身体に刻まれているのか。自殺としか見えない死の連鎖に何者かの意思は介在するのか。文字は犯行声明なのか署名なのか、判然としないまま現場近くではヘッドフォンの男が目撃される。

2022日本城塚翡翠シリーズ

invert II 覗き窓の死角

相沢沙呼

倒叙本格霊媒探偵倒叙集

◆ 事件

霊媒探偵・城塚翡翠が犯人たちの完全犯罪を打ち崩す倒叙ミステリ集の第2弾。嵐の別荘に忍び込み住人の母親を殺めてしまった少年と、妹を死に追いやったモデルを殺害しアリバイ工作を仕掛ける写真家、二つの事件が描かれる。

◆ 謎

倒叙形式のため、犯人と犯行の経緯は最初から読者に明かされている。焦点は翡翠が偽装をどこから崩すか。表題作では犯人が翡翠自身をアリバイの証人に仕立て上げており、探偵と犯人が互いの死角を突き合う頭脳戦が展開される。

2022日本QED

QED 神鹿の棺

高田崇史

本格歴史・時代歴史ミステリ神社鹿島神宮香取神宮

◆ 事件

茨城県の山中にある寂れた神社の宝物庫で、陶製の大瓶の一つから膝を抱えた姿勢の古い白骨死体が発見される。話を聞いた薬剤師・桑原崇は祭神と大瓶に興味を抱き、棚旗奈々らと現地へ向かうが、滞在中に新たな殺人が起き、その死体もまた瓶に納められていた。

◆ 謎

瓶の中の白骨は誰で、なぜそのような形で納められていたのか。新たな殺人はなぜ同じ様式をとるのか。そして明治以前の「神宮」が伊勢のほかに鹿島・香取と関東に二つもあり、息栖神社と結ぶと整った三角形を描くのはなぜか。歴史の謎と現代の事件が交錯する。

2022日本QED

QED 憂曇華の時

高田崇史

本格歴史・時代歴史ミステリ安曇野安曇族長編

◆ 事件

安曇野・穂高で地元神楽衆の舞い手が刺殺され、遺体の耳は削がれ、現場には「S」の血文字が残されていた。数日後には二人目の被害者が出て、死の間際に「黒鬼」と言い残す。鵜飼見物で石和を訪れていた桑原崇と棚旗奈々は、小松崎に呼び出され事件の地へ向かう。

◆ 謎

耳を削ぐ猟奇的な手口と血文字「S」、そして「黒鬼」という言葉は何を意味するのか。古代の海人・安曇族が博多近郊から移り住んだとされる地で起きた連続殺人と、国歌「君が代」二番に詠われた「鵜のゐる磯」の謎がどう繋がるのかが問われる。

2022日本

あさとほ

新名智

特殊設定サスペンスホラー伝奇古典文学

◆ 事件

幼い頃に双子の妹・青葉が目の前で「消えた」過去を持つ大学生・夏日は、教授の失踪事件を調べるうち、平安時代に実在しながら失われた物語「あさとほ」の存在に行き当たる。物語に関わった者が次々と行方不明になる中、幼馴染の明人と調査を始める。

◆ 謎

人に取り憑き、読んだ者を消し去るという「行方不明の物語」とは何なのか。妹の消失や相次ぐ失踪と古典「あさとほ」はどう繋がるのか。調査が核心に近づくほど、二人の足元で現実そのものが姿を変えていく予感が濃くなっていく。

2022日本

あなたへの挑戦状

阿津川辰海・斜線堂有紀

本格新本格競作袋とじ中編集

◆ 事件

阿津川辰海「水槽城の殺人」では、巨大な水槽を備えた円柱型の建物「水槽城」で怪死事件が発生し、犯行当時、現場は水槽によって完全に隔離されていた。斜線堂有紀「ありふれた眠り」では、犯人が犯行後に死体の横で一晩眠るという不可解な行動を取る。

◆ 謎

水槽が現場を封じた状況でいかにして犯行は可能だったのか。犯人はなぜ死体の傍らで眠ったのか。そして巻末の袋とじに封じられた「挑戦状」とは何なのか。二人の人気作家が競い合うという本の枠組みそのものが、謎の一部として機能していく。

2022日本

あらゆる薔薇のために

潮谷験

特殊設定警察小説サスペンス

◆ 事件

難病「オスロ昏睡病」から回復した患者には、体の一部に薔薇の形をした腫瘍が残る。三十五年前に治療法を確立した権威の医師が殺害されたのを皮切りに、回復者たちが次々と襲われる事件が発生。自身も元患者である京都府警の八嶋警部補が捜査に当たる。

◆ 謎

犯人はなぜオスロ昏睡病の回復者ばかりを狙うのか。薔薇の腫瘍を持つ患者同士が触れ合うと意識を失い「白昼夢」を見るという奇妙な現象は何を意味するのか。難病治療の確立がもたらした知られざる闇に、八嶋警部補は踏み込んでいくことになる。

2022日本

イオカステの揺籃

遠田潤子

イヤミスサスペンス毒親家族

◆ 事件

若手建築家の青川英樹は、妻・美沙の妊娠を知り幸せの絶頂にいた。だが「バラの奴隷」を自称するほどバラに異常な愛情を注ぐ母・恭子は、生まれてくる男児に常軌を逸した執着を見せはじめる。英樹には二歳で死んだ弟と、心に傷を抱えた妹・玲子がいた。

◆ 謎

ギリシャ神話の呪われた王妃イオカステを思わせる恭子の歪んだ母性は、どこから来たのか。次男はなぜ幼くして死んだのか、玲子はなぜ壊れてしまったのか。バラ園のある邸宅という「揺籃」に閉じ込められた家族の秘密が、徐々に暴かれていく。

2022日本イクサガミ

イクサガミ 天

今村翔吾

歴史・時代サスペンスデスゲーム明治

◆ 事件

明治十一年、「武技に優れたる者に金十万円を得る機会を与う」という怪文書に導かれ、二百九十二人の武芸者が深夜の京都・天龍寺に集結する。主催者は、互いの木札を奪い合いながら東海道を東京へ向かう死のゲーム「蠱毒」の開始を宣言する。

◆ 謎

蠱毒を主催する者は何者で、何のために莫大な賞金を懸けて武芸者同士を殺し合わせるのか。病の妻子を救うため参加した嵯峨愁二郎は、母を助けたい十二歳の少女・双葉を守りながら、自らの過去と刺客たちの正体に向き合うことになる。

2022日本いけないシリーズ

いけないII

道尾秀介

サスペンス本格体験型ミステリ写真の仕掛け連作

◆ 事件

明神の滝を擁する町を舞台に、祈りにまつわる三つの事件が起こる。雪だるまの並ぶ家を巡る少女と管理人の交錯、首を吊ろうとする男と声を失った少年の交流、不審な映像の調査依頼。各章の末尾には一枚の写真だけが置かれている。

◆ 謎

各章は文章を読むだけでは像を結ばず、章末の写真と突き合わせたときに初めて隠れていた真相が浮かび上がる。写真は何を写しているのか、いつ誰が撮ったものなのか。読者自身が紙面の手がかりから謎解きに参加する体験型ミステリの第二弾。

2022日本

うさぎの町の殺人

周木律

サスペンス社会派ニュータウン親子ノンストップ

◆ 事件

娘・葵の大学進学を機に、黒田茂は山間のニュータウン、通称「うさぎが丘」へ越してくる。やがて町ではうさぎの惨殺死体が見つかり、葵が入った大学のミステリ研究サークルでは部員の自殺が相次ぐ。不穏な空気が漂う中、ついに葵自身が忽然と姿を消す。

◆ 謎

うさぎの惨殺と大学生の連続自殺は繋がっているのか。新地区と旧地区に分断された町は何を隠しているのか。そして娘はどこへ消えたのか。父・茂が独力で町の暗部へ踏み込んでいくにつれ、事件は個人の犯罪では説明のつかない様相を見せ始める。

2022日本

エンドロール

潮谷験

サスペンス社会派

◆ 事件

202X年、疫病禍で人生を損なわれた若者の自殺が急増する。死の前に自伝を国会図書館へ納本するという、自死した哲学者・陰橋冬の模倣行為が二百人にも及んだ。早世した姉を持つ駆け出し作家の雨宮葉は、姉の遺作が自殺肯定と誤読される事態を恐れる。

◆ 謎

なぜ若者たちは自伝を遺して死んでいくのか。陰橋冬の思想の何が人を死へと誘うのか。葉は自殺の連鎖を止めようと動き出すが、思想に共鳴する者たちとの対峙は一筋縄ではいかない。生と死を巡る議論の行方そのものが物語の核心になっていく。

2022日本

オリンピックを殺す日

堂場瞬一

社会派サスペンススポーツメディア記者

◆ 事件

スポーツ紙記者の菅谷は、アテネで開催されるという謎の国際スポーツ大会「ザ・ゲーム」の情報を掴む。開催地固定、参加費は全額選手負担、スポンサーなし、メディア排除、無観客で中継はVR配信のみという異様な大会に、五輪取材を矜持としてきた菅谷は翻弄されていく。

◆ 謎

「ザ・ゲーム」を仕掛けたのは誰で、巨額の運営費は誰がどのように負担しているのか。商業主義の対極を行く大会の真の目的は何か。なぜ五輪と張り合うように開催されるのか。菅谷は取材を重ねて黒幕の正体へ迫っていく。

2022日本岬洋介シリーズ

おわかれはモーツァルト

中山七里

本格音楽ミステリピアニスト

◆ 事件

ショパン・コンクールで二位となった盲目の天才ピアニスト・榊場隆平。その「盲目は偽りではないか」と疑惑を書き立ててきたフリーライター・寺下が、深夜、灯りのない榊場邸の練習室で殺される。暗闇での犯行ゆえ、疑いは榊場本人に向けられる。

◆ 謎

灯りのない部屋で人を殺せたのは、闇に慣れた盲人だけなのか。榊場の視覚障害は本物なのか偽装なのか。窮地に陥った友のため、欧州にいるはずの岬洋介が帰国し、モーツァルトの調べとともに演奏と論理の両面から疑惑と事件に挑む。

2022日本

クロコダイル・ティアーズ

雫井脩介

イヤミス法廷サスペンス家族直木賞候補

◆ 事件

陶磁器店を営む貞彦・暁美夫婦の息子・康平が殺害される。犯人は息子の妻・想代子の元交際相手である隈本で、彼は法廷で「想代子に夫殺しを依頼された」と主張する。遺体との対面で涙を見せなかった想代子に、義父母の疑念は際限なく膨らんでいく。

◆ 謎

想代子は本当に夫殺しを教唆したのか。「嘘泣き」と囁かれた彼女の振る舞いは何を意味するのか。孫の親権と店の跡継ぎ問題も絡み、信じたい貞彦と疑う暁美の間で家族の疑心暗鬼が増殖する。証明も否定もできない疑いの行方が焦点となる。

2022日本

サーキット・スイッチャー

安野貴博

特殊設定サスペンスSFミステリ自動運転テクノスリラー

◆ 事件

完全自動運転が普及した二〇二九年。自動運転アルゴリズムを開発するサイモン・テクノロジーズ社長の坂本義晴は、走行中の自動運転車内で何者かに拘束される。犯人は首都高の封鎖を要求し、車内に仕掛けた爆弾と尋問のネット生中継で社会を人質に取る。

◆ 謎

「ムカッラフ」と名乗る犯人の正体と目的は何か。犯人は、事故の際に誰を犠牲にするかを決める坂本のアルゴリズムが、人種や属性で命を差別していると糾弾する。トロッコ問題を現実に突きつけられた坂本は、衆人環視の生中継の中で潔白を証明できるのか。

2022日本烏賊川市シリーズ

スクイッド荘の殺人

東川篤哉

ユーモア本格

◆ 事件

烏賊川市の鵜飼探偵事務所に、有力企業社長の小峰三郎が殺害予告めいた脅迫状からの護衛を依頼してくる。クリスマス、断崖絶壁に建つ烏賊のような奇妙な山荘スクイッド荘は大雪に見舞われる。依頼人には二十年前、長兄が殺され次兄が犯人として失踪した過去があった。

◆ 謎

脅迫者は誰で、雪に閉ざされた山荘で何が起ころうとしているのか。現代を進む鵜飼探偵サイドの物語と、二十年前の事件を追う砂川警部サイドの物語という二つの時間軸は、どこで交わるのか。失踪した次兄は本当に兄殺しの犯人だったのか。

2022日本

そして、よみがえる世界。

西式豊

特殊設定サスペンスSFミステリ医療アガサ・クリスティー賞

◆ 事件

脳内インプラント〈テレパス〉が障害者の生活を一変させた近未来。脊髄損傷でテレパスユーザーとなった脳神経外科医・牧野は、恩師の依頼で記憶と視覚を失った少女エリカに視覚再建装置を移植する。手術は成功するが、院内で経営陣の一人が犠牲となる事件が起きる。

◆ 謎

術後のエリカを脅かす謎の黒い影の幻は何なのか。彼女はなぜ記憶を失い、院内の事件と少女の過去はどう繋がるのか。仮想空間〈Vバース〉と現実が複雑に交錯する世界で、牧野は影の正体という驚くべき真実に少しずつ迫っていく。

2022日本

ネクスト・ギグ

鵜林伸也

本格青春音楽バンド

◆ 事件

五百人の観客を前にしたライブの本番中、逆光を浴びてステージに登場したバンドのボーカルが悲痛な叫びとともに頽れる。その胸には千枚通しが突き立っていた。ロックに人生を賭けた若者たちの晴れ舞台は、一瞬にして殺人事件の現場へと変わる。

◆ 謎

大観衆が見つめるステージの上で、誰がどうやってボーカルを刺したのか。カリスマギタリストはなぜ簡単なピッキングミスをしたのか。会場の見取り図をもとにした検証と「ロックとは何か」という問いが絡み合いながら、犯人の特定が進められていく。

2022日本比嘉姉妹シリーズ

ばくうどの悪夢

澤村伊智

特殊設定サスペンスホラーミステリ

◆ 事件

東京から父の郷里・兵庫県東川西市へ引っ越してきた中学一年の「僕」。人気作家の父・片桐孝朔は旧友グループ「片桐軍団」に囲まれ順風満帆に見えたが、僕の腹には現実に痣が浮かび、軍団の子どもたちも悪夢に苦しめられていた。

◆ 謎

眠ると見る夢が現実に干渉してくる怪異の正体は何か。土地に伝わる「ばくうど」とは何者で、なぜ片桐の周囲の人間ばかりが狙われるのか。夢と現実の境界が崩れていく中で、霊能者・比嘉姉妹はこの怪異の構造を解き明かせるのか。

2022日本

ハヤブサ消防団

池井戸潤

サスペンス社会派地方消防団カルト

◆ 事件

東京での暮らしに見切りをつけ、亡き父の故郷であるハヤブサ地区に移住したミステリ作家・三馬太郎は、地元の人々に誘われ消防団に入団する。のどかな山里では不審な連続放火が続いており、やがて住人の不可解な死までもが起きてしまう。

◆ 謎

過疎の集落でなぜ放火が繰り返されるのか。火災の裏で静かに進む土地の買い占め、新しい移住者たちの不自然な動き、謎めいた女性・彩の正体。太郎は消防団の仲間とともに、集落を内側から侵食していく見えない力の正体を追っていく。

2022日本

マイクロスパイ・アンサンブル

伊坂幸太郎

冒険・スパイ青春ユーモア猪苗代湖パラレルな物語

◆ 事件

猪苗代湖畔を舞台に、失恋したばかりの新社会人・松嶋の七年間と、いじめられっ子から小さなスパイ組織の一員となった少年の冒険が並行して描かれる。二人は一度も出会わないまま、知らず知らずのうちに互いの世界へ不思議な影響を与え合っていく。

◆ 謎

平凡な会社員の日常と命懸けのスパイ任務という、接点のない二つの物語はどこでどう繋がっているのか。置き忘れたマグカップや落とし物が、遠い世界で誰かを救う奇跡を起こす仕組みとは何か。交換ノートのように交互に語られる構成の妙が光る。

2022日本マスカレードシリーズ

マスカレード・ゲーム

東野圭吾

警察小説サスペンスホテル潜入捜査

◆ 事件

過去に人を死なせながら法では裁ききれなかった者ばかりが狙われる3件の連続殺人が発生する。手がかりは次の犯行場所がホテル・コルテシア東京であることを示唆しており、警部に昇進した新田浩介は再びホテルマンに扮して潜入捜査につく。

◆ 謎

被害者はいずれも誰かの命を奪った過去を持つ。遺族による復讐が疑われるが、関係者にはそれぞれアリバイがある。仮面舞踏会のイベントを控えたホテルで、新田とホテルウーマン山岸尚美は、宿泊客の中に潜む犯人を見極めようとする。

2022日本

やっと訪れた春に

青山文平

歴史・時代

◆ 事件

橋倉藩では本家と分家が交互に藩主を出す慣わしが百十八年も続いていた。次期藩主の急逝を機にその対立がようやく終わり、藩に安寧が訪れようとした矢先、藩の重鎮が何者かに暗殺され、さらに第二の殺人が立て続けに起こる。

◆ 謎

探索に当たるのは、ともに齢六十七の近習目付・長沢圭史と団藤匠。誰もが安堵するはずの「やっと訪れた春」に、なぜ重鎮は殺されねばならなかったのか。藩に伝わる義挙「御成敗」の伝承と、それを支えた血筋「鉢花衆」は事件にどう関わるのか。

2022日本

ラブカは静かに弓を持つ

安壇美緒

冒険・スパイ青春サスペンス音楽チェロ潜入大藪春彦賞

◆ 事件

音楽著作権連盟に勤める橘樹は、音楽教室からの著作権料徴収をめぐる裁判の証拠集めのため、身分を偽ってミカサ音楽教室にチェロの生徒として潜入するよう命じられる。少年期の事件のトラウマで音楽から遠ざかっていた男の二重生活が始まる。

◆ 謎

潜入はいつまで隠し通せるのか。講師の浅葉や教室の仲間と心を通わせるほど、裏切りの重さは増していく。橘を蝕み続ける深海の悪夢の正体である過去の事件とは何だったのか。組織への忠誠と良心との板挟みの行方がサスペンスを形作る。

2022日本

リバー

奥田英朗

警察小説社会派サスペンス群像劇未解決事件連続殺人

◆ 事件

群馬と栃木の県境を流れる渡良瀬川の河川敷で、若い女性の遺体が相次いで発見される。現場も手口も10年前の未解決連続殺人事件と酷似しており、同一犯による犯行の再開なのか、それとも模倣犯なのかをめぐって捜査は混迷していく。

◆ 謎

10年前の事件と今回の事件は同一犯なのか。当時の容疑者だった男、退職後も事件を追い続ける元刑事、疑われる男の恋人、被害者の遺族。多視点の群像劇のなかで、人を疑うことの重さとともに、二つの事件をつなぐ真犯人像が問われる。

2022日本

ループ・オブ・ザ・コード

荻堂顕

特殊設定社会派冒険・スパイ近未来ディストピア

◆ 事件

疫病禍を経た近未来。二十年前、特定民族のみを殺す生物兵器を使った国家は国連により歴史ごと「抹消」され、〈イグノラビムス〉という新たな国名を与えられた。その地で二百名以上の児童が原因不明の発作と拒食に倒れ、世界生存機関の調査員ナバーロが派遣される。

◆ 謎

子どもたちを蝕む謎の病の正体は何か。抹消された歴史と新生国家の統治体制は、病とどうつながっているのか。調査のさなかにテロ事件と生物兵器の盗難が発生し、ナバーロは生命倫理の根幹と善悪の境界を問われながら国家の深部へ踏み込んでいく。

2022日本

ロスト・スピーシーズ

下村敦史

冒険・スパイサスペンスアマゾン秘境冒険植物

◆ 事件

ガンの特効薬の原料となりうる幻の花「ミラクルリリー」を求め、製薬会社社員、植物ハンター、ボディーガードら思惑の異なる五人の調査隊がアマゾン奥地へ分け入る。植物学者の三浦には、現地で消息を絶った言語学者の恋人を捜すというもう一つの目的があった。

◆ 謎

ミラクルリリーは本当に実在するのか。隊員それぞれが隠し持つ目的とは何か。恋人はなぜ密林で失踪したのか。森林伐採や貧困といったブラジル社会の現実を背景に、調査隊を襲う数々の危機の裏で誰の意志が働いているのかが問われる。

2022日本ラストライン

悪の包囲 ラストライン5

堂場瞬一

警察小説サスペンス文庫オリジナルシリーズ第5作

◆ 事件

ベテラン刑事・岩倉剛の事件への異様な記憶力に執着し、研究材料にしようと付きまとっていたサイバー犯罪対策課の福沢が殺害される。事件の直前、衆人環視の中で福沢と揉めていた岩倉は容疑者扱いされ、捜査本部から外されてしまう。

◆ 謎

警察官殺しの犯人は誰なのか。岩倉にかけられた疑いは晴れるのか。「警察内部の仇敵」の不可解な死の背後で、いったい何者の思惑が働いているのか。捜査の枠外に置かれた岩倉と仲間たちが、独自に事件の構図へ迫っていく。

2022日本南美希風シリーズ

或るアメリカ銃の謎

柄刀一

本格中短編集国名シリーズ

◆ 事件

心臓移植を受けた青年探偵・南美希風と、執刀医の娘である米国人法医学者エリザベスが、愛知県のアメリカ領事私邸で起きた不可解な銃撃事件に遭遇する。併録の中編では、琵琶湖を舞台にしたクローズドサークルで、二つの場所同時に殺人が発生する。

◆ 謎

表題作では、領事私邸での銃撃を巡って銃と状況の食い違いが厳密な論理の壁として立ちはだかる。併録「或るシャム双生児の謎」では、隔絶状況下、同時刻に離れた二箇所で起きた殺人という不可能状況が提示される。クイーン国名シリーズへのオマージュ作。

2022日本営繕かるかや怪異譚

営繕かるかや怪異譚 その参

小野不由美

特殊設定日常の謎短編集怪談ホラーミステリ連作

◆ 事件

古い城下町を舞台に、洋館を改装したレストランに現れる謎の女、作るそばから恐ろしい姿に歪んでいくドールハウス、納戸の箪笥に憑いた女の祟りなど、家屋にまつわる怪異が住人たちを静かに追い詰めていく六つの出来事を描く連作集。

◆ 謎

なぜその家でだけ怪異が起きるのか。怪異の由来は何で、家に残された死者や生者のどんな想いが絡んでいるのか。祓い手ではない営繕屋・尾端が、どのように建物へ手を入れて住人と怪異の折り合いをつけるのかが各話の謎となる。

2022日本

越境刑事

中山七里

警察小説社会派冒険・スパイウイグル国際問題

◆ 事件

千葉県警の高頭冴子警部は、中国人留学生・就労者の失踪が相次いでいることを知り調査を始める。失踪者はいずれも新疆ウイグル自治区出身で、出国記録だけを残して消えていた。やがて保護を求めていた女性レイハンが拉致され、同胞のカーリはリンチの末に殺害される。

◆ 謎

留学生たちはなぜ消え、誰が彼らを「帰国」させているのか。日本国内での拉致や殺人を平然と実行する組織の正体は何か。国家という巨大な壁に阻まれながら、一人の地方刑事がどこまで真実と人命に迫れるのかが問われていく。

2022日本

俺ではない炎上

浅倉秋成

サスペンス社会派SNS炎上逃亡劇

◆ 事件

大手ハウスメーカー部長の山縣泰介は、ある日突然「女子大生殺害犯」として実名と顔写真をSNSで晒され、大炎上に巻き込まれる。身に覚えのないまま殺人犯に仕立て上げられた泰介は、警察と世間の両方から追われる逃亡生活を開始する。

◆ 謎

誰が、なぜ泰介を犯人に仕立てたのか。泰介名義のアカウントから投稿された死体画像の意味、現場に残された証拠、そして「からにえなくさ」という不可解な言葉の正体。逃亡を続けながら、泰介は自らの手で真犯人に迫ろうとする。

2022日本

夏休みの空欄探し

似鳥鶏

青春日常の謎暗号ひと夏

◆ 事件

クイズ研究会会長ながらクラスで「じゃない方」と呼ばれる高二のライは、古本の赤本に挟まれていた暗号を持ち込んだ姉妹、大学生の雨音と高一の七輝に出会う。同姓の人気者キヨも加わり、四人は暗号が導く場所を巡るひと夏の謎解きに乗り出す。

◆ 謎

何者が、何のために赤本に暗号を残したのか。次々と連鎖する暗号は最終的にどこへ辿り着くのか。論理パズルを解き進めるうち、姉妹がこの暗号に執着する理由と、二人が抱えている事情が、楽しい冒険に次第に影を落としていく。

2022日本

灰かぶりの夕海

市川憂人

特殊設定サスペンス

◆ 事件

大災害後の混乱が続く日本。青年・千真の前に、二年前に死んだはずの恋人と同じ顔を持ち、同じ「夕海」と名乗る少女が現れる。さらに仕事中に遭遇した殺人事件では、密室の中で死んでいたのが、恩師の亡き妻と瓜二つの女性だったことが判明する。

◆ 謎

死者と同じ姿の人間はなぜ次々と現れるのか。目の前の夕海は本人なのか、それともそっくりの別人なのか。密室の中の死の真相は何か。プロローグに置かれた断章と、世界を覆う災厄の記憶が、物語全体の見え方を最後に大きく裏返すことになる。

2022日本

学園の魔王様と村人Aの事件簿

織守きょうや

青春本格文庫オリジナル学園ミステリ連作バディもの

◆ 事件

光嶺学園で「魔王様」と恐れられる容姿端麗な優等生・御崎秀一が猫を助ける場面を、平凡な生徒・山岸巧が目撃したことから二人の交流が始まる。片方の個室だけが荒らされるトイレ、寮から転落死した先輩、半グレ集団の仲間割れ殺人など、学校と町で事件が続発する。

◆ 謎

日常の悪戯から殺人まで、全四話で起きる事件の真相は何か。犯人を見たのに名乗り出ない目撃者は何を隠しているのか。そして「魔王様」と恐れられる御崎の素顔とは。「村人A」を自称する山岸の視点で語られる連作に潜む違和感の正体が問われる。

2022日本鑑定人 氏家京太郎シリーズ

鑑定人 氏家京太郎

中山七里

サスペンス社会派科学鑑定冤罪

◆ 事件

民間の科学鑑定センター所長・氏家京太郎に、女子大生三人を殺害し遺体から子宮を抜き取ったとされる外科医・那智の弁護側から再鑑定の依頼が届く。被告は二件は認めるが三件目だけを否認。やがて事務所が襲われ、集めた試料と鑑定資料が奪われる。

◆ 謎

被告はなぜ三件目だけ犯行を否認するのか。検察側の鑑定通知に潜む違和感の正体は何か。再鑑定の動きを知り得ないはずの何者かが妨害を重ねる以上、敵は捜査機関の内部にいるのではないか。科学鑑定の信頼そのものが揺らいでいく。

2022日本祈りのカルテ

祈りのカルテ 再会のセラピー

知念実希人

日常の謎短編集医療ミステリ

◆ 事件

内科医となった諏訪野良太が、研修医時代の各科での出来事を後輩たちに語る連作集。救命救急部では長年会えなかった親子の再会に立ち会い、形成外科では美容形成を繰り返す心に傷を持つ女優と出会い、緩和ケア科では余命わずかな患者の過去に踏み込む。

◆ 謎

患者たちの不可解な言動の裏には、どんな事情が隠されているのか。女優はなぜ手術を繰り返すのか。緩和ケア科の患者・広瀬のベッド脇のメモが示す二十五年前の事件とは何か。カルテの行間に潜む謎を、諏訪野が患者への祈りとともに解いていく。

2022日本赤い博物館シリーズ

記憶の中の誘拐 赤い博物館

大山誠一郎

本格警察小説短編集未解決事件

◆ 事件

未解決事件の捜査書類や証拠品を収蔵する警視庁の犯罪資料館、通称「赤い博物館」。館長の緋色冴子と部下の寺田聡が、保管された資料を手がかりに時効や未解決の過去事件を再捜査する連作五篇。表題作では二十六年前の奇妙な誘拐事件が掘り起こされる。

◆ 謎

表題作の誘拐事件では、当時犯人と目されたのが被害児の親だったという不可解な構図が残されていた。現場に戻ることも当事者の記憶も頼れない中、歳月を経た紙の記録と物証だけから、緋色冴子はいかにして当時の捜査が見落とした真相に到達するのか。

2022日本

逆転美人

藤崎翔

サスペンス仕掛け本手記形式

◆ 事件

飛び抜けた美人に生まれたせいで不幸ばかりの人生を歩んできたと語るシングルマザーの香織。娘の担任教師に襲われた事件をきっかけに、その半生を綴った手記が出版される。だがこの手記こそが、社会を震撼させる大事件の幕開けとなるのだった。

◆ 謎

手記に綴られた「美人ゆえの不幸」の数々は果たして真実なのか。文章の端々に漂う違和感の正体は何か。本文の最後に置かれた「つらい過去をさかのぼるときは両肩を見る」という一文は何を意味するのか。紙の本そのものに仕掛けられた驚愕が待ち受ける。

2022日本

京都陰陽寮謎解き滅妖帖

伊吹亜門

特殊設定本格陰陽師学園

◆ 事件

妖が実在し、超常の力を継承する国家公務員「陰陽師」が人知れず人々を守る「玲和」の京都。陰陽師育成機関・京都陰陽寮明學院に通う狩埜師実は、臓腑を喰らう妖蛇、呪詛封じの古御堂で起きた密室殺人、継承の儀を妨げる黒い藁人形といった怪事件に遭遇する。

◆ 謎

妖と呪術が実在する世界において、目の前の怪事件は果たして妖の仕業なのか、それとも人の犯行なのか。超常の存在を前提としたルールの中で、師実は論理によって人と妖の所業を切り分けながら謎を解いていく。両親を殺した仇の影も物語に差している。

2022日本京都寺町三条のホームズ

京都寺町三条のホームズ18 お嬢様のミッション

望月麻衣

日常の謎青春文庫オリジナル骨董京都シリーズ第18作

◆ 事件

新年の仕事始め早々、香港の大富豪の一人娘がお忍びで京都を訪れ、骨董品店「蔵」の家頭清貴がガイド兼ボディーガードを任される。葵も加わって京都を案内する中、観劇の場で令嬢が負傷する事件が起き、騒動はやがて誘拐事件へと発展していく。

◆ 謎

厳重な警備の中で、なぜ令嬢は狙われたのか。負傷事件と誘拐は誰の仕業で、目的は身代金なのか。「寺町のホームズ」清貴は、令嬢にどこか冷ややかな態度を取りながらも、事件の裏にある構図をいち早く見抜いていく。

2022日本

競争の番人

新川帆立

社会派公正取引委員会お仕事ミステリ

◆ 事件

公正取引委員会の審査官・白熊楓は、聴取相手の自殺の責任を問われて異動となり、東大首席でハーバード帰りのエリート審査官・小勝負勉とチームを組む。二人はウェディング業界に蔓延する価格カルテルや下請けいじめの調査に乗り出すが、捜査は難航する。

◆ 謎

業界に巣食う談合の全体像と、それを主導する者は誰か。立入検査を拒む各社の思惑は何か。調査の最中に起きたホテル社長・安藤の刺傷事件は談合とどう絡むのか。独占禁止法を武器に、白熊と小勝負は不正の構図を暴けるのかが焦点となる。

2022日本

教誨

柚月裕子

社会派死刑家族

◆ 事件

幼い少女二人を殺害した罪で死刑となった三原響子の刑が執行された。「約束は守ったよ、褒めて」という不可解な言葉を残して。遠縁というだけで身元引受人となった吉沢香純は、遺骨を抱いて響子の故郷である青森へ向かい、彼女の足跡をたどりはじめる。

◆ 謎

ごく普通に生きてきたはずの響子は、なぜ我が子を含む二人の幼女を手にかけたのか。最期に残した言葉の「約束」とは、誰と交わした何の約束だったのか。香純は事件を知る人々を訪ね歩き、響子と母・智恵子の半生をたどりながら言葉の真意に迫っていく。

2022日本

九龍城の殺人

月原渉

本格青春文庫オリジナルクローズドサークル香港1980年代シスターフッド

◆ 事件

1980年代の香港。母を殺され、遺骨を裏社会の長である祖母へ届けるため海を渡った少女フーは、シャクティ、ホンファという同世代の少女と出会う。やがて「城」と呼ばれる場所の主・龍が浴室で死体となって発見され、容疑は中にいた六人の少女に絞られ、第二の殺人が起こる。

◆ 謎

龍を殺したのは六人の少女のうち誰なのか。母の遺体に残された切り取られた指と謎の麻雀牌は何を意味するのか。少女売買の組織「城」と女だけの非合法結社「風姫」が絡み合う九龍城で、連続殺人の真相とフーの一族の秘密が問われる。

2022日本

空をこえて七星のかなた

加納朋子

日常の謎青春短編集連作宇宙

◆ 事件

星を見るため石垣島を旅する少女・七星と父、事故で視力を失いプラネタリウムに通う少女——宇宙や星に心を惹かれた人々の身辺で起こる小さな事件や心のすれ違いが、語り手を替えながら七つの短篇としてつづられていく連作集である。

◆ 謎

一見すると独立した七つの短篇は、語り手も時代も場所もばらばらに見える。だが題名に星を抱く人々の物語には、全体を貫くひとつの大きな謎が仕掛けられている。七篇は互いにどうつながっているのか。最終話「リフトオフ」で何が明かされるのか。

2022日本

君といた日の続き

辻堂ゆめ

特殊設定サスペンスタイムスリップ喪失と再生1980年代

◆ 事件

10歳の娘を病で亡くし、妻とも別れて独りで暮らす47歳の友永譲は、長雨の切れ間に路上でずぶ濡れのまま座り込む少女を拾う。記憶の多くを失った「ちぃ子」と名乗るその少女は、自分は過去から来たのだと言い、二人の奇妙な共同生活が始まる。

◆ 謎

ちぃ子は本当に1980年代からタイムスリップしてきたのか。彼女は何者で、なぜ譲の前に現れたのか。そして譲の大切な人の命を奪った連続少女誘拐事件と、彼女はどう関わっているのか。日常の細部に散りばめられた手がかりが謎を深めていく。

2022日本

君のクイズ

小川哲

日常の謎青春クイズ競技本屋大賞ノミネート

◆ 事件

生放送のクイズ番組「Q-1グランプリ」決勝で、クイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手の本庄絆が問題文を一文字も読まれないうちにボタンを押して正解し優勝する場面を目の当たりにする。殺人は起きないが、競技人生を賭けた検証が始まる。

◆ 謎

問題を聞かずに正解することは可能なのか。ヤラセなのか、それとも超人的な能力なのか。三島は録画を見返しながら決勝の全問題を一問ずつ検証し、本庄絆という人間のクイズ人生を辿りつつ、「ゼロ文字押し」という不可能の真相に迫る。

2022日本

君の教室が永遠の眠りにつくまで

鵺野莉紗

特殊設定青春サスペンスホラーミステリ百合横溝正史ミステリ&ホラー大賞優秀賞

◆ 事件

30年以上も正体不明の灰色の雲に覆われた北海道の町。小学六年生の遠野葵は、特別な想いを寄せる親友・落合紫子を巡る過ちを犯し、紫子は苛烈ないじめの末に転校してしまう。やがて新任教師・狭間百合が「秘密を知っている」と葵に近づいてくる。

◆ 謎

葵の犯した過ちとは何だったのか。狭間百合は何者で、葵が手を染める恐ろしい儀式は何を引き起こすのか。町を覆う雲と「永遠の眠り」が意味するもの、そして葵と紫子の関係の行方が、学校ホラーの装いの下で問われていく。

2022日本

月灯館殺人事件

北山猛邦

本格新本格館もの見立てメタミステリ

◆ 事件

本格ミステリの神様と称される作家・天神人が支配する山中の館・月灯館に、若手のミステリ作家たちが集められる。雪に閉ざされた夜、「七つの大罪により7人の作家に処刑を宣告する」という予告とともに、館では連続殺人が始まる。

◆ 謎

傲慢、怠惰、剽窃など、作家の犯した罪になぞらえた見立て殺人はなぜ行われるのか。外部と遮断された館で犯人はどこに潜むのか。本格ミステリというジャンルそのものへの批評と皮肉を孕みながら、館ものの王道の謎解きが展開していく。

2022日本

幻告

五十嵐律人

法廷特殊設定タイムリープ冤罪リーガルミステリ

◆ 事件

裁判所書記官の宇久井傑は、勤務中の法廷で意識を失い、目覚めると五年前、父が有罪判決を受けた刑事裁判の第一回公判の日に戻っていた。事件記録を読み込むうちにDNA型鑑定への疑義に気づき、父の冤罪の可能性が浮かび上がる。

◆ 謎

確定してしまった判決を、過去の訴訟手続をやり直すことで覆せるのか。タイムリープを重ねるたびに五年後の現在は思わぬ形に書き換わり、失われるものも生じていく。父は本当に無実なのか、真犯人は誰か、繰り返される法廷で傑は何を選ぶのか。

2022日本

五つの季節に探偵は

逸木裕

本格連作短編女性探偵日本推理作家協会賞

◆ 事件

高校二年の榊原みどりは、同級生から人気男性教師の秘密を探る依頼を受けて初めての調査に挑み、自分が探偵に向いていると気づく。以後16年、興信所の調査員から育休明けの探偵まで、五つの季節それぞれで人の秘密に踏み込む調査と向き合っていく。

◆ 謎

各話では尾行や調査の先に、依頼の裏に潜む人間の企みと心の奥底が浮かび上がる。「秘密にされればされるほど暴かずにはいられない」というみどりの厄介な性質は、探偵としての武器なのか、人を傷つける呪いなのかが全編を貫く問いとなる。

2022日本警視庁総合支援課

誤ちの絆 警視庁総合支援課

堂場瞬一

警察小説社会派文庫オリジナル加害者家族少年犯罪

◆ 事件

被害者家族に加えて加害者家族も支援対象とする「総合支援課」が発足する。折しも多摩地区の河川敷で名門進学校の生徒らによる乱闘が起き、生徒の日下健が死亡、同級生の高梨英太が刺殺犯として逮捕される。捜査一課から異動してきた柿谷晶は加害者側の家族支援に入る。

◆ 謎

優等生だったはずの英太はなぜ同級生を刺したのか。乱闘の場で本当は何が起きていたのか。父親が倒れて孤立する加害者家族を支えながら、自身も兄が殺人犯という「加害者家族」である晶が、支援の枠を越えて事件の核心に踏み込んでいく。

2022日本新宿鮫シリーズ

黒石 新宿鮫XII

大沢在昌

警察小説ハードボイルド

◆ 事件

中国残留孤児の二世三世で構成される地下組織「金石」の幹部の一人が、警察に保護を求めてきた。正体不明の幹部・徐福が、黒石と呼ばれる殺し屋を使って反対派を排除し組織の支配を企んでいるという。やがて頭部を潰された惨殺死体が発見される。

◆ 謎

暗殺者・黒石とは何者なのか。過去十年の未解決殺人の中に同じ手口が散見されることに気づいた鮫島は、表沙汰になっていない大量殺人の可能性に行き当たり戦慄する。新宿署の一匹狼は、顔の見えない殺し屋と黒幕・徐福にどこまで迫れるのか。

2022日本

此の世の果ての殺人

荒木あかね

本格特殊設定青春終末バディ江戸川乱歩賞

◆ 事件

小惑星の衝突で人類滅亡が確実となり、無法地帯と化した福岡。誰もが街を捨てていくなか、それでも自動車教習所に通い続けるハルは、教官のイサガワとともに教習車のトランクから滅多刺しにされた女性の遺体を発見してしまう。

◆ 謎

世界の終わりまで残りわずか。どうせ皆死ぬのに、なぜ今さら人を殺すのか。遺体は誰で、犯人は何者なのか。警察機能が崩壊した世界で、ハルとイサガワは二人きりの捜査を開始し、滅亡前の貴重な時間を犯人追跡に費やしていく。

2022日本作家刑事毒島シリーズ

作家刑事毒島の嘲笑

中山七里

警察小説ユーモア社会派毒舌テロ選挙

◆ 事件

右翼系雑誌を扱う出版社が放火され、公安の淡海は思想犯によるテロとみて現場に赴き、犯罪者をいたぶるのが趣味の作家兼刑事・毒島真理と出会う。衆議院選挙が迫る中、極左集団が絡む事件が続発し、ついに魔の手は選挙の候補者へと向かっていく。

◆ 謎

連続する放火・テロ事件は本当に極左集団による思想犯罪なのか。「進撃する革命的マルクス主義者派」を名乗る犯行声明の裏に別の意図はないのか。公安の論理すら小馬鹿にする毒島が、犯罪者の心理を抉る独自の舌戦で歪んだ正義の正体を暴こうとする。

2022日本

仕掛島

東川篤哉

本格ユーモア孤島クローズドサークル

◆ 事件

瀬戸内海の孤島・斜島に建つ館「御影荘」に、亡き当主の四十九日法要と遺言状の公開のため西大寺家の一族が集められる。接近する二つの台風で島は完全に孤立し、遺言が読み上げられたその夜、館でついに殺人事件が発生する。

◆ 謎

嵐で閉ざされた孤島で誰がどうやって殺人を犯したのか。さらに、二十三年前にこの島で起きた出来事を、なぜ一族は総出で隠蔽したのか。プロローグで語られる、十年前の事件の後に廃墟となった「あの館」と斜島の関係も大きな謎として横たわる。

2022日本きたきた捕物帖

子宝船 きたきた捕物帖2

宮部みゆき

歴史・時代捕物帖江戸連作短編

◆ 事件

「持ち主に子宝を授ける」と江戸で評判の宝船の絵を巡り、赤子を亡くした家の絵から弁財天だけが消えるという怪異が噂になる。時を置かず、文庫売りの北一もよく知る弁当屋の一家三人が殺され、現場では怪しげな女が目撃されていた。

◆ 謎

宝船の絵から弁財天が消えたのはなぜか。怪異と一家皆殺しは繋がっているのか。北一は検視与力・栗山の命を受け、めっぽう強い風呂屋の釜焚き・喜多次や記憶の達人「おでこ」の力を借りながら、噂と毒の絡む事件の真相に迫っていく。

2022日本死神さん

死神さん 嫌われる刑事

大倉崇裕

警察小説本格短編集連作冤罪ドラマ化

◆ 事件

無罪判決が出た事件だけを専門に再捜査する警視庁の儀藤堅忍、通称「死神」。看護師による筋弛緩剤投与事件、強盗殺人、スーパー店長刺殺、一家三人襲撃事件と、警察の捜査が法廷で崩れた四つの事件を、毎回押し付けられた異なる相棒とともに洗い直していく連作集。

◆ 謎

無罪となった被告は本当に無実なのか、それとも立証の失敗だったのか。一度は確定したはずの捜査のどこに綻びがあったのか。そして真犯人は誰なのか。儀藤と組まされる相棒たちの人選の意図も含め、各話で「無罪事件の真相」が問われる。

2022日本紙鑑定士の事件ファイル

紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪

歌田年

本格ユーモア短編集特殊技能探偵

◆ 事件

紙鑑定士・渡部のもとへ今日も奇妙な依頼が舞い込む。紙粘土状の何かをぶつけられて怪我をした野良猫たちの事件、アメコミグッズを不良品だと突き返して心を閉ざした少年の謎、そしてコスプレイヤー夫婦の夫が殺害され現場から凶器が消えた事件の調査。

◆ 謎

表題作では、刺殺されたはずの現場から凶器が忽然と消えていた。容疑をかけられた友人マサは本当に犯人なのか。紙の知識にプラモデルやコスプレの造形技術まで、オタクたちの専門知識は警察が見落とした真相に届くのかが各話の見どころとなる。

2022日本アリバイ崩し承りますシリーズ

時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2

大山誠一郎

本格短編集安楽椅子探偵

◆ 事件

商店街の時計修理店「美谷時計店」の店主・美谷時乃は「アリバイ崩し承ります」を看板に掲げる。五百人のパーティ出席者全員が証人となった政治家のアリバイ、湖に沈められた車を巡るアリバイ、容疑者の親族三人が持つ鉄壁のアリバイなどが持ち込まれる。

◆ 謎

警察がどうしても崩せなかった完璧な不在証明の数々を、時計屋の店主はいかにして突き崩すのか。各話とも容疑者のアリバイは一分の隙もないように見え、時刻と記録を巡る関係者の前提のどこかに、必ず気づかれていない盲点が潜んでいる。

2022日本

首切り島の一夜

歌野晶午

新本格孤島クローズドサークル作中作

◆ 事件

壮年の男女と元教師が、四十年前の修学旅行を再現する同窓会を企画し、濤海灘に浮かぶ孤島・弥陀華島へ渡る。宴席で久我陽一郎は高校時代に自分たちをモデルにしたミステリを書いていたと告白するが、その夜、首を切られた久我の死体が発見される。

◆ 謎

折からの荒天で船は欠航し、天候が回復するまで捜査員は島へ来られない。誰が、なぜ久我を殺して首を切ったのか。久我が遺した作中作のミステリと現実の事件はどう照応するのか。同窓生それぞれの視点から過去の因縁が語られ、疑念が膨らんでいく。

2022日本

祝祭の子

逸木裕

サスペンス社会派カルト過去の惨劇

◆ 事件

14年前、宗教団体〈褻〉のコミューンで、団体トップ・石黒望に戦闘術を仕込まれた10代の少年少女5人が大人たちを殺害する惨劇が起きた。歳月を経て社会に戻った「事件の子」たちの前に、今度は彼ら自身の命を狙う謎の刺客が現れ、再び血が流れ始める。

◆ 謎

刺客は何者で、なぜ今になって5人を狙うのか。惨劇の夜、コミューンで本当は何が起きていたのか。そもそも石黒はなぜ子どもたちに戦闘術を仕込んだのか。生き残った者たちの過去と現在が交錯しながら、団体の隠された目的に迫っていく。

2022日本准教授・高槻彰良の推察

准教授・高槻彰良の推察8 呪いの向こう側

澤村御影

特殊設定日常の謎文庫オリジナル民俗学怪異短編集ドラマ化

◆ 事件

嘘を聞き分ける耳を持つ大学生・深町尚哉と民俗学者・高槻彰良のもとへ、小学校の教室で「かごめかごめ」を機に現れた正体不明のお化け「モンモン」の相談、亡くなった友人を含む四人組を次々襲う不幸、雪深い旅館で起きた若者の失踪と、怪異がらみの依頼が持ち込まれる。

◆ 謎

教室に現れる「モンモン」の正体は何か。「四人ミサキ」の祟りは実在するのか。昔雪女に助けられたと語る若者の失踪に何が起きたのか。人の仕業なのか本物の怪異なのか、民俗学の知見と尚哉の耳で見極めていく三編が収録される。

2022日本

渚の螢火

坂上泉

警察小説歴史・時代社会派沖縄返還琉球警察

◆ 事件

一九七二年四月、本土復帰を十八日後に控えた沖縄で、復帰後の通貨交換に備え百万ドルを積んだ現金輸送車が襲撃され、行方を絶った。日米の外交問題化を恐れた琉球警察は、警視庁帰りの真栄田を班長に、極秘裏に事件を追う五人だけの特別対策室を編成する。

◆ 謎

厳重に警備された現金輸送車を襲ったのは何者か。捜査は沖縄財界、地元ギャング、米軍関係者までを巻き込み二転三転していく。返還の日というタイムリミットが刻一刻と迫るなか、真栄田たちは消えた百万ドルと犯人にたどり着けるのかが問われる。

2022日本

神薙虚無最後の事件

紺野天龍

本格新本格作中作多重解決

◆ 事件

大学二年生の白兎は、路上で倒れこんだ女性・唯と出会う。彼女が手にしていたのは、父・御剣大が著した二十年前のベストセラー『神薙虚無最後の事件』。実在した名探偵・神薙の活躍を記したそのシリーズ最終巻は、謎を未解決のまま完結した伝説の書だった。

◆ 謎

作中作の最終巻に残された「解かれざる謎」の真相とは何だったのか。なぜ著者は答えを書かずに筆を置いたのか。白兎と唯ら現代の読み手たちが、残されたテキストを唯一の手がかりに、二十年前の事件に対する推理を次々と披露して競い合う。

2022日本人面瘡探偵シリーズ

人面島

中山七里

本格特殊設定孤島密室相続

◆ 事件

相続鑑定士・三津木六兵は、肩に宿る毒舌の人面瘡「ジンさん」とともに、村長が死んだ長崎の人面島へ財産鑑定に赴く。隠れキリシタンの伝承と隠し財宝の噂が残る島で、跡継ぎを巡る儀式の夜、密室の祈祷所から長男・匠太郎が死体となって見つかる。

◆ 謎

祝詞の声が続いていたはずの祈祷所で、いつ誰が匠太郎を殺したのか。閉ざされた祈祷所の密室はどう破られたのか。財宝伝説と相続争い、前妻の子と後妻の子の因縁が絡み合う中、第二の殺人が起き、島の容疑者は次々と減っていく。

2022日本天久鷹央シリーズ

生命の略奪者 天久鷹央の事件カルテ

知念実希人

本格サスペンス医療ミステリ臓器移植

◆ 事件

移植用の心臓を運ぶコーディネーターが新幹線の車内で襲撃され、臓器が奪われた。さらに天医会総合病院でも移植のため摘出された腎臓が強奪されるなど、移植臓器ばかりを狙う事件が連続して発生し、移植を待つ患者たちの命の刻限が迫っていく。

◆ 謎

厳重に管理・輸送される移植臓器を、犯人はどうやって奪ったのか。転売もできないはずの臓器を執拗に狙う目的は何なのか。天才医師・天久鷹央は、ハウダニットの先に潜む犯人の真の狙いと、この事件の入れ子構造を見抜くことができるのか。

2022日本

赤虫村の怪談

大島清昭

本格特殊設定ホラーミステリ民俗学クトゥルフ神話多視点構成

◆ 事件

怪談作家・呻木叫子は、嵐を呼ぶ「蓮太」や火災を招く「九頭火」、無貌の「無有」など特異な妖怪譚が伝わる赤虫村を訪れ、村の名家・中須磨家を襲う連続怪死事件に関わる。神木の枝上に遺棄された全裸死体、石蔵の密室で見つかった焼死体と、不可能状況の殺人が続発する。

◆ 謎

樹上の死体と密室の焼死体は、いかにして為されたのか。村に伝わる怪異の数々と連続する事件はどう繋がっているのか。名家が信奉する「苦取大明神」とは何か。怪談作家の原稿や民俗学の著作など複数の視点が交錯する構成の中で、真相が問われる。

2022日本

先祖探偵

新川帆立

社会派日常の謎戸籍連作短編

◆ 事件

谷中の路地裏で「先祖探偵」を営む邑楽風子は、戸籍を遡って依頼人の先祖を調査する。幽霊戸籍や焼失戸籍、無戸籍など訳ありの依頼が持ち込まれるなか、五歳で母に捨てられ施設で育った風子自身は、顔も知らぬ母の手がかりを探し続けていた。

◆ 謎

持ち込まれる各依頼に隠された真の目的とは何か。そして「名前も住んでいた場所もすべて忘れろ」と言い残して消えた風子の母は何者で、なぜ娘を捨てたのか。依頼を解決するたびに風子のルーツが少しずつ浮かび上がり、最終話で母の正体が明かされる。

2022日本火村英生シリーズ

捜査線上の夕映え

有栖川有栖

本格警察小説コロナ禍アリバイ大阪

◆ 事件

新型コロナウイルスが蔓延する大阪で、マンションの一室から男性の刺殺体が発見される。臨床犯罪学者・火村英生と推理作家アリスのコンビが警察の要請で捜査に協力し、防犯カメラの映像と容疑者たちのアリバイの検証に乗り出していく。

◆ 謎

容疑者の何人かは犯行可能時刻に遠方を旅行していたと主張する。防犯カメラに犯人らしき人物の出入りは映っておらず、被害者には死亡推定時刻の後もスマートフォンを操作していた形跡がある。鉄壁に見えるアリバイをどこから崩すのか。

2022日本

脱北航路

月村了衛

冒険・スパイサスペンス潜水艦北朝鮮拉致問題このミス国内43位

◆ 事件

北朝鮮軍の大規模演習の夜、潜水艦11号の艦長・桂東月大佐は、45年前に島根の海岸から拉致された日本人女性・広野珠代を伴い、艦ごと日本への亡命を決行する。人民軍は特殊部隊や爆撃機、対潜部隊の殲滅隊を投入し、執拗な追撃を開始する。

◆ 謎

老朽化した旧ソ連製ロメオ級潜水艦で包囲網を突破し、日本へ辿り着けるのか。喘息を抱える珠代は航海に耐えられるのか。そして危機管理能力を欠いたまま傍観する日本政府は彼らを受け入れるのか。海中戦の駆け引きが緊迫の航海を支配する。

2022日本

地羊鬼の孤独

大島清昭

警察小説特殊設定ホラーミステリ猟奇殺人中国妖怪都市伝説

◆ 事件

内臓を精巧な模型にすり替えられた遺体が次々と発見される連続猟奇殺人が発生する。新米刑事・八木沢は県警の林原警部補とコンビを組み、中国妖怪「地羊鬼」を思わせる異様な事件を追ううち、10年前に起きた連続幼女殺人事件との関連が浮かび上がってくる。

◆ 謎

内臓を模型に変えるという猟奇的な手口は、いかにして可能なのか。密室状況の謎や、物語の合間に挿入される土地の都市伝説は事件とどう繋がるのか。そして10年前の未解決の連続幼女殺人と現在の事件の関係は何かが焦点となる。

2022日本

鎮魂

染井為人

社会派サスペンス半グレ復讐

◆ 事件

世間を騒がせる半グレ集団「凶徒聯合」のメンバーが何者かに殺害された。警察は暴力団との抗争や内輪揉めを疑うが、捜査を嘲笑うかのようにメンバーは次々と殺されていき、SNSでは正体不明の犯人を英雄視する声が高まっていく。

◆ 謎

法で裁かれない悪を狩り続ける連続殺人者は誰なのか。なぜ凶徒聯合だけが標的とされるのか。疑心暗鬼に陥るメンバーたち、被害者側と加害者側それぞれの家族の姿を通して、復讐者の正体とその目的が大きな謎として迫り上がる。

2022日本

踏切の幽霊

高野和明

社会派サスペンス幽霊直木賞候補1990年代

◆ 事件

1994年、下北沢の踏切で撮影された一枚の心霊写真と、同じ踏切で相次ぐ列車の非常停止。雑誌記者の松田は心霊ネタの取材として調べ始めるが、踏切付近で起きた被害者不詳の未解決殺人事件に行き当たり、毎夜の奇怪な電話に悩まされるようになる。

◆ 謎

写真に写った女は誰なのか、殺人事件の真相は何か。幽霊はなぜ踏切に現れ、列車を止め続けるのか。死者からもたらされたとしか思えない手がかりに導かれ、記者の地を這うような取材が、やがて事件の深い闇へと近づいていく。

2022日本弁理士・大鳳未来シリーズ

特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来

南原詠

社会派サスペンスお仕事ミステリ知的財産VTuberこのミステリーがすごい!大賞

◆ 事件

特許侵害を警告された企業を守ることを専門とする凄腕弁理士・大鳳未来のもとに、人気VTuber・天ノ川トリィの案件が舞い込む。映像技術の特許権侵害を警告され活動停止の危機にあるトリィの背後には、複数企業の思惑が複雑に渦巻いていた。

◆ 謎

なぜ特許の専用実施権者は権利者の言いなりになっているのか。提訴を回避しながら和解に持ち込む道はあるのか。誰が何の利益のためにVTuber一人を狙い撃ちにするのか。知財実務のリアルな攻防の中で、未来はいちかばちかの秘策を練り始める。

2022日本

二重らせんのスイッチ

辻堂ゆめ

社会派サスペンス冤罪DNA科学

◆ 事件

大手企業のエンジニア・桐谷雅樹が、身に覚えのない強盗殺人容疑で逮捕される。防犯カメラには雅樹としか見えない男が写り、現場から採取されたDNA型も雅樹のものと一致。塾経営の両親に育てられエリート街道を歩んできた彼は、完璧な物証に囲まれ追い詰められていく。

◆ 謎

物証がすべて一致するのに、犯行の記憶がないのはなぜか。カメラに写った男は何者なのか。DNA鑑定と監視カメラの時代に「自分が自分であること」をどう証明すればいいのか。冤罪の構図そのものが謎として提示される。

2022日本

忍者に結婚は難しい

横関大

ユーモアサスペンス冒険・スパイ忍者夫婦ドラマ化

◆ 事件

互いの正体を知らないまま結婚した悟郎と蛍は、実は令和の今も人知れず暗躍する伊賀と甲賀、敵対する忍者一族の末裔だった。家事を押し付ける夫に愛想を尽かした蛍が離婚を切り出そうとした矢先、伊賀系の大物政治家が何者かに暗殺される。

◆ 謎

政治家を暗殺したのは誰なのか。なぜ甲賀の蛍に疑いが向けられ、追われる身となるのか。互いの正体を知った夫婦はどうするのか。一族への忠義と夫婦の愛情のどちらを取るのかが、命がけの逃避行の中で問われていく。

2022日本

爆弾

呉勝浩

サスペンス警察小説取調室頭脳戦タイムリミット

◆ 事件

酔って暴行事件を起こしスズキタゴサクと名乗った中年男が、取調中に「これから東京で爆発が起きる」と予言し、直後に秋葉原で実際に爆発が発生する。男は霊感を口実にした謎かけで次々と爆破予告を繰り返し、都市全体を人質に取る。

◆ 謎

タゴサクは何者で、爆弾はどこに何個仕掛けられているのか。彼の出す悪意に満ちたクイズの裏にある目的とは何か。刑事たちは爆発のタイムリミットに追われながら、取調室での頭脳戦でこの不気味な男の心理を読み解かねばならない。

2022日本

爆発物処理班の遭遇したスピン

佐藤究

サスペンス警察小説短編集量子力学推理作家協会賞

◆ 事件

爆破予告を受けた小学校での処理任務、繁華街のホテルの酸素カプセルに仕掛けられた爆弾。日本推理作家協会賞短編部門を受賞した表題作をはじめ、犯罪と科学とノワールが交錯する世界を描いた全8編を収める短編集である。

◆ 謎

表題作では、眠っている官僚が入った酸素カプセルに、カバーを開ければ即起爆する爆弾が設置される。中の人間を死なせずに解除する方法はあるのか。量子力学の「スピン」をモチーフに、爆発物処理班が不可能状況の解法を探っていく。

2022日本

晩秋行

大沢在昌

ハードボイルド

◆ 事件

居酒屋を営む六十過ぎの円堂のもとに、バブル期の盟友・中村から連絡が入る。三十年前、二十億円のクラシックカーと円堂の恋人だった君香とともに姿を消した「地上げの神様」二見の愛車が目撃されたという。その直後、中村は火事で命を落とす。

◆ 謎

伝説のフェラーリはどこに眠っているのか。二見と君香は今も生きているのか。中村の死は本当にただの事故なのか。過去を掘り起こし始めた円堂の前に、組織の影とバブルの亡霊たちが次々と現れる。人生の晩秋を迎えた男の追跡行が始まる。

2022日本木村&高塚弁護士シリーズ

悲鳴だけ聞こえない

織守きょうや

法廷社会派短編集リーガルミステリ連作

◆ 事件

新人弁護士・木村は、顧問先企業から「ハラスメントの訴えがあったが、被害者も加害者も分からない」という奇妙な調査を任され、社員への聞き取りを始める。表題作のほか、存在しないはずの男、無意味に見える遺言状など、五つの依頼を描く連作短編集。

◆ 謎

誰も名乗り出ないハラスメントは本当に存在するのか。一見無意味な遺言状にはどんな意図が隠されているのか。弁護士が守るべき依頼人の利益とは何か。各話とも、依頼の裏に隠れた人間関係の本当の構図が謎として立ち上がる。

2022日本

氷の致死量

櫛木理宇

サスペンスイヤミスシリアルキラーアセクシュアル

◆ 事件

三十五歳の英語教師・鹿原十和子は、赴任先の高校で十四年前に女性教師・戸川更紗が殺害されたことを知る。同じ頃、街では女性ばかりを狙う猟奇的な連続殺人が静かに進行しており、十和子の身辺にも不穏な出来事が相次ぎはじめる。

◆ 謎

自分とよく似ていたと噂される更紗はなぜ殺されたのか。アセクシュアルである十和子の人生と更紗の人生はどう重なるのか。現在進行形の連続殺人と十四年前の事件はつながっているのか、犯人の異様な執着の正体とは何かが謎となる。

2022日本

変な絵

雨穴

サスペンススケッチミステリ絵解き

◆ 事件

ネットのブログに残された不気味な風景画、子供が描いた家族の絵、死の直前に残されたスケッチ。一見無関係な9枚の「変な絵」が、ある母子をめぐる複数の死と、一人の女性に対する殺害計画へと静かにつながっていく連作型ミステリ。

◆ 謎

それぞれの絵には不自然な点が隠されている。妊婦のブログに添えられた風景画は何を意味するのか。複数の絵を重ね合わせると何が浮かび上がるのか。ばらばらに見えた各章の登場人物と絵が、一つの事件の系譜として収束していく構成が謎の中心となる。

2022日本

放課後レシピで謎解きを うつむきがちな探偵と駆け抜ける少女の秘密

友井羊

日常の謎青春短編集文庫オリジナル料理連作

◆ 事件

猪突猛進でトラブルを起こしがちな高校二年の夏希は調理部へ転部し、同時期に入部した内気なクラスメイト・結とパンを焼くことになる。だがなぜか二人の作ったパンだけが膨らまない。部活と学校を舞台に、料理にまつわる不可解な出来事が次々と起きていく。

◆ 謎

同じ材料と手順のはずなのに、二人のパンだけが膨らまないのはなぜか。料理をめぐる小さな謎の陰で、正反対の二人がそれぞれ抱える「秘密」とは何か。全八編の連作を通じて、日常の謎と少女たちの心の内が少しずつ解かれていく。

2022日本

方舟

夕木春央

本格サスペンスクローズドサークルタイムリミット地下建築

◆ 事件

山奥の地下建築「方舟」を訪れた柊一たち若者グループと、偶然迷い込んだ家族は、地震で出入口が岩に塞がれ水が流入する極限状況に閉じ込められる。タイムリミットが迫るなか、メンバーの一人が何者かに殺害された状態で発見される。

◆ 謎

脱出装置を操作するには誰か一人が犠牲となって残らねばならない。「犠牲者には殺人犯がなるべきだ」という空気のなか、誰が何のために仲間を殺したのか。水没までの限られた時間で、全員が納得できる犯人の特定が最大の謎となる。

2022日本

奔流の海

伊岡瞬

サスペンス過去と現在出生の秘密

◆ 事件

一九六八年、静岡の千里見町を襲った豪雨「七夕崩れ」で多数の死者と行方不明者が出て、避難中の有村家からは生後五ヶ月の赤ん坊が消えた。二十年後、休業状態の旅館清風館を営む清田母娘の前に、大学生・坂井裕二が現れる。

◆ 謎

夜の町を彷徨う裕二は何者で、なぜ千里見へやって来たのか。実父に虐待されて育った彼を引き取った裕福な養父・坂井隆の裏の顔とは何か。そして序章で描かれた台風の夜と現在の物語がどこで繋がるのかが、二人の人生を交互に描きながら問われる。

2022日本警視庁殺人分析班

魔弾の標的 警視庁捜査一課十一係

麻見和史

警察小説サスペンス猟奇殺人新章開幕ゲームマスター編

◆ 事件

動物用の檻に閉じ込められた全裸男性の遺体が発見される。腹部には深い傷があり、なぜか治療用の薬剤が付着していた。捜査に挑む刑事・如月塔子だが、今回の相棒は頼れる鷹野秀昭ではない。戸惑う塔子を嘲笑うかのように第二の事件が発生する。

◆ 謎

檻に入れられた遺体は何を意味するのか。傷を治療した痕跡はなぜ残されていたのか。連続する猟奇事件は同一犯の仕業なのか。鷹野不在の中、塔子は新しい相棒とともに、事件の背後に潜む何者かの意図を読み解けるのかが焦点となる。

2022日本

密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック

鴨崎暖炉

本格特殊設定クローズドサークル雪の山荘このミステリーがすごい!大賞

◆ 事件

密室殺人は手口が立証されない限り無罪、という判例が確立した日本。推理作家の遺した雪山のホテル「雪白館」を訪れた高校生・葛白香澄たちは、唯一の橋が落ちて孤立した館の中で、次々と発生する密室殺人に巻き込まれていく。

◆ 謎

館で起こる六つの密室はいずれも趣向が異なり、解明されない限り犯人は法的に裁けない。同宿する少女・蜜村漆璃はかつて密室殺人の被告人として無罪となった因縁の人物。誰が、なぜ無罪の盾となる密室を量産するのか。香澄は六つの謎に挑む。

2022日本竜泉家の一族シリーズ

名探偵に甘美なる死を

方丈貴恵

本格特殊設定VRデスゲーム館もの

◆ 事件

VRミステリゲームのイベント監修を引き受けた加茂冬馬は、孤島の館メガロドン荘に集められた8名の素人探偵とともにゲームに参加する。だがそれは、推理を外した探偵も真相を見破られた犯人も、現実世界で命を奪われる殺戮ゲームだった。

◆ 謎

VR空間と現実世界の双方で殺人が発生する。仮想空間ならではの不可能状況はどのように構成されているのか。ゲームを支配する主催者の正体と目的は何か。加茂は人質に取られた命を背負いながら、二重の世界にまたがる謎に挑んでいく。

2022日本

名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件

白井智之

本格サスペンスカルトクローズドサークル多重解決

◆ 事件

南米のカルト教団が築いた共同体ジョーデンタウンへ、行方不明になった女性を追って名探偵・大塒と助手のりり子が潜入する。「奇蹟」の力により病気も怪我も存在しないとされる楽園で、密室状況での不可解な殺人事件が発生する。

◆ 謎

信者全員が「奇蹟」を信じ、現実と食い違う認識を共有する村では、証言そのものが歪んでいる。奇蹟を前提とした推理と現実的な推理は両立するのか。不可能犯罪の犯人は誰なのか。多重解決の果てに立ち現れる真実が問われる。

2022日本

夜の道標

芦沢央

社会派サスペンス1990年代横浜逃亡

◆ 事件

1996年の横浜。学習塾を営んでいた恩師が殺害され、教え子の阿久津弦が容疑者として2年にわたり逃亡を続けている。阿久津はかつての同級生・豊子の家の半地下に匿われており、近所で虐待を受ける少年・波留との密かな交流が始まっていく。

◆ 謎

慕っていたはずの恩師を、阿久津はなぜ殺したのか。事件を追う刑事、罪を承知で匿い続ける豊子、家に居場所のない波留。複数の視点が交錯するなかで、動機の核心と、かつては「正しい」とされた過去の行いが持つ意味が静かに問われていく。

2022日本平家物語推理抄シリーズ

揺籃の都 平家物語推理抄

羽生飛鳥

歴史・時代本格

◆ 事件

治承四年、平清盛が京から福原への遷都を強行するさなか、清盛の邸で怪事件が続発する。平家を守護する宝刀が寝所から消え、化鳥が目撃され、青侍の無惨な切断死体が見つかる。折しも世情は源頼朝挙兵の報に大きく揺れていた。

◆ 謎

源氏との内通を甥たちに疑われた清盛の異母弟・平頼盛は、疑いを晴らすため自ら探偵役となる。犯人が消え失せた現場の謎、アリバイのある者ばかりの中で行われた殺人、そして化鳥なる物の怪の正体。怪異は妖の仕業か、人の作為なのか。

2022日本仲田・真壁シリーズ

陽だまりに至る病

天祢涼

社会派警察小説コロナ禍子どもの貧困

◆ 事件

コロナ禍の神奈川。小学五年生の咲陽は「父親が仕事から帰ってこない」という同級生・小夜子を心配し、母に言い出せないまま自室に匿う。翌日、小夜子を捜す刑事が家を訪れ、町ではラブホテルで若い女性が殺される事件が起きていた。

◆ 謎

殺された女性・鈴木夏帆と小夜子の父・虎生にはどんな関係があるのか。殺害現場に落ちていた珍しい飴は、小夜子の好物と同じものだった。父は本当に殺人犯なのか、咲陽は小夜子を守り通せるのかが、貧困とネグレクトの現実とともに描かれる。

2022日本無法律シリーズ

六法推理

五十嵐律人

日常の謎青春連作短編リーガルミステリ大学

◆ 事件

法学部四年の古城行成が営む大学の無料法律相談所「無法律」に、経済学部の戸賀夏倫が、深夜に赤ん坊の泣き声が響き窓に赤い手形がつくアパートの相談に訪れる。以後、リベンジポルノや放火、毒親、カンニング疑惑など法律絡みの難事件が持ち込まれていく。

◆ 謎

事故物件めいた怪現象の正体は何か、誰が何の思惑で疑惑や告発を仕組んだのか。法知識は豊富だが推理を枠にはめられない「法律マシーン」古城と、知識はないが洞察力に優れた自称助手・戸賀。凸凹コンビの補い合う推理が各話の謎を解いていく。

2022日本大野探偵事務所シリーズ

録音された誘拐

阿津川辰海

本格サスペンス誘拐どんでん返し

◆ 事件

大野探偵事務所の所長・大野が何者かに誘拐され、家族のもとへ犯人から身代金要求の電話が入る。15年前に大野家の隣家で起きた誘拐事件との関連が浮かび上がるなか、所員たちは驚異的な聴覚を持つ山口美々香の耳を頼りに捜査を始める。

◆ 謎

プロの探偵である大野は、監禁下からあらゆる手段で外部に情報を伝えようと試みる。一方の美々香は、犯人からの通話に潜むかすかな音の違和感を拾い上げていく。誘拐の真の目的は何か、15年前の事件とどうつながるのか。音をめぐる攻防が展開する。

2022日本忘却探偵シリーズ

掟上今日子の忍法帖

西尾維新

特殊設定ユーモア忘却探偵ニューヨーク

◆ 事件

舞台はニューヨーク。セントラルパークで手裏剣による殺人が起き、ブロードウェイのダンサーは「兵糧丸」の痕跡を残して変死、ナイアガラの滝でも死亡事件が発生する。日本を離れた忘却探偵・掟上今日子に、容疑と依頼が次々と降りかかっていく。

◆ 謎

忍具を用いた連続怪死事件の犯人は誰なのか。眠るたびに記憶を失う今日子は、なぜ不法滞在のままFBIの監視下で探偵業を続けているのか。捜査官ホワイト・バーチと今日子の因縁、そして総白髪と記憶リセットの秘密にまで手がかりが及んでいく。

2022日本図書委員シリーズ

栞と噓の季節

米澤穂信

青春本格図書室学園

◆ 事件

高校の図書委員・堀川次郎と松倉詩門は、返却された本に挟まれた猛毒トリカブトの押し花の栞を見つける。持ち主を探すうちに校舎裏でトリカブトの栽培場を発見し、やがて男性教師が中毒症状で救急搬送されるという事態が起きてしまう。

◆ 謎

誰が何のために猛毒の栞を作ったのか。栞は単なる悪戯なのか、それとも誰かを殺すための準備なのか。栞の持ち主だと名乗り出たクラスメイト・瀬野の言動には嘘の気配が漂い、自分を守るための嘘が幾重にも重なって真相を覆い隠していく。

2023日本

4月1日のマイホーム

真梨幸子

イヤミスサスペンス群像劇家ミス

◆ 事件

東京都S区の新興分譲地「畝目四丁目」に、4月1日前後に5つの家族が引っ越してくる。やがて藤倉家から身元不明の死体が見つかり、住民の間で体調不良や不審死が相次ぐ。この土地にはかつて大量殺人事件があったという不気味な噂が囁かれていた。

◆ 謎

身元不明の死体は誰で、なぜ新築の家から見つかったのか。住民たちを次々と襲う不調と死は祟りなのか、それとも人為なのか。往年のスター・未唯紗英子が建てたアパートメントで大量殺人が起きたという噂は、果たして真実なのか。

2023日本殺し屋シリーズ

777 トリプルセブン

伊坂幸太郎

サスペンスユーモアホテル群像劇

◆ 事件

業界一不運な殺し屋・天道虫こと七尾は、仲介人の真莉亜から「ホテルの一室に荷物を届けるだけ」の簡単な仕事を請け負う。だが同じ超高級ホテルには、超人的な記憶力を持つ女・紙野結花が潜伏しており、彼女を追う殺し屋たちが続々と集結しつつあった。

◆ 謎

紙野は何を知っていて、誰から逃げているのか。届け物だけのはずだった七尾は、なぜホテルから一歩も出られなくなるのか。フロアごとに思惑の異なる殺し屋たちが交錯し、偶然と不運が連鎖する一夜の中で、騒動の裏で糸を引く人物の輪郭が浮かんでくる。

2023日本加賀恭一郎シリーズ

あなたが誰かを殺した

東野圭吾

本格

◆ 事件

高級別荘地で開かれた夏のパーティーの夜、住人たちが相次いで襲われる連続殺傷事件が発生し、複数の命が奪われた。犯人として一人の男が自首して事件は決着したかに見えたが、遺された家族たちは納得できず、真相を確かめる「検証会」を開く。

◆ 謎

自首した男はなぜ犯行に及び、誰をどの順で襲ったのか。供述には説明のつかない空白が残り、遺族たちの証言を突き合わせるほど食い違いが浮かび上がる。休暇中に検証会へ加わった刑事・加賀恭一郎は、各人の語りの裏にある殺意の所在を解きほぐしていく。

2023日本アミュレット・ホテルシリーズ

アミュレット・ホテル

方丈貴恵

本格特殊設定連作短編犯罪者専用ホテル

◆ 事件

警察が決して介入しない犯罪者専用の〈アミュレット・ホテル〉。「ホテルに損害を与えない」「ホテル内で傷害・殺人を犯さない」という二つの掟だけが客を縛る。表題作では、詐欺グループのボスが滞在するスイートルームで宿泊客の死体が発見される。

◆ 謎

掟を破ってホテル内で人を殺したのは誰か。現場は密室状態で、容疑者は全員が嘘と犯罪のプロという最悪の条件の下、ホテル専属探偵・桐生が調査に乗り出す。最終話では犯罪界の頂点が集う会合で殺人が起き、凶器が現場から忽然と消え失せる。

2023日本

アリアドネの声

井上真偽

サスペンスタイムリミットドローン災害

◆ 事件

巨大地震で障がい者支援都市の地下区画が崩落し、一人の女性が取り残された。彼女は見えず、聞こえず、話せないとされる三重苦を抱えた街のシンボル的存在・中川博美。地下水没までのタイムリミットは六時間、救助ドローン操縦者のハルオが誘導に挑む。

◆ 謎

光も音も言葉も届かない相手を、ドローンだけでどうやって出口まで導けばいいのか。誘導が進むにつれ、博美はまるで見えているかのような不可解な動きで何度も危険を回避し始める。三重苦は偽りなのかという疑念が、救助劇に不穏な影を落としていく。

2023日本イクサガミ

イクサガミ 地

今村翔吾

歴史・時代冒険・スパイサスペンスデスゲーム明治剣戟文庫オリジナル

◆ 事件

明治十一年、賞金十万円を懸けた殺し合い「蠱毒」は東海道を舞台に苛烈さを増す。剣客・嵯峨愁二郎は共に旅してきた少女・双葉を攫われ、さらに十三年ぶりに京八流の義兄弟・祇園三助と再会する。参加者は次々と命を落としていく。

◆ 謎

双葉を攫った者の狙いは何か。蠱毒を主催する「議」の正体と、数多の武芸者を殺し合わせる真の目的はどこにあるのか。京八流に課された宿命と、最強の刺客・幻刀斎の影が、東海道を東へ進む愁二郎の前に立ちはだかる。

2023日本岬洋介シリーズ

いまこそガーシュウィン

中山七里

サスペンス社会派音楽アメリカ

◆ 事件

人種差別が激化するアメリカで、著名ピアニストのエドワードはカーネギーホール公演の演目に黒人音楽をルーツに持つ「ラプソディ・イン・ブルー」を選び、岬洋介との共演が決まる。同じ頃、暗殺者〈愛国者〉が大統領暗殺の依頼を受けていた。

◆ 謎

コンサート当日には大統領夫妻もお忍びで来場する。〈愛国者〉は依頼主から思わぬ提案を受け、計画はカーネギーホールへと収斂していく。音楽の殿堂で流れるのは憎しみ合う血か、感動の涙か。暗殺は実行されるのか、誰がどう阻むのかが軸となる。

2023日本マリア&漣シリーズ

ヴァンプドッグは叫ばない

市川憂人

本格特殊設定密室海外舞台

◆ 事件

U国MD州で現金輸送車襲撃事件が発生し、犯人一味の車が遠く離れたA州フェニックス市で発見される。同じ頃、二十年前に連続殺人を犯し研究施設に収容されていた「ヴァンプドッグ」が脱走。市内では彼の手口そっくりの無差別殺人が続発する。

◆ 謎

厳戒態勢の市内で起こる吸血鬼めいた連続殺人は脱走犯の仕業なのか。一方、潜伏する輸送車襲撃犯たちの隠れ家では、密室状態の邸内で仲間の一人が殺される。外と内、二つの連続殺人と変異狂犬病ウイルスの特殊設定がどう絡むのかが謎となる。

2023日本

エレファントヘッド

白井智之

本格特殊設定本格ミステリ・ベスト10第1位多重解決

◆ 事件

精神科医の象山は、過去の罪の影に怯えながらも、妻と二人の娘との平穏な暮らしを何より大切にしていた。だが謎の薬「シスマ」を手にしたことから日常は軋み始め、やがて彼の愛する家族が次々と惨殺される異常な事件に巻き込まれていく。

◆ 謎

シスマは五時間の時間遡行と並行世界への転移を引き起こし、複数の「自分」が同時に存在してしまう。家族を殺したのは誰なのか、そもそもどの世界の誰が加害者で誰が被害者なのか。歪んだ条件の下、手掛かりと推理は異形の論理を組み上げていく。

2023日本

ガウディの遺言

下村敦史

本格冒険・スパイバルセロナサグラダ・ファミリア建築

◆ 事件

1991年のバルセロナ。現地に暮らす佐々木志穂は、サグラダ・ファミリアの石工だった父の失踪を追ううち、父の友人アンヘルの遺体が聖堂の尖塔に吊り下げられているのを発見する。建築家ガウディが遺した「ある物」を巡る陰謀が動き出す。

◆ 謎

父はなぜ姿を消したのか。アンヘル殺害の犯人と目的は何か。鍵は父が託されたという暗号の石板で、そこにはガウディの幻の設計図の在り処が記されているらしい。設計図が公になれば、いま建設中のサグラダ・ファミリアそのものが否定されかねない。

2023日本

きこえる

道尾秀介

サスペンス短編集体験型音声QRコード連動実験的ミステリ

◆ 事件

亡き友人が残したデモテープに紛れ込んだ不自然な声、セミナー会場で再会した男を巡る二十五年前の殺人、盗聴器から流れる女子高生の部屋の音。日常に潜む「音」をきっかけに、五つの物語で人々の運命が静かに狂い始める。

◆ 謎

各話の要所に印刷されたQRコードを読み込むと、作中の音声が実際に再生される。活字だけでは確定しない出来事の真相が、聞こえてくる声や物音によって初めて浮かび上がる仕掛けで、読者自身の耳が探偵役を担わされる。

2023日本戯言シリーズ

キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘

西尾維新

新本格青春首なし死体

◆ 事件

私立澄百合学園に通う十五歳の玖渚盾は、人類最強の請負人・哀川潤に誘拐され、母方の実家である世界遺産・玖渚城へ送り届けられる。青い髪と瞳の少女たちが集う城で、祖父母から故障した人工衛星の修理を頼まれた矢先、殺人事件が起こる。

◆ 謎

盾の従姉妹である玖渚近が、ゲストルームで首を斬られた死体となって発見される。閉ざされた城内で誰がなぜ近を殺し、首を斬ったのか。首の切断にどんな意味があるのか。盾が母から課された「機械に触れるな」という絶対法則の理由も謎として横たわる。

2023日本

クワトロ・フォルマッジ

青柳碧人

本格サスペンス多視点毒殺

◆ 事件

丘の上の小さなピッツェリア「デリンコントロ」で、閉店間際に駆け込んできた男性客がマルゲリータを口にした直後に絶命する。オーナー不在のその夜、店にいたのは従業員四人とその関係者のみ。毒を盛れたのは内部の人間しかいない状況だった。

◆ 謎

男は何の毒でどうやって殺されたのか。犯人は四人の従業員の中の誰なのか。同じ夜の出来事が仁志、映里、久美、伸也それぞれの視点で繰り返し語られるたびに、全員が抱える嘘と秘密が浮かび上がり、事件の見え方そのものが変転していく。

2023日本

こちら空港警察

中山七里

警察小説ユーモア連作空港

◆ 事件

成田国際空港警察署に新署長・仁志村賢作が着任する。温厚そうに見えて実は酷薄かつ唯我独尊の切れ者である仁志村のもとで、人気芸人への麻薬密輸容疑、爆弾騒ぎ、不法移民、ハイジャックと、空港ならではの事件が次々に持ち上がっていく。

◆ 謎

麻薬犬も検査機器も金属探知機も反応しなかったのに、芸人はどうやって麻薬を持ち込んだというのか。管制塔まで占拠したハイジャック犯たちの真の狙いは何なのか。連作五話それぞれで、空港という特殊空間を逆手に取った犯罪の手口が謎となる。

2023日本

ゴリラ裁判の日

須藤古都離

法廷社会派特殊設定メフィスト賞動物ハランベ事件アメリカ

◆ 事件

手話を介して人間と対話できる天才ゴリラのローズ。米国の動物園で暮らす彼女の夫は、檻に転落した男児を引きずったため、子供を守る名目で麻酔銃ではなく実弾により射殺される。ローズは夫を殺した人間社会を相手に訴訟を起こす。

◆ 謎

動物園側の射殺は正当だったのか。そもそもゴリラに人間と同じ権利や法廷で闘う資格はあるのか。「人間と動物を分かつものは何か」という根源的な問いを巡り、ローズの法廷闘争の行方と彼女が最後に下す選択が焦点となる。

2023日本

サクラサク、サクラチル

辻堂ゆめ

青春サスペンス教育虐待ネグレクト大学受験

◆ 事件

東大卒の父を持つ高3の高志は「東大合格」を絶対命令とされ、門限や監視カメラ、平日11時間の勉強を強いられている。同級生の星は母に家事と労働を押しつけられるネグレクト下にあった。境遇は正反対でも共に毒親に縛られた二人が出会う。

◆ 謎

互いの家庭の異常さに気づいた二人は、親への「復讐計画」を始動させる。教育虐待とネグレクト、対照的な虐待に苦しむ高校生の計画はどこへ向かうのか。前半に散りばめられた違和感と伏線が何を意味するのか、「あなたのため」という言葉の正体が問われる。

2023日本ジウサーガ

ジウX

誉田哲也

警察小説ハードボイルドアクション群像劇

◆ 事件

渋谷管内で子宮が摘出された女性の死体が発見され、警部補の東弘樹が身元を追う。同じ頃、謎の組織「新世界秩序」が再び動き出し、政財界の要人たちを脅迫し始める。歌舞伎町セブンも中国要人の息子を預かったことで抗争に巻き込まれていく。

◆ 謎

子宮なき死体は誰で、なぜそのような状態にされたのか。新世界秩序の実体と、暴力をためらわない残虐な実行部隊「CAT」の正体は何か。別々に動き出した警察、歌舞伎町セブン、新世界秩序という三つの線がどこで交わるのかが物語を駆動する。

2023日本

しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人

早坂吝

本格特殊設定サスペンスデスゲームクローズドサークル

◆ 事件

しおかぜ市で一家三人が殺害され金品が奪われる事件が起こる。一方、名探偵・死宮遊歩は目覚めると迷路状の監獄にいた。姿なきゲームマスターは六つの迷宮入り事件の犯人を集めたと告げ、生き残った一人だけが解放される殺し合いを宣言する。

◆ 謎

集められたのは六つの未解決事件の犯人のはずなのに、迷宮牢には七人の男女がいて、全員が潔白を主張する。一人また一人と殺されるなか、余分な一人は誰なのか、ゲームマスターの正体と目的は何か、そして二つの事件はどこで交わるのかが謎となる。

2023日本

すべてはエマのために

月原渉

本格歴史・時代クローズドサークル海外舞台

◆ 事件

第二次大戦下のルーマニア・ブカレスト。ドイツ軍の侵攻から逃れた地下水道で、姉妹のリサとエマは負傷兵から指輪を託される。2年後、看護婦となったリサが名家の邸に招かれると、雪に閉ざされた邸内で男たちが仮面を着けて殺される事件が始まる。

◆ 謎

なぜ被害者は一家の男ばかりで、なぜ死体には仮面が着けられているのか。雪で外界から隔絶された邸で犯行を重ねられた人物は誰なのか。リサとネネ、交錯する語り手の視点の先に、地下水道で託された指輪と「エマ」をめぐる因縁が浮かび上がる。

2023日本

ちぎれた鎖と光の切れ端

荒木あかね

本格サスペンスクローズドサークル二部構成

◆ 事件

第一部では、熊本の孤島・徒島の海上コテージに八人の男女が集まる。その一人・樋藤清嗣は参加者全員を殺す復讐計画を温めていたが、彼の与り知らぬところで殺人が始まる。死体は決まって前の殺人の第一発見者で、いずれも舌が切断されていた。

◆ 謎

復讐者より先に島の人間を殺していくのは誰で、なぜ舌を切るのか。三年後を描く第二部では、大阪のゴミ処理場でバラバラ死体が見つかり、働く真莉愛に疑いが向く。接点のないはずの孤島の惨劇と都会の連続殺人は、どこで鎖のように繋がるのか。

2023日本

でぃすぺる

今村昌弘

特殊設定青春本格ジュブナイルオカルト七不思議

◆ 事件

小学六年生のユースケは、掲示係の相棒に転校生のサツキを指名する。彼女の従姉・マリ姉は一年前、祭りの前夜に学校のグラウンドで変死していた。凶器はなく、薄く積もった雪に残るのは第一発見者の足跡だけ。三人組は『奥郷町の七不思議』のファイルを手掛かりに調査を始める。

◆ 謎

オカルト好きのユースケは怪異の仕業を、ミステリ好きのサツキは人間の犯行を疑い、対立しながら七不思議を一つずつ検証していく。マリ姉はなぜ地元の怪談に手を加え、「七不思議」なのに六つしか残さなかったのか。雪に足跡なき死の真相は何なのか。

2023日本横浜みなとみらい署暴対係

トランパー 横浜みなとみらい署暴対係

今野敏

警察小説横浜暴力団対策

◆ 事件

「ハマの用心棒」と呼ばれる、みなとみらい署暴対係係長・諸橋夏男のもとに、商品を受け取りながら代金を支払わない「取り込み詐欺」の情報が入る。管内の暴力団・伊知田組の関与が疑われ、県警本部と合同の張り込みが始まるが、ガサ入れは空振りに終わる。

◆ 謎

なぜガサ入れの情報は事前に漏れたのか。誰かが捜査情報を洩らしているのか。取り込み詐欺は単なる暴力団の資金稼ぎなのか。捜査二課に捜査一課、さらには外事二課までもが絡む事態の先に、港町・横浜ならではの大掛かりな企みが見え隠れする。

2023日本

なれのはて

加藤シゲアキ

社会派歴史・時代直木賞候補美術戦争秋田

◆ 事件

テレビ局員の守谷は、同僚の祖母が遺した作者不明の一枚の絵で「たった一枚の展覧会」を開こうとする。手掛かりは絵の裏に記された署名「イサム・イノマタ」のみ。作者を探る調査は、秋田の旧家が沈めた暗い秘密へ繋がっていく。

◆ 謎

謎の画家イサム・イノマタとは何者なのか。なぜ作者も来歴も分からないまま絵だけが残されたのか。調査は戦時の秋田、石油で栄えた一族の歴史へと遡り、絵に込められた想いと一族が隠し続けた出来事が少しずつ姿を現していく。

2023日本

ノストラダムス・エイジ

真梨幸子

イヤミスサスペンスオカルト時系列錯綜

◆ 事件

東京郊外で15人の遺体が発見され、当初は集団自殺と見られたが他殺の可能性が浮上する。犠牲者には、1999年7月生まれのオカルト好きが集う「世紀末五銃士」のメンバーも含まれていた。事件から1年半、残るメンバーが次々と惨禍に見舞われていく。

◆ 謎

15人の死は自殺なのか他殺なのか。なぜ1999年7月生まれの者たちばかりが事件に巻き込まれるのか。記憶が飛び、時系列が錯綜する語りの中で、ノストラダムスの大予言に取り憑かれた者たちの間に何があったのかが少しずつ浮かび上がっていく。

2023日本バベルの古書 猟奇犯罪プロファイル

バベルの古書 猟奇犯罪プロファイル Book1《変身》

阿泉来堂

警察小説特殊設定サスペンスホラーミステリシリアルキラー

◆ 事件

札幌近郊の町・荏原市で女子大生が殺害され、遺体の首と両手が切断されて持ち去られた。現場にはカフカ『変身』の一節が残され、その手口は5年前に刑事・加地谷の相棒を奪った「グレゴール・キラー事件」と酷似していた。やがて新たな被害者が現れる。

◆ 謎

犯人は模倣犯なのか、それとも5年前のグレゴール・キラー本人が戻ってきたのか。なぜ現場には古典文学の一節が残されるのか。被害者の霊を目撃したと語る謎の青年は何者なのか。そして事件を導くという「バベルの古書」とは一体何なのか。

2023日本

ホテル・カイザリン

近藤史恵

イヤミスサスペンス短編集

◆ 事件

学園祭の降霊会、他人の物ならなんでも欲しくなる女、上階の住人の生活音に悩む一人暮らしの女性、そして明治の洋館を改装したホテルで月に一度の安らぎを得る人妻。日常に潜む歪みが静かに事件へと転じていく、全8編のミステリ短編集。

◆ 謎

表題作では、各部屋にシェイクスピア劇の名が付く山あいのホテルで、人妻が愁子という女性と親しくなるが、やがて悲劇が起き、警察の取調べを受ける羽目になる。彼女の身に何が起きたのか。そして各編の穏やかな日常の裏には何が隠れているのか。

2023日本行動心理捜査官・楯岡絵麻

ホワイ・ダニット 行動心理捜査官・楯岡絵麻

佐藤青南

警察小説サスペンス取調室連作短編

◆ 事件

人気カップルYouTuberをめぐる殺人、犯行時の記憶を失ったカリスマホスト、天才子役の母親の転落死。取調室で被疑者の微細なしぐさから嘘を見抜く行動心理捜査官・楯岡絵麻が、自供の裏に隠された「本当の動機」に迫っていく連作ミステリ。

◆ 謎

各事件とも「誰がやったか」以上に「なぜやったのか」が焦点となる。被疑者たちが語る動機は果たして本物なのか。演技の訓練によって表情を制御できる天才子役を相手にしたとき、微表情から嘘を見抜くエンマ様の武器は通用するのかが問われる。

2023日本姫川玲子シリーズ

マリスアングル

誉田哲也

警察小説社会派監禁報道

◆ 事件

窓は塞がれ、防音壁と追加錠まで施された、監禁用に改築された民家で男性の死体が発見される。現場の証拠は周到に隠滅されており、特捜本部に入った警視庁捜査一課の姫川玲子は、新たに班へ加わった魚住久江とともに捜査を開始する。

◆ 謎

何者が何の目的で民家を監禁部屋に改築し、男を死に至らしめたのか。なぜ死体は放置されたままだったのか。玲子の天性の閃きと、魚住の心に寄り添う聞き込みで捜査が進むにつれ、思いもよらない人物と、報道をめぐる因縁が浮かび上がってくる。

2023日本むかしむかしあるところに

むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。

青柳碧人

本格特殊設定ユーモア短編集昔話

◆ 事件

こぶとりじいさん、耳なし芳一、舌切り雀、三年寝太郎、金太郎。誰もが知る昔ばなしの世界で殺人や怪事件が巻き起こる。鬼の宴で踊った爺の頬のこぶ、亡霊の屋敷での密室殺人、つづら選びの罠と、五編の本格謎解きが展開するシリーズ第三弾。

◆ 謎

容疑者の頬のこぶは本当に本物なのか。盲目の芳一がいた屋敷の密室で誰がどうやって人を殺したのか。雀のつづらに仕掛けられた選択の罠とは何か。昔ばなし固有の道具立てや妖術がフェアな手がかりとして機能する謎解きが各話で問われる。

2023日本

ヨモツイクサ

知念実希人

特殊設定サスペンスバイオホラー北海道伝承モンスターパニック

◆ 事件

北海道の山奥、アイヌの伝承で禁域とされる「黄泉の森」で、リゾート開発の作業員六人が消失する。七年前に家族を神隠しで失った獣医師・佐原茜は事件に関わるうち、森から現れた「何か」による凄惨な襲撃に直面していく。

◆ 謎

作業員たちを消し、人を襲う伝承の怪物「ヨモツイクサ」の正体は何なのか。七年前に起きた茜の家族の神隠しと今回の事件は繋がっているのか。生物学的にあり得ないはずの怪物の生態の謎に、科学の論理で挑むことになる。

2023日本

ラザロの迷宮

神永学

本格サスペンス館もの記憶喪失二重視点

◆ 事件

新人賞を受けた若きミステリ作家・月島は、友人の永門と湖畔の洋館で開かれる謎解きイベント「ラザロの迷宮」に参加する。一方、刑事・美波紗和の署には血塗れの男が現れ「助けて」と呟く。やがてイベントの最中、本物の殺人が起きてしまう。

◆ 謎

洋館で進む謎解きイベントと、記憶を失った血塗れの男をめぐる捜査。交互に語られる二つの物語はどこで交わるのか。行方を絶った女性はどこへ消えたのか、館で起きた殺人の犯人は誰なのか、そして血塗れの男は何者なのか。

2023日本

レモンと殺人鬼

くわがきあゆ

サスペンスイヤミスこのミステリーがすごい!大賞 文庫グランプリ姉妹どんでん返し

◆ 事件

十年前に洋食店を営む父を通り魔に殺され、母も失踪した小林姉妹。別々の親戚に引き取られ不遇に生きてきたが、妹の妃奈が遺体で発見される。さらに妃奈には、生前に保険金殺人を働いていたという疑惑までかけられてしまう。

◆ 謎

妹は本当に保険金殺人犯だったのか。妹を殺したのは誰なのか。姉の美桜は妹の潔白を証明するため調査を始めるが、調べるほどに家族の過去から不穏な事実が浮かび上がる。「殺人鬼」とは誰を指すのかが最大の謎となる。

2023日本

をんごく

北沢陶

特殊設定歴史・時代横溝正史ミステリ&ホラー大賞史上初の三冠大正大阪ホラー

◆ 事件

大正末期の大阪・船場。画家の壮一郎は急逝した妻・倭子の死を受け入れられず、巫女に降霊を依頼する。やがて現れた倭子の霊はどこか歪んでいた。壮一郎の前には、死者の霊を喰らうという顔のない異形「エリマキ」が現れる。

◆ 謎

なぜ倭子の霊はあの世へ行けず、歪んだ姿でこの世に留まるのか。エリマキですら喰えないほど倭子の霊を取り囲む「何か」の正体とは。倭子が囁いた「うしろに」という言葉の意味を追い、壮一郎とエリマキは怪異の真相へ近づく。

2023日本

悪逆

黒川博行

警察小説倒叙社会派犯罪小説大阪双方視点

◆ 事件

大阪で、士業詐欺で荒稼ぎした広告代理店の元経営者が殺害され、続いて被害者と面識のあるマルチ商法で蓄財した男も殺される。被害者はいずれも法の裁きを逃れてきた悪党ばかり。府警の舘野とベテラン刑事・玉川が捜査にあたる。

◆ 謎

悪党ばかりを狙う犯人は何者なのか。現場ごとに手口も遺留品も異なり、複数犯にも見える周到な犯行の意図はどこにあるのか。刑事たちの地道な地取りと鑑取りの先に、捜査の網をすり抜け続ける犯人の輪郭が浮かんでいく。

2023日本腕貫探偵

異分子の彼女 腕貫探偵オンライン

西澤保彦

本格サスペンス短編集安楽椅子探偵

◆ 事件

コロナ禍の櫃洗市。市民サーヴィス課の「腕貫探偵」はリモート相談窓口で謎を解く。語り手の旧友が介護問題の末に妻を殺して逮捕された。被害者はかつての憧れの女性ナナで、34年前の挙式当日に新郎を殺害され、犯人も不明のままだった因縁の人物だった。

◆ 謎

なぜナナの最初の結婚式の日に新郎は殺されたのか。34年間未解決のままの事件と、再婚した夫による今回の妻殺しに繋がりはあるのか。記憶だけを頼りに語られる過去の断片から、画面越しの腕貫探偵はどのような構図を導き出すのか。

2023日本

一億円の犬

佐藤青南

ユーモアサスペンスSNS

◆ 事件

SNSで「保護犬さくら、港区女子になる」を投稿する自称セレブ妻の梨沙のもとに、出版社から書籍化のオファーが舞い込む。実際は犬も飼っていない川越在住の独身会社員だが、年収一億円を夢見て嘘を突き通そうと犬を探すうち、殺人事件に巻き込まれる。

◆ 謎

書籍化を持ちかけた編集者・寺本は、なぜ突然連絡が取れなくなったのか。梨沙が手に入れた犬コロンの本当の飼い主は誰で、巻き込まれた殺人事件の真相は何か。嘘で塗り固めたセレブ妻の虚像は、いつどこで現実の事件と衝突してしまうのか。

2023日本

一日署長

大倉崇裕

警察小説特殊設定ユーモア短編集タイムリープ未解決事件

◆ 事件

警察学校を首席で卒業した五十嵐いずみに与えられた仕事は、警視庁の一室での未解決事件資料の整理だった。ふて腐れていたある日、古いパソコン「ポルタ」の発する光に包まれたいずみは、1985年、事件当時の警察署長の身体に憑依していた。

◆ 謎

直前に読んだ事件概要というわずかな情報と限られた時間だけを頼りに、いずみは「一日署長」として当時の捜査を指揮し、未解決事件を解決できるのか。なぜ憑依が起こるのか、毎回異なる署長と個性的な部下たちの中でどう立ち回るのかも見どころの全5編。

2023日本

焔と雪 京都探偵物語

伊吹亜門

本格歴史・時代連作短編大正京都

◆ 事件

大正の京都。伯爵家の血を引きながら一族に疎まれる病弱な青年・露木と、屈強な元巡査の鯉城。調査に走る鯉城と、安楽椅子探偵として謎を解く露木のコンビが、付け火と焼身の怪、奇妙な依頼などに挑む全五話の連作探偵物語。

◆ 謎

猟銃を持っていた男は、なぜ火を放ち自らも焼け死ぬという苦しい最期を選んだのか。一話ごとに鮮やかな解決が示される一方で、物語が進むにつれて、露木の推理の冴えと二人の関係そのものに、どこか言いようのない引っ掛かりが積もっていく。

2023日本

縁切り上等! 離婚弁護士松岡紬の事件ファイル

新川帆立

法廷ユーモア短編集離婚鎌倉

◆ 事件

夫のモラハラと浮気疑惑に耐えかねて家を飛び出した聡美は、北鎌倉で縁切寺の娘にして離婚専門弁護士の松岡紬と出会う。財産分与や親権の争い、熟年離婚、同性カップルの別れ。離婚を巡る5つの事件に、優秀だが方向音痴な紬が挑む。

◆ 謎

各話の依頼の裏には、当事者しか知らない事情と意外な真相が隠れている。聡美の夫がホテルで会っていた相手は本当に浮気相手なのか、そもそも「縁を切る」べき相手は誰なのか。5編が微妙に絡み合いながら、家族の形とは何かを問いかける。

2023日本

黄色い家

川上未映子

社会派サスペンスクライムノベル貧困疑似家族本屋大賞ノミネート

◆ 事件

四十歳の花は、かつて共に暮らした吉川黄美子が監禁暴行容疑で逮捕されたという記事を目にし、十七歳の夏を回想する。親元を出て「黄色い家」に集った少女たちは、生きる金を稼ぐためカード犯罪の出し子へと堕ちていった。

◆ 謎

善悪の判断も曖昧なまま犯罪に手を染めた少女たちの共同生活は、なぜ、どのように崩壊したのか。黄美子とは何者で、花にとってどんな存在だったのか。貧困が人を加害へと押し流していく過程そのものが本作の謎として描かれる。

2023日本化石少女シリーズ

化石少女と七つの冒険

麻耶雄嵩

本格青春短編集学園ものアンチミステリ

◆ 事件

京都の名門・私立ペルム学園を舞台にした連作集。古生物部部長で化石に夢中な三年生・神舞まりあと、二年生の助手・桑島彰のコンビのもと、新入部員も加わった新学期、学園では今年も殺人事件が相次ぎ、奇妙な現場や謎めいた手掛かりが残される。

◆ 謎

まりあは事件のたびに筋の通った推理を披露するが、普段の言動が残念すぎて誰にも信じてもらえない。それどころか、なぜ助手の彰は毎回彼女の推理を否定して回るのか。正しい推理が黙殺され続ける学園で、七つの事件は不穏に積み重なっていく。

2023日本葛警部シリーズ

可燃物

米澤穂信

警察小説本格短編集ミステリランキング3冠

◆ 事件

群馬県警捜査一課の葛警部が、管内で起きる五つの事件に挑む連作短編集。スキー場のコース外で見つかった刺殺体、目撃証言が完全に一致する交通事故、河川敷のバラバラ遺体、年末に頻発するゴミ集積所の連続放火、ファミレス立てこもり事件などを扱う。

◆ 謎

雪山の刺殺体の傍に凶器が見当たらないのはなぜか。四人の目撃証言はなぜ不自然なほど一致するのか。連続放火はなぜ小火ばかりで、捜査が動き出すと同時にぱたりと止んだのか。物証と証言の小さな違和感から、葛は事件の構図そのものを疑っていく。

2023日本ビストロ・パ・マル

間の悪いスフレ

近藤史恵

日常の謎短編集料理ミステリ

◆ 事件

コロナ禍で苦境に立つ下町のフレンチレストラン「パ・マル」。テイクアウトや料理教室を始めた店の周りでは、料理教室で起きたトラブル、ひとりでテイクアウトを買いに来る男子中学生の事情など、小さな謎が次々と持ち上がる全7編の連作集。

◆ 謎

クスクスという料理の由来に込められた事情とは。店に通う中学生は何を抱えているのか。プロポーズの席で起きたスフレをめぐる行き違いの真相は。無口な三舟シェフは、客たちのささいな言動と料理の知識から、その裏の事情をどう読み解くのか。

2023日本

逆転正義

下村敦史

サスペンスイヤミス短編集どんでん返し

◆ 事件

いじめの告発、びしょ濡れの家出少女の保護、完全黙秘を貫く麻薬売人、ストーカー被害、罪の相続。それぞれが信じる「正義」のために行動を起こす人々を描く全6編。一見まっとうな言い分が、視点が変わった瞬間にまるで別の顔を見せ始める。

◆ 謎

各編で語られる正義はどれも理にかなって見える。だが本当に正しいのは誰なのか。いじめ加害者をネットに晒す制裁は、少女を保護する善意は、売人の沈黙は何のためか。タイトル通り「正義」が逆転する瞬間が、全編に周到に仕掛けられている。

2023日本

鏡の国

岡崎琢磨

本格社会派作中作ルッキズム

◆ 事件

大御所ミステリ作家・室見響子の死後、彼女が小説家になる前に書いた私小説を死の直前に手直しした遺稿『鏡の国』が見つかる。本書の大半はその作中作で占められ、火傷の痕や醜形恐怖、相貌失認など容姿の悩みを抱えた幼馴染たちの物語が展開される。

◆ 謎

遺稿には、生前の響子が削除したらしいエピソードが存在する疑いが浮かぶ。削られたのは何で、なぜ削る必要があったのか。私小説だという作中作のどこまでが実話なのか。まえがきとあとがきに挟まれた物語の輪郭そのものが、大きな謎として迫り出してくる。

2023日本

午後のチャイムが鳴るまでは

阿津川辰海

青春日常の謎本格短編集学園もの

◆ 事件

九十九ヶ丘高校の昼休み、十一時五十五分から十三時までの六十五分間だけを舞台にした連作集。フェンスの穴から学校を抜け出しラーメン店を目指す二人組、入稿直前に消えた表紙絵師を捜す文芸部員、消しゴムを札に見立てたポーカー賭場など、五つの騒動が起きる。

◆ 謎

チャイムが鳴るまでに、彼らは目的を果たして素知らぬ顔で教室へ戻れるのか。小さな企みや失踪の裏には必ず誰かの意図が隠れており、各話の探偵役がそれを解きほぐしていく。そして五つの物語の端々に顔を出す人物たちは、どこかで繋がっているように見える。

2023日本交渉人・遠野麻衣子

交渉人・遠野麻衣子ゼロ

五十嵐貴久

警察小説サスペンス前日譚特殊詐欺

◆ 事件

犯罪抑止対策室に勤務する遠野麻衣子に、交渉人研修への参加命令が下る。石田警視のもとで容赦なく脱落者が出る過酷な研修を経て、麻衣子は実践を兼ねた大規模な特殊詐欺グループの摘発捜査に参加するが、捜査は思わぬ方向へ転がり始める。

◆ 謎

摘発目前で監視対象者が殺害され、捜査情報が事前に漏れていた疑いが浮上する。特殊詐欺グループの全容はどこまで広がっているのか。警察内部に内通者がいるのか。嘘と駆け引きの応酬の中で、麻衣子は交渉人としての資質をどう示すのか。

2023日本

幸せの国殺人事件

矢樹純

青春サスペンス廃遊園地少年探偵

◆ 事件

小学校でヒーローだった太市は今や引きこもりの中学生。ネトゲ仲間の海斗、未夢とともに、偶然届いた不穏な動画の正体を探るため、廃園になった遊園地「幸せの国」へ忍び込む。動画の痕跡を追ううち、園内から若い女性の白骨死体が発見される。

◆ 謎

不穏な動画は誰が何のために撮ったのか。白骨死体の身元は誰で、なぜ廃遊園地に埋もれていたのか。伝説の希少なノベルゲーム、才能あふれる女子芸大生など、遊園地をめぐって交錯する人々の思惑の中で、少年たちは隠された真実に辿り着けるのか。

2023日本

香港警察東京分室

月村了衛

警察小説冒険・スパイ直木賞候補国際捜査

◆ 事件

香港国家安全維持法の施行後、日本へ流入する犯罪者に対処するため、警視庁内に日中合同の「特殊共助係」、通称・香港警察東京分室が設置される。初の共助事案は、香港でデモを扇動して多数の死者を出し、日本へ逃亡した元教授キャサリン・ユーの逮捕だった。

◆ 謎

捜査線上では香港系犯罪組織・黒指安との抗争が激化する一方、穏健派で知られたユー元教授がなぜデモを扇動したのかという疑問が膨らんでいく。互いに腹を探り合う日本側五人、香港側五人の刑事たちは、そもそも何のために集められたのか。

2023日本

黒い糸

染井為人

イヤミスサスペンスホラーサスペンスサイコパス小学校

◆ 事件

結婚相談所のアドバイザーとして働くシングルマザーの亜紀は、顧客とのトラブル以降、無言電話などの執拗な嫌がらせに悩まされている。やがて息子の通う小学校でクラスの女児が失踪。担任は休職し、代わりに長谷川という男性教諭が赴任してくる。

◆ 謎

嫌がらせの主は誰か。女児失踪と関係はあるのか。亜紀と長谷川の二視点で進む物語では、登場人物の誰もが何かを隠しているように見え、信じていたものが読み進めるほどに崩れていく。連鎖する悪意の黒い糸は、どこへつながっているのか。

2023日本

最恐の幽霊屋敷

大島清昭

特殊設定本格ホラーミステリ幽霊屋敷

◆ 事件

「最恐の幽霊屋敷」という触れ込みで貸し出される一軒家。さまざまな事情でそこに滞在した者たちは、一様に背筋の凍る怪異に見舞われた上、次々と恐ろしい死を遂げていく。幽霊を信じない探偵・獏田夢久が、屋敷で相次ぐ不審死の調査に乗り出す。

◆ 謎

屋敷に滞在した者がことごとく死ぬのはなぜか。怪異は本物の心霊現象なのか、それとも人為的な仕掛けなのか。幽霊の存在を前提にしなければ説明がつかないように見える死の連鎖に対し、合理を信条とする探偵はどのような推理で挑むのか。

2023日本

最後の祈り

薬丸岳

社会派サスペンス教誨師死刑制度贖罪

◆ 事件

牧師・保阪宗佑の娘は、妊婦を含む4人を惨殺した男に命を奪われた。死刑判決に「サンキュー」と高笑いした犯人。宗佑は受刑者の魂を救う教誨師となり、その死刑囚と対面する道を選ぶ。執行の日が迫る拘置所で、二人だけの対話が始まる。

◆ 謎

人を救うために祈ってきた牧師が、なぜ憎むべき犯人の教誨を引き受けたのか。罪の意識のかけらもない死刑囚に対し、宗佑は何を仕掛けようとしているのか。祈りと復讐心の間で煩悶する教誨の行方と、宗佑自身が抱える秘密が物語を貫く。

2023日本御子柴礼司シリーズ

殺戮の狂詩曲

中山七里

社会派法廷弁護士大量殺人

◆ 事件

高級介護付き有料老人ホーム「幸朗園」で、介護士の忍野忠泰が「天誅」と称して入居者九人を刺殺する大量殺人が発生する。世間が極刑を望むなか、悪名高き弁護士・御子柴礼司が、勝ち目も報酬も見込めないこの国選弁護に自ら名乗りを上げる。

◆ 謎

九人を殺した男に弁護の余地はあるのか。それ以上に、バッシング必至でリスクしかない国選弁護に御子柴がなぜ自ら手を挙げたのかが最大の謎となる。被害者遺族への聴取を重ねるうちに、事件の構図は単純な大量殺人事件から少しずつ変容していく。

2023日本

四重奏

逸木裕

サスペンス音楽ミステリ弦楽四重奏芸術

◆ 事件

チェリストの坂下英紀は、鵜崎四重奏団に在籍していたチェリスト・黛由佳の突然の死に衝撃を受ける。その死に不審なものを覚えた英紀は、「火神」の異名で聴衆を支配する孤高の天才・鵜崎顕に近づき、四重奏団の内側へと入り込んでいく。

◆ 謎

由佳はなぜ死んだのか。事故か、自殺か、それとも他殺なのか。圧倒的な演奏で人々を魅了する鵜崎の音楽の秘密とは何か。「音楽とは模倣かオリジナリティか」「私たちは本当に音楽を理解できているのか」という問いが、由佳の死の真相と絡み合っていく。

2023日本

私雨邸の殺人に関する各人の視点

渡辺優

本格クローズドサークル嵐の山荘探偵不在多視点

◆ 事件

山あいに建つ洋館・私雨邸。嵐による土砂崩れで道が塞がり、ミステリマニアの大学生、地元誌の編集者、当主の孫らワケありの11人が館に取り残される。その夜、館の主である資産家の老人・雨目石昭吉が施錠された部屋で刺殺体となって発見され、現場には血文字が残されていた。

◆ 謎

名探偵不在のクローズドサークルで、素人たちが代わる代わる探偵役を買って出ては自信満々に推理を披露するが、ことごとく的外れ。三人の視点人物の語りに挟まれる「邸内にいる十人のうち一人が犯人である」という謎の声。密室と血文字の真相、そして犯人は誰なのか。

2023日本凍結事案捜査班

時の呪縛 凍結事案捜査班

麻見和史

警察小説コールドケースシリーズ第1作

◆ 事件

妻を癌で亡くして意欲を失った50代の刑事・藤木は、未解決事件を扱う警視庁特命捜査対策室支援係に異動となる。命じられたのは30年前に立川で起きた小学4年生男児の遺体遺棄事件の再捜査。だが動き出した途端、当時の関係者が襲われ始める。

◆ 謎

なぜ30年間も凍結されていた事件が今になって動くのか。再捜査と呼応するように、被害男児に近しかった大人たちが次々と殺されていくのはなぜか。曲者揃いの支援係は、過去の事件と現在の連続殺人をつなぐ一本の糸を手繰り寄せられるか。

2023日本

十戒

夕木春央

本格サスペンスクローズドサークル方舟に続く長編

◆ 事件

亡き叔父が遺した無人島のリゾート開発視察のため、里英は父や開発関係者ら九人で島へ渡る。翌朝、一行の一人が殺され、現場には犯人からの手紙と十の戒律が残されていた。島には爆弾が仕掛けられており、戒律を破れば全員が爆死するという。

◆ 謎

「犯人を探してはならない」という戒律の下、一行は犯人の指示に従いながら島での三日間を生き延びねばならない。誰が犯人なのか、そしてなぜ殺人を犯しながら、正体の探索だけを執拗に禁じるのか。従順と疑念の狭間で息詰まる心理戦が続く。

2023日本ハングマンシリーズ

祝祭のハングマン

中山七里

社会派サスペンス復讐私刑

◆ 事件

警視庁捜査一課の刑事・春原瑠衣の周辺で、父と同じ中堅ゼネコンに勤める社員たちが相次いで不審死を遂げる。いずれも巧妙に事故として処理されるなか、ついに父までもが工事現場で命を落とし、瑠衣は疑念を抱えたまま捜査に臨むことになる。

◆ 謎

連続する不審死は本当にただの事故なのか、それとも偽装された殺人なのか。警察として捜査しても証拠がつかめないなか、死んだ社員たちをつなぐ過去の悪事と、法で裁けない悪を狩る「ハングマン」と呼ばれる私刑執行人の存在が浮かび上がる。

2023日本

署長シンドローム

今野敏

警察小説ユーモア密輸大森署

◆ 事件

名物署長・竜崎伸也が去った大森署に、後任として圧倒的な美貌を持つキャリアの藍本小百合署長が着任する。ほどなく、管内の羽田沖海上で武器と麻薬の密輸取引が行われるという情報が飛び込み、平穏だった署は一転して騒然となっていく。

◆ 謎

密輸取引の背後には国際犯罪の影がちらつき、公安外事、海上保安庁、厚労省麻薬取締部と複数の捜査機関が入り乱れる。縄張り意識で対立しかねない各機関をまとめ上げ、取引の現場を押さえられるのか。新署長の手腕と真価が問われていく。

2023日本仲田・真壁シリーズ

少女が最後に見た蛍

天祢涼

警察小説社会派短編集いじめシリーズ第4弾

◆ 事件

神奈川県警生活安全課の仲田蛍は、中学時代の同級生・来栖楓と思いがけず再会する。来栖はかつて同級生の桐山蛍子をいじめており、仲田は蛍子を守ろうと手を尽くしたが力及ばず、蛍子は自ら命を絶っていた。話を聞いた捜査一課の真壁が動き出す。

◆ 謎

蛍子の自殺は本当にいじめだけが原因だったのか。その背後に、当事者だった仲田すら知らない事実が隠れているのではないか。子どもに関わる事件を解き続けてきた敏腕捜査員の原点と心の傷に、シリーズで初めて正面から光を当てる表題作ほか全5編。

2023日本

少年籠城

櫛木理宇

社会派サスペンス立てこもり児童虐待子ども食堂

◆ 事件

地方温泉街の河原で子どもの惨殺遺体が発見される。警察は小児わいせつ事件を繰り返してきた15歳の少年・当真への疑いを強めるが、逃亡した当真は警官の拳銃を奪い、子分とともに子ども食堂へ立てこもる。人質を盾に「真犯人を捕まえろ」と要求した。

◆ 謎

当真は本当に無実なのか。無実だとすれば子どもを殺した真犯人は誰なのか。やがて河原からは新たな白骨遺体も見つかり、事件は連続性を帯びていく。食堂店主の柳楽は籠城する少年たちと対峙しながら、警察と大人たちが見ようとしなかった真実に迫る。

2023日本教場

新・教場

長岡弘樹

警察小説本格警察学校連作長編シリーズ第4弾

◆ 事件

警察学校に伝説の鬼教官・風間公親が赴任し、第百二期短期課程の教場を率いる。新任の久光校長が命じたのは前代未聞の「退校者ゼロ」。だが教場では備品の紛失や学生の妊娠発覚など問題が頻発し、学生たちの隠し事が次々と表面化していく。

◆ 謎

資質なき者を容赦なくはじき出してきた風間は、誰も辞めさせずに教場を導けるのか。各章で起こる出来事の裏には、指の欠損を隠す者、過剰なほど周到に振る舞う者、他人の罪をあえて被る者など、学生それぞれの秘密と思惑が潜んでいる。

2023日本

真夜中法律事務所

五十嵐律人

特殊設定法廷幽霊リーガルミステリ

◆ 事件

検事の印藤累はあるきっかけから死者の姿が視えるようになる。「案内人」を自称する青年・架橋昴に導かれ、真夜中にだけ開かれる法律事務所を訪れた印藤は、死亡時の記憶を失った幽霊たちを成仏させるための真相調査に関わっていく。

◆ 謎

幽霊は自分がなぜ死んだのかを覚えていない。死者の未練を晴らすため死の真相を追う一方、現実では不可解な殺人事件が発生し、先輩検事にはストーカー事件揉み消しの疑いがかかる。死者の視点と法律実務がどこで交差するのかが焦点となる。

2023日本

人間標本

湊かなえ

イヤミスサスペンス手記形式作中作親子

◆ 事件

蝶を愛する研究者・榊史朗の「私は六人の少年を標本にした」という衝撃の告白から物語は始まる。美しい標本に変えられた少年たちのなかには史朗の息子も含まれており、犯行の経緯を綴ったという手記が公開されていく。

◆ 謎

なぜ研究者は少年たちを「人間標本」にしたと告白したのか。手記に綴られた犯行は事実なのか、そこに虚構は混じっていないのか。手記という形式そのものの信頼性が揺らぐとき、事件の本当の構図が改めて問われることになる。

2023日本

世界でいちばん透きとおった物語

杉井光

青春本格メタミステリ電子書籍化不可能文庫オリジナル

◆ 事件

大御所ミステリ作家・宮内彰吾が死去し、不倫の末に生まれた息子の燈真は、父が最後に遺したという幻の小説『世界でいちばん透きとおった物語』の行方を追い始める。父の関係者を訪ね歩くうちに、作家の知られざる素顔と母の記憶が掘り起こされていく。

◆ 謎

遺稿は本当に存在するのか、なぜ誰もその中身を知らないのか。校正者だった亡き母と父の関係、そして燈真自身が紙の本を読むと目がちかちかするという脳手術の後遺症——ばらばらに見える事実の断片が、表題の「透きとおった」の意味へと収束していく。

2023日本

世界の終わりのためのミステリ

逸木裕

特殊設定日常の謎SFミステリ終末世界ヒューマノイド

◆ 事件

人間の意識を半永久的な人工身体にコピーしたヒューマノイド〈カティス〉の女性ミチが目覚めると、世界から人類が消失していた。安全機構ゆえに自死もできず絶望する彼女の前に、少年型カティスのアミが現れ、「人類消失の謎を解く」旅へと誘う。

◆ 謎

人類はなぜ、どこへ消えたのか。旅の先々で出会うカティスたち――死を望む者、娘の墓を探す者、冒険を求める者たち――が抱える謎を一つずつ解きながら、ミチは人間だった頃の失われた記憶と、永遠の時間を「生き続ける意味」に向き合っていく。

2023日本

星くずの殺人

桃野雑派

本格特殊設定宇宙クローズドサークル無重力

◆ 事件

完全民間の宇宙旅行が実現した近未来。モニターツアーの参加者たちが滞在する宇宙ホテル「星くず」で、憧れの的だったパイロットが無重力空間で首を吊った状態の遺体となって発見される。さらに地上との通信も遮断されてしまう。

◆ 謎

浮力も足場も存在しない無重力空間で、人はどうやって「首を吊る」のか。自殺か他殺か、他殺ならば閉ざされた宇宙ホテルにいる誰が犯人なのか。通信が途絶し孤立した宇宙空間で、やがて第二の殺人までもが発生してしまう。

2023日本三島屋変調百物語

青瓜不動 三島屋変調百物語九之続

宮部みゆき

歴史・時代怪談江戸連作短編集

◆ 事件

江戸・神田の袋物屋三島屋では、聞いた話は聞き捨てとする一風変わった百物語が続く。二代目聞き手の富次郎のもとに、青瓜から現れた不動明王像、家族を守る人形、自在に絵が描ける筆、人ならざる者の里をめぐる四つの不思議な話が持ち込まれる。

◆ 謎

行き場のない女たちが集う寺から出土した不動明王像の由来とは何か。語り手たちが持ち込む怪異の数々は、どんな人の業や祈りに根ざしているのか。各話で語られる怪異の正体と、聞き終えた富次郎が固めていく人生の決意が物語の焦点となる。

2023日本

戦国女刑事

横関大

警察小説特殊設定ユーモア短編集戦国武将性別逆転

◆ 事件

戦国武将たちが女性刑事として現代に実在する世界。「尾張の大うつけ」織田信子率いる警視庁捜査一課第5係に迷い込んだ徳川康子は、潜入捜査も辞さない信子の苛烈な流儀に振り回されながら難事件に挑む。折しも捜査一課では汚職が次々と発覚していた。

◆ 謎

桶狭間や姉川など戦国の故事をなぞるような各話の事件をどう解決するのか。最終話「本能寺殺人事件」では、燃え落ちた別荘「本能寺」から首のない遺体が発見される。死体の状況は犯人すら首をかしげる不可解なもので、連作全体を貫く真相が問われる。

2023日本

素敵な圧迫

呉勝浩

サスペンス短編集奇想

◆ 事件

昭和の高度成長期からコロナ禍の令和まで、犯罪小説・SF・コメディとジャンルを横断しながら人間の「歪み」と「狂気」を描き出す全6編の奇想短編集。狭い場所に快感を覚える女、町を覆う謎の落書きに翻弄される交番巡査らが登場する。

◆ 謎

表題作では、幼い頃から圧迫されることに悦びを見出してきた蝶野広美が、別れ話のもつれから極限状況に追い込まれていく。「Vに捧げる行進」では、コロナで閉塞した町の人々が謎の落書き事件をきっかけに、不気味な熱に浮かされていく。

2023日本

蒼天の鳥

三上幸四郎

歴史・時代サスペンス江戸川乱歩賞大正実在人物モデル活動写真

◆ 事件

大正十三年の鳥取。女流作家・田中古代子は娘の千鳥と活動写真「兇賊ジゴマ」を観劇中、火事に見舞われる。煙に包まれた舞台に「本物」のジゴマが現れ、一人の男を刺殺して姿を消した。直後から母娘は謎の男たちに付け狙われる。

◆ 謎

映画の怪人ジゴマはなぜ現実の鳥取に現れ、人を殺したのか。殺された男は何者で、なぜ古代子母娘が襲われるのか。友人の作家・尾崎翠や内縁の夫・涌島とともに、古代子は大正の世を騒がす事件の裏側へと踏み込んでいく。

2023日本

存在のすべてを

塩田武士

社会派サスペンス山田風太郎賞誘拐美術

◆ 事件

平成三年、神奈川県で二人の幼児が同時に狙われる前代未聞の「二児同時誘拐事件」が発生。一人は無事保護されたが、四歳の内藤亮は行方不明のまま、三年後に突然祖父母の家へ帰ってくる。三十年後、当時を取材した新聞記者の門田が、亮の「空白の三年間」を追い始める。

◆ 謎

亮はあの三年間、誰とどこで暮らしていたのか。なぜ何も語らないまま、事件は犯人不明で時効を迎えたのか。門田の執念の取材は、写実画壇で注目を集める謎多き画家・如月脩の存在へと繋がっていき、誘拐事件の構図そのものが静かに揺らぎ始める。

2023日本警察庁特殊例外事案専従捜査課事件ファイル

大雑把かつあやふやな怪盗の予告状 警察庁特殊例外事案専従捜査課事件ファイル

倉知淳

ユーモア本格短編集名探偵もの

◆ 事件

密室殺人や怪盗の予告状など「ミステリ小説みたいな事件」だけを扱う警察庁の新部署、通称・探偵課。配属された新人キャリア・木島は、招集されるクセの強い民間の名探偵たちとともに、中途半端な密室や曖昧な予告状といった珍事件の対応に追われる。

◆ 謎

なぜ密室は「古典的にして中途半端」なのか。怪盗の予告状はなぜ大雑把であやふやなのか。手間暇をかけたのに判りやすすぎる見立て殺人の意図とは何か。ふざけた外見をした事件の裏に隠された合理的な理由を、探偵課の名探偵たちが推理していく。

2023日本

地雷グリコ

青崎有吾

青春サスペンス本格連作短編頭脳ゲーム本格ミステリ大賞ほか8冠

◆ 事件

平穏を愛するくせに勝負事に滅法強い女子高生・射守矢真兎が、学園の利権や面子を懸けて持ち込まれる頭脳ゲームに挑む連作集。文化祭の場所取りを懸け、階段グリコに地雷マスのルールを加えた「地雷グリコ」で生徒会副会長・椚迅人と対決する。

◆ 謎

地雷を踏めば十段後退という追加ルールの下、四十六段の階段を先に登り切るのはどちらか。坊主衰弱、自由律ジャンケンなど馴染みの遊びに一捻り加えたゲームが続き、相手は毎回搦め手と仕込みを用意してくる。真兎はどこで何を読み切っているのか。

2023日本

答えは市役所3階に 2020心の相談室

辻堂ゆめ

日常の謎社会派短編集コロナ禍カウンセラー

◆ 事件

コロナ禍の市役所3階に開設された「2020こころの相談室」。夢を断たれた17歳の高校生、婚約者を失った29歳の看護師、産後に追い詰められた38歳の女性、路上生活に落ちた46歳の男性、孤立した19歳の大学生。事情を抱えた5人が扉を叩く。

◆ 謎

カウンセラーの晴川あかりらは、相談者の言葉や仕草に潜む小さな矛盾から、本人すら口にしない「本当の悩み」と知られたくない秘密を推理していく。独立して見える5つの相談が、最終話に向けてどうつながっていくのかも仕掛けられている。

2023日本

涜神館殺人事件

手代木正太郎

本格特殊設定ゴシックホラー本格ミステリ大賞候補降霊会館もの

◆ 事件

悪魔崇拝の伝説が残る幽霊屋敷「涜神館」に、領主の招きで霊能力者たちが集められる。降霊会が繰り返されるなか、館で消息を絶っていた女性の遺体が発見され、翌朝には領主自身が殺害されているのが見つかり、連続殺人が幕を開ける。

◆ 謎

妖精と交信すると称するペテン師の主人公の前で、他の霊能力者たちは手品では説明できない力を披露する。二百年閉ざされた中庭になぜ遺体が運ばれたのか、衆人の前から殺人者はいかに消えたのか。霊が実在する館で謎が連鎖する。

2023日本能面検事シリーズ

能面検事の死闘

中山七里

社会派サスペンス検察爆破テロ

◆ 事件

南海電鉄岸和田駅で「無敵の人」を自称する笹清政市が七人を殺害する無差別殺人が発生する。数日後、大阪地検に届いた郵送物が爆発して六人が重軽傷を負い、「ロスト・ルサンチマン」を名乗る犯人が笹清の釈放を要求する声明を突きつける。

◆ 謎

爆破犯ロスト・ルサンチマンは本当にロスジェネ世代の代弁者として笹清の釈放を求めているのか。連続する爆破の標的の選び方に意味はあるのか。不破俊太郎検事自身も爆発に巻き込まれるなか、犯人の正体と真の目的、そして次の標的が問われる。

2023日本

半暮刻

月村了衛

社会派ハードボイルド犯罪小説半グレ格差社会

◆ 事件

児童養護施設出身の翔太と、有名私大に通う海斗。二人は女性を騙して借金漬けにし風俗へ沈める半グレの会員制バー「カタラ」でコンビを組み成り上がっていく。やがて店は摘発されるが、二人に下される処分は残酷なほど対照的だった。

◆ 謎

同じ罪を犯した二人の人生は、なぜここまで明暗を分けるのか。出自と学歴と金が刑罰の重さすら左右する社会の構造そのものが本作の問いであり、罪の自覚なき者と罪に向き合う者、それぞれのその後が並行して描かれていく。

2023日本

帆船軍艦の殺人

岡本好貴

本格歴史・時代鮎川哲也賞海洋ミステリクローズドサークル18世紀英国

◆ 事件

1795年、対仏戦争下の英国。靴職人ネヴィルは強制徴募で戦列艦ハルバート号に乗り組まされる。月のない夜、衆人環視の甲板で水兵が殺害されるが、誰も犯人の姿を見ていない。仏艦との交戦を挟み、艦内では殺人が続発する。

◆ 謎

逃げ場のない洋上の軍艦という巨大な密室で、誰が、なぜ、どうやって衆人の目前で人を殺し、姿を消したのか。元水兵の海尉ヴァーノンが、過酷な艦上生活と戦闘の合間に、艦の中で続発する不可能犯罪の真相を追っていく。

2023日本

彼女はそこにいる

織守きょうや

サスペンス本格ホラーミステリ連作短編

◆ 事件

中学生の茜里が母と引っ越した庭付きの一軒家で、見知らぬ髪の毛や勝手に消えるテレビなどの怪異が続発し、庭には見知らぬ男の姿が現れる。やがてその家は、借り手が次々と短期間で入れ替わってきた曰く付きの物件であることが判明していく。

◆ 謎

家で起きる怪異は本物の心霊現象なのか、それとも人為的なものなのか。なぜ歴代の住人は次々とこの家を去ったのか。不動産仲介会社の朝見とフリーライターの高田が調べる家の来歴と、そこに隠された過去の「ある事件」とは何だったのか。

2023日本

彼女はひとり闇の中

天祢涼

倒叙社会派女子大生横浜ホワイダニット

◆ 事件

10月の日曜の朝、横浜・日吉に住む女子大生の千弦は、自宅近くの小道で女性が刺殺されたことを知る。被害者は前夜「相談したいことがある」とだけLINEを送ってきた幼なじみの玲奈だった。千弦は自らの手で真相を探ろうと動き出す。

◆ 謎

犯人側の視点も描かれる倒叙形式で、探偵役は早々に犯人に目星をつける。だが分からないのは「なぜ玲奈は殺されたのか」という動機。事件はなぜ起こったのかというホワイダニットと、真相に迫る千弦と阻もうとする犯人の攻防が同時に進行する。

2023日本

不夜島

荻堂顕

ハードボイルド特殊設定歴史・時代戦後沖縄ノワールサイバーパンク与那国島

◆ 事件

終戦直後、米軍統治下の与那国島。全身を義体化した密貿易人・武庭純は、日本人刑事から殺人鬼と化した元憲兵大尉の捜索を依頼される。さらに、姿も形も在処も知れない「含光」と呼ばれる代物を手に入れろという奇妙な命令が下る。

◆ 謎

「含光」とはいったい何なのか。武に最強の義体を与えた米国人ミス・ダウンズが告げる「N計画」の正体とは。恩人の息子の中身が別人にすり替わっている違和感も含め、島に集う者たちの思惑と世界規模の陰謀の全貌が謎となる。

2023日本

復讐は合法的に

三日市零

法廷サスペンス短編集復讐連作

◆ 事件

浮気した恋人に結婚資金まで奪われた麻友は、性別不詳の弁護士エリスが営む法律探偵事務所を訪れ、裏メニューの「合法的な復讐」代行を知る。以降、息子が殺人犯となった親や性犯罪事件の関係者など、様々な依頼人の復讐をエリスが請け負う。

◆ 謎

法に触れずにどうやって復讐を成立させるのか。各話では復讐の手段そのものに加え、息子はなぜ人を殺したのかという背景、少女を狙う性犯罪者の正体、誹謗中傷で死者まで出したSNS暴露アカウント「味亭太」の正体といった謎が解かれていく。

2023日本福家警部補

福家警部補の考察

大倉崇裕

倒叙警察小説短編集シリーズ第5弾

◆ 事件

冒頭で犯人の犯行が描かれ、警察官らしからぬ風貌の福家警部補がわずかな違和感から追い詰めていく倒叙連作の第5集。皮膚科の権威、料理上手な妻、寡黙なバーテンダー、そして新幹線で逃走中の殺人犯。4人の犯人と福家の対決を描く全4編を収録。

◆ 謎

完璧に見える犯行計画のどこに綻びがあるのか。白眉の「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」では、逃走犯と偶然乗り合わせた福家が、京都駅到着までの約2時間という制限の中で車内の相手を特定できるかというタイムリミットの攻防が展開する。

2023日本変な家シリーズ

変な家2 〜11の間取り図〜

雨穴

サスペンス不動産ミステリ間取り図ドキュメント形式ベストセラー

◆ 事件

行方不明者が残した奇妙な家、死を呼ぶと噂される土地の家、どこかが歪んだ住居。筆者・雨穴のもとに持ち込まれた十一枚の「変な間取り図」を巡り、住人の失踪や不審死といった不可解な出来事が次々と掘り起こされていく。

◆ 謎

一見すると無関係な十一の「変な間取り」は、なぜどれも不可解な歪みを抱えているのか。調査を進めるうちに、間取り同士に共通する痕跡が見え始める。バラバラの事例は、はたしてひとつの線へと繋がるのかが最大の焦点となる。

2023日本怪民研

歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理

三津田信三

本格ホラーミステリ民俗学連作短編短編集

◆ 事件

無明大学の怪異民俗学研究室、通称・怪民研を舞台に、作家探偵・刀城言耶の助手である天弓馬人と、怪異体験を持ち込む女子学生・瞳星愛が、歩く亡者、首無女、座敷婆、狐鬼、縮む家といった怪異がからむ五つの事件と対峙する連作集。

◆ 謎

各話の冒頭では、死者が歩く、首のない女が現れるなど、およそ怪異としか思えない不可解な現象が提示される。それらは本物の怪異なのか、それとも人の手による事件なのか。民俗学の知見を手がかりに合理的な解釈が可能かどうかが問われる。

2023日本放課後ミステリクラブ

放課後ミステリクラブ

知念実希人

本格日常の謎青春児童書本屋大賞ノミネート小学生探偵

◆ 事件

小学四年生の天馬・美鈴・陸の「ミステリトリオ」が通う小学校で、プールの授業が突然中止になる。夜の学校に何者かが忍び込み、プールに大量の金魚を放したのだ。同じ頃、町では「夜に泣くお地蔵さん」の噂も流れていた。

◆ 謎

誰が、何のために夜の学校へ忍び込み、プールに金魚を放ったのか。そして夜になると泣くというお地蔵さんの正体は何か。ミステリトリオは神社の夏祭りにも足を運び、二つの事件の手掛かりを集めて推理を重ねていく。

2023日本

本の背骨が最後に残る

斜線堂有紀

特殊設定短編集幻想ホラー

◆ 事件

紙の本が失われた国では、物語を語る人間が「本」と呼ばれる。同じ物語を語る二冊の「本」の間に食い違いが生じたとき、どちらが「誤植」かを衆人環視の下で決める娯楽「版重ね」が開かれる。誤植と断じられた本を待つのは焚書である。

◆ 謎

二冊の「本」が語る物語のどちらに「誤植」が潜むのか。語りの矛盾を突き合う頭脳戦の行方と、本たちが命を賭してまで語りの正当性に固執する理由が問われる。ほか六編でも、美しくも残酷な特殊設定の下で謎と論理が展開していく。

2023日本ラプラスの魔女シリーズ

魔女と過ごした七日間

東野圭吾

特殊設定サスペンス科学ミステリ近未来監視社会著者100作目

◆ 事件

DNAデータベースとAI監視網が市民を管理する近未来の日本。元警察官で「見当たり捜査」の達人だった月沢克司が殺害され、遺体で発見される。残された中学生の息子・陸真は、あらゆる事象を見通す不思議な女性・羽原円華と出会う。

◆ 謎

監視システム全盛の時代に、なぜ父は殺されたのか。警察の捜査でも浮かばない犯人の正体と、父が死の直前に独自に追っていたものは何だったのか。「魔女」と呼ばれる円華の力を借り、陸真は父の足跡をたどっていく。

2023日本

魔女の原罪

五十嵐律人

社会派サスペンス学園共同体の秘密

◆ 事件

鏡沢町の高校に通う杠は、週三回の人工透析を受けながら暮らしている。この学校には校則がない代わりに入学時に法律書が配られ、「法に触れるな」とだけ求められる。やがて町で変死事件が起き、閉じた共同体の平穏だった空気が変わり始める。

◆ 謎

なぜこの町の学校には校則がなく、法だけが規範とされるのか。古くからの住民と移住者の間に横たわる奇妙な緊張、弁護士を辞めて教師になった男の存在——変死事件の調査が進むほど、町ぐるみで何かが隠されているという感触が濃くなっていく。

2023日本名探偵のままでいて

名探偵じゃなくても

小西マサテル

日常の謎本格連作安楽椅子探偵認知症

◆ 事件

クリスマス直前、小学校教師の楓が友人たちとサンタクロース消失の謎を語っていると、祖父の教え子だという男・我妻に声をかけられる。レビー小体型認知症を患う祖父のもとへ、楓と我妻は密室からの人間消失など不可解な謎を持ち込んでいく。

◆ 謎

ベランダから消えたサンタクロースと翌日の父の失踪、スマホを持ちながら有線電話で通報された俳優の死、自室から消えた恋人・四季の行方。祖父は幻視と覚醒の狭間で謎を解くが、病状は一進一退で、釈放された宿敵・九鬼の影も迫りつつある。

2023日本

名探偵のままでいて

小西マサテル

日常の謎本格このミステリーがすごい!大賞安楽椅子探偵連作短編認知症短編集

◆ 事件

小学校教師の楓の祖父は、元校長にして無類のミステリ好き。いまはレビー小体型認知症を患い、幻視や記憶障害に悩まされている。だが楓が身の回りで起きた不可解な出来事を語って聞かせると、祖父の知性は名探偵のごとく蘇る。

◆ 謎

居酒屋で起きた密室殺人、プールからの人間消失、「33人いる」幽霊騒動など、楓が持ち込む謎の数々。祖父は安楽椅子探偵として一つずつ解き明かしていくが、一見無関係な事件の連なりの先に、より大きな構図が潜んでいる。

2023日本

滅茶苦茶

染井為人

サスペンス社会派コロナ禍群像劇クライムノベル

◆ 事件

コロナ禍の世。広告代理店に勤める30代の美世子はマッチングアプリで知り合った相手との恋にのめり込み、進学校で落ちこぼれた高校生・礼央はかつての不良仲間に再び絡め取られ、ラブホテル経営者で三児の父・茂一は経営難から悪事に誘われる。

◆ 謎

接点のない3人の転落劇は、どこでどう交わるのか。国際ロマンス詐欺、闇仕事、犯罪の誘いに搦め捕られた者たちは果たして引き返せるのか。3つの視点で進む群像が一点へ収束していく構成と、コロナ禍の社会の歪みが生む犯罪の連鎖が読みどころ。

2023日本

木挽町のあだ討ち

永井紗耶子

歴史・時代本格直木賞山本周五郎賞芝居小屋

◆ 事件

雪の降る夜、江戸木挽町の芝居小屋の裏通りで、白装束の美少年・菊之助が父の仇である博徒・作兵衛を討ち果たし、見事な本懐として喝采を浴びた。二年後、菊之助の縁者と名乗る若い侍が木挽町を訪れ、当夜を知る芝居者たちに仇討ちの顛末を聞いて回る。

◆ 謎

あの仇討ちはなぜあれほど鮮やかに成功したのか。木戸芸者、立師、衣装係、小道具職人、戯作者ら芝居小屋の面々の語りは当夜の細部を少しずつ明かしていくが、証言を重ねるほどに、あの晩の出来事にはどこか芝居がかった違和感が滲み出してくる。

2023日本

約束した街

伊兼源太郎

ハードボイルド社会派神戸タイムリミット

◆ 事件

商社勤務の結城隼はロンドン赴任を控えた東京での最後の出社日、帰宅すると玄関に一人の少女が待っていた。中学卒業以来会っていない幼馴染の娘で、頼みは行方不明になった母親を探すこと。出国までの五日間を限りに、隼は人探しを始める。

◆ 謎

幼馴染の女はなぜ姿を消したのか。少女はなぜ隼を頼ってきたのか。捜索の過程で見え隠れする神戸の裏社会の影と、世の中のはみだし者だった幼馴染3人を繋ぐ「ある罪」、そして15年後の再会の約束とやり残した「宿題」とは何だったのかが問われる。

2023日本ボディガード・キリ

予幻

大沢在昌

ハードボイルド冒険・スパイボディガード国際謀略新宿

◆ 事件

本名も年齢も不詳の凄腕ボディガード・キリは、大物フィクサー・睦月から警護を依頼される。対象は急死した香港シンクタンク主宰者の娘で大学院生の紅火。父が遺した驚異的な的中率の未来予測文書「ホワイトペーパー」を各国機関が狙う中、紅火が新宿の民泊から拉致される。

◆ 謎

紅火を攫ったのは中国の公安当局か、欧米の情報機関か、それとも別の何者か。ホワイトペーパーはなぜ未来を言い当てられるのか、機密文書はどこに隠されているのか。香港から持ち出された機密を巡り、プロ同士の追跡戦と奇妙な同盟が交錯する。

2023日本

絡新婦の糸 警視庁サイバー犯罪対策課

中山七里

社会派警察小説サスペンスSNSフェイクニュース

◆ 事件

SNSで絶大な影響力を誇る匿名インフルエンサー「市民調査室」が、真実に細かな嘘を織り交ぜた投稿を始める。狂信的なフォロワーが拡散した悪評により老舗旅館は経営危機に陥り、ついには女将夫婦が自殺へ追い込まれる事態にまで発展する。

◆ 謎

凶器は百四十字、共犯者は十数万人のフォロワー。法で裁きにくい言葉の暴力を操る「市民調査室」の正体は誰で、目的は何なのか。警視庁サイバー犯罪対策課の延藤慧司が追跡を始めるが、彼自身もまたフェイク動画による攻撃に晒されていく。

2023日本

隣人を疑うなかれ

織守きょうや

サスペンス本格マンションご近所ミステリ

◆ 事件

自宅マンションの隣人が失踪し、住人の中に殺人犯が潜んでいるのではないかと疑念を抱いた主婦・今立晶は、事件ライターの弟とともにマンションの住人たちを調べ始める。やがて疑念は確信に変わり、平穏だった建物に不穏な空気が広がっていく。

◆ 謎

隣人はなぜ姿を消したのか。マンションの住人の中に本当に殺人犯はいるのか。挨拶を交わすだけの隣人たちの誰もが少しずつ怪しく見えてくる中で、晶と弟は限られた手がかりから誰を疑うべきなのか。日常の観察に紛れた違和感の正体が問われる。

2023日本警視庁捜査一課十一係

鴉の箱庭

麻見和史

警察小説サスペンス歌舞伎町切断遺体劇場型犯罪

◆ 事件

新宿歌舞伎町のドラッグストアのごみ置き場で切断された右手が発見される。持ち主はホストクラブのナンバー2だった。続いて超高層ビルのレストラン街で別人の左手が見つかり、同一犯による連続事件と判明。如月塔子ら十一係が捜査に乗り出す。

◆ 謎

犯人はなぜ被害者の手を切断し、人目につく場所へ置いていくのか。「鴉」と名乗って捜査を翻弄する犯人の正体と目的は何か。ホスト、風俗、愛人契約と欲望渦巻く夜の街の人間関係が絡み合い、被害者たちを結ぶ線が容易に見えてこない。

2023日本百鬼夜行シリーズ

鵼の碑

京極夏彦

本格妖怪17年ぶり新作

◆ 事件

昭和二十九年の日光が舞台。「人を殺してしまった」と打ち明ける作家、消えた死体の記憶に苦しむ女、失踪人を探す探偵、山中の怪しい研究施設の噂——蛇・虎・貍・猨・鵼と章を分けて語られる複数の怪事が、温泉地の山あいで少しずつ交差していく。

◆ 謎

殺したはずの死体はどこへ消えたのか。日光の山に隠された施設では何が行われているのか。互いに無関係に見える失踪と怪異の断片は、頭は猿、体は貍、尾は蛇という掴みどころのない鵼の姿さながらに、一つの像を結ばないまま膨らんでいく。

2024日本

1947

長浦京

歴史・時代冒険・スパイ占領期GHQ復讐

◆ 事件

1947年の東京。英国軍人イアンは、戦地で兄を不当に斬首した元日本軍将校への復讐のため来日する。GHQ、日本警察、ヤクザ、逃亡中の戦犯たちの思惑が入り乱れる占領下の混沌の中、彼はわずかな手掛かりを頼りに仇を追う。

◆ 謎

兄を処刑した戦犯将校はどこに消えたのか。なぜB級戦犯の手配は一向に進まず、イアンの捜索はことごとく妨害されるのか。GHQ民政局と参謀部、英国公館、日本警察、ヤクザの思惑が絡み合い、誰が敵で誰が味方なのかすら判然としなくなっていく。

2024日本探偵AIシリーズ

VR浮遊館の謎 探偵AIのリアル・ディープラーニング

早坂吝

特殊設定本格AIVRゲーム

◆ 事件

人工知能探偵の相以と助手の輔は、世界初のフルダイブ型VRゲームに挑戦する。あらゆる物が宙に浮かぶ浮遊館を舞台に、魔法を使える参加者たちの犯人当てゲームが始まるが、ゲームとは思えない生々しい死体が出現し、連続殺人鬼「骨折りジャック」の影が迫る。

◆ 謎

無重力の館で起きる殺人は、いかにして行われたのか。なぜ現実の連続殺人鬼がVR空間に現れるのか。魔法というルールに縛られたゲーム世界の裏に隠された真実とは何か。参加者の中に潜む殺人者の正体と、浮遊館そのものの謎が問われる。

2024日本

あなたの大事な人に殺人の過去があったらどうしますか

天祢涼

社会派サスペンス少年犯罪加害者と遺族職場

◆ 事件

食品会社で働く藤沢彩は、先輩の田中心葉、同期の佐藤千暁と支え合い、十年後も一緒にいたいと願うほどの絆を育んでいた。だが朝礼の場で心葉が「ぼくは人を殺したことがあります」と告白したことで、三人の関係は大きく揺らぎはじめる。

◆ 謎

心葉はいつ、誰を、なぜ殺したのか。罪を償った人をどこまで受け入れられるのか。千暁にも人に言えない過去がある気配が漂い、彩は二人との関係に思い悩む。やがて身近で起きる不審な死が、隠されていた因縁を浮かび上がらせていく。

2024日本イクサガミ

イクサガミ 人

今村翔吾

歴史・時代冒険・スパイサスペンスデスゲーム明治三部作からの全四巻Netflixドラマ化

◆ 事件

明治十一年、京都・天龍寺に集った武芸者二百九十二人が、賞金十万円を懸けて東京を目指す死のゲーム「蠱毒」。第三巻では生き残りが二十三人から九人へと絞られ、一行はついに東京へ入る。元京都見廻組の嵯峨愁二郎は少女・双葉を守りながら死闘を重ねていく。

◆ 謎

誰が何のために蠱毒を主催しているのか。莫大な賞金の出所はどこか、参加者たちを監視する目は誰のものか。愁二郎と同じ流派を継ぐ兄弟弟子たちとの因縁が絡み合いながら、ゲームの裏にある明治政府と新時代の巨大な思惑が次第に輪郭を現していく。

2024日本

イッツ・ダ・ボム

井上先斗

社会派サスペンスストリートアート松本清張賞デビュー作

◆ 事件

公共物を破壊しない手法で鮮烈なメッセージを残し、「日本のバンクシー」と呼ばれる覆面グラフィティライター・ブラックロータスが出現する。第一部ではうだつの上がらないウェブライター・大須賀アツシがその正体を追い、第二部では路上歴二十年のライターTEELが、HEDと名乗る青年と出会う。

◆ 謎

ブラックロータスは何者で、その狙いは何なのか。意気投合したはずのHEDがTEELに突きつけた「宣戦布告」の意味とは。グラフィティとは内容ではなく「俺はここにいたぞ」という署名そのものである――そのカルチャーの本質が、誰が書いたのかという謎を駆動していく。

2024日本

キン肉マン悪魔超人熱海旅行殺人事件

おぎぬまX

本格特殊設定ユーモア短編集公式スピンオフ読者への挑戦状本格ミステリ・ベスト10

◆ 事件

『キン肉マン』公式スピンオフのミステリ第二弾。ミートとキン骨マンの行く先々で怪事件が続発する。悪魔超人たちとの熱海旅行で超人が殺され、激辛グルメイベント、レオパルドンを巡る騒動、巨人荘の殺人と四つの事件が連続。各事件には予告状まで届いていた。

◆ 謎

体をバラバラに分解できる者、腕が六本ある者、頭にカレーを乗せた者、体重百トンの者——容疑者全員が超人能力で犯行可能という状況で、誰がどの能力を使いどうやって殺したのか。読者への挑戦状付きで、原作の設定を前提にしたフェアな論理が試される。

2024日本井口・蓮野シリーズ

サロメの断頭台

夕木春央

本格歴史・時代大正美術本格ミステリ大賞候補

◆ 事件

大正時代。油絵画家の井口は、元泥棒の友人・蓮野を通訳に連れ、オランダ人の富豪ロデウィック氏の邸を訪れる。氏は井口の未発表作とそっくりな絵をアメリカで見たと告げ、盗作の疑いが浮上。やがて井口の周囲で、戯曲『サロメ』に擬えたような連続殺人が始まる。

◆ 謎

誰がどうやって未発表の絵を盗作し得たのか。連続殺人はなぜ『サロメ』に見立てられているのか。盗作、贋作、見立て殺人、そして冒頭に置かれた孤独な芸術家の自殺。一見ばらばらに散らばった謎が、どこでどうつながるのかが焦点となる。

2024日本

シャーロック・ホームズの凱旋

森見登美彦

ユーモア特殊設定パスティーシュ京都

◆ 事件

ヴィクトリア朝京都・寺町通221B。洛中洛外に名を轟かせた名探偵ホームズは深刻なスランプに陥り、事件をまるで解決できなくなっていた。ワトソン、ハドソン夫人、向かいに住むモリアーティ教授ら、お馴染みの面々が暮らす奇妙な京都で、再起をかけた奔走が始まる。

◆ 謎

スランプの名探偵に、事件は再び解けるのか。そもそも「ヴィクトリア朝京都」とはいったい何なのか。アイリーン・アドラーを巡る騒動などが絡み合いながら、物語はこの世界そのものの成り立ちという、より根源的で奇妙な謎へと滑り込んでいく。

2024日本比嘉姉妹シリーズ

すみせごの贄

澤村伊智

特殊設定本格短編集ホラーミステリ

◆ 事件

高級料亭の元料理長の失踪、毎週火曜の夕方にカレーを二人前買い、一口食べただけで持ち帰る謎の女性客、四本の手を持つ鍾馗の伝承——日常と地続きの場所で起こる不気味な出来事を描く、比嘉姉妹シリーズの短編集第三弾、全六編。

◆ 謎

それは本物の怪異なのか、それとも人の仕業なのか。元料理長はなぜ消えたのか、火曜の客の奇行にはどんな意味があるのか。霊能力者の比嘉姉妹や野崎ら周囲の人々が、現象の背後にある筋道と人間の思惑を読み解いていく。

2024日本

セント・アグネスの純心 花姉妹の事件簿

宮田眞砂

日常の謎青春短編集百合学園寄宿舎本格ミステリ・ベスト10

◆ 事件

交通事故で母を亡くした中学二年の神里万莉愛は、ミッションスクール聖花女学院に編入し、寄宿舎セント・アグネスで暮らし始める。ルームメイト同士が仮初めの姉妹「花姉妹」となる規則のもと、憧れの的である高等部の白丘雪乃と姉妹になり、不思議な出来事に次々と遭遇する。

◆ 謎

深夜にひとりでに動き出す聖像、入れ替わった二通の手紙、何者かに解体されたテディベア、そして校史に残る五十年前の少女失踪事件。寄宿舎に積もる謎はなぜ起きたのか。雪乃の推理が、謎とともに孤独に閉ざされた万莉愛の心をも解いていく。

2024日本

そして誰かがいなくなる

下村敦史

新本格サスペンス館もの見取り図クリスティオマージュ

◆ 事件

雪の日、人気ミステリ作家・蜜島マシュリが、奇妙な仕掛けに満ちた新居のお披露目会を開く。招かれた作家や編集者、評論家ら十人が館に集うが、和やかだった場には次第に不穏な空気が漂い、やがて人が消え、死が訪れる。

◆ 謎

館で起きているのは、ホストが仕組んだ余興のミステリゲームなのか、それとも本物の事件なのか。巻頭に掲げられた間取り図と館の建築的な仕掛けは何を意味するのか。誰が「いなくなる」のか、登場人物も読者も確信を持てない。

2024日本

そして誰もいなくなるのか

小松立人

特殊設定サスペンス鮎川哲也賞優秀賞デビュー作デスゲーム

◆ 事件

ミステリ作家志望の小松立人は学生時代、家庭教師先のタンス預金二千万円を仲間四人で密かに盗んだ。十年後、金を掘り起こすため集まった四人は崖崩れに巻き込まれ命を落とす。だが現れた死神から一週間の猶予を与えられ、事故の七日前へと時間が巻き戻される。

◆ 謎

一週間後には必ず死ぬはずの猶予期間に、なぜか仲間が一人また一人と殺されていく。仲間を殺せば相手の残り寿命を奪えるというルールの下、誰が何のために殺すのか。疑心暗鬼の中、フーダニット以上に「なぜ殺すのか」というホワイダニットが焦点となる。

2024日本

ダブルマザー

辻堂ゆめ

イヤミスサスペンス母娘身元不明

◆ 事件

真夏日、駅のホームから飛び込んだ若い女性が命を落とす。ところが遺体をめぐって、性格も家庭環境もまったく異なる二人の女性がそれぞれ「死んだのは自分の娘だ」と名乗り出る。どちらの主張にも決定的な証拠はなかった。

◆ 謎

死んだのはどちらの娘なのか。娘はなぜ死んだのか。もし違うなら、もう一人の娘は今どこにいるのか。「娘のことを何も知らなかった」という共通点を抱えた二人の母親が、手がかりを求めて娘たちの足取りを辿り始める。

2024日本刑事犬養隼人シリーズ

ドクター・デスの再臨

中山七里

警察小説社会派サスペンス安楽死医療

◆ 事件

「お医者さんがパパを殺した」——少女からの通報を機に、かつて犬養隼人が追い詰めた安楽死請負医〈ドクター・デス〉と酷似した手口の不審死が再び発生する。さらにパーキンソン病を患う往年の大女優までもが、「JKギルド」と名乗る相手に安楽死を依頼していた。

◆ 謎

逮捕されたはずのドクター・デスの手口が、なぜいま再現されるのか。模倣犯なのか、それとも別の意志が働いているのか。安楽死を望む患者に接触する「JKギルド」とは何者なのか。終末医療と積極的安楽死の是非を問いながら、犬養らが闇のネットワークを追う。

2024日本ワトソン力

にわか名探偵 ワトソン力

大山誠一郎

本格ユーモア特殊設定短編集連作推理合戦

◆ 事件

警視庁捜査一課の刑事・和戸宋志は、その場に居合わせた人々の推理力を飛躍的に高めてしまう「ワトソン力」の持ち主。非番のたびに殺人事件に遭遇し、にわか探偵と化した素人たちによる推理合戦が巻き起こる連作全7編。

◆ 謎

各話では事件のたびに関係者たちが次々と仮説をぶつけ合い、もっともらしい誤答が積み上がっていく。乱立する推理の中から最後に誰が真の解決へ辿り着くのか。深刻さを排したユーモアの裏で、純粋な犯人当てパズルとしての興趣が毎話問われる。

2024日本

バーニング・ダンサー

阿津川辰海

特殊設定警察小説本格異能バトル頭脳戦

◆ 事件

隕石の落下後、世界に百人だけ現れた特殊能力者「コトダマ遣い」。元捜査一課の刑事・永嶺スバルは、新設された警視庁のコトダマ犯罪調査課に配属される。着任早々、全身の血液が沸騰した死体と、炭化するまで燃やし尽くされた死体が相次いで発見される。

◆ 謎

「燃える」力を操る連続殺人犯は誰なのか。コトダマには条件とルールがあって万能ではなく、しかも相手が能力を偽っている可能性すらある。互いの能力の正体を読み合う頭脳戦の中で、捜査チームは異形の連続放火殺人犯を追い詰めていく。

2024日本

バラバラ屋敷の怪談

大島清昭

特殊設定本格短編集連作ホラーミステリ呻木叫子

◆ 事件

栃木の田舎町で8人の女性を殺害・解体した殺人鬼の元自宅「バラバラ屋敷」へ、15年後に肝試しで入った中学生が、施錠された屋敷内で同級生の生首を発見する。表題作のほか、怪談作家・呻木叫子が採集した怪奇犯罪譚全4編を収める連作集。

◆ 謎

密室と化した幽霊屋敷で、なぜ同級生の生首が見つかったのか。青いワンピースの少女や古墳、無人駅など、各話で語られる怪異は本物なのか、それとも人間の犯罪の偽装なのか。そして独立して見える4つの怪談は、どこかで繋がっているのか。

2024日本ヒポクラテスシリーズ

ヒポクラテスの悲嘆

中山七里

社会派警察小説法医学連作短編8050問題

◆ 事件

浦和医大法医学教室に、死後二週間を経てミイラ化した四十歳女性の遺体が運び込まれる。まだ四月だというのに、埼玉県内で見つかった四体目の餓死死体だった。女性は受験失敗以来二十年以上引きこもり、老いた両親は民間の自立支援団体に更生を頼んでいたという。

◆ 謎

なぜ餓死死体が相次ぐのか。空のはずの被害者の胃から光崎教授の解剖で見つかった「意外なもの」は何を意味するのか。引きこもりと高齢の親、そして自立支援ビジネスを背景に、一見無関係な各話の事件がどう繋がっていくのかが連作の焦点となる。

2024日本

ファラオの密室

白川尚史

特殊設定本格歴史・時代古代エジプトこのミス大賞デビュー作

◆ 事件

紀元前14世紀の古代エジプト。ミイラとなった神官セティは、心臓の一部が欠けているため冥界の審判を受けられず、欠片を取り戻すべく三日間の期限付きで地上に蘇る。自らの死の真相と、王墓で起きた不可解な事件の数々が、蘇った死者である彼を待ち受けていた。

◆ 謎

セティはなぜ、どのように死んだのか。その胸にナイフが刺さっていたのはなぜか。さらに密室状態の王墓からファラオのミイラが消失する謎も浮上する。死者の復活や神々の奇跡が「当たり前」の世界で、それでも論理的に解かれるべき謎が積み上がっていく。

2024日本

フェイク・マッスル

日野瑛太郎

社会派サスペンス江戸川乱歩賞潜入取材ボディビル

◆ 事件

人気アイドル・大峰颯太がわずか3ヶ月のトレーニングでボディビル大会の上位に入賞し、SNSではドーピングを疑う声が炎上する。週刊誌の新人記者・松村は真偽を確かめるべく、大峰の通うジムへの潜入取材を命じられる。

◆ 謎

大峰は薬物に頼ったのか、それとも本当にナチュラルなのか。短期間で肉体を作り直した方法は何か。なぜ彼はアイドルの立場を危険に晒してまでボディビルに挑むのか。ジムに集う人々の思惑や経歴の空白など、潜入が進むほど不可解な点が増えていく。

2024日本

ブラッドマーク

堂場瞬一

ハードボイルド野球1970年代ニューヨーク文庫オリジナル

◆ 事件

ディスコミュージックが流行する1979年のニューヨーク。55歳になり引退を考え始めた私立探偵ジョー・スナイダーに、ヤンキースのスカウトから、獲得を目指すドジャース傘下3Aの捕手の素行調査が舞い込む。尾行を続けるジョーの目の前で、少女の誘拐事件が発生する。

◆ 謎

有望選手にはスポーツ賭博の疑惑が浮上する。彼はなぜ賭博に手を染めたのか、誘拐された少女と選手はどんな関係なのか。賭博と誘拐、二つの事件はどこで繋がるのか。70年代後半のニューヨークの空気の中、老探偵が身代金受け渡しの修羅場へ踏み込んでいく。

2024日本

ぼくは化け物きみは怪物

白井智之

本格特殊設定短編集奇想本格ミステリ大賞候補

◆ 事件

名探偵に憧れる小学生が挑む最初の事件、異星人と人類の攻防、遊郭で起きた腹上死、異星生物のバラバラ死体、見世物小屋の怪事件。化け物と怪物が跋扈する五つの世界を舞台に、凄惨で奇怪な事件が次々と起こる、悪夢のような奇想ミステリ短編集。

◆ 謎

「天使と怪物」では見世物小屋で予言された怪事件が現実となり、「最初の事件」では少年探偵の前に日常と無関係な挿話が不気味に差し挟まれる。グロテスクな特殊状況の中で犯行はいかに成し遂げられたのか。世界設定そのものが推理の手がかりとなる。

2024日本

ぼくらは回収しない

真門浩平

本格青春短編集ミステリーズ!新人賞作家

◆ 事件

数十年に一度の日食の日、名門大学の学生寮で小説家としても活躍する才媛の女子学生が、密室状態の自室で死亡する。自殺として処理されかけるが、彼女の死に疑問を抱いた寮生たちが独自に調べ始める。歪な謎を扱う全5編の短編集。

◆ 謎

小説家として成功し才気にあふれた彼女が、本当に自ら死を選ぶだろうか。目張りされた密室はどのように構成されたのか。「街頭インタビュー」「カエル殺し」など他の収録作でも、日常に潜む悪意と語りの欺瞞が切れ味鋭い謎として問われていく。

2024日本

マガツキ

神永学

特殊設定サスペンスホラーミステリ連作短編短編集

◆ 事件

黒いワンピースの少女、配信中に姿を消した配信者、機械につながれた生首、崩れた鼻、血塗れの男女――都会に暮らす平凡な人々が、悍ましい怪異「それ」に次々と襲われていく。各話ごとに主人公が変わる連作形式で、奇々怪々な事件が積み重なっていく。

◆ 謎

人々を襲う怪異「それ」の正体はいったい何なのか。何度もループして「それ」に襲われる女性、スマホに届く不気味なメッセージなど、無関係に見える怪異はなぜ似た気配をまとうのか。バラバラの事件がひとつに結びつくとき何が見えるのかが最大の謎となる。

2024日本

ミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中に

斜線堂有紀

本格特殊設定短編集伝達SF

◆ 事件

宇宙初の長距離ワープに挑む男は、出発直前に妻が義弟に殺される映像を見てしまう。だがワープ後の交信に現れたのは言葉の通じない相手だった——。「人に伝える」ことの困難を核に、愛や動機や犯人の名を託す五つの物語が紡がれる。

◆ 謎

携帯も使えず、言葉も通じない状況で、殺人の事実をどうやって伝えるのか。手紙、チェス盤、カメラ、レコード——限られた伝達手段に何を載せれば真実は届くのか。各編で「伝達」という行為そのものが謎解きの対象となる。

2024日本

ミノタウロス現象

潮谷験

特殊設定本格怪物市長

◆ 事件

オーストリアの牧場を皮切りに、世界各地へ突如、体長3メートルの牛頭の怪物が出現するようになった近未来。元バンドマンで史上最年少の女性市長・利根川翼の街でも、市議会の最中に怪物が現れ、混乱の渦中で市議が殺害される事件が起きる。

◆ 謎

怪物はなぜ、どこから現れるのか。人類は駆逐されてしまうのか。そして怪物騒ぎの渦中で起きた殺人は、いったい誰の仕業なのか。容疑者の一人にされてしまった好感度重視の市長自身が、疑いを晴らすため秘書とともに謎解きに乗り出すことになる。

2024日本行動心理捜査官・楯岡絵麻シリーズ

ラスト・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻

佐藤青南

警察小説サスペンスシリーズ完結行動心理学文庫オリジナル

◆ 事件

相手の仕草から嘘を見破る刑事・楯岡絵麻の相棒、西野圭介の婚約者宅が放火される。絵麻はそれが、獄中の死刑囚で十二人を殺害した元精神科医・楠木ゆりかの差し金だと見抜く。その後も筒井の娘など絵麻の同僚たちへの攻撃が相次ぎ、包囲網が狭まっていく。

◆ 謎

獄中にいるはずのゆりかは、どうやって外部の実行犯に指示を出しているのか。放火などを実行している人物は誰で、どこに潜んでいるのか。仲間を守りたい絵麻は、シリーズ最大の宿敵との最後の対決をどう制するのかが焦点となる。

2024日本リカ・クロニクル

リボーン

五十嵐貴久

サスペンスイヤミスシリーズ完結ホラーサスペンスストーカー

◆ 事件

複数の殺人容疑で指名手配された雨宮リカは、娘と思しき少女を連れて逃走を続けていた。それを嘲笑うかのように女子学生の拉致誘拐事件が連続発生する。興信所の柏原と警視庁の戸田は、一連のリカ事件に終止符を打つべく、小野萌香とその祖母・宇都子に協力を求める。

◆ 謎

連続する拉致誘拐はリカの仕業なのか、その目的は何なのか。逃走するリカが連れている少女は何者なのか。最凶の存在と知りながら立ち向かう決意をした萌香たちは、二十二年にわたって続いた「リカ・クロニクル」にどんな決着をつけるのかが最大の焦点となる。

2024日本

リンダを殺した犯人は

伊兼源太郎

警察小説社会派技能実習制度外国人労働者

◆ 事件

2023年冬、新宿・大久保のマンションで若いベトナム人女性「リンダ」の死体が発見された。警視庁捜査一課の志々目春香と後輩・藤堂遥の「ハルカ」コンビは、彼女の足取りを追って四国・松山へ飛び、外国人技能実習制度の深い闇に直面することになる。

◆ 謎

リンダはなぜ実習先を離れ、誰に、なぜ殺されたのか。不法滞在者に労働を斡旋する謎の人物「Q」とは何者なのか。制度の歪みの中で搾取される実習生たちの実態と、その構造の上に成り立つ事件の全体像が捜査の焦点となっていく。

2024日本

悪魔の審判

神永学

警察小説サスペンス特殊設定シリーズものサイコメトリー猟奇犯罪

◆ 事件

カニバリズムを思わせる遺体損壊、白骨化死体、議員の自殺、カルト教団――凄惨な事件が連鎖的に発生する。死体に触れるとその人間の経験を五感で追体験できる元警察官の殺人犯・阿久津は、特殊犯罪捜査室とともに、腐敗と隠蔽を続ける巨大組織と対峙していく。

◆ 謎

連鎖する猟奇事件は互いにどうつながっているのか。事件の背後で糸を引く存在の正体と目的は何か。法では裁けない悪を前に、自らも罪人である阿久津のサイコメトリー能力と特殊犯罪捜査室の面々は、どのような「審判」を下すのかが問われていく。

2024日本

暗殺

柴田哲孝

社会派サスペンス実在事件モチーフ狙撃

◆ 事件

元総理が街頭演説中に銃撃されて死亡し、その場で一人の男が逮捕される。実際の事件を強く想起させる構図の中、司法解剖の結果には説明のつかない不審点が残り、事件の裏を探る者たちが「公式の真相」に疑いを向け始める。

◆ 謎

逮捕された男は本当に元総理を撃ったのか。貫通した跡がないのに見つからない「消えた弾丸」と、上から下へ首から心臓へ向かう不自然な射出角度は何を意味するのか。そして十分な検証もないまま、なぜ捜査は単独犯行として早々に打ち切られたのか。

2024日本隠蔽捜査シリーズ

一夜 隠蔽捜査10

今野敏

警察小説誘拐劇場型犯罪

◆ 事件

神奈川県警刑事部長・竜崎伸也のもとに、著名な小説家・北上輝記が小田原で誘拐されたとの一報が入る。犯人からの要求がないまま時間だけが過ぎ、別の管轄では殺人事件も発生。竜崎はミステリ作家・梅林の助言も得ながら、原理原則を貫く流儀で劇場型の事件に挑む。

◆ 謎

誘拐は本物なのか、要求を出さない犯人の目的は何か。やがて作家は無事保護されるが、単独犯では成立しにくい犯行の構図や、妙に明確な被害者の記憶など違和感が残る。誘拐と殺人はどう繋がるのか、そして題名の「一夜」が指すものとは何かが問われる。

2024日本

引きこもり姉ちゃんのアルゴリズム推理

井上真偽

日常の謎ユーモア児童書アルゴリズム連作短編短編集

◆ 事件

小学生のマモルの姉は、めったに風呂に入らずゴミだらけの部屋にこもる筋金入りの引きこもり。だが人気女子に「呪い」をかけた犯人、「人生が終わる」という不気味な絵を残す落書き魔、穴に落ちたタヌキを逃がした犯人など、弟の持ち込む事件を鮮やかに解く。

◆ 謎

教室で起きた「呪い」騒動の犯人は誰なのか。不気味な落書きに込められた意味とは何か。現場に行かない姉は、どうやって部屋にいながら真相にたどり着くのか。推理の道具となる「アルゴリズム」の使い方そのものが謎解きの読みどころとなる。

2024日本館四重奏

黄土館の殺人

阿津川辰海

本格新本格倒叙クローズドサークル館もの

◆ 事件

大晦日、地震によって外界から隔絶された芸術家・土塔雷蔵の「荒土館」。館の外では、雷蔵への復讐に向かった男が道路崩壊現場で見知らぬ女から交換殺人を持ちかけられる。館の中では、名探偵の助手・田所信哉らが閉ざされた屋敷で連続殺人に巻き込まれていく。

◆ 謎

中庭に立つ高さ三メートルの銅像、その騎士が掲げる剣先に突き刺さった雷蔵の死体。中庭に足跡はなく、上空から落とさない限り犯行は不可能に見える。交換殺人を持ちかけた女の正体と目的、そして館の内と外で起こる事件のつながりが謎となる。

2024日本

家族解散まで千キロメートル

浅倉秋成

サスペンスユーモア家族ロードノベルどんでん返し

◆ 事件

取り壊しが決まった実家の片付け中、喜佐見家の家族は納戸から、ニュースで報じられていた青森の神社から盗まれたご神体そっくりの像を発見する。父が盗んだと考えた家族は、引っ越しと「家族解散」を三日後に控えながら、ご神体を密かに返すべく車で青森への千キロの旅に出る。

◆ 謎

ご神体を盗んだのは本当に父なのか。深夜のドライブの道中、メグルは父の行動や家族の言動に次々と矛盾を見つけ、疑念は家族全員へと広がっていく。そもそもこの「家族」とは何なのか——旅の果てに、当たり前と信じてきた家族の形そのものが問い直される。

2024日本

架空犯

東野圭吾

警察小説社会派サスペンス『白鳥とコウモリ』と世界観を共有ベストセラー

◆ 事件

東京の高級住宅地で火災が起き、焼け跡から都議会議員・藤堂康幸と元女優の妻・江利子の遺体が見つかる。無理心中とみられたが、夫妻の「非人道的行為に制裁を加えた」とする犯行声明が届き、警視庁捜査一課の五代努と所轄の老刑事・山尾陽介が捜査にあたる。

◆ 謎

華やかな人生を送ってきた夫妻はなぜ死んだのか。心中か他殺か、犯行声明の主は誰なのか。捜査が進むほどに夫妻の過去に隠された秘密が浮かび上がり、五代は相棒である山尾の不可解な言動にも疑念を抱いていく。題名「架空犯」の意味も謎として横たわる。

2024日本

怪談刑事

青柳碧人

警察小説ユーモア本格短編集怪談オカルト否定

◆ 事件

警察庁地下四階にある「第二種未解決事件整理係」、通称・呪われ係に、ベテラン刑事・只倉恵三が突然配属される。担当は怪奇現象めいた未解決事件の再調査。しかも愛娘の恋人だという人気怪談師が捜査に絡んでくる。

◆ 謎

繰り返す男、猫に憑かれた女優、マヨイガ、物の怪の出る廃校、仏像怪談——幽霊や物の怪の仕業としか思えない六つの未解決事件。オカルトを断じて認めたくない只倉は、怪異の裏に隠れた合理的な真相を突き止められるのか。

2024日本

贋品

浅沢英

サスペンスアートクライム大藪春彦新人賞作家

◆ 事件

多額の借金を抱える佐村は、亡父の友人を名乗る山井から、東大阪の施設にある本物のピカソを密かに持ち出してデータ化し、精巧な贋作を作って中国人メガコレクターに売る計画を持ちかけられる。成功すれば一人あたり10億円の報酬が待つ。

◆ 謎

4人のチームは本物と見分けのつかない贋作を作り上げ、目利きのメガコレクターを最後まで騙し通せるのか。そもそも山井はなぜ佐村に声をかけたのか。バレれば死が待つ綱渡りの計画の行方と、計画に集った者たちそれぞれの過去と思惑が焦点となる。

2024日本

鬼の哭く里

中山七里

本格サスペンス社会派因習村伝奇コロナ禍

◆ 事件

岡山県の限界集落・姫野村には、終戦直後に村人六人を惨殺して姿を消した巌尾利兵衛の呪いが伝わり、数年に一度、鬼哭山から咆哮が轟いて仇なした者が死ぬという。コロナ禍のパニックの中、東京から麻宮という男が移住してきた直後、呪いの犠牲者と思しき死者が出る。

◆ 謎

山から轟く「鬼の咆哮」の正体は何か。死者たちは本当に祟りで死んだのか、それとも人の手によるものなのか。余所者への排斥と同調圧力が支配する閉鎖的な村で、終戦直後の惨劇と現在の連続する死がどう繋がるのかが問われる。

2024日本

虚の伽藍

月村了衛

社会派ハードボイルド京都仏教界クライムノベル直木賞候補

◆ 事件

バブル前夜の京都。実家の寺を立て直すため、日本最大宗派・燈念寺派の総本山宗務部門に入った若き僧侶・志方凌玄は、上司たちの汚職を目撃したことを機に、暴力団のフィクサーや財界人ら古都の金脈に群がる者たちと関わりながら出世の階段を上りはじめる。

◆ 謎

腐敗した宗派を正すという大義は、どこで欲望にすり替わるのか。宗派の金と権力を巡る派閥抗争や駆け引きの中で、凌玄はどこまで上り詰め、引き換えに何を失うのか。信仰と暴力が交錯する伽藍の奥で彼を待つ結末が最大の焦点となる。

2024日本

虚史のリズム

奥泉光

歴史・時代特殊設定戦後伝奇大長編

◆ 事件

1947年の東京。自称探偵の石目鋭二は新宿にバー「Stone Eye」を開き、私立探偵として活動を始める。戦地の収容所で知り合った元陸軍少尉・神島の長兄夫妻が山形で殺害され、調査を引き受けた石目は、東京裁判の行方をも左右しうる海軍機密「K文書」を巡る謎に直面する。

◆ 謎

旧家で起きた惨殺事件の犯人は誰か。「K文書」とはいったい何なのか。捜査を進めるほどに虚実が混ざり合い、時空が歪み、あり得たかもしれない戦後史が顔を覗かせる。千ページを超える物語の果てに待つのは、歴史と物語そのものの成り立ちを巡る巨大な謎である。

2024日本

禁忌の子

山口未桜

本格社会派医療ミステリ鮎川哲也賞本屋大賞ノミネート

◆ 事件

兵庫の市民病院に勤める救急医・武田航のもとへ、ある夜、身元不明の溺死体が搬送される。その顔は武田と瓜二つだった。死んだ男は誰なのか。武田は中学からの友人である医師・城崎響介とともに調査を始め、自らの出生の秘密へと踏み込んでいく。

◆ 謎

自分とまったく同じ顔を持つ男の正体と、その死の経緯。瓜二つの顔は偶然なのか、それとも血縁なのか。身元を辿る調査はやがて過去の生殖医療を巡る出来事へとつながり、生命倫理の禁忌に触れる問いが武田自身の存在の根にまで及んでいく。

2024日本

刑事王子

似鳥鶏

警察小説ユーモア本格バディもの王族

◆ 事件

都内で発生した密室殺人の現場に、北欧の小国メリニア王国のミカ第三王子が現れる。ベテラン刑事・本郷馨は上層部から王子への協力を命じられ、異色のバディとして捜査を開始する。その後も日本警察の手に余る派手で不可解な事件が立て続けに起きる。

◆ 謎

北欧の王子はなぜ日本の殺人捜査に関わるのか。密室殺人をはじめとする一連の不可能犯罪は、どのような仕掛けで実行されたのか。連続する事件は互いにつながっているのか、そしてその裏に潜む黒幕の正体と目的は何かが問われていく。

2024日本

血腐れ

矢樹純

イヤミスサスペンス短編集ホラーミステリ家族

◆ 事件

表題作では、弟親子に付き合って参加した家族キャンプの行き先が、血の儀式が伝わる縁切り神社の土地だった。亡夫の幽霊、呪われたネイルチップ、山寺の鐘の言い伝え、息子にまとわりつく黒い影など、家族を蝕む怪異が六編で描かれる。

◆ 謎

枕元に立つという亡夫の霊、原因不明の高熱と息子にまとわりつく黒い影、地獄に落ちることの意味——怪談としか思えない出来事の裏に何が隠れているのか。各話とも、怪異の正体と人間の企みの境界線そのものが謎として問われていく。

2024日本

犬は知っている

大倉崇裕

警察小説ユーモア短編集ファシリティドッグ

◆ 事件

警察病院の小児病棟に常勤するファシリティドッグのピーボと、ハンドラーの笠門巡査部長。癒やしの犬には密命があった。特別病棟に入院する受刑者たちに寄り添い、死を前にした彼らが漏らす事件の秘密を聞き出すことだ。

◆ 謎

犯罪者たちがピーボに癒やされて語り出す言葉には、未解決事件の真相や真犯人の手がかりが潜んでいる。わけあり警察官の笠門は、犬が拾い上げた告白の断片から、知られざる重大事件の全貌を解き明かすことができるのか。

2024日本

骨と肉

櫛木理宇

警察小説イヤミス連続殺人機能不全家族双子

◆ 事件

臼原市で若い女性の遺体が見つかる。性的暴行の痕があり、身体の一部が切り取られていた。数日後、同じ署の管内で再び女性の惨殺遺体が発見され、捜査本部の刑事・八島武瑠は過去の連続女性遺体遺棄事件との共通点に気づく。

◆ 謎

現在の事件は、かつての未解決連続事件と何が繋がっているのか。そこへ武瑠の従弟・願示が接近し、「過去の事件の犯人は亡くなった双子の弟で、今回は模倣犯だ」という調べ上げた「真相」を語り出す。その言葉は信じてよいのか。

2024日本ラストライン

罪の年輪 ラストライン6

堂場瞬一

警察小説社会派高齢化学生運動文庫オリジナル

◆ 事件

八十七歳の元小学校教師が、車椅子で暮らす老健施設から深夜に連れ出され、殺害・遺棄された。まもなく同い年の男が自首してくる。男は被害者と六十年来の知り合いで、犯行の経過は詳細に供述するのに、なぜか動機だけは頑なに語らない。ベテラン刑事・岩倉剛が事件を追う。

◆ 謎

証拠も自供も揃っているのに、なぜ男は動機だけを黙秘するのか。六十年前、二人の間に何があったのか。「聖職者」として慕われたはずの被害者の過去を掘り起こすほどに、美談では済まされない人物像が浮かび上がってくる。

2024日本作家刑事毒島シリーズ

作家刑事毒島の暴言

中山七里

ユーモア警察小説短編集出版業界毒舌

◆ 事件

新人賞を獲ったばかりの作家の卵が殺された。若手刑事・高千穂は、作家兼業の名物刑事・毒島とともに捜査を開始する。被害者が通っていた小説教室を訪ねると、講師が受講生の作品を嘲笑し、生徒同士が互いに貶し合う、承認欲求の渦巻く異様な光景が広がっていた。

◆ 謎

炎上商法でベストセラーを狙う新人作家、文学系インフルエンサーに対抗心を燃やす書評家、実績もないのに荒稼ぎする小説教室の講師——出版界に巣食う「承認欲求モンスター」たちの起こす事件の裏に何があるのか。毒島の毒舌が歪んだ自意識を炙り出していく。

2024日本

撮ってはいけない家

矢樹純

サスペンスイヤミスホラーミステリモキュメンタリー旧家

◆ 事件

映像ディレクターの杉田佑季は、「家にまつわる呪い」をテーマにしたモキュメンタリーホラーの撮影のため、山梨の旧家・白土家を訪れる。撮影が進むにつれ蔵で心霊現象が多発し、一家の少年は奇妙な悪夢にうなされ始める。

◆ 謎

立ち入りを禁じられた蔵の二階には何があるのか。白土家で相次いだという神隠しの正体は。語られない過去の事件、友人の死の理由、見てはいけない映像——そして「撮ってはいけない」という言葉の本当の意味とは何なのか。

2024日本

殺める女神の島

秋吉理香子

イヤミスサスペンス孤島クローズドサークルコンテスト

◆ 事件

外見と内面の美を競うコンテストの最終候補に残った女子高生モデル、経営者、小説家、医師、シェフ、インフルエンサー、大学院生の七人の女性が、リゾートアイランドでの二週間の合宿に集められる。だが二日目の朝、主催者が瀕死の状態で発見され、殺人が続く。

◆ 謎

孤島で候補者たちを次々と襲う犯人は誰なのか。そもそもこのコンテストは何の目的で開催されたのか。殺人が進むにつれて、巧妙に隠されていた参加者たちの「嘘」が次々と暴かれ、合間に挟まれる時系列の異なる記述の意味も謎として立ち上がってくる。

2024日本猟奇殺人捜査ファイル

殺意の輪郭 猟奇殺人捜査ファイル

麻見和史

警察小説サスペンス新シリーズバディもの文庫オリジナル

◆ 事件

土の中から発見された遺体の死因は、あり得ないことに「土中での溺死」だった。犯人は犯行声明を送りつけ、頭部に黒いポリ袋を被せた遺体を倉庫に残すなど、猟奇的な手口で犯行を重ねていく。深川署刑事課の尾崎は、美貌だが謎めいた相棒・広瀬と捜査にあたる。

◆ 謎

人はいかにして土の中で溺死するのか。連続する猟奇殺人の異様な手口に込められた意味と、犯行声明の狙いは何か。そして、単独行動を繰り返す相棒の広瀬は何を隠しているのか。事件の謎とバディへの疑念が並走しながら物語が進む。

2024日本

斬首の森

澤村伊智

特殊設定本格サスペンスクローズドサークルホラーミステリカルト

◆ 事件

カルト団体の「レクチャー」から命からがら脱出した男女五人が、深い森の中で道に迷ってしまう。一夜が明けると仲間の一人が姿を消しており、その切断された頭部が、奇怪な装飾を施された古木の根元に置かれているのが発見される。

◆ 謎

外界から隔絶された森で、誰が、なぜ首を切ったのか。この森が「斬首の森」と呼ばれてきた理由とは何か。仲間の中に殺人者が潜んでいるのか、それとも森にいる「何か」の仕業なのか。論理と理屈を超えた恐怖がせめぎ合う。

2024日本

死に髪の棲む家

織部泰助

本格サスペンス横溝正史ミステリ&ホラー大賞読者賞民俗ホラー因習

◆ 事件

ゴーストライターの秋泰が自叙伝執筆のため訪れた素封家の屋敷には、死者の口に髪を詰める奇妙な風習があった。身元不明の老人が髪の毛で首を吊る怪事件が起き、死体の番をした翌朝、死体は別人と入れ替わり床は人毛で埋め尽くされていた。

◆ 謎

施錠された部屋で死体はなぜ、どのようにして別人と入れ替わったのか。死者の口に髪を詰める因習の真の意味とは何か。屋敷で続く髪の怪異は祟りなのか、それとも人為なのか。怪談師・無妙とともに、秋泰は連続する怪事件の真相を追うことになる。

2024日本

死んだ山田と教室

金子玲介

青春特殊設定メフィスト賞本屋大賞ノミネート男子校

◆ 事件

夏休みの終わり、二年E組の人気者・山田が飲酒運転の車に轢かれて死んだ。悲しみに沈む二学期初日の教室で、スピーカーから山田の声が聞こえてくる。「俺、二年E組が大好きなんで」──声だけになった山田と、クラスメイトたちの奇妙でにぎやかな日々が始まる。

◆ 謎

山田はなぜ、どのようにしてスピーカーに宿ったのか。成仏の条件はあるのか。クラスの皆が卒業したら、教室に残る山田はどうなってしまうのか。バカ話に満ちた楽しい日常の裏で、死んだ山田だけが時間から取り残されていくという問いが次第に輪郭を現す。

2024日本

死体で遊ぶな大人たち

倉知淳

本格ユーモア短編集ブラックユーモアデビュー30周年

◆ 事件

避暑地に閉じ込められた大学生たちを襲うゾンビ騒動、役所の窓口に現れて「人を殺したかもしれない」と告白する三人の男、死者が生者を殺したとしか思えない密室心中、両腕だけ別人のものにすげ替えられた死体。「死体」を巡る四つの不謹慎な事件が起きる。

◆ 謎

ゾンビは本当に人を殺せるのか。三人の男の告白はなぜ微妙に食い違うのか。先に絞殺されたはずの男が女を殺せた理由とは。なぜ死体の両腕だけが別人と交換されたのか。各編の謎に加え、四つの物語をつなぐ隠れた仕掛けの存在も読みどころとなる。

2024日本

死蝋の匣

櫛木理宇

サスペンスイヤミスサイコサスペンス児童搾取一家心中

◆ 事件

茨城の住宅で、顔面に劇薬をかけられ滅多刺しにされた男女の遺体が見つかる。被害者はジュニアアイドル事務所を経営し、十二歳以下の少年少女にきわどい仕事をさせていた人物たちだった。翌日にはコンビニで女子中学生が襲撃される。

◆ 謎

現場に残された指紋は、十三年前の一家無理心中事件をただ一人生き延びた女性・椎野千草のものだった。彼女はどこに消え、なぜ今になって凄惨な事件が連鎖するのか。家裁調査官の白石と刑事・和井田のコンビが過去を掘り起こす。

2024日本凍結事案捜査班

時の残像

麻見和史

警察小説サスペンスコールドケース文庫オリジナル

◆ 事件

東京・西大井で腹部を裂かれた無惨な遺体が発見される。遺体の上半身にはなぜか血が塗りたくられ、傍らには林檎がひとつ置かれていた。妻を亡くした刑事・藤木が所属する警視庁の「凍結事案捜査班」が捜査を進めると、被害者と十三年前の未解決事件の重要参考人との接点が浮かぶ。

◆ 謎

血と林檎は何のメッセージなのか。現在の猟奇的な殺人と十三年前の絞殺事件、さらに別の腹部裂傷の被害者はどう繋がるのか。数十年のスパンで凍結されてきた複数の事件の連関を解きほぐせるか、藤木と秀島のコンビの捜査が試される。

2024日本

執着者

櫛木理宇

警察小説サスペンスストーカーサイコサスペンス

◆ 事件

神奈川の事務員・友安小輪は、恋人と同棲を始めた途端、見知らぬ老人につきまとわれるようになる。同じ頃、都内では若夫婦が襲われて夫が殺害され、妻が連れ去られる事件が発生。荻窪署の刑事・佐坂らが捜査に乗り出す。

◆ 謎

若い女性ばかりを狙うストーカー行為と、殺人・拉致。一見ばらばらの事件に潜む共通項とは何か。「孤独な老人に同情を」と取り合わない社会の盲点の中、二十七年前に姉をストーカーに殺された佐坂が執念の捜査を続ける。

2024日本

蛇影の館

松城明

特殊設定本格本格ミステリ・ベスト10館ものクローズドサークル

◆ 事件

人間の身体と記憶を乗っ取り「衣裳替え」を繰り返す人工生命体〈蛇〉。女子高生に寄生する最年少の蛇・伍ノは、一族の長から満月の集いに供する新たな「衣装」候補の調達を命じられ、同級生たちを騙して廃墟に建つ伝説の館への卒業旅行を企てる。だがその館で惨劇が起こる。

◆ 謎

誰が人間で誰が〈蛇〉なのかという根源的な謎に加え、部屋・蛇・肉体という三重の密室で殺人が発生する。生死と乗っ取りに関する〈蛇〉の厳密なルールの下で犯行が可能だったのは誰なのか、数十年前にこの館で起きたという事件との関係も問われる。

2024日本准教授・高槻彰良の推察

准教授・高槻彰良の推察10 帰る家は何処に

澤村御影

特殊設定青春サスペンス民俗学怪異文庫オリジナル

◆ 事件

夏休み、フリーライターの飯沼が民俗学者・高槻のもとを訪れ、行方不明だった男子高校生・相原塔矢が遺体で発見された猟奇的な事件を持ち込む。その遺体の状態は、幼い頃「神隠し」に遭い、背中に翼をもがれたような傷を負って戻った高槻自身の過去と奇妙に重なっていた。

◆ 謎

少年の身に何が起きたのか、犯人はなぜ遺体にむごい加工を施したのか。事故物件で幽霊を見たという別の依頼の真相は何か。そして高槻の神隠しの記憶とこの事件はつながっているのか。シリーズ積年の謎である高槻の過去に大きく踏み込む巻となる。

2024日本

女の国会

新川帆立

社会派サスペンス政界ジェンダー山本周五郎賞

◆ 事件

与党のホープで「お嬢」と呼ばれた女性議員・朝沼侑子が、遺書を残して急死する。直前にある法案をめぐって朝沼を詰問していた野党の高月馨は「死に追いやった」と激しい非難を浴び、謝罪と役職辞任に追い込まれてしまう。

◆ 謎

朝沼の死は本当に自殺だったのか。遺書に込められた真意とは何か。死に疑問を抱いた高月は、朝沼の婚約者で政界のプリンスと呼ばれる三好健太郎とともに真相を追う。男社会の国会の裏側で、彼女は一体何を隠していたのか。

2024日本

少女には向かない完全犯罪

方丈貴恵

本格特殊設定幽霊バディもの

◆ 事件

完全犯罪請負人だった男・黒羽烏由宇はビルから転落死し、現世に七日間だけ留まれる幽霊となる。彼が出会ったのは、両親を殺害されたばかりの、幽霊が見える小学生の少女・音葉。死んだ犯罪者と生き残った少女が、雪の夜の殺人の調査に乗り出す。

◆ 謎

烏由宇を転落死させたのは誰か。音葉の両親を殺した犯人は誰なのか。雪上の足跡、毒入りウイスキーボンボン、リコーダーに託されたダイイングメッセージ。消滅までの限られた七日間で、幽霊と少女は二つの死をつなぐ真相に迫らねばならない。

2024日本

少女マクベス

降田天

青春サスペンス演劇学園

◆ 事件

演劇女子校で「神」とまで呼ばれた天才劇作家・設楽了が、自作『百獣のマクベス』の上演中に舞台から転落死した。翌年、新入生・藤代貴水が「了の死の真相を調べに来た」と宣言し、劇作家志望のさやかが調査に巻き込まれていく。

◆ 謎

了の死は事故なのか、自殺なのか、それとも他殺なのか。マクベスの魔女役を演じた3人の少女はそれぞれ何を隠しているのか。そもそも貴水は何者で、なぜ真相を求めるのか。崇拝と才能と嫉妬が渦巻く学園で、「神」を死に追いやったものの正体が問われる。

2024日本

責任

浅野皓生

警察小説社会派横溝正史ミステリ&ホラー大賞優秀賞冤罪

◆ 事件

雪の深夜、刑事・松野徹が職務質問しようとした車が逃走し、交差点で別の車と衝突して炎上。運転手の藤池光彦と巻き込まれた一家4人が死亡する。直後に光彦へ事故直前の強盗致傷の容疑が浮上し、被疑者死亡のまま事件は終結する。

◆ 謎

12年後、「息子は冤罪だ」と訴える光彦の遺族から再捜査を嘆願された徹は、自責の念から調べ直しを始める。強盗致傷は本当に光彦の犯行だったのか。被疑者死亡で幕引きされた当時の捜査は何を見落とし、誰がどんな「責任」を負うべきだったのか。

2024日本赤ずきんシリーズ

赤ずきん、アラビアンナイトで死体と出会う。

青柳碧人

本格特殊設定ユーモア短編集昔話ミステリ枠物語

◆ 事件

旅する赤ずきんが今度はアラビアンナイトの世界へ。シェヘラザードが王に物語を語る枠組みの中、アラジンやアリババ、シンドバッドらの物語で次々と殺人事件が起こり、居合わせた赤ずきんが「杜撰な犯罪計画」を見抜いていく。

◆ 謎

空飛ぶ絨毯やランプの魔人といった魔法が実在する世界で、誰がどうやって人を殺したのか。魔法や呪いという非現実的な要素が絡む不可能犯罪の数々を、その世界のルールを前提とした論理だけで解き明かすことはできるのか。

2024日本

切断島の殺戮理論

森晶麿

本格サスペンス孤島文化人類学クローズドサークル

◆ 事件

帝旺大学文化人類学科の研究チームが、国家に存在を隠された地図にない孤島・鳥喰島の現地調査に赴く。身体の一部の切断を成人儀礼とし「欠落を美と見做す」鷲族と鴉族が暮らす閉鎖世界で、やがて連続殺人が発生する。

◆ 謎

この殺戮は無計画の連鎖なのか、それとも計画された虐殺なのか。欠損を美とする異様な価値観の島では、死体の損壊が持つ意味すら外部の常識と反転してしまう。本土の論理は島の論理に通用するのか。調査チームは推理によって惨劇を読み解こうとする。

2024日本

全員犯人、だけど被害者、しかも探偵

下村敦史

本格サスペンスクローズドサークル多重どんでん返し

◆ 事件

社長室で社長が殺された。事件に関わる未亡人、記者、社員二人、運転手、清掃員、遺族の七人が廃墟に監禁され、密室のスピーカーから音声が流れる。「社長を殺した犯人だけ生かして帰す。それ以外は毒ガスで殺す」と。

◆ 謎

生き残るには、自分こそが犯人だと証明しなければならない。七人は命がけの「自供合戦」を繰り広げ、互いの告白の矛盾を突き合う。誰が本当に社長を殺したのか。そもそもこの異常な監禁ゲームを仕組んだのは誰なのか。

2024日本

対決

月村了衛

社会派サスペンス医大入試不正ジェンダー新聞記者

◆ 事件

中堅私立医大の入試で、女子受験者だけが一律に減点されているという不正疑惑が浮上する。日本新聞社会部の記者・檜葉菊乃は内偵取材を開始し、突破口として大学理事の上林晴海に接触する。だが疑惑の揉み消しを命じられた晴海は、菊乃に強い警告を発する。

◆ 謎

社会に蔓延する女性差別と闘いながら生きてきた二人の女性は、なぜ正反対の立場で対峙することになったのか。女子減点の不正は暴かれるのか、それとも組織の論理の中で闇に葬られるのか。信念をかけた二人の「対決」の行方が焦点となる。

2024日本地面師たち

地面師たち アノニマス

新庄耕

社会派サスペンス短編集前日譚不動産詐欺Netflixドラマ化シリーズ

◆ 事件

百億円の不動産詐欺を成し遂げる以前、彼らはどこにでもいる職業人だった。司法書士歴二十年の後藤は薄給とリストラに追い詰められ、山中と名乗る実業家から三百万円で不正な登記申請への加担を持ちかけられる。のちに地面師となる者たちの転落を描く前日譚短編集。

◆ 謎

ごく普通に生きてきた人間が、なぜ百億円規模の不動産詐欺を担う地面師になったのか。後藤、竹下、麗子——それぞれの弱みと欲望につけ込み、彼らを見出して束ねていく大物詐欺師ハリソン山中の影。本編へと繋がる「始まりの物語」が全七編で描かれる。

2024日本

帝国妖人伝

伊吹亜門

歴史・時代本格短編集連作実在人物

◆ 事件

明治から昭和へ、帝国と呼ばれた時代の節目ごとに、小説家・那珂川二坊は不可解な事件に遭遇する。坂の上の死、峠の殺人、大陸の飯店での事件など、約60年にわたる近代日本の歴史を背景に5つの謎が描かれる連作短編集。

◆ 謎

各話で二坊とともに事件に向き合い、鮮やかに謎を解いてみせる同行者たちは、いったい何者なのか。そして殺人や不可解な出来事そのものの真相は何か。歴史の転換点に潜む闇と本格の謎解きが交差し、各話の最終頁まで仕掛けが張り巡らされている。

2024日本

兎は薄氷に駆ける

貴志祐介

法廷社会派サスペンス冤罪復讐

◆ 事件

嵐の晩、資産家の男が自宅で愛車のエンジンの不完全燃焼による一酸化炭素中毒で死亡する。容疑者として浮かんだ甥・日高英之は自白し、事件は解決に向かうと思われた。しかし法廷では弁護側が冤罪を主張し、検察との激しい争いが始まる。

◆ 謎

英之は本当に伯父を殺したのか、それとも新たな冤罪が生まれようとしているのか。自白はなぜ覆されたのか。事件の裏には15年前の殺人事件と、冤罪のまま獄死した英之の父の存在が見え隠れする。法廷の舌戦の先で暴かれる「冤罪」の真実とは。

2024日本小市民シリーズ

冬期限定ボンボンショコラ事件

米澤穂信

本格青春シリーズ完結入院もの回想

◆ 事件

高校三年の冬、小市民を目指す小鳩常悟朗が夜道でひき逃げに遭い、右足骨折で入院する。枕元には小佐内ゆきからの「犯人は許さない」というメッセージとボンボンショコラの箱が残され、三年前に同級生が犠牲となった別のひき逃げ事件の記憶も蘇ってくる。

◆ 謎

ブレーキ痕のないひき逃げは事故なのか、それとも故意の殺人未遂なのか。三年前の日坂祥太郎ひき逃げ事件と今回の事件はつながっているのか。病室から動けない小鳩は記憶を頼りに推理を重ね、小佐内の不穏な沈黙の意味も謎として漂い続ける。

2024日本

毒入り火刑法廷

榊林銘

特殊設定法廷本格魔女法廷バトル

◆ 事件

十数年前から魔女が実在する世界。箒で飛べる魔女にしか不可能と思われる墜死事件が起き、少女カラーが魔女として「火刑法廷」に立たされる。魔女と認定されれば即火刑。魔女専門弁護士の毒羊と審問官オペラの舌戦が始まる。

◆ 謎

法廷で問われるのは有罪か無罪かではなく「被告は魔女か否か」のみ。飛行なくしては不可能に見える墜死や、扉の開けられない病室の謎を、人間の犯行としていかに説明するか。魔女の関与が疑われる3つの事件の真相が、陪審員の心証を巡って争われる。

2024日本

難問の多い料理店

結城真一郎

本格ユーモア短編集連作安楽椅子探偵

◆ 事件

フードデリバリー「ビーバーイーツ」の配達員で日銭を稼ぐ大学生の僕は、怪しげなゴーストレストランのオーナーシェフから「報酬一万円」の奇妙な依頼を受けるようになる。不自然な焼死体が出たアパート火災、指が二本欠けた轢死体──この店は探偵業も営んでいた。

◆ 謎

厨房から一歩も出ないシェフが、配達員たちの運ぶ情報だけでどんな難問も華麗に解いてしまう。焼死体はなぜ不自然だったのか。死者の指はなぜ欠けていたのか。空室に届き続ける置き配の意味とは。そしてこの店そのものにも、何か秘密の気配が漂っている。

2024日本

二人目の私が夜歩く

辻堂ゆめ

サスペンス青春二部構成解離性同一性障害

◆ 事件

両親を交通事故で亡くした高校三年生の鈴木茜は、ボランティア先で、頸椎損傷により首から下が麻痺し寝たきりで暮らす二十九歳の厚浦咲子と出会う。「昼」の章では、境遇の異なる二人が少しずつ心を通わせる日々が温かく描かれる。

◆ 謎

一つの身体を共有するかのように存在する二人の「私」とは何者なのか。穏やかな「昼」の物語が終わりを告げたとき、対をなす「夜」の章でどんな真実が立ち現れるのか。そして二人の人生を変えた交通事故の真相とは何か。

2024日本

猫の耳に甘い唄を

倉知淳

本格ユーモア作家ものブラックユーモア

◆ 事件

売れないミステリ作家・冷泉彰成は、弟子の久高享に創作の技術を仕込みながら執筆を続けていた。ある日、冷泉のもとに女性からのファンレターと「殺人と云う名の粛清を献上する」と記された怪文書が届く。数日後には刑事が訪れ、ある女性の殺害を告げる。

◆ 謎

怪文書の送り主は誰で、なぜ冷泉に殺人を「献上」するのか。殺された女性は半年前に冷泉へファンレターを送り、殺害当日は冷泉と会う予定だと周囲に語っていたが、冷泉には身に覚えがない。不気味な事件の影と師弟の周辺に漂う違和感の正体が問われる。

2024日本

伯爵と三つの棺

潮谷験

本格歴史・時代犯人当て本格ミステリ大賞候補

◆ 事件

フランス革命が起き、封建制度が崩壊しつつあるヨーロッパの小国で、元吟遊詩人の男が射殺される。容疑者は「四つ首城」の改修を任された三兄弟。五人もの関係者が襲撃者の顔を目撃していたのに、三人は瓜二つの三つ子で、誰が撃ったのか特定できない。

◆ 謎

DNA鑑定も指紋鑑定も存在しない時代に、純粋な論理のみで三つ子の誰が犯人かを特定できるのか。探偵役のD伯爵は物語の半ばで「犯人はわかっている」と宣言する。目撃証言の食い違いと、三兄弟それぞれの行動の不自然さの理由が問われていく。

2024日本

博士はオカルトを信じない

東川篤哉

ユーモア本格短編集発明家中学生探偵

◆ 事件

霧立市で私立探偵の両親を手伝う中学二年生・億香晴人は、幽霊やオカルトとしか思えない不可解な出来事に次々と遭遇する。廃墟に住む自称天才発明家の白衣の女博士と出会った晴人は、あの世からの声や幽体離脱の殺人など五つの怪事件を持ち込むことになる。

◆ 謎

死んだはずの母の声はどこから聞こえてくるのか。幽体離脱中の人間に殺人は可能なのか。赤いワンピースの女や昭和の幽霊の正体は何か。雪に残された靴跡が作る完璧なアリバイの綻びはどこにあるのか。オカルト現象の裏の合理的な仕掛けが問われる。

2024日本探偵みどりシリーズ

彼女が探偵でなければ

逸木裕

本格社会派短編集連作本格ミステリ大賞受賞

◆ 事件

探偵事務所で働く森田みどりは、高校時代から人の本性を暴くことに取り憑かれてきた二児の母。時計職人の父を亡くした少年、千里眼を持つと噂される少年、父親の殺害計画をノートに記す少年──調査に赴く先々で、彼女は謎を抱えた子どもたちと出会っていく。

◆ 謎

少年たちが抱える謎の裏には何があるのか。そもそも真実を暴くことは、本当に人を救うのか。「陸橋の向こう側」では父殺しを計画する少年を止めようとするみどりの前に予想外の真実が現れる。探偵という業そのものが、彼女自身への問いとして突きつけられる。

2024日本

彼女は逃げ切れなかった

西澤保彦

特殊設定本格連作短編超能力短編集

◆ 事件

警察を早期退職した纐纈古都乃は、ある朝の轢き逃げ現場で、交差点の向かいに立つ双子の姉妹が放った閃光とともに逃走車が急停止するのを目撃する。車のトランクからは女性の遺体が発見され、旧友の居酒屋で双子と再会した古都乃は奇妙な事件に関わっていく。

◆ 謎

双子の姉妹は何者で、車を止めたように見えた閃光の力は何なのか。何度も殺人犯の身代わりになる男、全焼した家から出た死後数十年の死体など、酒場に持ち込まれる奇妙な謎の真相は。「まだ視えるんでしょう」という双子の言葉の意味も問われる。

2024日本爆弾

法廷占拠 爆弾2

呉勝浩

サスペンス法廷警察小説続編立てこもり

◆ 事件

未曾有の連続爆破事件から一年後、爆弾魔スズキタゴサクの裁判当日。遺族席の青年が拳銃を手に法廷を制圧する。武装グループは傍聴人ら約百人を人質に取り、「死刑囚の死刑を直ちに執行せよ。さもなくば人質を一人ずつ殺す」と要求、その様子は全国へ生配信される。

◆ 謎

占拠犯の青年・柴咲は何者で、真の目的は何なのか。当のスズキタゴサクはこの極限状況すら愉しむように謎かけを始める。法廷に持ち込まれた爆弾と生配信を前に警察は身動きが取れない。異様な心理戦の中で、犯人たちの計画の全貌が問われる。

2024日本魔女

魔女の後悔

大沢在昌

ハードボイルドサスペンスシリーズ第4作

◆ 事件

売春島を生き抜き裏社会のコンサルタントとなった水原は、恩人から「13歳の少女・由乃を京都まで連れて行ってほしい」と依頼される。道中、由乃を拉致しようとする正体不明の男たちに次々と襲われ、護送は命懸けの旅となる。

◆ 謎

なぜ13歳の少女がこれほど執拗に狙われるのか。5年前に死んだ彼女の父はいったい何者だったのか。襲撃を仕掛けてくる複数の勢力の正体と目的、そして恩人の依頼の裏にある事情が、水原の調査と道中の攻防を通じて少しずつ輪郭を現していく。

2024日本密室時代シリーズ

密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック

鴨崎暖炉

本格特殊設定ユーモア密室クローズドサークル文庫オリジナル

◆ 事件

巨大鍾乳洞の内部に築かれた奇妙な集落・八つ箱村。祭りの最中に作家一族の娘が頭を撃ち抜かれ、村を出ようとした青年が突然発火して焼死する。橋が落とされ東西に分断された村で連続密室殺人の幕が上がり、「昭和密室八傑の呪い」が囁かれはじめる。

◆ 謎

鍾乳洞の村で次々と起きる八つもの密室殺人は、いかにして構成されたのか。東西の集落で同時に発生した三つ子姉妹殺しの密室の仕掛けとは何か。分断された村でそれぞれ名探偵を見つけた香澄と夜月は、すべての謎を解き切れるのかが問われる。

2024日本六法推理シリーズ

密室法典

五十嵐律人

本格法廷青春短編集リーガルミステリロースクール

◆ 事件

ロースクールに進学した古城行成は、戸賀夏倫らとともに無料法律相談を続けている。模擬法廷で起きた恐竜の着ぐるみをめぐる密室監禁事件、二通の遺言書とダイイングメッセージを残した医師の不審死など、法律絡みの難事件が持ち込まれる。

◆ 謎

密室事件はSNSでどう拡散され炎上するのか。複数の遺言書はどちらが有効なのか。生死不明の人の死を法的にどう確定するのか。謎解きと法律問題が重なり合う各話で、三人はそれぞれの専門性を武器に真相へ迫っていく。

2024日本音楽隊採用刑事・鳴海桜子シリーズ

眠れる森の殺人者

佐藤青南

警察小説サスペンス誘拐音楽相貌失認

◆ 事件

有名企業の社長令嬢である女子児童・樫本皐月が誘拐される事件が発生する。相貌失認のため人の顔を識別できない一方、絶対音感と鋭い推理力を持つ刑事・鳴海桜子は捜査に加わり、防犯カメラ映像に残されたわずかな手掛かりから犯人像を絞り込んでいく。

◆ 謎

誘拐犯の目的は身代金なのか、それとも別の何かなのか。捜査線上に浮かぶ、表舞台から消えた名ヴァイオリニストと事件の関係は。さらに天才指揮者である桜子の父の影もちらつき、誘拐事件の謎と桜子自身の過去とが交錯していく。

2024日本

名探偵の有害性

桜庭一樹

本格メタミステリ名探偵もの再検証

◆ 事件

かつて名探偵の黄金時代があった世界。平成を賑わせた名探偵四天王の一人・五狐焚風が、令和の人気YouTubeチャンネルで弾劾される。かつての助手・鳴宮夕暮は五十歳になった今、風と再会し、二人で過去に解決した事件を一つずつ再検証する旅に出ることになる。

◆ 謎

華々しく解決されたはずの事件の裏で、関係者たちはその後どうなったのか。名探偵の推理は本当に正しく、人を幸せにしたのか。一章ごとに一つの事件を検証していく旅の果てに、「名探偵は有害なのか」という根源的な問いへの答えが待ち受けている。

2024日本

明治殺人法廷

芦辺拓

歴史・時代法廷本格明治大阪冤罪

◆ 事件

明治20年、大阪の質屋一家6人が惨殺され、生き残ったのは赤子と16歳の少年のみ。警察は少年を犯人として法廷に立たせる。東京を追われた探訪記者・筑波新十郎と駆け出し代言人・迫丸孝平が、被告に絶対不利な明治の法廷で闘う。

◆ 謎

密室状態の現場で、生き残った16歳の少年に本当に一家6人の殺害が可能だったのか。警察の集めた証拠は捏造されていないのか。被告人に絶対不利な運用がまかり通る近代司法の黎明期に、東西の二青年は「正しき真相」へ辿り着けるのか。

2024日本屍人荘の殺人シリーズ

明智恭介の奔走

今村昌弘

本格青春ユーモア短編集前日譚大学ミステリ

◆ 事件

『屍人荘の殺人』の惨劇よりも前の物語。神紅大学で「便利屋」として名を売る自称名探偵・明智恭介が、後の相棒・葉村譲とともに、サークル棟の窃盗騒ぎ、泥酔の夜の怪事件、試験問題の漏洩、手紙のばら撒きなど、学内外で起こる五つの事件に首を突っ込む。

◆ 謎

捕まった窃盗犯が語る「自分の後にもう一人侵入者がいた」という証言は真実か。密室状態の部屋でなぜ肌着だけが引き裂かれていたのか。金庫ごと消えた試験問題はどこへ。日常に潜む不可解の数々を、明智が強引かつ鮮やかに、ときに空回りしながら暴いていく。

2024日本理瀬シリーズ

夜明けの花園

恩田陸

サスペンス青春短編集ゴシック学園

◆ 事件

湿原に浮かぶ檻のような全寮制の学園「三月の国」。特殊な事情を抱える生徒たちが集うこの妖しい学園を中心に、ヨハンの隠れた素顔、校長の悲しき回想、幼き日の理瀬、黎二と麗子の秘密、月夜に馳せる聖、そして水野理瀬の現在を描く六編を収めたシリーズ短編集。

◆ 謎

美しい兄弟姉妹たちはなぜこの学園に集められたのか。学園を襲った火事の真相、聖の出自、黎二と麗子が抱える過去とは何か。シリーズ長編の行間を埋める手がかりが各編に潜み、幻想と不穏が同居するゴシックミステリの世界が広がる。

2024日本

誘拐ジャパン

横関大

サスペンスユーモア社会派誘拐劇場型犯罪政治

◆ 事件

現職総理大臣の孫で七歳の桐谷英俊が、女性三人組に誘拐される。無職の天草美晴は高額報酬につられてゴミ屋敷の掃除を引き受けたことから謎の老人と出会い、この計画に巻き込まれていた。事件は日本中を巻き込む騒動へ発展する。

◆ 謎

なぜ犯人たちは身代金を要求せず、動画配信で国民に呼びかける奇妙な行動をとるのか。誘拐を仕組んだ黒幕は誰で、その真の狙いは何か。警察の包囲網が狭まる中、三人組と「優秀すぎる人質」の逃避行はどこへ向かうのか。

2024日本

遊廓島心中譚

霜月流

歴史・時代本格江戸川乱歩賞幕末遊廓

◆ 事件

幕末の日本。木挽き職人だった父の訃報が娘・伊佐に届く。遺骸には横浜・遊廓島の遊女の鑑札が添えられ、父には攘夷派の強盗への加担と町娘殺しの容疑がかけられていた。伊佐は外国人相手の妾となって島に乗り込む。

◆ 謎

真面目一筋だった父はなぜ遊廓島で死に、本当に強盗と殺しに関わったのか。島に流れる「遊女殺し」の噂や江戸にばら撒かれる「心中箱」は何を意味するのか。一見無関係に見える複数の出来事は、伊佐が島の奥へ踏み込むほど不穏に絡み合っていく。

2024日本

雷龍楼の殺人

新名智

本格特殊設定サスペンス読者への挑戦孤島

◆ 事件

富山沖の孤島に建つ屋敷「雷龍楼」では2年前、密室で4人が変死した。その事件で両親を失った中学生・霞が誘拐され、従兄の穂継は霞の解放と引き換えに雷龍楼から「あるもの」を持ち出すよう要求される。彼が島に入った夜、再び密室殺人が起きる。

◆ 謎

2年前と同じ状況で繰り返される密室殺人の犯人と方法は何か。誘拐犯の目的と「あるもの」の正体は何か。開始わずか20頁で「読者への挑戦」が挿入され、被害者と犯人の名が先に明かされる異形の構成も謎を深める。

2024日本

乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび

芦辺拓

本格歴史・時代パスティーシュ未完作補完メタミステリ

◆ 事件

昭和八年、江戸川乱歩が鳴り物入りで連載を始めた「悪霊」。美しい未亡人が蔵の二階で不可解な血痕をまとった惨殺死体として発見され、現場には謎の記号が残り、降霊会では「又一人美しい人が死ぬ」と予告される。だが連載は乱歩のお手上げ宣言で中絶した。

◆ 謎

蔵の密室はいかにして構成されたのか。現場に残された記号は何を意味するのか。降霊会で予告された第二の殺人は防げるのか。そして最大の謎は、乱歩はなぜ「悪霊」を未完のまま投げ出したのかという、文学史上に実在する謎そのものである。

2024日本巷説百物語シリーズ

了巷説百物語

京極夏彦

歴史・時代シリーズ完結怪異吉川英治文学賞

◆ 事件

狐狩りの名人にして、嘘を見破る裏稼業〈洞観屋〉を営む稲荷藤兵衛。佐倉藩士から、老中・水野忠邦の改革を妨げる「化け物遣い」どもを炙り出せと依頼され、江戸へ赴く。巷に流れる怪異の噂の裏側で、又市ら御行一味による最後の大仕掛けが静かに動き出していた。

◆ 謎

江戸を騒がす怪異の噂は、誰が何のために仕掛けているのか。嘘を見抜く洞観屋と、嘘によって世を動かす化け物遣いは、どちらが上手なのか。そしてシリーズ当初から仄めかされ続けてきた「幻の大仕事」の全貌が、四半世紀を経てついに語られようとしている。

2024日本カエル男シリーズ

連続殺人鬼カエル男完結編

中山七里

サスペンス警察小説イヤミス猟奇殺人刑法39条シリーズ完結

◆ 事件

医療刑務所から連続殺人鬼〈カエル男〉こと有働さゆりが脱走する。直後から、精神疾患を抱える犯罪者を弁護し無罪を勝ち取ってきた人権派弁護士たちが、トラックで引きずられ、カラスに啄まれ、乾燥室で干からびさせられるなど、猟奇性を増した手口で次々と殺されていく。

◆ 謎

被害者の名字は当初「カ行」で統一されていたが、途中でその法則が破られ捜査は混乱する。連続殺人は本当にさゆりの仕業なのか、なぜ刑法三十九条で無罪を勝ち取った弁護士ばかりが狙われるのか。埼玉県警の渡瀬と古手川が最後の対決に挑む。

2024日本

牢獄学舎の殺人 未完図書委員会の事件簿

市川憂人

新本格青春メタミステリ作中作学園

◆ 事件

ミステリ好きの高校生・詠太は校内で、ある高校の音楽室・美術室・プールで起こる三連続密室殺人を描きながら「読者への挑戦状」で途切れ、解答編が存在しない一冊の本を見つける。直後、謎の少女・流伽が現れ、その本の危険な正体を告げる。

◆ 謎

作中作で描かれる3つの密室殺人の犯人とトリックは何か。そもそもなぜ解答編のない本が校内に存在するのか。「溝呂木案件調査機構・未完図書委員会の司書」を名乗る流伽の正体と目的は何か。読み進めるうち、虚構の事件と現実の境界が揺らいでいく。

2024日本宮城県警シリーズ

彷徨う者たち

中山七里

社会派警察小説本格震災復興三部作完結編

◆ 事件

東日本大震災から年月を経た宮城。災害公営住宅への移転に伴い解体作業が進む仮設住宅の一室から、町役場で仮設住民を担当していた職員の他殺体が発見される。現場は出入口がすべて施錠された完全な密室だった。『護られなかった者たちへ』に続くシリーズ完結編。

◆ 謎

なぜ被害者は解体間際の仮設住宅で殺されたのか、施錠された部屋へどうやって遺体は持ち込まれたのか。復興から取り残され、拠り所を失ったまま彷徨う被災者たちの姿が捜査線上に浮かび、事件は復興事業の歪みと行政の闇へと繋がっていく。

2024日本

籠の中のふたり

薬丸岳

社会派青春出生の秘密再生

◆ 事件

父を亡くしたばかりの弁護士・村瀬快彦は、傷害致死事件を起こして服役した従兄・蓮見亮介の身元引受人となり、川越の実家で同居を始める。母の自殺以来、人と深く関わるのを避けてきた快彦の日常が、明るい亮介によって変わり始める。

◆ 謎

ある日、快彦は亡き母が父に宛てた手紙を見つけ、母が結婚前に妊娠していた事実を知る。母はなぜ死を選んだのか。自分の出生に隠された秘密とは何か。そしてその秘密は、亮介が起こした傷害致死事件とどう繋がっているのか。

2024日本

翳りゆく午後

伊岡瞬

サスペンス社会派イヤミス家族崩壊高齢ドライバー

◆ 事件

教職を退いた八十歳目前の名士・武の愛車に、いつしか不審な傷が増えていく。免許返納を勧める息子の敏明に武は耳を貸さず、市民講座の生徒との親密な噂も広がる。そんな折、近隣で悪質な轢き逃げ事件が発生し、武から「人を轢いたかもしれない」と電話が入る。

◆ 謎

轢き逃げ犯は本当に父なのか。なぜ武は運転に固執し、女性との関係を隠すのか。反抗期の息子・幹人の不可解な行動の意味とは。家族それぞれが抱える嘘が絡み合い、事件の真相と家族崩壊の行方が見通せなくなっていく。

2024日本

噓か真言か

五十嵐律人

法廷社会派短編集裁判官現代社会

◆ 事件

任官三年目の判事補・日向由衣は、念願かなって志波地方裁判所の刑事部に配属される。直近の先輩は「被告人の嘘が見抜ける」と噂される癖の強い裁判官・紀伊真言。特殊詐欺や生成AI、不法滞在など現代的な事件の審理が次々と始まる。

◆ 謎

紀伊は本当に嘘を見抜けるのか。上司から「紀伊真言が嘘を見抜けるか見抜け」という課題を出された由衣は、法廷での審理を通じて事件の裏側と紀伊の正体に迫っていく。裁判所の中だけで、事件の真相はどこまで暴けるのか。

2025日本法医昆虫学捜査官

18マイルの境界線 法医昆虫学捜査官

川瀬七緒

警察小説社会派法医昆虫学シリーズ

◆ 事件

高級会員制ゴルフ場の雑木林で、歯を抜かれ髪を刈られ、顔や指紋など身元につながる箇所を徹底的に損壊された女性の遺棄死体が発見される。三日後、30キロ以上離れた他県のスクラップヤードでも、同じ手口の女性死体が見つかる。

◆ 謎

二人の被害者はなぜここまで執拗に身元特定を阻まれたのか。離れた二つの現場と、つながりの見えない被害者たちを結ぶ接点はどこにあるのか。法医昆虫学者・赤堀涼子が、死体に集う虫たちの生態から人間には見えない鎖を手繰り寄せる。

2025日本

C線上のアリア

湊かなえ

社会派サスペンス介護新聞連載

◆ 事件

中学生の頃に両親を亡くし叔母・弥生に引き取られた浜辺美佐は、認知症となった叔母のごみ屋敷を片付けるうち、開かずの金庫を見つける。介護の日々の中で、叔母の過去とかつてこの家で起きた出来事が少しずつ浮かび上がる。

◆ 謎

金庫の中には何が入っているのか。叔母が英会話教室の友人と続けていた秘密の取り決め「交換家事」とは何だったのか。かつて家で起きた姑の転落死と叔父の死の真相が、序盤から張り巡らされた伏線とともに問われていく。

2025日本

HACK

橘玲

冒険・スパイ社会派暗号資産マネーロンダリングバンコク特殊詐欺

◆ 事件

2024年秋のバンコク。暗号資産の利益への課税を逃れて暮らすハッカーの樹生は、情報屋「沈没男」から、特殊詐欺で稼いだ違法資金をビットコインで洗浄したいと持ちかけられる。同じ頃、スキャンダルで消えた元アイドル・咲桜から連絡が入り、国際的な陰謀の渦に引き込まれていく。

◆ 謎

沈没男の依頼の背後には誰がいるのか、咲桜はなぜバンコクにいて何を抱えているのか。十億円だったはずの資金が五百億、二千五百億円へと膨れ上がっていく構図の正体とは。北朝鮮のハッカー集団ラザルスや公安調査庁が入り乱れ、誰が味方かも分からなくなる。

2025日本

道尾秀介

本格サスペンス実験的構成読む順番で変わる結末

◆ 事件

元刑事のホームレス・野宮と休職中の医師・多釜が出会う「ゲオスミン」、一家惨殺事件の生き残りである高校生・小峰夕歌が秘密を抱えて暮らす「ペトリコール」。二つの物語が一冊に収められ、読者はどちらから読むかを自ら選ぶ。

◆ 謎

二つの物語はどこで繋がり、同じ出来事をどう挟んでいるのか。読む順番によって物語の意味はどう変わるのか。一家惨殺事件の真相と、登場人物たちが隠す素性が、二編にまたがる大きな謎として読者の前に提示される。

2025日本警察庁特捜地域潜入班・鳴瀬清花

SOUL 警察庁特捜地域潜入班・鳴瀬清花

内藤了

警察小説サスペンス死刑囚潜入捜査シリーズ第7作

◆ 事件

特捜地域潜入班に、東京拘置所の教誨師から調査依頼が舞い込む。強盗致死を含む四人殺害で収監中の死刑囚・西口治が、新たな殺人を自白したというのだ。だが彼は「千に一つも真実を言わない」と評される虚言癖の男で、誰もその告白を本気にしていなかった。

◆ 謎

死刑が確定し執行を待つだけの男が、なぜいまさら余罪を告白するのか。それは真実なのか、常習的な嘘の一つなのか。罪を暴いたところで誰が救われるのか。班は西口の嘘に塗れた人生そのものへの「潜入」を決断し、拘置所の面会室で凶悪犯との心理戦が幕を開ける。

2025日本

アトミック・ブレイバー

呉勝浩

特殊設定サスペンス冒険・スパイ近未来SF格闘ゲーム

◆ 事件

小型核による世界同時多発テロから27年後の管理社会。平凡な会社員・堤下与太郎は、国家推奨の睡眠アプリを天才プログラマーの旧友・西丸にハッキングされ、格闘ゲームの改造版を唯一プレイできるよう「教育」されていたことを知る。

◆ 謎

姿を消した西丸はなぜ与太郎だけを「鍵」に仕立てたのか。格闘ゲームと国家の平和維持システムはどう繋がっているのか。与太郎を奪い合う国家機関と謎の組織、寄り添うAI・マサルの正体も含め、管理社会の裏で動く計画の全貌が謎となる。

2025日本イクサガミ

イクサガミ 神

今村翔吾

歴史・時代冒険・スパイサスペンスデスゲームシリーズ完結文庫書き下ろし

◆ 事件

明治十一年、武芸者二百九十二人が京都・天龍寺に集められ、木札を奪い合いながら東京を目指す殺し合いの遊戯「蠱毒」が始まった。完結巻では生き残った九人の強者と一人の少女が東京に到達し、地獄と化した帝都で賞金十万円を懸けた最終決戦の幕が上がる。

◆ 謎

そもそも蠱毒を主催したのは何者で、明治政府の足元でこれほどの殺戮遊戯がなぜ可能なのか。元彰義隊の剣客・嵯峨愁二郎は少女・双葉を守って勝ち残れるのか。京八流をめぐる兄弟弟子の因縁と、不死身めいた老剣鬼・幻刀斎との決着も焦点となる。

2025日本

うたかたの娘

綿原芹

サスペンス特殊設定短編集人魚伝説横溝正史ミステリ&ホラー大賞ホラー

◆ 事件

北陸・若狭の港町に伝わる人魚伝説を背景にしたオムニバス。語り手の「僕」が回想する高校時代、並外れて美しい同級生・水嶋は「私、人魚かもしれん」と告白し、幼い頃に〈何か〉の血を飲んで大病が治り顔が変わったと語った。

◆ 謎

人魚は本当に実在するのか、人を美しく変えるという血や肉の正体は何なのか。各章で語られる人々の体験は断片的で、港町の伝説と現実の境界が曖昧なまま、章ごとの出来事と人物がどこで繋がるのかが全体を貫く謎となる。

2025日本

さよならジャバウォック

伊坂幸太郎

特殊設定サスペンスデビュー25周年本屋大賞ノミネート

◆ 事件

結婚後に豹変した夫を自宅で殺してしまった量子は、混乱の中で大学時代の後輩・桂凍朗を頼る。だが物語は、脳に寄生して攻撃性のリミッターを外す謎の存在「ジャバウォック」、それを駆除する組織、駆除の鍵となる楽曲を持つミュージシャン一族らが入り乱れる奇想の群像劇へ展開する。

◆ 謎

ジャバウォックとは何なのか、量子の犯した殺人はどう裁かれるのか。複数視点で疾走するドタバタ劇の裏に、時間と人物をめぐる大きな仕掛けが潜んでいる。デビュー25周年記念の書き下ろし長編として、伊坂ワールドの集大成的な趣向が話題となった。

2025日本烏賊川市シリーズ

じゃあ、これは殺人ってことで

東川篤哉

ユーモア本格短編集烏賊川市

◆ 事件

日本屈指の犯罪都市・烏賊川市で起こる事件を描く全5話のユーモアミステリ短編集。イノシシ除けの電流柵を巡らせた農園での変死体、博士とロボットをめぐる密室、墓場や保険金の絡む不審死など、奇妙な事件が続発し、脱力系の登場人物たちが謎解きに乗り出す。

◆ 謎

防犯カメラに映った人影は誰で、死体遺棄の真相は何か。密室の中でいかにして犯行が行われたのか。各話とも本格的な謎解きの骨組みがコテコテのギャグに包まれており、ふざけた会話の裏でロジックがどう着地するのかが読みどころとなる。

2025日本

たとえば孤独という名の嘘

誉田哲也

警察小説冒険・スパイ公安連作短編ノワール

◆ 事件

警視庁公安部の佐島は、大学時代の友人・稲澤の取調べに駆り出される。稲澤は勤務先の女性部下・矢代を殺害した容疑者で、被害者は二人が学生時代に共に恋した女性と瓜二つだった。容疑を否認する稲澤は「矢代は中国のスパイだったのではないか」と口にする。

◆ 謎

矢代は本当に中国のスパイだったのか、稲澤は本当に殺したのか。取調べ後に特捜幹部が佐島へ突きつけた一枚の紙とは何か。視点人物の異なる全五話で、一話ごとに前話までの「真相」が反転していき、事件の本当の姿がどんどん掴めなくなっていく。

2025日本

どうせそろそろ死ぬんだし

香坂鮪

本格新本格クローズドサークルこのミス大賞余命

◆ 事件

余命宣告を受けた人々の交流会「かげろうの会」が山奥の別荘で開かれ、探偵・七隈昴と助手の薬院律が招かれる。翌朝、参加者の一人が自室で死んでいるのが見つかり、病死か殺人か判然としないまま閉ざされた別荘での調査が始まる。

◆ 謎

死んだのは、どうせ間もなく死ぬはずだった人物。誰が、なぜ余命わずかな人間をわざわざ手にかける必要があったのか。病死と殺人の境界が揺らぐ中、参加者それぞれの余命と思惑が絡み合い、探偵と助手の推理が試される。

2025日本

パンドラブレイン 亜魂島殺人(格)事件

南海遊

特殊設定新本格孤島SFミステリ青春

◆ 事件

三年前、孤島・亜魂島では名探偵・霧悠冬真と史上最悪の連続密室殺人鬼Oとの最後の対決が行われた。現在、ミステリ研究会の大学生五人が過去の事件を調べに島を訪れ、脳科学研究所の密室で首を切断された死体を発見してしまう。

◆ 謎

殺人鬼はいまも島に潜んでいるのか。密室で首を切断された死体の謎に加え、他人の記憶を移植して人格ごと上書きする禁忌の技術「パンドラブレイン」の存在が、三年前の対決と現在の事件をどう結びつけるのか。二重構造の謎が提示される。

2025日本ヒポクラテスシリーズ

ヒポクラテスの困惑

中山七里

社会派警察小説法医学解剖コロナ禍

◆ 事件

2020年4月、感染症が猛威を振るう中、オンライン通販企業の創設者である富豪・萱場啓一郎が新型コロナ感染症で急逝する。大金を投じて秘密裏に未承認ワクチンを入手していた伯父がコロナで死ぬはずがないと姪が訴え、埼玉県警の古手川は浦和医大法医学教室に解剖を依頼する。

◆ 謎

未承認ワクチンまで接種していた富豪は、本当にコロナで死んだのか。遺体に残された痕跡は何を物語るのか。偏屈な天才・光崎教授の法医学の眼が、感染禍の混乱に紛れた不自然な死の正体と、富豪に近づいた人間たちの思惑を少しずつ暴いていく。

2025日本殺人鬼フジコシリーズ

フジコの十ヶ条

真梨幸子

イヤミスサスペンスピカレスク都市伝説

◆ 事件

「フジコの十ヶ条に従えば誰でも成功できる」――処刑されたはずの伝説の殺人鬼フジコの教えを巡る噂がネットに流れ、それを実践したかのような不審な死が囁かれる。かつてフジコ事件を追った出版社勤務の米井富士子は、怪しげな女・日向玲奈の周辺を調べ始める。

◆ 謎

「邪魔な人間は消せ」「人を操れ」と続く十ヶ条のうち、伏せられた第十条とは何か。どん底からフジコのメモで成り上がったと語る「ご褒美マダム」ルナや、無戸籍の女・日向玲奈とフジコの関係は何か。都市伝説と陰謀論が交錯する中、富士子は真相に近づいていく。

2025日本

ブレイクショットの軌跡

逢坂冬馬

社会派サスペンス群像劇直木賞候補

◆ 事件

自動車工場の期間工・本田昴が、SUV「ブレイクショット」の車体内部にボルトを落とすミスを目撃しながら言い出せない場面から物語は始まる。以後、一台の車の所有者が移り変わるたび、投資ファンド、不動産、SNS、少年サッカー、アフリカの紛争地まで、人々の人生が連鎖していく。

◆ 謎

冒頭のボルトの行方は、車を取り巻く人々に降りかかる不幸とどう関わっているのか。一見無関係な各章の登場人物たちの運命は、どこで撞球のように衝突し、繋がっていくのか。張り巡らされた伏線が終盤に向けて一斉に回収されていく構成が読みどころとなる。

2025日本あしや超常現象調査

ポルターガイストの囚人

上條一輝

特殊設定サスペンスオカルトミステリシリーズ第2作

◆ 事件

落ちぶれた俳優・東城彰吾が戻った古い一軒家で、物が勝手に動くポルターガイスト現象が頻発する。〈あしや超常現象調査〉の芦屋晴子と越野草太は、世界中のポルターガイスト事例から法則性を導き出し、独自の対策で怪異に挑むが、やがて事態は依頼人の失踪へと急展開する。

◆ 謎

現象はなぜこの家で起き、何を対象に発生するのか。事例分析の果てに見えてくる怪異の「好み」とは何か。怪談の装いで始まった調査は、中盤から犯人と真相をめぐるミステリへと転調し、スケールを増しながら東京スカイツリーでの決戦へと雪崩れ込んでいく。

2025日本マスカレード

マスカレード・ライフ

東野圭吾

警察小説サスペンスホテルシリーズ第5作

◆ 事件

一流ホテル「コルテシア東京」で推理小説新人賞の選考会が開かれる中、ある死体遺棄事件の重要参考人が候補者として会場に現れるとの情報が入る。警視庁を辞めてホテル保安課長となった新田浩介が、極秘捜査と客の安全の狭間で動く。

◆ 謎

発見された遺体は誰が、なぜ遺棄したのか。重要参考人はなぜ姿を消したのか。「仮面」を被ってホテルに集う客たちの中から真実を見抜けるのか。新田の父の来訪や、高校時代の窃盗事件の真相といった過去の謎も絡み合う。

2025日本

みんなで決めた真実

似鳥鶏

特殊設定社会派名探偵メディア批判推理対決

◆ 事件

裁判の生中継が国民的エンターテインメントとなり、「名探偵」がテレビで犯人を指名する社会。法学部生の主人公が祖父と裁判中継を観ていると、人気の名探偵が鮮やかな推理で被告人を有罪と断じる。だが、伝説の探偵だった祖父は、その推理は間違っていると言い出す。

◆ 謎

視聴者全員が納得した名探偵の推理の、どこが間違っているのか。本当に被告人は無実なのか。「みんながそう思っているから」「テレビがそう言っているから」で真実が決まっていく社会で、老探偵は法廷でかつての弟子である名探偵との推理対決に挑むことになる。

2025日本

ライアーハウスの殺人

織守きょうや

本格サスペンス館もの孤島

◆ 事件

莫大な遺産を手にした令嬢・彩莉は、かつて自分の小説を馬鹿にした相手への完全犯罪のためだけに、孤島にギミック付きの洋館・来鴉館を建てて標的を招く。だが自ら手を下す計画は失敗し、館では彼女の与り知らぬ殺人が起きてしまう。

◆ 謎

殺人を計画していた当人が実行していないのに、なぜ館に死体が現れたのか。嘘つきだらけの来鴉館で誰が誰を欺いているのか。複数視点の語りが交錯し、島の事件を追う刑事の動きも絡んで、事件の全貌はますます見えなくなっていく。

2025日本

ルーカスのいうとおり

阿津川辰海

特殊設定本格サスペンスホラーぬいぐるみ成長譚

◆ 事件

母を亡くした内気な小学五年生のタケシは、河原で母が編集した児童書のキャラクター「ルーカス」のぬいぐるみを拾う。以来、捨てたはずのぬいぐるみが戻り、迷惑な隣人が転落し、嫌いな教師が喉を切られて殺されるなど異変が続発する。

◆ 謎

一連の事件は本当にぬいぐるみの仕業なのか。ルーカスに憑いているものの正体は何者なのか。「憑いた魂の名を言い当てれば力が弱まる」という条件のもと、人形ホラーの恐怖と、犯人当てならぬ「魂当て」の推理が交差する。

2025日本七海学園シリーズ

わたしがいなくなった世界に

七河迦南

本格日常の謎連作短編児童養護施設

◆ 事件

児童養護施設・七海学園に保育士の北沢春菜が復帰する。学園の周辺では、少女の忽然たる消失、「未来の殺人」の目撃、舞台上からの人間消失、駅伝走者の消失と不可解な出来事が続発し、さらに「あなたは、あの人を、殺した」と殺人を告発する宛名のないメッセージが現れる。

◆ 謎

一見無関係な「消失」の数々はなぜ学園の周りで続くのか。宛名のない告発は誰が誰に向けたもので、本当に殺人はあったのか。穏やかな日常の謎が積み重なるほどに、語られる世界のどこかに大きな見落としが潜んでいる気配が濃くなっていく。

2025日本御手洗潔シリーズ

伊根の龍神

島田荘司

本格社会派UMA国際謀略

◆ 事件

京都・伊根湾に「龍神」らしき巨大な何かが現れたという噂が広がる。UMA好きの女子大生・藤浪麗羅に誘われ、70歳になった石岡和己はその正体を探る旅に出ようとするが、なぜか御手洗潔は「大怪我するよ」と強く制止する。やがて噂の周辺に重大な事件の影が見え始める。

◆ 謎

伊根湾に出没する「龍神」の正体は何なのか。なぜ御手洗は石岡を行かせまいとしたのか。土地の人々が口を閉ざす過去には何があるのか。怪異譚として始まった物語は、やがて現実に起きた重大事件を下敷きにした昏い真実へと接続していく。

2025日本

一次元の挿し木

松下龍之介

本格サスペンスこのミス大賞文庫グランプリ遺伝学ドラマ化

◆ 事件

大学院で遺伝学を学ぶ悠が、ヒマラヤ山中で発掘された約二百年前の人骨をDNA鑑定にかけると、四年前に失踪した妹・紫陽のものと一致するという不可解な結果が出る。相談しようとした矢先、指導教授の石見崎が何者かに殺害され、悠は鑑定結果の謎と事件に巻き込まれていく。

◆ 謎

二百年前の人骨のDNAが、現代に生きていたはずの妹と一致するのはなぜなのか。妹の失踪と教授殺害はどう繋がるのか。遺伝学の知識を軸に科学と幻想が交錯する謎が展開し、タイトルと装画に込められた意味が最後に立ち上がる。デビュー作ながら一気読み必至と評された。

2025日本

嘘と隣人

芦沢央

イヤミス社会派日常の謎短編集連作直木賞候補

◆ 事件

定年退職した元刑事・平良正太郎の平穏な日常に、ストーカー化した元夫、マタハラと痴漢冤罪、技能実習生の死、SNSでの誹謗中傷と脅迫など、隣人たちの抱える事件が次々と入り込んでくる。全五編からなる連作短編集。

◆ 謎

表題作では、知人女性がSNSで執拗な脅迫めいたアンチコメントを受けていると相談が持ち込まれる。アンチの正体は誰で、なぜ彼女だけが狙われるのか。元刑事の観察眼が、日常に潜む嘘とそこはかとない悪意の正体を探っていく。

2025日本

家族

葉真中顕

社会派サスペンス実話モチーフ直木賞候補尼崎連続変死事件

◆ 事件

2011年11月、裸の女性が交番に駆け込み、ある「事件」が発覚する。夜戸瑠璃子という女が暴力と洗脳で築き上げた「疑似家族」では、支配の果てに十三人もの変死者が出ていた。実在の連続変死事件をモチーフにした犯罪小説。

◆ 謎

なぜ普通の家族が次々と瑠璃子の「家族」に呑み込まれ、誰一人逃げ出せなかったのか。金と暴力で人が人を支配する構造はどのように完成したのか。時系列を解体した構成によって、事件の全体像が少しずつ姿を現していく。

2025日本

歌舞伎町ララバイ

染井為人

サスペンス社会派復讐歌舞伎町トー横

◆ 事件

中学卒業と同時に親元を飛び出した15歳の七瀬は歌舞伎町に流れ着き、トー横の少女たちを食い物にする大人たちの世界に足を踏み入れる。唯一の友人をオーバードーズで亡くした頃、彼女は炊き出しボランティア団体のある秘密を知る。

◆ 謎

善意の顔をした炊き出しボランティア団体が抱える秘密とは何か。少女たちを搾取する歌舞伎町の構造の中で、無力なはずの15歳の七瀬がどう生き延びるのか、そして自分を踏みにじった大人たちとどう対峙していくのかが物語を牽引する。

2025日本

楽園の楽園

伊坂幸太郎

特殊設定サスペンス近未来AIデビュー25周年

◆ 事件

大規模停電、強毒性ウイルスの蔓延、飛行機墜落事故。立て続けの災厄は人工知能「天軸」の暴走が原因とされる近未来。選ばれた五十九彦、三瑚嬢、蝶八隗の三人が、行方不明になった〈先生〉を捜すため、遺された絵画「楽園」を手掛かりに旅に出る。

◆ 謎

災厄の本当の原因は何なのか。暴走を止めて姿を消した〈先生〉はどこへ行ったのか。絵画「楽園」には何が描かれ、何を示しているのか。AIに支配されたかにみえる世界の裏で動く、より大きな存在の気配が物語を貫く謎となる。

2025日本

汽水域

岩井圭也

社会派サスペンス無差別殺傷ジャーナリズム

◆ 事件

東京・亀戸で複数の死傷者を出す無差別殺傷事件が発生し、逮捕された深瀬は「死刑になりたかった」と供述する。週刊誌記者の安田賢太郎は連載のため深瀬の関係者を訪ね歩き、その半生を辿るうちに不思議と共感を覚え始める。やがて彼の記事をきっかけに模倣犯が現れる。

◆ 謎

深瀬はなぜ無差別殺傷に至ったのか。「死刑になりたい」という供述は本心なのか。章の合間に挿入される「幕間劇」は誰の過去を描いているのか。記者が加害者の人生を報じることの意味と、事件の本当の動機が何かが、物語を貫く謎として問われていく。

2025日本

暁星

湊かなえ

社会派サスペンス宗教二世手記形式

◆ 事件

高校の文化祭の舞台上で、作家であり文部科学大臣の清水義之が刺殺される。逮捕された青年・永瀬暁は、家族を壊した新興宗教「愛光教会」への恨みを綴った手記を週刊誌で発表し始め、世間は宗教二世の境遇を巡って揺れる。

◆ 謎

暁はなぜ教団ではなく清水を標的にしたのか。手記で語られる動機は果たして真実なのか。前半に置かれた加害者の手記と、後半に置かれた作家による小説という二部構成が、事件の本当の構図と「書くこと」の意味を問いかける。

2025日本愚か者

愚か者の疾走

西尾潤

社会派サスペンス闇バイト半グレ続編

◆ 事件

半グレ組織から奪った大金を「この金で生まれ変われ」とマモルに託し、タクヤは姿を消した。三年後、真鶴で静かに暮らすマモルのもとに「俺はもう限界かもしれない」というタクヤ名義のメールが届く。生きていたのか、それとも追っ手が仕掛けた罠なのか。

◆ 謎

メールの送り主は本当にタクヤなのか、それとも組織の追っ手の罠なのか。仲道・マモル・梶谷の三人の視点から、過去を捨てて生き直そうとする者たちに忍び寄る影の正体と、奪った金をめぐる因縁の行方が描かれていく。

2025日本

警察官の心臓

増田俊也

警察小説重厚長編

◆ 事件

灼熱の愛知県岡崎市の沼から、47か所もの刺創がある高齢女性の遺体が引き上げられ、市民を震撼させる。被害者は東大卒の元大手局アナウンサーながら、晩年は極貧生活を送り、現役の風俗嬢でもあった。県警の刑事たちが、異様な経歴の被害者の人生を遡る執念の捜査を開始する。

◆ 謎

華やかな世界にいた被害者はなぜ転落し、誰に、なぜここまで残忍に殺されねばならなかったのか。47か所の刺創に込められた憎悪の正体とは何か。捜査会議や現場検証、検案を緻密に描く筆致で、刑事たちの泥臭い人間模様とともに進む重厚な警察小説。

2025日本

午前零時の評議室

衣刀信吾

法廷サスペンスデスゲーム裁判員制度新人賞受賞作

◆ 事件

大学生の実帆ら七人が、裁判員選任の事前オリエンテーションと称して寂れたビル四階の評議室に集められる。裁判官を名乗る元邑太朗は殺人事件の評議を命じ、求める結論に達しなければ午前零時に部屋ごと爆破すると七人に告げる。

◆ 謎

元邑は何者で、なぜ命懸けの評議を強いるのか。一方、弁護士の羽水は、被害者の靴下が片方だけ持ち去られていたという不可解な点から検察の描く事件の構図に疑問を抱き、洗い直しを始める。二つの線はどこで交わるのかが焦点となる。

2025日本

口外禁止

下村敦史

サスペンス社会派AI詐欺

◆ 事件

冴えない内向的な大学生・金崎のもとに「あなたの人生をプロデュースする」という謎のメールが届く。未来予測すら可能と称する超AI「ザーム」の指示に従ううち、憧れの女性・帆乃香と知り合うなど生活は急速に好転する。だがある日、彼女が盗撮事件に巻き込まれる。

◆ 謎

サッカーW杯の結果まで的中させる「AIザーム」とは何者なのか。なぜ見返りもなく一介の大学生の人生を導いてくれるのか。指示に従うほど深みにはまっていく主人公の周囲で起こる不可解な事件の意味と、メールの送り主の正体と目的が謎の中心となる。

2025日本

今日未明

辻堂ゆめ

イヤミス社会派短編集連作短編報道

◆ 事件

「自宅で血を流した男性死亡、別居の息子を逮捕」「マンション女児転落死、母親の交際相手を逮捕」――新聞の片隅に載る小さな事件記事。本書は5つの報道の裏側で、加害者や被害者とされた人々とその家族に実際は何が起きていたのかを描く連作集である。

◆ 謎

数行のニュースからは「親殺しの息子」「連れ子を殺した男」としか見えない事件の裏に、どんな経緯と事情があったのか。報道された筋書きと実際の出来事はどこまで一致しているのか。そして独立して見える5つの事件を貫くものは何かが読みどころとなる。

2025日本

殺し屋の営業術

野宮有

サスペンスユーモア江戸川乱歩賞クライムエンタメ

◆ 事件

あらゆる業界でトップセールスを叩き出してきた営業マン・鳥井一樹は、営業先で偶然殺人現場に遭遇し、殺し屋たちに拘束されてしまう。命乞いの末、鳥井は「自分を営業マンとして雇え」と自らを売り込み、殺しの依頼を取ってくる営業として期限付きの巨額ノルマに挑むことになる。

◆ 謎

殺しの世界で営業術は通用するのか。ライバル組織の凄腕エージェントによる妨害、依頼主たちの思惑、警察の影が交錯するなか、鳥井は武力ではなく知恵と話術だけでノルマを達成し、生き延びることができるのか。乱歩賞史上屈指の異色クライムエンタメ。

2025日本

殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス

五条紀夫

ユーモア本格パロディ連作走れメロス

◆ 事件

妹の婚礼前夜に新郎の父が殺される。現場はメロスと妹しか開けられない羊小屋の密室だった。身代わりとなった親友セリヌンティウスを救うため三日で首都を往復せねばならないメロスは、道中でも山賊の死体や川の溺死体に次々遭遇する。

◆ 謎

一刻も早く走らなければならないメロスが、なぜか行く先々で名探偵として推理する羽目になる。羊小屋の密室の謎、山賊殺しの真犯人、心中死体の正体、そして首都シラクスで待ち受ける衝撃の真実とは。原作をなぞりながら謎が連鎖する。

2025日本

死んだら永遠に休めます

遠坂八重

イヤミスサスペンスお仕事小説パワハラ職場

◆ 事件

大手企業の総務経理統括本部で働く二十八歳の青瀬は、パワハラ上司・前川の罵倒と終わらない仕事に疲弊しきっていた。突然前川が失踪し平穏が訪れたかに見えた矢先、前川から「私は殺されました」というメールが全社員に届き、容疑者として部署全員の名が記されていた。

◆ 謎

前川は本当に殺されたのか、死んだはずの人間からのメールは誰が送ったのか。名指しされた部署のメンバーの中に犯人がいるのか。被害者意識を共有していたはずの同僚たちの言動に少しずつ違和感が滲み、職場小説の風景が不穏に歪んでいく。

2025日本魞沢泉シリーズ

失われた貌

櫻田智也

警察小説本格年末ランキング三冠本屋大賞ノミネート

◆ 事件

山中の谷底で、顔を潰され歯を抜かれ、両手首まで切断された男性の遺体が発見される。身元の特定を執拗に拒む死体を前に捜査が難航するなか、一人の少年が「遺体は十年前に失踪した自分の父かもしれない」と警察を訪れ、刑事たちが過去と現在を結ぶ捜査を始める。

◆ 謎

遺体はなぜここまで徹底して身元を隠されたのか、被害者はいったい誰なのか。十年前の失踪事件と現在の死体はどう繋がるのか。少年の父をめぐる家族の記憶と証言の食い違いが事件の輪郭を歪め、捜査線上の人々は皆、何かを隠しているように見える。

2025日本

熟柿

佐藤正午

サスペンス人間ドラマ中央公論文芸賞本屋大賞2位

◆ 事件

激しい雨の夜、眠る夫を乗せた車で老婆を撥ねたかおりは、轢き逃げの罪に問われ、服役中に息子・拓を出産する。出所後、息子会いたさのあまり園児連れ去り事件を起こした彼女は息子との接見を禁じられ、追われるように西へ西へと各地を流れて生きていくことになる。

◆ 謎

かおりは息子と再会できるのか。事故の夜に何があり、彼女は何を抱えて十数年を生きてきたのか。流転の人生を縦糸に、母と子の断たれた絆の行方と「熟柿」という題の意味が、終盤に向けて静かに収束していく。ミステリと人間ドラマの間に立つ異色の話題作。

2025日本出版禁止シリーズ

出版禁止 女優 真里亜

長江俊和

サスペンスイヤミスモキュメンタリールポルタージュ形式

◆ 事件

「ある事情」により世に出せなくなったルポルタージュ三編が読者に提示される。追われるのは無名の女優・真里亜。オーディションに挑み続けた彼女は、実際の殺人事件を題材にした映画の主演の座を掴むが、周辺では未解決殺人や俳優の自殺、呪われた脚本の噂が渦巻く。

◆ 謎

取材者によって「清純」とも「悪女」とも正反対に語られる真里亜とは、いったい何者なのか。なぜこのルポは出版禁止となったのか。映画の題材となった事件や、古い忌み唄・悪女伝承と真里亜の足取りはどう繋がるのか。一つの謎が次々と増殖していく。

2025日本

小説8番出口

川村元気

特殊設定サスペンスゲーム原作映画化無限ループ

◆ 事件

地下鉄の通路を歩いていた男は、いつしか同じ通路が無限に繰り返される空間に閉じ込められる。「8番出口から出ること」「異変があれば引き返すこと」という掲示に従い、男は異変を探しながら歩き続ける。ゲーム『8番出口』を原案とする長編。

◆ 謎

通路に現れる異変は、なぜ男の現在や過去に関わる光景ばかりなのか。この空間は何のために存在し、男はなぜ囚われたのか。同じ通路を歩く他者や少年の存在も含め、脱出の条件とこの場所の意味が謎として提示される。

2025日本教場シリーズ

新・教場2

長岡弘樹

警察小説短編集連作短編警察学校

◆ 事件

警察学校を舞台にした全6話の連作短編集。風間公親を襲い右目を奪った「千枚通しの男」十崎波瑠が、風間道場門下の刑事たちにより逮捕された。学校長の発案で門下生の刑事6人が月に一度「風間教場」で特別講義を行うことになり、第95期の学生たちの間で事件が起こる。

◆ 謎

同期入校した二人の知られざる関係、鏡の前から離れられない学生、連帯責任の外出禁止が生んだ遺恨、同期への借金、研究発表を控えた優等生二人の歪み、総代の座を巡る争い――各話で学生たちが隠している秘密と、教場で起こる小さな異変の意味が謎として提示される。

2025日本

森栄莞爾と十二人の父を知らない子供たち

逸木裕

社会派サスペンス精子提供家族ワンシチュエーション

◆ 事件

カリスマ経営者・森栄莞爾が精子提供で百人以上の子をもうけていた事実が明らかになる。提供で生まれた子のうち十二人は「莞爾を父と認める声明を全会一致で出せば一千万円を支払う」という奇妙な提案を受け、一堂に会して議論を始める。

◆ 謎

なぜ莞爾は声明に、しかも全会一致にこだわるのか。父と信じた男と血が繋がっていなかった主人公・健太をはじめ、年齢も境遇も異なる十二人の議論からは、善意の提供者とされる莞爾の語られない目的と出生をめぐる違和感が浮かび上がる。

2025日本

神の光

北山猛邦

本格短編集消失テーマ

◆ 事件

砂漠の街のカジノで大金を手にした男が盗んだバイクで逃走した翌朝、街そのものが一夜にして跡形もなく消え失せていた——表題作をはじめ、家や町など巨大な建造物の「消失」を共通テーマに、戦争小説からSF、怪奇小説まで多彩な装いの五編を収めた短編集。

◆ 謎

一夜で街が丸ごと消えるなど、人間業とは思えない大規模な消失はいかにして可能だったのか。各編で異なる時代と舞台のもと、消えたものの行方と消失の方法、その背後の人間の動機が問われる。表題作は日本推理作家協会賞短編部門の候補にもなった。

2025日本世界でいちばん透きとおった物語

世界でいちばん透きとおった物語2

杉井光

本格青春作中作ビブリオミステリ紙書籍限定

◆ 事件

紙の本ならではの仕掛けで話題を呼んだ前作に続き、新人作家・藤坂燈真と編集者・深町霧子が再び本にまつわる謎に挑む。コンビ推理作家・翠川双輔のプロット担当だった菊谷博和が急死し、雑誌連載中のミステリ『殺導線の少女』が解決篇を欠いたまま三話で途絶してしまう。

◆ 謎

未完に終わった作中作『殺導線の少女』は、どんな結末を迎えるはずだったのか。残された三話分の原稿から解決篇を推理することはできるのか。そして菊谷の死の周辺に漂う違和感や、原稿に残された不自然な記述は何を意味するのかが謎となる。

2025日本赤ずきん、死体と出会う。シリーズ

赤ずきん、イソップ童話で死体と出会う。

青柳碧人

特殊設定ユーモア本格短編集童話ミステリ

◆ 事件

魔人に見知らぬ国へ置き去りにされた赤ずきんが、イソップ童話の世界グリースを旅する。うさぎとかめの競走、アリの巣、オオカミ少年の村と、立ち寄る先々で死体や杜撰な犯罪計画による殺人事件に遭遇し、持ち前の推理力で謎を解く。

◆ 謎

教訓で知られる童話の住人たちの間で、なぜ次々と事件が起きるのか。各話の犯人探しに加え、すべてが凍りついた港町ピリーウスの異変は何なのか、旅の途中で語られる「教訓」の数々が何を意味するのか、連作全体を貫く仕掛けが問われる。

2025日本

千年のフーダニット

麻根重次

特殊設定本格SFミステリコールドスリープ

◆ 事件

若くして妻を喪い失意に沈むクランは、人類初の冷凍睡眠実験に参加する。事情を抱えた男女七人が装置テグミネで眠りにつくが、千年後に目覚めた六人は、百五十三年前に停止した一台の中で背にナイフが立つミイラ化した仲間を発見する。

◆ 謎

全員が眠っていたはずの千年の間に、誰がいつどうやって仲間を殺したのか。施設を調べるうちに顔のない死体まで見つかり、謎は深まる。閉ざされた施設で千年という時間を挟んで成立した殺人、その犯人当てと世界の真相が同時に問われる。

2025日本

探偵小石は恋しない

森バジル

本格ユーモア連作構造本屋大賞ノミネート

◆ 事件

小石探偵事務所の代表でミステリオタクの小石は、名探偵への憧れとは裏腹に、舞い込む依頼の9割9分が不倫・浮気調査。それでも色恋調査が「病的に得意」な小石は、相談員の蓮杖とともに案件をこなしていく。だがありふれた調査の裏で、思いもよらない事件が静かに進行していた。

◆ 謎

女子高生の彼氏調査、事実婚カップルの相互調査、アイドル失踪——独立した依頼に見えた各話の謎は、なぜ互いに絡み合っていくのか。そして小石が恋を遠ざける理由と、その過去にある大事件とは。伏線が回収され、回収後にさらに覆る二段構えの構成が話題を呼んだ。

2025日本

町内会死者蘇生事件

五条紀夫

特殊設定ユーモア逆ミステリメタミステリ

◆ 事件

信津町を牛耳る悪辣非道な住職兼町内会長・権造を、幼馴染の健康・昇太・由佳里の三人が殺害する。酒に酔わせて風呂に沈める計画は成功したはずだったのに、翌朝のラジオ体操には、ぴんぴんした権造が何事もなかったように現れる。

◆ 謎

確かに殺したはずの男はなぜ生き返ったのか。探偵が犯人を捜すのではなく、殺人犯の三人が「蘇生犯」を捜すという逆転の構図で調査が始まる。町内会がひた隠しにする秘密や、健康自身の出生にまつわる謎も次第に絡み合っていく。

2025日本

逃亡者は北へ向かう

柚月裕子

警察小説サスペンス社会派東日本大震災逃亡劇直木賞候補

◆ 事件

東日本大震災の数日後、混乱の続く福島で二つの殺人事件が起きる。罪を犯した青年・真柴亮は死を覚悟しながら被災地を北へと逃亡し、自らの家族も被災した刑事が彼を追う。逃げる者と追う者の視点が交錯する逃亡劇。

◆ 謎

亮はなぜ人を殺め、何を求めて北へと向かうのか。震災で機能不全に陥った司法と警察は、逃亡者にどう向き合うのか。逃亡の途中で出会った幼い少年・直人との道行きが、彼の逃亡の意味そのものを少しずつ変えていく。

2025日本

謎の香りはパン屋から

土屋うさぎ

日常の謎ユーモア短編集このミス大賞コージーミステリ

◆ 事件

大阪・豊中のパン屋「ノスティモ」でアルバイトをする大学生が主人公の連作短編集。焦げたクロワッサン、傷ついたフランスパン、お守りにこぼれたコーヒー——店と客たちの周りで起こるささやかな「変なこと」が、香ばしいパンの描写とともに次々と持ち込まれていく。

◆ 謎

親友はなぜライブビューイングを直前でキャンセルしたのか。配達したフランスパンに付いた傷の正体は何か。幼馴染はなぜ大事なお守りを汚してしまったのか——誰も死なず、誰も不幸にならない日常の謎を、パンを軸にした観察と推理で解きほぐしていく五編。

2025日本

百年の時効

伏尾美紀

警察小説社会派三世代未解決事件

◆ 事件

1974年、東京・佃島で一家が惨殺される事件が発生するが、未解決のまま時効を迎える。50年後、あるアパートで見つかった遺体をきっかけに、止まっていた事件の針が再び動き出す。昭和・平成・令和の三つの時代で、四人の刑事が執念の捜査をバトンのように引き継いでいく。

◆ 謎

なぜ一家は皆殺しにされたのか、犯人はどこへ消えたのか。時効が成立した事件の真相に令和の刑事はどう辿り着くのか。満洲からの引揚げ、高度経済成長、カルト教団——昭和史の闇を貫いて、半世紀にわたって散らばった点と線が結ばれていく。

2025日本

不等辺五角形

貫井徳郎

サスペンスイヤミス多視点別荘幼馴染

◆ 事件

マレーシアのインターナショナルスクール以来、二十年来の付き合いとなる男女五人が避暑地・葉山の別荘に集まる。深夜、雛乃が頭から血を流した死体となって発見され、直後に梨愛が「私が殺したの」と告げて警察に連行されてしまう。

◆ 謎

自白した梨愛は本当に犯人なのか。弁護士が残された三人から証言を集めるが、同じ出来事を語っているはずなのに当事者たちの思惑は三者三様に食い違い、証言を重ねるごとに五人の人物像と関係性が目まぐるしく変貌していく。

2025日本

変な地図

雨穴

サスペンス本格考察系図解ミステリ家系の秘密

◆ 事件

建築学を学ぶ大学生・栗原文宣は、会ったことのない祖母・知嘉子が死の間際まで握りしめていた一枚の古地図の存在を知る。地図には山に棲む七体の化け物と、そこへ向かう女の姿が描かれていた。栗原は地図の意味と祖母の死の理由を調べ始める。

◆ 謎

七体の妖怪は何を意味するのか。地図はいつ、誰が、何のために描いたのか。同じ謎を調べていた母が急死した過去も絡み、地図の指す土地・河蒼湖集落の歴史と一族の秘密が、図形と記録の読み解きによって少しずつ浮かび上がる。

2025日本

抹殺ゴスゴッズ

飛鳥部勝則

本格怪人もの復帰作

◆ 事件

高校生の詩郎は友人たちと空想上の悪神「ゴスゴッズ」を創造して遊んでいたが、やがて怪人と怪神が入り乱れる混沌の中で殺人事件が起こる。物語は平成と令和の二つの時代の事件が並行して語られ、名画をめぐる因縁と親子の繋がりが650ページの大作に織り込まれていく。

◆ 謎

平成と令和、一見無関係に進む二つの事件はどこで繋がるのか。空想されたはずの怪神コドクオは、なぜ現実を侵食するように見えるのか。神と芸術をめぐる衒学に彩られた怪人ミステリの果てに、二つの時代を貫く真相が待つ。長い沈黙を破った著者の本格復帰作。

2025日本佐々木事務所シリーズ

無限の回廊

芦花公園

特殊設定サスペンスホラーミステリ文庫オリジナルシリーズ第4作

◆ 事件

「子供をさずける神」に参拝して以来、奇怪な怪異に苦しむ女性が心霊案件専門の佐々木事務所を訪れる。所長の佐々木るみは自分の手に負えない案件と判断し、最強の拝み屋・物部斉清に祓いを依頼するが、祓いは成功したものの物部は命と引き換えに世を去ってしまう。

◆ 謎

物部の死後もるみの悪夢は終わらず、現実が静かに軋み始める。身に覚えのない交際や妊娠、あり得たはずのない家族との対峙など、章が変わるごとに世界の様相が食い違っていく。るみを苛む怪異の正体は何か、この出口の見えない回廊はどこへ続くのか。

2025日本

名探偵再び

潮谷験

本格青春連作短編短編集学園もの

◆ 事件

私立雷辺女学園に入学した時夜翔の大叔母・時夜遊は、かつて学園の難事件を次々と解決した名探偵だったが、30年前に学園の悪を裏で操る理事長Mと対決し、共に雷辺の滝へ落ちて17歳で世を去った。「名探偵の子孫」として期待される翔の周囲で、新たな事件が起こり始める。

◆ 謎

推理の才を持たない翔は、いかにして名探偵の役割を演じ、事件を解決していくのか。密室や館といった本格ミステリの道具立てが配された連作の果てに、30年前の名探偵と理事長Mの対決の真実、そして翔の「推理」を支える秘密の正体が問われていく。

2025日本

目には目を

新川帆立

社会派サスペンス少年犯罪復讐

◆ 事件

重大事件を起こした6人の少年たちが少年院で出会い、更生して社会に戻る。だが少年Aの居場所が何者かから遺族に伝えられ、娘を殺された母親がAを殺害する「目には目を事件」が発生する。ルポライターの仮谷苑子が、元少年たちへの取材を通じて事件の核心に迫っていく。

◆ 謎

Aの居場所を母親に流した「密告者」は6人のうち誰なのか、その目的は何だったのか。少年犯罪の加害者に更生はあり得るのか、人の命を奪った者は何によって償うのか。復讐の連鎖の果てに、密告者の正体と、取材する側の人間が抱える秘密までもが問われていく。

2025日本矢吹駆シリーズ

夜と霧の誘拐

笠井潔

本格シリーズ完結篇思想ミステリ

◆ 事件

1978年秋のパリ。矢吹駆とナディアが招かれたダッソー家の晩餐会の夜、運転手の娘サラが一人娘ソフィーと間違えられて誘拐され、身代金の運搬役にナディアが指名される。同じ夜、カトリック系名門校の聖ジュヌヴィエーヴ学院で女性学院長の射殺体が発見される。

◆ 謎

誘拐は本当に人違いだったのか、誘拐と学院長射殺という二つの事件はどう繋がるのか。アイヒマン裁判の傍聴記で知られるユダヤ人女性哲学者との思想的対決を縦糸に、矢吹駆が事件の「本質」を直観する。シリーズ完結篇として半世紀の物語が収束する。

2025日本

有罪、とAIは告げた

中山七里

法廷社会派AIリーガルミステリドラマ化

◆ 事件

日中技術協力の一環として、東京地裁に「AI裁判官」〈法神〉が試験導入される。検証を担う新人裁判官・高遠寺円のもとに、18歳の少年が父親を刺殺したとされる事件が割り振られ、公判前のシミュレーションで〈法神〉は「死刑」という異様に重い判定を下す。

◆ 謎

量刑相場から大きく外れた「死刑」判定はなぜ出たのか。AIの判断過程はブラックボックスのまま裁判は進んでいく。そもそも少年は本当に父親を殺したのか。証拠と自白に潜む違和感を前に、人間はAIの判定を覆せるのか、裁きの責任は誰が取るのかが問われる。

2025日本

羊殺しの巫女たち

杉井光

特殊設定サスペンスホラーミステリ因習村二度読み

◆ 事件

山に囲まれた早蕨部村では、未年にだけ「おひつじ様」を迎える祭りが行われ、12歳の少女6人が巫女に選ばれる。村では奇妙な事故死が相次ぎ、未年に男児は一人も生まれない。12年後、24歳になった巫女たちがかつての約束を果たすため村に集うと、再び惨事が起こる。

◆ 謎

巫女を務めたはずの少女たちは、誰一人として「おひつじ様」の姿を思い出せない。村に繁栄と災厄をもたらすおひつじ様とは何者なのか。なぜ未年に男児が生まれず、事故死が続くのか。1991年と2003年、二つの時間軸で語られる祭りの記憶の食い違いが謎を深める。

2025日本

踊りつかれて

塩田武士

社会派誹謗中傷芸能界直木賞候補

◆ 事件

首相暗殺テロが相次いだ時代、ネットのブログに突如【宣戦布告】が書き込まれ、SNSで誹謗中傷を繰り返す人々の氏名・住所・職場などの個人情報が晒される。静かに落とされたその爆弾は次第に威力を増し、83人の人生を壊していく。京都の弁護士事務所で働く久代奏が事件に関わる。

◆ 謎

宣戦布告の主は誰で、なぜ中傷者への私刑とも言える暴露に踏み切ったのか。不倫報道と中傷の末に自死した人気芸人、週刊誌のデタラメに踊らされて消えた伝説の歌姫——言葉が暴力と化す時代の構図の中で、犯人の動機と80年代芸能界の記憶が交差していく。

2025日本

遥かなる秋のエイティーン

三上幸四郎

特殊設定青春タイムリープ恋愛神隠し

◆ 事件

中学三年の秋、歌舞伎町のハロウィンの雑踏で遥佳は少年・夕真に助けられるが、彼は目の前から忽然と姿を消す。一年後の秋、再び現れた夕真は、十年前から「秋」だけを繰り返すタイムリープを続けていると明かす。秋にしか会えない少年との恋が始まる。

◆ 謎

なぜ夕真は秋だけのタイムリープを繰り返すのか、そこから抜け出す方法はあるのか。彼の消失は古くから伝わる「神隠し」と関係があるのではないか。限られた逢瀬の時間の中で、遥佳たちはループの正体と止める手立てを探っていくことになる。

2025日本

六つ首村

折原一

新本格サスペンス横溝正史オマージュ因習の村連続殺人

◆ 事件

フリーライターの克哉は、三十年前に連続殺人が起きた六つ首村の旧家・白兼家に後継者候補として招かれる。彼自身、その事件の生き残りだった。村を訪れた克哉が白兼家の秘密を探りはじめる一方で、何者かによる恐るべき殺人計画が静かに進行していく。

◆ 謎

三十年前の連続殺人では何が起き、生き残った克哉と白兼家はどう繋がるのか。『八つ墓村』を思わせる因習の村を舞台に、過去の事件の真相と村に漂う不穏な気配の正体が問われ、密室や人間の瞬間移動めいた不可解な状況が次々と立ちはだかる。

2025日本

刹那の夏

七河迦南

本格青春短編集災害回想技巧派

◆ 事件

災害で甚大な被害を受けた土地をボランティアで訪れた女性二人が、宿の娘から伯父の遺品であるミニチュアの文机と本が入ったボトルを見せられる。伯父が少年時代の夏を綴ったノートを手がかりに、遠い夏の日に何が起きたのかを探り始める。表題作ほか全五編を収録。

◆ 謎

ボトルの中の本の「開けない頁」に記されているはずの言葉とは何か、ノートに綴られた少年時代の追憶には何が隠されているのか。併録各編でも、児童虐待が疑われる家庭の違和感や小学一年生の日記の秘密など、日常に潜む謎と技巧的な仕掛けが読者を待ち受ける。

2025日本

嗤う被告人

前川裕

法廷サスペンス実話モデルドン・ファン事件毒殺

◆ 事件

「銚子のドン・ファン」の異名をもつ好色な老資産家が覚醒剤の摂取によって死亡し、五十五歳年下の若妻が殺人罪で起訴される。接見を重ねる新人女性弁護士は、被告の不可解な言動と鋭い指摘に翻弄されながら、事件の核心へと引き込まれていく。

◆ 謎

若妻は本当に夫を殺したのか。覚醒剤をどうやって摂取させたのか、そもそもそれを殺人として立証できるのか。被告はなぜ「嗤う」のか。接見室で繰り返される対話の中で誰が誰を操っているのかが見えなくなり、読者の予想は何度も覆されていく。

2025日本忘却探偵シリーズ

掟上今日子の保険証

西尾維新

特殊設定ユーモア短編集忘却探偵

◆ 事件

眠るたび記憶が一日でリセットされる白髪の忘却探偵・掟上今日子のもとへ、冤罪体質の青年・隠館厄介から悲鳴のような依頼が届く。ベビーシッター中に煙のように消えた赤子、歯のない死体、過去と現在の二重密室、猫による不可能犯罪という四つの事件に挑む。

◆ 謎

各話の章題は【不眠】【歯痛】【船酔】【猫アレルギー】と病名仕立てで、探偵自身の体調不良が推理の足枷となる。記憶が保たないというタイムリミットの中、今日子は厄介の冤罪を晴らせるのか。消えた赤子はどこへ行き、不可能状況はいかに成立したのか。

2025日本心霊探偵濱地健三郎シリーズ

濱地健三郎の奇かる事件簿

有栖川有栖

特殊設定本格短編集心霊探偵シリーズ第4作

◆ 事件

幽霊を視る力と鋭い推理力を併せ持つ心霊探偵・濱地健三郎の事務所には、今日も怪異に悩む人々が訪れる。旅先で出会った女が幽霊だという相談、温泉に繰り返し現れる霊、写真に写り込んだ亡き祖父、殺人事件をめぐる奇妙な目撃証言など、全七編を収録する。

◆ 謎

怪異の実在を前提とした世界で、霊はなぜ現世に留まるのか、その「未練」の中身こそが各話の謎となる。殺人犯の視点から語られる異色の一編や、助手ユリエの成長、前作の霊媒師が再登場する掉尾の事件など、趣向の異なる七つの物語が並ぶ。